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会場:ベルサール神田
残念ながらサービス開始時期は、SCEI代表取締役社長兼グループCEOの平井一夫氏が昨年の東京ゲームショウで発表した「2008年春」のままで、一般向けのβテストのスケジュールやビジネスモデルなども発表されなかったが、GDCで不明だったリージョンの分け方や、「Home」のPS3サービスの中における位置づけなど、いくつか重要な情報が報告されたので、改めて詳しく取り上げてみたい。今回、SCEJの厚誼により、「Home」日本語版の最新スクリーンショットをご提供いただいたので、別記事にて紹介したい。 なお、「Home」の基本構想や概要については、GDC2007のSCEキーノートと、GDC2008の開発ツールセッションで詳しく取り上げているので、そちらを参照いただきたい。
■ “点と点を繋ぐ線が「Home」”。主体をPS3タイトルに置いたバーチャルワールド
注目したいのは、まだ日本には、開発チームでも運営チームでもなく、Project推進室という準備室に相当する部署しかないところだ。社内のレギュレーションも未確定なようで、発言の端々に、奥歯に物が挟まったような表現が散見された。質疑応答で繰り返されたフレーズは「そのような要望があることは理解している」。あまりにも苦しい紋切り型の表現だったため苦笑を誘うことになってしまったが、赤川氏が言わんとすることは、開発はあくまでヨーロッパのSCEEマターであり、「Home」をSCEグループとしてワールドワイド展開するにあたり、どこまで日本の要望を取り入れて貰えるのか、現時点では断言できないということだ。 赤川氏は、「Home」の概要を紹介しながら、「Home」の定義を行なった。「Home」は「PS3とPlaystation Networkが作り出す仮想世界」。対象となるユーザーは、PS3の購入動機のほとんどがPS3タイトルのゲームプレイであったことからゲームユーザーと規定。つまり、Bru-Ray再生機やCellコンピューティングの用途で購入した人は特に含まないということになる。 次にPS3における「Home」の位置づけを披露した。ここが今回の講演でもっともキモの部分といっていいが、赤川氏は、「PCには定住型、“第二の人生”などいろいろなサービスが展開されているが、『Home』は定住型ではなく、あくまでPSタイトルに繋ぐゲートウェイのような場所だと思っていただきたい」と、「セカンドライフ」的な定住型でも、MMORPGのようにゲームの延長線上に存在するものでもなく、新たに造語すれば「ビジュアルマッチングロビー」として機能させることを明言した。 具体的なシーンとしては、レースゲーム好きが「Home」上で出会い、「グランツーリスモ5」シリーズをプレイする。あるいはゴルフゲーム好き同士が「みんなのゴルフ5」をプレイする。「これまではネットワークゲームといえども点でしかなかったが、点と点を結ぶ線が『Home』です」と解説した。 オンラインプレイに対応しているゲームに提供されているマッチングロビーは、相手が見えないため、一般的なゲーマーにとって精神的なハードルが高い。現在、ごく一般的に提供されているユーザー同士を自動的に繋ぎ合わせるオートマッチング機能は、コアゲーマーにとっては嬉しい機能だが、ビギナーにとってはさらに障壁が高い存在だ。そこで「Home」というクッションを新たに加えることで、スムーズで安心感のあるマルチプレイを実現する。マスのユーザーを意識した新戦略と言える。 ただ、このゲーム寄りの新戦略は、一見ユーザーフレンドリーだが、大きな危険を孕んでいるように思う。「Home」からPS3タイトルの起動が可能なこと、そしてマッチングの仲介を行なうことなどは、昨年のGDCの発表時にすでに明らかにされていたことだが、それがここまでクローズアップされるとは思わなかったというのが正直なところだ。なぜなら、大前提として「Home」単体でビジネスとして“遊び”として成立しなければ、人が新たな人と新たなモノ、そして新たな楽しさを呼び込むオンラインコンテンツならではの成長スパイラルが築けないからだ。 ゲームランチャーの機能を有料で提供するというのは、今の時勢まず不可能で、となると「Home」の運営、開発、そしてゲームへの繋ぎ込みに必要なAPIの整備等に掛かるコストは、「Home」とゲームの繋ぎ込みを行なうサードパーティーにしわ寄せが行くことになる。仮にSCEが全部「Home」のコストを負担したとしても、結果として本体価格やゲームソフトの価格となって跳ね返ってくる。結論として、そこまでしてビジュアルゲームランチャーに膨大なコストをかける価値があるのかという問題になってくる。
OGCでの講演は、BtoBを意識したメーカー向けの内容であり、それゆえにゲームとの繋ぎ込みがクローズアップされたというように善意に解釈したい。GDC終了後の2月25日、「Home」の生みの親であるSCEWWSプレジデントのフィル・ハリソン氏の退社が発表された。赤川氏によれば、彼の退社と「Home」ビジネスはまったく影響がないと断言してくれたが、ハリソン氏の「Game3.0」の構想、それを体現する存在としての「Home」ビジネスと、赤川氏の新定義は明確なズレがあるのは事実だ。着地点はまだ見えないが、開発の進捗を見守りたいところだ。
■ 「Home」のサービスはリージョン別に実施。非ゲーム系メーカーの参入も視野に
個々の詳しい中身については不明だが、内容はだいたい想像できる。ラウンジは、GDCレポートでもお伝えしたが、サードパーティーに提供するインスタンスエリアで、賛同メーカーの数に応じてその数は変動する。対象となるのはゲームメーカーだけではなく、一般のメーカーの参入も歓迎している。 たとえば、ソニーが「ソニーパビリオン」で作り、その中で液晶テレビ「ブラビア」のモックをズラリと並べ、マイホームスペース用の家具としてそれを販売するような風景もありということだ。ゲーム内アイテムの販売方法については、ゲーム内通貨、現金の両方が認められているが、肝心の“リアルアイテムを現金で売るか”については明言を避けた。非ゲーム系の参入も促しているということは、有りの可能性もありそうだ。 赤川氏は、補足として、欧米とは別にホームスクエアを独自開発していることを明らかにした。日本ユーザーは、SCEJが提供する日本向けのホームスクエアにログインすることになる模様だ。コミュニケーション手段に、テキストチャット、定型文を出せるクイックチャット、ジェスチャーのほか、ボイスチャットを標準採用しているため、最終的にコミュニケーションの問題からリージョンごとにサーバーをわける選択になったようだ。 講演の後半では、各スペースの模様を収録した開発中の映像が公開され、その後、実機を使用したリアルタイムデモが行なわれた。アフロヘアの中肉中背の黒人キャラクタを、キャラクタエディットツールを用いて、赤川氏風にモディファイし、その後、ホームスクエア内の友人達とコミュニケーションを楽しむという内容だった。場所はマイホームスペースの衣装部屋。自宅で着替えるという感覚でキャラクタをデザインできる。 デモで注目されるのは、キャラクタメイキングシーンの作りの細かさだ。顔は、人種の違いに対応した「顔タイプ」をベースに、髪型、目、口、鼻といった基本パーツはもちろんのこと、あご、ほほ、首、額、頭(の形)など、11項目で骨格レベルから換えられる。手慣れたSCEスタッフの操作でみるみるうちに、アフロヘアの黒人が、日本人の赤川氏に変貌していった。このデモの狙いはハッキリしている。発表当時の「日本人が作れない」といった世間の反応を打ち消すためだろう。一方、もうひとつの反応である「日本人の好みに合わない」という点については、それに対応するような変化は見られなかった。リアル系の等身大アバターというポリシーは変化させるつもりはないようだ。 キャラクタメイキングを終えると、等身大のバーチャル赤川氏がマイホームスペースに姿を現わした。ここからバーチャルPSPを操作し、ホームスクエアに移動。広場にはバブルマシーンの泡と一緒に踊っているユーザー達が集まっており、ゲームパッドでのコミュニケーション用として開発された定型文の集合体「クイックチャット」を駆使して挨拶を行なっていた。 最後に赤川氏は、「Home」でサードパーティーが行なえることとして、イベントの開催、ミニゲーム・アーケードゲームの設置、アイテムの販売・配布、広告ボードの設置、コンテンツごとのラウンジの作成などを挙げた。内容的にはGDCのセッションと同じだが、日本のメーカーに向けて発信されたことが新しい。 講演終了後、長めの質疑応答が設けられたが、予想通りメーカー関係者やメディアにより、謎だらけの「Home」の日本サービスに対して率直な質問が集中した。質問の内容は誤解、無理解に基づくものも散見され、改めて「Home」の日本での認識不足が浮き彫りとなったが、「『Home』のアバターは外部のゲームで使えるのか」、「ユーザーがアイテムを作成できるのか」といった率直な質問に対しても、冒頭で触れた「そういう要望があるということは理解している」とゲタをSCEEに預ける答えに終始してほとんど収穫がなかったのが残念だ。
「2008年春」というサービススケジュールにしても、βテストの募集や実施、ユーザーの要望を受けての再開発期間などを踏まえると、もはやかなり絶望的といっていいが、GDCレポートでも触れたように、PS3のオンライン戦略において「Home」ビジネスは決定的に重要な位置づけにあるプロジェクトだ。オンラインサービスが大前提の現世代では、その正否がプラットフォームの正否を決めるといっても過言ではない。そのオンラインサービスの成功のカギは実はユーザーが握っている。オンラインサービスのアプローチから、まずはβテストから始めて見てはいかがだろうかとアドバイスしたい。
□ブロードバンド推進協議会のホームページ (2008年3月15日) [Reported by 中村聖司]
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