インタビュー

日本eスポーツ界のレジェンド“KINTA”こと長縄実氏インタビュー

「俺、店をたたもうかと思っているんだ」の真相について

――ところでKINTAさん、成時代の話で1つどうしても聞いておきたいことがあるんです。2014年か、2015年頃の東京ゲームショウだったと思うのですが、成がネクソンさんのイベントを担当されていてそこにKINTAさんもいて、いつものようにくだらない雑談をしていたら、終わり際にKINTAさんが「中村さん、俺、店をたたもうかと思っているんだ」って言われたのが、すごい記憶に残っているんです。

長縄氏: (笑)。

――その時には、慰めるしかなくて。KINTAさんは、2001年からeスポーツの分野では一番古い“戦友”なので、あのKINTAさんが引退するのか、eスポーツから手を引いてしまうのかと、そうなったらもう日本のeスポーツはホントに終わりだなと思ったんです。

長縄氏: そんなことはないですよ(笑)。

――もちろん、KINTAさんのことだからいろいろ“おいた”をしたのかもしれません。そこはわかりませんよ。

長縄氏: そういうわけでもないですよ(爆笑)。

――ともあれ、KINTAさんのような真摯で真面目で実直で、人徳のある方が食えない業界はおかしいと、私は思ったんです。今だから聞きたいのですが、あの時はどのような気持ちだったのですか?

長縄氏: 2015年頃ですよね。正確には覚えていないんですが、要は自分の力不足です。それしかないと思います。日本のeスポーツ市場がどうこうではなくて、自分が開拓できなかったという自分の力のなさがあって、すごく悔しかったんですよね。そこで、どう踏ん張っていこうかと。

 元々家業を辞めて、一念発起して会社を作った理由というのも、当時電気屋で働いていた時に、ずっとお客さんから「お前は良いよな、親父の敷いたレールのうえで、何も苦労しないんだよな」と言われていたんです。それが未だにすごく悔しくて、その悔しさをバネにして生きてやろうと思ったのがきっかけだったんです。

 なので、そこで辞めようというくらい、自分の広大なコンクリートジャングルの中に、ひとりぽつんと置かれて、一生懸命自給自足で生きていこうとしていたのに、気力がなくなってしまったと。本当に、燃え尽きてしまったというのはあるんですよね。燃え尽きたと言うよりは、自分の術を無くしてしまったということだけですね。周りがどうこうということはないです。自分自身が自分の足で立てなくなってきたという気持ちにさいなまれていて。だから多分言ったんだと思うんです。

――当時成から、有力なスタッフが何人か抜けたりしましたが、そういうことはあまり関係ないのですか?

長縄氏: そういうことも多少はあると思います。会社なので社員はステップとして、羽ばたいて上がっていくのでそこは仕方ないんですが、ただ、仲間意識がすごく強かったので、当然離れる寂しさはあったと思います。でも、現にyukishiroのように戻ってきている人も何人もいますので。そういうことよりは、どう将来を自分が「こういうフェーズをくんで、こうしていこう」というようなビジョンがあまり見えなくなってしまった時がありました。

――そしてここが一番聞きたかったことですが、KINTAさんはあの時、どうやって踏ん張ることができたんですか?

長縄氏: うーん、ぶっちゃけると、今のかみさんに会ったことです。今から9年位前でしょうか、彼女ができて、その彼女に相談した時にケツを叩かれたことと、本当にずっと支えてくれていたんです。何にも言わずにずっと支えてくれる人だったんです。良いパートナーに巡りあえたからこそ、今でも頑張れているんですよね。結婚したんです。6月13日に。

――ん? いつのですか?

長縄氏: 今年の。

――めちゃめちゃ最近じゃないですか! 本当におめでとうございます。

長縄氏: ありがとうございます。会社を辞めるのを踏みとどまることが出来たのは、最愛のパートナーを見つけられたからですね。本当にあの人の支えがなかったら無理でした。1度、ゲームヤロウから、ネクソンに移管するときに「もう、これ終わった」と思ったんです。

――運営元が変わるとすべて仕切りが変わりますから、試練ですよね。

長縄氏: あの時は我々も終わったと思いました。その当時、彼女に相談したのですが、何も言わずに話を聞いてくれて、自分の中にある「膿」を全部吸収してくれたんです。それも、右から左に流して聞くのではなくて、レスポンスもありながら、ちゃんと話を聞いてくれたんですね。その後、落ち込んでいても、黙ってお茶を出してくれたり、何かしらのケアをしてくれたんです。そういう姿勢を徹底してくれたんですね。今でも徹底してくれているので。それで助けられました。こんな大事な人を無下に扱っちゃダメだなと。

――大事な事業パートナーですね。

長縄氏: そうなりましたね。私の人間の部分に関わっていてくれているので。そこがすごく大事だと思うんですよね。

――良い話を伺いましたね。それから先ほど、少し話に出ましたが、出て行ったyukishiroさんを、また戻したというところもKINTAさんの特徴のひとつだと思います。なぜ戻されたのかということと、そのあたたかさはどこからきているのかということを教えていただけますか。

長縄氏: あたたかいんですかね?

――あたたかいと思いますね。私がKINTAさんから感じるのは、あたたかいを超えてアツいんですよね。だからやっぱりコミュニティが、ファンが見捨てないんだと思うんです。そこは他のeスポーツ運営会社にはないE5独自のアドバンテージだと思います。

長縄氏: そうなんでしょうか。

――KINTAさんがやっているから信じてみようかな、というのはあると思いますよ。

長縄氏: でも、それじゃあマズイんですよ。逆に。私の気持ちが社員に伝わってそれが連鎖してみんながアツくなってくれたらいいんですが、私のアツさを求めて私の所に来るのはマズイんですよね。みんなもアツくなって継承してくれればいいんですが、私を頼りにされると会社の成長が全然見られなくなるので。

――でも、私が把握している限り、OooDaさんもアツイですし、yukishiroさんも復帰後頑張っていると思いますよ。

【yukishiro氏】
yukishiro氏は「フィギュアヘッズ」(スクウェア・エニックス)の運営チームに転職したが、その後、成、E5へと戻り、eスポーツキャスターの仕事に復帰している

長縄氏: それはそうですね。

――それはKINTAさんがチャンスをくれたから「もっかいやったるか」というところですよね。それはKINTAさんのアツさであり、情の部分がインフルエンスしているところがあると思うんです。KINTAさん自身はどういう哲学で動かれているのですか?

長縄氏: 哲学というようなものはないのですが、10怒ったら、1愛情を与えようと思っているぐらいです。怒りっぱなしにせずに。

――KINTAさん、いつもそんなに怒ってるんですか?(笑)

長縄氏: そうなんですよ(笑)。ガンガン怒りますが、絶対に理屈でちゃんと説明するんです。ただ単にこれをやれではなくて「これをすることによって、お前はこう成長するんだからこれをやりなさい」と、言う風に言っていますね。

――ちなみにyukishiroさんが「戻りたい」といったときにはなんと答えられたんですか。

長縄氏: 「あ、いいよ」と。

――愚痴も何もなくですか?

長縄氏: ああ、全然ないですよ、愚痴なんか。愚痴の「ぐ」の字もないです。