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【Game Developers Conference 2008 現地レポート】

任天堂の青山氏、Wiiメニューの進化の経緯を紹介
「ニンテンドーWi-Fiコネクション有料サービス」も発表

2月18~22日(現地時間) 開催

会場:Moscone Center

 GDC2008最終日の22日に行われた、任天堂の青山敬氏によるセッション「Planning the Wii Menu: From Pre-Launch to WiiWare (Wiiメニューをデザインする: 企画からWiiウェアまで)」。Wiiのメイン画面となるWiiメニューのこれまでの進化の過程が、そこに込められた思いや狙いを含めつつ語られた。

 なお、このセッションは写真撮影が禁止とされたため、スライドなどの画像データは用意できなかった。文章のみの記事となるので、その点はご理解いただきたい。



■ 青山氏の任天堂における経歴

 青山氏は、2000年に任天堂に入社し、経営企画室に配属された。その当時の上司が、現在は任天堂の社長を務める岩田聡氏。前職が電話交換機の制御プログラマーだったことから、その経験を生かし、ネットワークを使ったビジネスの検討をすることから仕事が始まったという。

 当時はインターネット接続がダイアルアップで速度が遅く、通信料金や設備費も高価だった。その中で、どうやればユーザーが使ってくれるか、設備費を抑えられるかをずっと考えていたという。夜間の安価な通信を使う(おそらく「テレホーダイ」のことだと思われる)というアイデアもあり、この発想が、プッシュ型で常時通信を行なえる「WiiConnect24」につながっていくことになる。

 2002年には、総合開発本部に異動となる。この頃はブロードバンド接続が普及し始めた時期で、通信環境の問題は近いうちに解決する見通しが立っていた。よって、ここではいかにサーバーを経済的に構築するかが課題になったという。具体的には、P2Pによるネットワークゲームやサーバーの実験、ニンテンドーゲームキューブで動くWEBブラウザなど、各種インターネット技術を検討していたそうだ。

 そして2004年末からWii開発に参加。2005年10月には、「Wii本体機能具体化プロジェクト」のプロジェクトリーダーに抜擢される。このプロジェクトの詳細に関しては後述する。その後、2007年3月からネットワーク開発部に移り、現在もWiiチャンネルやWiiウェアといったネットワーク関連の検討を行なっている。



■ ハードはできた。何をしよう? 「本体機能具体化プロジェクト」

 Wii開発のコンセプトは、「家族全員に受け入れられる機械」と、「毎日何かが新しい」というもの。ハードウェアチームは早くから動いており、最先端技術を使って消費電力を極力減らす方向に設計することで、24時間稼動できる機械ができあがった。しかし、24時間通電させて何をするのか、という用途が見えていなかったそうで、この状況はしばらく続くことになったという。

 そこで任天堂では、2005年10月に、「本体機能具体化プロジェクト」という全社プロジェクトを立ち上げた。読んで字のごとく、Wii本体を具体的にどう使うかの検討を行なうプロジェクトである。プロジェクトの参加者は、部署の枠や得意分野にとらわれることなく、個性豊かな人が集められた。そして青山氏は、そのプロジェクトリーダーを努めることになった。

 このプロジェクトが立ち上がった時点で、上記の2つのコンセプトの下にハードウェアは完成していた。Wiiリモコンも24時間稼動するWii本体もできあがっていたものの、ゲームを起動して最初に出てくる画面すら決まっていなかったわけだ。青山氏は、「発売までの時間は1年あまりで、時間的余裕はなかった」と当時を振り返った。

 何から始めていいのかわからない状態から、手探りで検討を始めたという青山氏。最初に検討したのは文字入力方式で、画面にフルキーボードを出したり、携帯電話方式を使ったり、「どうぶつの森」方式などを検討したという。

 起動時間の短縮も課題の1つに挙がっていた。ニュースや天気、ブラウジングは、PCがあれば済む。PCよりもストレスがない快適な操作ができれば強みになるものの、なかなかの難題だったようだ。システムプログラムだけでなく、ユーザーインターフェイスの担当も参加し、「これで何ミリ秒短くなる」という地道な作業があったという。

 家族で使うというコンセプトのもと、複数のユーザーを使い分けるユーザーアカウント機能は必要だが、「なじまないと思っていた。ユーザー名とパスワードを入れてください、というのは許せない」という青山氏。結果としては、Miiという形に収まっている。

 これらのミーティングには、岩田氏も可能な限り出席したという。岩田氏は時々、無理難題を言い出すそうで、「親がゲームを1日1時間といったら、本当に1時間できれるようにしてはどうか。それぐらいにしないとお母さんは味方にならない」といって議論になったのだそうだ。これは結局実装されなかったが、プレイ履歴を確認できるようにしたことで、どれだけ遊んだかが一目でわかるようになり、それによる家庭内の会話を持ってもらうことのほうが魅力的という結論に達したという。プレイ履歴が消せない理由は、ここにあるのだという。

 こういった基本的な課題を1つ1つ解決しながら、2つのコンセプトを具体化していったという。



■ 「家族全員に受け入れられる機械」についての議論

 「家族全員に受け入れられる機械」というからには、家族の中にWiiに対する敵を作ってはいけない。青山氏は、「お母さんや奥さんがゲームを買うことに反対したり、もうゲームをやめなさいというような状況になってはいけない。どうしたら家族全員に触ってもらえるだろうか、とまず最初に考えた」という。

 それに対する1つの答えが、ニュースチャンネルやお天気チャンネル。電源を入れるとニュースや天気が自動的に更新されているというものだ。この仕組みを新しい開発メンバーが入ったときに説明すると、「親はゲームをやめなさいというが、これなら朝、Wiiの電源を入れておいてというだろうね」と話したという。これを聞いて、コンセプトが正しく伝わったと感じたのだそうだ。

 ただ、1つの機能やアプリケーションで家族全員に触ってもらうのは難しく、この他にもいろいろなものが詰まっていることが大切だと思うようになったという。とはいえ、多くのものが詰まっていると、わかりにくくなる。それをわかりやすくするのが次の課題となった。あるとき、電気屋にテレビがいっぱい並んでいるのを見たスタッフがアイデアを生み出した。これがWiiメニューやチャンネルの元となったという。

 Wiiメニューが形になったとき、1つの新たな議論が生まれた。ゲーム機を作っている任天堂が、ディスクチャンネルとほかのチャンネルを同じ列に並べるのはどうか、というものだ。青山氏はこの答えを、「天気やニュースを見てもらえても、私たちはそれはそれでうれしいと思った。これまでゲームをしない人にも受け入れられる可能性を感じた」と、極めてポジティブな答えを出した。

 またゲーム機とテレビの相性が悪いという話については、「画面をテレビと取り合ってはいない。テレビをもっと楽しめるようにできると考えている」という青山氏。これにのっとって、日本ではテレビ番組表を配信するチャンネルがまもなく開始される。「任天堂ならではの、テレビを見たくなるような仕掛けを入れている。Wiiはテレビの友達だと思って開発を続けている」という。

 似顔絵チャンネル(Mii)については、DSで似顔絵ソフトを作っていたチームがあり、これを知った岩田氏が早速「本体機能具体化プロジェクト」に紹介した。似顔絵チャンネルはオリジナルのDSを作ったチームと、Wiiのソフトを多く作っていたチームが協力しており、後にこのチームがみんなで投票チャンネルを作ったという。こういった柔軟な動きができたことで、「社内の風通しをよくするという意味でも意味があったと思う」と語っていた。

 ちなみにMiiの開発については、昨年、任天堂の宮本茂氏が基調講演をした際にも話題に挙がっていた。双方の講演から、任天堂の中で大きな動きがあったことがわかる。



■ 「毎日何かが新しい」についての議論

 もう1つのコンセプトである「毎日何かが新しい」については、お天気チャンネルなどを見れば一目瞭然だ。ただ、これはWiiがネットワークに接続されていることが前提のサービスであり、すべてのWiiが接続されているわけではない。プロジェクトでは、「ネットワークに接続されていないWiiでは何ができるか?」ということも考えられていた。

 その1つの答えが、プレイ履歴などの情報を蓄積すること。家族全員の毎日の情報を蓄えることを考えていたそうで、当初は独立したチャンネルを考えていたが、「ほかのチャンネルと連動させたほうが面白い」ということになり、別枠で場所を用意した。任天堂では、これを「カレンダーデータベース」と呼んでいるそうだ。

 また、Wii伝言版の機能もこれにあたる。お母さんが「おやつはここ」といった伝言をWii伝言板に張っておくといったような使い方を想定したものだ。ネットワークにつながっていれば、友達とのメッセージのやり取りやメールも使用できるが、スタンドアローンでも機能する仕組みを載せることも重要だったというわけだ。

 ネットワークを利用したサービスの柱となっているWiiConnect24については、「メールを次々とやり取りするようなスピードのあるものではなく、ネットワークの先に誰かいるな、と感じられる程度の軽いものにしたかった」という。情報がプッシュされてくる(自動的にデータを受信する)仕組みも、リアルタイムに直接やり取りするのではなく、ぼんやりと誰かと繋がっていることを感じられる形になっている。

 その代表格となるのが、みんなで投票チャンネル。アンケートをするというアイデアは当初からあったそうで、家族とも楽しめて、世界の人とも繋がっている、というのがわかる。

 ただ情報をプッシュするサービスを実現するためには、巨大なインフラを用意する必要があった。世界中で数千万台が接続するネットワークといえば、電話に使う公衆通信ネットワーク並のもの。青山氏は「専門家でない任天堂が構築・運営するにはどうすればいいのか。方針すら簡単に決まらなかった」と語っていた。結果的に、仕様を割り切った経済的な仕組みを採用した。その取捨選択は、任天堂にいたゲームのディレクターたちの判断によるもの。「何ができて何ができなくていいのかがすぐにわかった」という。このあたりは、ハードとソフトの両方を手がける任天堂らしいやり方である。



■ 進化を続けるWiiメニュー。お知らせ通知のスロットLEDも進化していた

 Wiiメニューは、Wiiの発売後もバージョンアップが続けられており、現在はバージョン3が提供中されている。ニュースチャンネルやお天気チャンネルなどで、Wiiメニューから情報を表示するようになり、「毎日何かが新しいことを感じてもらうのに、とても適している」と青山氏は語った。

 この他にも、実はいくつかの大きな仕様追加が行なわれていた。まず「Wii Fit」では、ディスクチャンネルとは別に、新しい「Wii Fit」のチャンネルを作ることができる。チャンネルを作っておくと、違うゲームのディスクが入っていても新たな情報を入れる、という機能を実現できる。ほかにも写真チャンネルで、好きな写真をアイコンに貼り付けられるようになったり、Wii伝言板で他のWiiチャンネルにリンクして自動的に起動できる機能などが追加されている。

 面白いところでは、任天堂からのお知らせが届いたときのスロットLEDの光り方が、Wiiメニュー3で少し変わっている。うぐいすの「ホーホケキョ」という鳴き声のリズムを、LEDの明滅のタイミングにしている。次にお知らせが来た時に、一度確認してみてはいかがだろうか。



■ Wiiウェアは他業種のビジネスの可能性をも秘めている

 Wii用のソフトをダウンロード販売するWiiウェアが、まもなくサービス開始となる。「なぜ今、Wiiウェアなのか?」という疑問に対して青山氏は、「パッケージ販売の商品に変わるものではない。パッケージ販売では、価格設定の範囲がある程度決まっており、ゲーム内容にもある程度のボリュームが求められる。Wiiウェアは価格設定が柔軟にでき、アイデア1つのシンプルなゲームも開発できる。在庫制約もなく、在庫切れによる機会損失もない」と、Wiiウェアのメリットを説明した。

 さらに続けて、「Wiiはリビングに置かれていることが多く、家族で使われている場合が多い。Wiiウェアも家族で使われる可能性が高い。Wiiの高いネットワーク接続率も有利な点となる。今後もさまざまな施策をとっていく」と、Wiiウェアをアピールした。

 オンラインでソフトを販売するという形態については、「ユーザーの中には、有料コンテンツをダウンロードすることになれていない人もいる。お求め安くすることが大切。ただバーチャルコンソールですでに大きな実績を挙げており、店でポイントを買って家でダウンロードするというスタイルにもユーザーが慣れてきている」と語った。

 Wiiウェアは、ショッピングチャンネルのWiiウェアページで販売され、購入後は1つのチャンネルとして起動できる。マニュアルもショッピングチャンネル上に掲載され、ゲームのダウンロード前にも閲覧できるという。また「みんなの任天堂チャンネル」のユーザーのゲーム評価「みんなのおすすめ」にも対応し、購入前にしっかりと内容を確認できる体制が整えられる。

 支払いにはWiiポイントを使用し、追加情報や一定期間の利用料の販売もできるという。なお追加コンテンツダウンロードは、ディスクゲームでも対応するそうだ。

 Wiiウェアのソフトは、内蔵フラッシュメモリにダウンロードする。一定のサイズ制限を設けるが、「ニンテンドウ64のソフトも配信しており、十分なボリュームで配信できると思う」という。また、サイズ制限を緩和するため、プログラム本体を圧縮し、本体で自動的に解凍して起動するような仕組みも用意するとした。説明書はオンラインでアクセスする形で、本体メモリを消費しないようにもできる。一度ダウンロードしたWiiウェアのソフトは、バーチャルコンソールのものと同様、再度ダウンロード可能。SDカードにデータ退避もできる。

 青山氏はWiiウェアについて、「価格設定が柔軟になったことで、ゲーム以外のビジネスの可能性も秘めている。ただ任天堂にはそこまでのリソースやノウハウはなく、単独でそういったビジネスは行なえない。他業種の方がWiiウェアに参入してビジネスすることも現実的になる」とした。

 任天堂が、Wiiは100%ゲーム機でなければならないとは考えていないのが、青山氏の言葉からも感じ取れる。Wiiをプラットフォームとした多様なサービスを、他業種を巻き込んで、チャンネルという形で提供していきたいということのようだ。それでいて、任天堂自身は手を広げすぎず、あくまでゲームを作る会社であるというスタンスを崩さないのは、さすがというべきところだろう。



■ ニンテンドーWi-Fiコネクションに有料サービスを追加

 簡単・安心・無料で楽しめることをコンセプトとして提供されている、任天堂のオンラインサービス「ニンテンドーWi-Fiコネクション」。この仕組みの中で、「ネットワークは匿名性が高いもので、いやな思いやトラブルに巻き込まれることもある。すべてのユーザーに安心して参加していただけるよう、友達とだけ繋がるようにし、誰でも繋がるときは制限を設けている」という。

 青山氏はここで、「ニンテンドーWi-Fiコネクション有料サービス」を発表した。これまで無料にこだわって提供されていたが、有料のサービスも提供することになる。従来の無料サービスについては、今後も継続してサポートをしつつ、新たな有料のサービスも平行して提供するというスタンスだ。「簡単・安心の部分は変わらない」として、「ニンテンドーWi-Fiコネクション」という名前も踏襲している。

 決済はWiiポイントで行なわれる。具体的な対応タイトルやサービス内容については明らかにされなかったが、先のWiiウェアの話の中で、「一定期間の利用料の販売もできる」としており、月額課金型のオンラインゲームの提供なども考えられそうだ。

 有料と無料のサービスが混在することになるが、青山氏は「有料の部分を、無料だと勘違いしてユーザーが購入することは絶対に避けねばならない」と語った。会場では、従来の青い色で描かれた「ニンテンドーWi-Fiコネクション」のロゴに対し、赤い色の「ニンテンドーWi-Fiコネクション有料サービス」のロゴ(英語版)赤いアイコンも示された。一部でも有料になるものについては、有料サービス側のロゴが使われるという。



 最後に、青山氏の講演の締めをそのままお伝えしておこう。

 「私たちは、取り巻く人々を笑顔にしたい、家族全員に受け入れてもらいたいということで、いろいろなものが詰まっていて、毎日新しく、世界と繋がっていて、テレビの友達となるマシンを目指して開発をしてきました。

 Wii本体やWiiリモコン、バランスWiiボードがその答えですが、WiiメニューやWiiチャンネル、WiiConnect24でも新しいチャレンジを続けてきました。私たちにとって幸いなことに、これらのサービスがお客様から一定の評価をいただけたと思っています。そしてそういったチャレンジの成果を、Wiiウェアとして開発者の皆様に提供し、ご一緒により一層お客様に魅力的な世界を提供していきたいと私たちは考えています。

 Wiiウェアはすべての開発者の皆様にオープンで、そして皆様方と一緒になって盛り上げていきたいと考えています。Wiiウェアでソフトを配信してみようという方は、ぜひ私たちにメールをください。お待ちしています」

 Wiiリモコンというユニークなデバイスを前提として作られるWiiウェアは、確かにゲーム機の枠を超えられる大きな可能性を秘めている。ただ、これを可能性で終わらせないようにするには、任天堂だけの努力では難しいはず。「すべての開発者の皆様にオープン」という一言に、任天堂がWiiウェアにかける想いの強さが感じられた。

□Game Developers Conferece 2008のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□任天堂のホームページ
http://www.nintendo.co.jp/
□関連情報
Game Developers Conference 2008 記事リンク集
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20080221/gdclink.htm

(2008年2月23日)

[Reported by 石田賀津男]



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