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会場:EA Asia本社
「Mirror's Edge」は、スウェーデンに本拠を置くEAの開発子会社EA DICEが現在開発している1人称視点のアクションアドベンチャーゲーム。EA DICEと言えば、「BattleField」シリーズの開発元として有名だが、「Mirror's Edge」はそれに続く待望の新IPであり、EA随一と謳われるEA DICEの開発力と、「Unreal Engine 3.0」の圧倒的なポテンシャル、そしてプロデューサーTom Farrer氏の独特の感性により、たぐいまれな作品が誕生しつつある。 言うまでもなくEAとしても非常に力を入れており、これまでに2月のGDC、3月のEA Asiaのプライベートイベント、そして先月のE3など、あらゆるゲームイベントに登場してきた。実のところ、EAは「Mirror's Edge」の情報公開を極端に制限しており、いまだにゲームの全体像はわかっていないのだが、今回、アジアでは初めてじっくり体験する機会が設けられ、さらに限られた時間ではあったがTom Farrer氏にも直接話を伺うことができたのは大きな収穫だった。
7月末には、長らく未定だった日本語版の発売もようやく決定し、プレイステーション 3、Xbox 360、PCの3プラットフォームで11月に発売されることが発表された。EAは今年の東京ゲームショウでは久しぶりにブース出展を行なうが、EAブースのメインタイトルになることはほぼ間違いない。本稿では、EAの最大の注目作となる「Mirror's Edge」の魅力をお伝えしたい。
■ 美しくクリーンだが、実は“いびつ”な近未来の統制世界
「Mirror's Edge」の世界設定等基本的な情報については、過去に何度か弊誌でも取り上げてきているが、Farrer氏自ら語られた内容をベースに、今一度簡単にまとめておきたい。まず、舞台設定は架空の大都市だが、SFではなく、リアリティが感じられる程度の近未来。特定のモデル都市は存在せず、東京やシンガポールなど、さまざまな大都市の景観をミックスさせているという。 この世界では、人々は快適な生活を享受しているが、実は徹底した監視社会であり、個人のプライバシーは極度に制限されている。そうした目に見えない圧政を拒否するグループが都市の端(Edge)に存在し、そのグループの活動家のひとりがヒロインのFaithということになる。Faithの役割はランナーであり、反政府活動の生命線である“情報”を、専用のスーツケースに入れて持ち運ぶという重要な役割を担う。 なぜランナーのような危ない役目が必要なのかというと、インターネットを含む、公共のインフラはすべて政府が監視の目を光らせており、セキュアな環境で情報をやりとりできないからだ。かくして、反政府組織は情報伝達手段をFaithのような身体能力に優れた人間による物理的な輸送に頼るしかなく、その輸送プロセスが「Mirror's Edge」のゲーム内容そのものとなる。 ちなみに、ゲームタイトルの「Mirror」は、大都市、クリーン、シャイニング、フレッシュ、ガラス張りといったメッセージを持ち、「Edge」はビルの端、社会の端、運び屋稼業そのものといったことを意味し、ゲーム世界の置かれた状況を暗喩したタイトルとなっている。 肝心のFaithのパーソナリティについては、これまでにイベントシーンの類は一切公開されていないため、謎に包まれている。Farrer氏は、彼女の母は何者かに殺害され、警察官だった妹Kateは、政府組織の罠にハメられ、逮捕されてしまった過去を披露。これらの事件がFaithを反政府活動に身を投じる結果となったという。 Faithは、ゲームのヒロインとしては、正直なところあまり印象的な女性ではない。超人的な身体能力を持ち、格闘技を身につけ、さまざまな銃器を扱うことができるが、たとえば、「Tomb Raider」のララ・クロフトのような圧倒的な美貌とボディスタイルを持っているわけではない。目が細く、鼻がやや低く、唇も薄めで、鋭角的な顔立ちをした典型的なアジア女性である。 Farrer氏はこの点について「強い女性キャラクタを新たに生み出したかった」という。普通の顔で、普通のプロポーションで、それでいて素手でいろいろなことができて強い普通の女性という、非常にニッチなキャラクタ設定となっている。ちなみに特定のモデルはいないということだが、アジアのメディアからはタイの女優にそっくりという意見が出されたり、昨夜のウェルカムパーティーで突然本人の口から報告されたFarrer氏の婚約者に似てるという意見が出されたりした。婚約者がどこの誰なのかという点はプライバシーの問題もあるので伏せたいが、個人的には婚約者に一票入れたい。
なお、ゲーム本編のストーリーラインやFaith以外の登場人物など、まだ不明な点は多い。続報を期待したい。 ■ スピード感溢れる革新的なゲームプレイ
この点、「Mirror's Edge」では、ジャンプ、スライディングという2つのメインボタン(L1、L2)とダッシュを組み合わせて、ありとあらゆる障害物を突破していくことができる。 目の前がフェンスならフェンスを掴んでよじ登り、掴むところがあれば掴んでよじ登れる。連続してオブジェクトを突破して、加速度を維持したままアクションを行なうことで、手を使わずに、そのまま体ごと乗り越えられたりする。 ちょうど「スーパーマリオブラザーズ」シリーズで、足場が限定されたステージをBダッシュで一気に駆け抜けていくような感覚に近い。ビルからビルを伝ってショートカットを繰り返し、追っ手を撒くのが基本的なゲームプレイとなるため、とにかく死に所満載である。足を踏み外す、助走が足りない、ジャンプが手前過ぎ、着地場所のミス、バランス取りの失敗などなど、他のFPSではありえないような場面で簡単にゲームオーバーになる。初回の試遊では開始3秒で、ビルの谷間に落下してゲームオーバーとなってしまったほどだ。 特に初回のプレイでは、追っ手がいない場面では、じっくり周囲を見渡して、特に足場の確保をしっかりしながら慎重に進んでいかないと、あっという間に落下死してしまう。全面ガラス張りの高層ビルを垂直に落下していくシーンは、夢に出てくるのではないかと思うほど頻繁に遭遇することになるだろう。 このため、ある程度、覚えゲーの側面はあるのは間違いないが、ある程度ステージの構造を把握すると、スピードが出てきて俄然楽しくなってくる。スピードを維持するためには、障害物競走のように次々に設置された障害を連続でクリアして、動きが止まるシーンをできるだけゼロにすることが必要不可欠となる。連続アクションに失敗して加速度が足りない場合は、障害物を乗り越えるのにそれなりの時間がかかり、ますます遅くなってしまう。連続アクションを成功させている場合は、手すら使わずにすっと乗り越えられたりする。連続アクションによる高速移動は、単に心地よいだけでなく、ゲームデザイン的なメリットもあるわけだ。 Farrer氏によれば、ステージ数は10で、標準的なクリアまでの所要時間は10時間から12時間程度。ゲームに慣れてくればもっと短時間でのクリアも可能だという。クリアタイムによる実績の解除もあり、タイムアタックモードのような別のモードもあるようだ。また、単に短時間クリアを目指すだけでなく、ステージの隅にはコレクタブルアイテムなども撒かれており、広々としたフィールドをじっくり捜索する楽しみもある。
残念ながらマルチプレイモードはないようだが、やり込みがいのあるアクションゲームとなりそうだ。 ■ 3D酔いを防ぐ!? 随所にこらされたゲームデザイン上の工夫
探索は、目的地に至るまでの道のりを探索する楽しさ。ビルからビルへ、屋上から屋内へ、地上から地下へ。常に新しいシーンとインタラクションを用意しているという。チェイスとは、反政府活動を取り締まる警官ら大量の追っ手から逃げる行為を指す。謎解きは、探索と関連して、目の前にあるオブジェクトをどのように利用して先に進むのか。最後のコンバットは、追っ手とのバトルとなる。これら4つの要素を各レベルにちりばめることでゲームを飽きにくくしたという。 一部、補足しておくと、まず謎解きに関しては、ルートそのものは謎ではなく、常に使用すべきオブジェクトが赤地で示されている。具体的にはジャンプ台、水道管、扉、エアダクト、ビル建設機材、ヘリコプターの足場など。ただし、どのようなアクションをすれば赤地のオブジェクトにたどり着けるのか、あるいは利用できるのかはわからない。これが一種の謎解きとなっている。ちなみに、赤字表示は、ゲームの難易度をハードにすることでオフにできるということだ。 コンバットについては、「Mirror's Edge」では、逃げることが基本となるため、バトルシーンは比較的レアケースだが、「BattleField」シリーズの開発元として自信のあるところだという。主人公は丸腰だが、敵の銃器を奪うことができるため、一般的なFPSのように積極的に銃撃戦を展開することも可能。その反対に、バトルを避けて進むことも可能だという。 Farrer氏の話の中でユニークだったのは、3D酔いの工夫だ。EA DICEとしてもゲーム視点を1人称視点に限定するリスクは理解しており、動きの激しいFPSでは避けられない3D酔いの問題に真面目に取り組んだという。
具体的には、まず、情報過多によって脳がパンクすることが3D酔いの一因となっているため、中央にドットを配置することで視点を常に中央に集中させる。次にゲームの視界は、実際の視界より狭い。周囲が見えないことでも3D酔いの原因となるため、描画範囲を既存のFPSより横に拡げたという。最後に、カメラの動きの違和感をなくし、感覚のズレから来る酔いを軽減したという。筆者は3D酔い軽減の効果を感じ、3D酔いは感じられなかったが、体験会に参加したアジアのメディアの中には、こうした工夫を凝らしていても酔う人はいたということは報告しておきたい。
■ ショートインタビューで明らかになった新情報を紹介
Farrer氏は笑顔で「大丈夫だよ!!」と元気よく回答してくれたが、その後に出てきた言葉は「クリスマス前には発売したい」、「予想以上のバグが出たら延期せざるを得ない」、「11月を目標にしていることは確か」とやや弱かった。ただ、ゲームの開発そのものはすでに終了しており、現在はバランス調整、バグフィクスの段階に入っているという。 3プラットフォームの内容の違いについては、PS3版、Xbox 360版は同等、PC版のみ高解像度テクスチャ等を採用し、さらに美しいグラフィックスでプレイできる。拡張ディスクやダウンロードコンテンツ(DLC)の計画については、個人的にやりたいという希望はあり、内部的にも話が上がっているのは事実だが、現時点ではまだ何も話せないという回答だった。 最後に日本市場に対する抱負について話を向けると、「日本ではファーストパーソンゲームは人気がないと聞いているが、『Mirror's Edge』は他のFPSとは違うので、ぜひ関心を持ってトライして貰いたい。そして作品のイマジネーションに惹かれて欲しい」と簡潔だが明快なメッセージを残してくれた。
昨年頃から日本でも10万本を超えるヒット作が海外タイトルに生まれつつある。エレクトロニック・アーツはこのところ目立ったヒット作に恵まれておらず、同社にとって「Mirror's Edge」が待望の期待作となるのは間違いない。今後、日本での情報公開も期待される。弊誌でも順次取り上げていくので、ぜひご期待頂きたい。
□Electronic Arts(英語)のホームページ (2008年8月18日) [Reported by 中村聖司]
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