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6月13日開催予定(福岡) 6月17日開催予定(大阪)
会場:大手町サンケイプラザ(東京会場)
■ ボイスチャットコミュニケーションに新たなブレイクスルーを起こす「Dolby Axon」
そのドルビーが、ゲーム産業に新たに提案するのが、ゲームに特化したボイスコミュニーションソリューション「Dolby Axon」である。映画やゲームのサラウンド再生を可能にするDolby DigitalやDolby Pro Logic IIとあたかも同列に並べられそうなネーミングだが、まったく性質の異なるソリューションとなる。 ターゲットは、ゲーム、それもハイエンドのPCゲーミングシーンや、Xbox 360において利用されているボイスチャットである。ボイスチャットは、欧米ではすでに利用率が50%を超えるとされ、ハンズフリー、自然なコミュニケーションが可能など、オンラインゲームの分野における有力なコミュニケーションツールとして普及が進んでいる。 ただし、現行のゲームで採用されているボイスチャットは、単なるトランシーバーであり、相手がどこにいようと常に会話できてしまう。これは一見便利だが、逆に言うとチームメンバーがみんなで集まってディスカッションするといった、リアリティのある表現ができない。また、当然のことながらモノラル音声のみであり、複数人が同時に喋ると聞き取れなくなる。さらに同時に発声するとデータ送受信量が跳ね上がり、ラグや音切れの原因になるなど、技術的な課題も残されている。 それらの問題を一挙に解決してしまおうというのがDolby Axonの基本的な狙いとなる。原理的にはDolby Virtual SpeakerやDolby Headphoneのように、2ch環境で擬似的にサラウンド環境を実現するというものだ。ジオメトリデータからキャラクタの位置情報を常時拾って、話し相手との距離、方向から、音声データをミキシングし、正しい方向に音声を定位させる。相手が遠ざかれば次第に声が小さくなり、壁を挟むとストンと聞こえなくなる。さすがに残響音や反射まではカバーしていないようだが、“トランシーバー時代”のボイスチャットとは明らかに一線を画す、リアリティのあるボイスチャットコミュニケーションが楽しめる。 Dolby Axonが画期的なのは、他のDolbyのソリューションと同様にゲームプログラムに組み込めるだけでなく、「サーバークライアント型」のソリューションであるところだ。誰かが音声を発すると、音声の特性に特化した専用のコーデックを通して、音声データが専用のミキシングサーバーにアップストリームされ、上記のような諸条件を加味してサーバーサイドでミキシングされ、相手のクライアントにダウンストリームされる。話し相手に届く声は、しっかり5ch環境で定位されているという具合だ。 ミキシングは常にサーバーサイドで行なうため、ゲームサーバーやゲームクライアント側の負荷は常に一定に保つことができる。もちろん、ミキシングサーバーは、Dolbyが集中管理するわけではなく、ライセンシーにはサーバー側のソリューションも合わせて提供される。その処理能力は、「5,000人規模のサーバーの20%」、つまり1,000人の同時発声のアップストリーム、ミキシング、ダウンストリームをカバーするという。データ量は、Dolbyの音声データ圧縮技術により、20人の同時発声時において、ピーク時で50KB、平均で26KBまで抑えられるという。
■ 「Dolby Axon」でゲームが変わる。しかし、ハードルも高い
セッション中に行なわれたデモでは、“Dolby Axon MOD”を入れた「Unreal Tournament 2004」をサンプルに、キャラクタ同士の会話がどう聞こえるかが披露された。相手が喋りながら周囲を回ると、声がぐるぐる回り、離れるとまったく聞こえなくなる。相手の声が聞こえない距離で、スパイマイクを相手のそばに射出すると、相手のしゃべりが丸聞こえになるなど、ユーザーの音声がゲームの一要素として立っていたことに新鮮な驚きがあった。 ただ、Dolby Axonはヘッドセットでの使用を前提に開発されているということもあり、会場では5.1ch環境だったため、定位感が弱く、デジタル的な減衰、増幅がやや気になった。また、今回はミキシングサーバーがオーストラリアに設置されていたためか、相手に声が届く時間にコンマ数秒ほどのラグがあった。アイデアとしては抜群だが、実際のゲームシーンに落とし込むまでにはまだ時間が掛かるのかなという印象を持った。 Dolby Axonの対応プラットフォームは、PCおよびXbox 360。現在β版が公開されたばかりで、正式版の公開時期や、新作タイトルへの実装の時期は、「まだ話せる段階ではない(近藤氏)」という。ドルビーとしては、今回の発表を機に、プラットフォーマーやゲームメーカーに対してさまざまな形で働きかけを行ない、採用に繋げていきたいとしている。 Dolby Axonはゲームに採用されて初めてユーザーに新たな楽しさを提供することができるわけだが、そのハードルはメーカー側の都合よりむしろユーザー側のほうが高いと言える。なぜならDolby Axonのメインターゲットとして想定されているXbox 360のオフィシャルヘッドセットはいずれも片耳であり、この環境ではDolby Axonの実力を発揮することができず、ユーザーに新たに両耳をサポートしたヘッドセットの購入が必要となること。一方、PCにおいては、古くから外部ツールの形で同様のソリューションが提供されており、すでにコミュニティができあがっているコアゲーマーの間から、少なからぬ抵抗が予想される。
しかしながら、Dolby Axonは、ドルビーとしても、ゲームサウンドの分野としても久方ぶりの大きな技術革新と言える。すべてのゲームがオンラインゲーム化しつつある中で、ボイスコミュニケーションの重要性は年々高まりつつある。Dolby Axonの普及は、ボイスチャットの普及が大前提となるだけに、世界的に見てもまだまだ利用率の低い日本で目が出るのは当分先の話になりそうだが、このドルビーらしからぬドルビーの新提案の今後の展開に注目していきたい。
□「Game Tools & Middleware Forum 2008」のページ (2008年6月5日) [Reported by 中村聖司]
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