|
会場:韓国国際展示場(KINTEX)
入場料:4,000ウォン(前売り2,000ウォン) そうしたオンラインゲーム市場の沸騰ぶりの陰で、なかなかメジャーにならないのがコンシューマ市場だ。2007年は、任天堂の参入、ニンテンドーDSの発売開始、100万台達成と明るい話題に事欠かなかったが、Nintendo of Korea、SCEK、Microsoft Koreaの3大プラットフォーマーが揃ってスタートした2008年は、Wiiが思ったより販売実績を伸ばせず、それ以外の分野でも、日本まで届くような大きな話題は作れなかった。 しかし、そうしたマクロな視点ばかりで市場を見ていてはいつまで経っても実態は見えてこない。韓国にも熱心なコンシューマゲームファンはいるはずで、彼らの実態を現場でリサーチすることは決して無意味ではないはずだ。そこで今回は、ゲームショップを通じて、韓国コンシューマゲーム市場を覗いてみることにした。
過去に姉妹作としては上海編と台湾編がある。併読していただくと、同じアジアでも違いが鮮明になってさらに楽しめること請け合いである。 ■ 韓国コンシューマゲームの新たなメッカ「国際電子センター」では中古市場が盛況
アジアに数多く存在する電脳タワーと作りはまったく同じで、1フロアごとにカテゴリ分けされ、同じ商品を扱った数十のテナントが軒を連ねている。全体的に客の入りは少なく、閑散としている。アイコンタクトすればとりあえず声をかけてくるが、店側もあまり売る気はない。アジアでは恒例の風景である。 そうした中で異彩を放っていたのがコンシューマゲームを専門に扱っているフロアである。やはり日本を含む他のゲームショップに比べると人の数は少ないが、売る気のある店員と買う気のあるユーザーがしっかりいるため活気がある。中央吹き抜けのエスカレーターゾーンを取り囲むようにびっしりテナントがひしめいているが、不況の影響からか、フロアの奥の方は空白や休業店が散見された。 このフロアで目を引くのが、なんといっても中古品である。新品は奥の棚に大事にしまわれ、中古品が手元のラックにギッシリ棚差しされている。目にとまった比較的新しいPS3タイトルの中古品を棚から抜き取り値段を聞くと37,000ウォン(約2,600円)ということだった。買い取り価格はというと35,000ウォン(約2,450円)で、その差額はわずか2,000ウォン(約140円)しかない。 それで商売になるのかという気もするが、中古品はどういうわけか無税扱いになるため、むしろ新品を取引するより利幅が大きいという。在庫リスクに関しては、基本的に価格調整のみで対応していると言うが、韓国では一定のコレクター層も中古品を求めるため、それほど問題にはならないのだという。発売から1年以上経過したタイトルは、ジャンク扱いとなり10,000~20,000ウォン(約700円~1,400円)でセール品扱いとなる。 中古品には価格表のようなものはなく、個々に値札も付いていない。それではどうやって値段を管理しているのかというと、オンラインで価格をリサーチするサイトが存在し、実質的な価格は店側ではなくユーザーが決めているという。その価格設定にあまりに外れたショップは、ユーザーから叩かれ、たちまちモノが売れなくなるという。中古品を新品と同じ店で売りまくることの是非はともかくとして、意外とユーザー本意のシビアな市場が成立していることがわかった。 新品に目を移すと、先に取り上げたPS3タイトルの新品の値段は46,000ウォン(約3,200円)、定価でも52,000ウォン(約3,640円)。為替レートの関係で、今現在は極端に安くなっているが、もともと韓国のコンシューマゲームの価格設定は欧米や日本より安くなっている。ただ、中古市場が幅をきかせているため、なかなか新品が売れないという構造的欠陥に悩まされている。 現在、韓国では1万本でヒットだという。「New Super Mario Brothers」や「脳トレ」、「Nintendogs」など20万本以上の大ヒットを記録したタイトルも存在するが、これらは例外中の例外で、欧米や日本でミリオンセラーを達成するタイトルでも1万本程度で頭打ちとなり、あとは中古市場で商品が循環することになる。 韓国で展開するプラットフォーマーは、平行輸入品に対しては、発売時期を早めたり、リージョンコードを設定したり、あるいは平行品を扱った店舗に対して取引停止等のペナルティを与えることによって、ほぼ駆逐することに成功している。しかし、中古品に対してはまったく有効な手を打てていない。 その理由としては、法的にはまったく合法であるという点と、そもそも論として、新品だけでは、ゲームショップとしてビジネスにならないほど商いの規模が小さいという点が上げられる。新品と中古品を完全に分離させれば、ゲームショップは壊滅してしまうため、メーカーとしてもそこまで踏み込めないわけだ。
ゲーム市場を育てるためには中古市場に対して抜本的な対策が必要なように思うが、ショップ側に改革に耐えられるほどの体力がない。ここはメーカーが一丸となって10年先、20年先を見据えた長期的なストラテジーを考えていく必要があるように思えた。
■ PS3が6万ウォン値上げ。Wiiは韓国リージョンの設定が不評
後日談となるが、翌日SCEKで取材を行なうと担当者はその事実を認め、11月13日には価格改定のリリースが流された。新しい価格は448,000ウォン(約31,360円)。Xbox 360の60GBモデルの368,000ウォン(約25,760円)と比較すると、値上げの前後で20,000ウォンから80,000ウォンの差が開いてしまった。日本での60GBモデルに相当する、初期の80GBモデルが518,000ウォン(当時のレートで約63,000円)だったのに比べると安くなってはいるが、PS3の割高感は歴然としている。 SCEKは急激な為替レートの変動による輸入コストの上昇を理由に挙げているが、その一方で、MSや任天堂は、値上げによるイメージダウンを避けるため、早々と価格据え置きを表明した。韓国でのPS3はもともとの価格設定に無理があったこともあり、二重の意味で逆風となっている印象だ。価格設定にしても、為替相場にしても、本来のゲーム機としてのポテンシャルとはまったく関係ない部分だけに、ぜひこの逆風をしのぎきってもらいたいところだ。 なお、今回の価格改定はPS3だけでなく、PS2は30,000ウォン値上げして178,000ウォン(約12,460円)、PSPは価格据え置きの228,000ウォン(約15,960円)となっている。ちなみにWiiは220,000ウォン(約15,400円)で、なんと韓国ではPSPとWiiの価格が逆転してしまっている。 さて、そのWiiだが、無事2008年4月26日にリリースされているが、ショップに聞く限りではユーザーの反応は「いまいち」だという。これまでのセールスは6万台(弊誌推計)。ショップもユーザーも12月に発売を予定している「Wii Fit」待ちで、本格的にモノが動き出すのはそれからになるだろうという予測をしてくれた。 Wiiは、日本のみならず全世界で押しも押されぬ大ヒットハードだけに、韓国での不調ぶりは解せないところだが、聞いてみると実に生臭い理由があった。韓国のWiiは、韓国リージョンが独自に設定されており、韓国語版のソフトしか動作しない。つまり、日本や欧米からの並行輸入品が一切動作しない。その上で、Nintendo of Koreaでは、ローカライズしたものではないと韓国での販売を一切認めない方針をとっている。結果として、韓国のWiiは、動作するゲームソフトが、海外に比べて限られてしまっているため人気がないのだという。 ただ、上記はあくまでショップ側、遊び手側の言い分で、並行品に対して厳しい態度で臨む任天堂のアプローチは市場の保護、育成という点で非常に理に叶ったものであり、海外ビジネスとして王道を行くものとして最大限に評価できる。これまでアジア市場では、正規市場より並行市場のほうが大きいほど、個々の市場が小さいため、あえて個別にリージョンを設定せずに、「アジア地域」というぼんやりとした枠組みでビジネスを行なうことが通例となっていた。 今回任天堂がWiiに韓国リージョンを設定したのは、韓国を単一の商圏として認め、市場として真剣に考えているという何よりの証拠であり、おそらく任天堂としても初速が鈍いのは織り込み済みで、5年、10年でのスパンで市場を見ていることが予想される。Wiiが根付くかどうかは、韓国コンシューマ市場を見る上で、ひとつの分水嶺になるかもしれない。 さて、ポータブルゲーム機は、PSP、ニンテンドーDSともに堅調だった。売れ行きもよく、在庫もふんだんに見ることができた。勢いという点では、韓国でPSP-3005(日本のPSP-3000に相当)とDMBチューナー(日本のワンセグチューナーに相当)が10月26日に発売されたばかりだったため、PSPのほうがやや元気が良かっただろうか。
なお、日本で11月1日にリリースされたばかりの新型機ニンテンドーDSiも一部の店舗で扱っていた。もちろん日本からの並行品で、価格は275,000ウォン(約19,250円)とプレミア価格が付いていた。Nintendo of Koreaの正規版の発売時期は未定ということだ。
■ 日本と似て非なるローカライズとレーティングの扱い
いくつかの店舗で取材してわかったのは、まずローカライズについては、ローカライズにもいくつかの段階があり、パッケージ、マニュアル、テキスト、ボイスのすべてをローカライズするフルローカライズのタイトルは実はほとんどないということだ。 ローカライズは大別して4つの段階がある。まず最初の段階としてパッケージとマニュアルのみのローカライズ。これは日本でいうところの「日本語マニュアル付き英語版」に相当するもので、実質的にはローカライズタイトルとは言えない。 次の段階がユニークだが、パッケージとマニュアルのローカライズに加えて、理解促進のためのガイドブックを付けるのだ。このガイドブックは、4cフルカラーで60ページ前後で、それなりの読みでがある。おもしろいのは、これはメーカーやプラットフォーマーが作るのではなく、ショップや流通業者側がコストを負担して制作しているところだ。こういったところで他店、他チェーンとの差別化を図るわけである。 3つ目の段階としてインゲームのテキストローカライズが行なわれる。ボイスは外国語のままとなる。「Need for Speed」シリーズや「Tiger Woods」シリーズなどEAタイトルがこの手のテキストのみのローカライズが多い。日本でも多いケースだ。珍しい例では「Ghost Recon 2」(Ubisoft)のように“ボイスのみローカライズ”というものもあるということだ。 最終段階は、ボイスとテキスト両方のフルローカライズとなる。しかし、フルローカライズ作品は極端に少なく、SCEK、MS、Ubisoftといったいわゆる大手メーカーの大作に限られる。近作だと「Halo 3」、「アサシンクリード」、「リトルビッグプラネット」など。その割合は1割に満たないという。結論として、海外ゲームを母国語で楽しめる機会というのは、実は韓国より日本の方が高いということがわかった。 店頭では11月7日に発売された「Gears of War 2」のポスターが至るところで見られた。日本では発売の有無すら未定だが、韓国では欧米と同時発売されている。ただし、これも実はフルローカライズではなく、テキストのみ韓国語で、ボイスは英語のまま。「Fallout 3」、「Saints Row 2」など、日本では12月発売予定タイトルもすでに韓国語パッケージで売られているが、しかし実はパッケージが韓国語化されているだけで、テキスト、ボイス共に英語のままだった。このパッケージのみ韓国語というケースは非常に多く、「METAL GEAR SOLID 4」や「トラスティベル」、「テイルズオブヴェスペリア」など日本のゲームにも多い。 ちなみにこうした韓国語マニュアル付き日本語版はどうやってプレイされているのかというと、「ゲームで日本語を学ぶ」という力業を選択するユーザーも一部にはいるが、大半は日本で海外ゲームを輸入して楽しむユーザーと同じように、Web上で共有されている一部の有志によって翻訳されたテキストを頼りに、ゲームを楽しんでいる。 たまたま、ショップの店員のひとりに「戦場のヴァルキュリア」の翻訳をやったという人がいた。同作は韓国未発売ながら、その翻訳テキストを頼りに数千人がプレイしているという。わざわざ不慣れな日本語版をあえてプレイした理由は、「好きな声優さんがたくさん出ていたから」だといい、翻訳したテキストをWebにアップロードした理由はそれによってもっと多くの韓国のユーザーが同作がプレイして欲しいと思ったからだという。そして彼は、「ボイスは声優さんの魅力があるのでそのままでいいが、テキストを翻訳して韓国語版としてリリースしてくれればもっと売れたはずだ」と残念そうにコメントしてくれた。 しかし、こうしたユーザーによる翻訳サイトは、メーカー側は不満を隠さない。なぜなら、これらの行為は、並行品で済ませるユーザーが増えてしまう結果、正規品が売れにくくなるだけでなく、メーカー側がコストをかけてローカライズして販売するというローカライズビジネスはもはや不要だという流れに結びつくからだ。数千本単位のニッチなビジネスがゆえの悲哀といった印象だが、まずは何より必要なのは市場の拡大といっていいだろう。 一方、レーティングについては、基本的に日本より規制は緩かった。日本のCEROの「Z」に相当する「18」が存在し、その指定の頻度は日本よりも断然高かったが、肝心の中身はまるで反対だった。 日本のおける「Z」指定は、他のレーティングのゲームソフトと同じ売り場では売れなくなり、目立ったプロモーションも難しくなるなど、様々な制約が課せられるため、メーカーにとっては特段の理由がない限り避けるべき指標になっている。そのレーティングの判定基準については今後も議論が重ねられるべきとはいえ、ゲーム市場の健全な発展を目的に、一定の枠組みに従って、ゲームメーカーが動くというのは当然のことだ。 ところが韓国の「18」指定は、定義的には日本と同じ18歳以上に向けたゲームという扱いになるものの、実質的には一種の治外法権として作用している。要するに、「18」指定にすれば、ゲーム内容に関してほとんど制約がなくなる。わかりやすくいうと、過度な残虐表現が含まれるゲームでも、「18」指定なら、ゲームに改変を加える必要がなくなるのだ。 韓国ではレーティングにこだわらない理由は、レーティングに関わらず同じ売り場で扱えることと、ゲームを改変するコストをかけると利益が出せないため、ビジネス的に選択の余地がないことだ。デメリットとしては、不特定多数の人がいる中でプロモーションができなくなるという点のみであるため、特にアクションゲームを扱う海外メーカーは早々と「18」指定を決め、ローカライズやプロモーションに力を注ぐというのが現状となっている。 一部補足を加えておくと、韓国でも極端な表現な残虐表現はダメで、そのほかにもギャンブル、アダルトにも厳しいという。これらに抵触した場合はレーティング審査を拒否される。つまり発売できなくなる。ギャンブルに関しては、数年前の「海物語」事件が尾を引き、ギャンブルを想起させるようなコンテンツが出た時点で「18」もしくは発売禁止の指定を受けるという。中でも日本では「A(全年齢対象)」のとある大手メーカーのゲームが、ルーレットが登場するという理由だけで「18」指定になったというウソのような実話もある。
日本と韓国、どちらの市場が正しいとも言い切れないが、韓国に関しては、ローカライズ、レーティング指定共に、市場の小ささゆえの悲哀が横たわっている。長期計画でじっくり市場の拡大を狙うプラットフォーマー、利益を出すために売り急ぎに走らざるを得ないソフトメーカー、ビジネスとして成立させるためにあらゆる手を尽くすショップ、そしてリーガル、イリーガルの線引きのないユーザー。韓国コンシューマゲーム市場の曙はまだ遠そうだ。
□G-Star 2008のホームページ (2008年11月27日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|