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会場:サンフランシスコ Moscone Convention Center
なお、前提情報として、XNAの詳細については筆者の連載を、また昨日の基調講演についてはこちらを参照して欲しい。
■ アマチュアゲーム開発者登竜門としてのXNAワールド 「XNA Game Studio (XNAGS)」で制作したXNAゲームを民主的なシステムで配信する「Xbox LIVE Community Games」の仕組みは、アマチュアゲーム開発者やゲーム開発者を志しているユーザーにとってはよい意味で大きなショックを与えたと思う。昨日のキーノートスピーチでも、アマチュアゲーム開発者がメジャーデビューするための登竜門的な位置づけとなるかも……というような趣旨のビデオ映像が流されたりもしたが、実際、アマチュア開発者は自作タイトルの配信によってお金を得ることができるのであろうか。
やはり、ビジネスとしてXbox LIVEを利用するにはMicrosoftとライセンシーを締結する必要があるのだ。お金を稼ぎ出したらすでにアマチュアではなく、プロフェッショナルなわけで、このあたりはそういうものかと納得するしかない。 ということはプロデビューへの登竜門的なことはコンテストのスタイルでこれからも行なっていくのだろうか。 Satchell氏:「そうですね。続けていきますよ。GDC 2008会期中にはウェストホールでAIプログラミングの技術を競い合うコンペ『Microsoft XNA Game Studio AI Challenge』を開催しています。Microsoftでは定期的にDREAM BUILD PLAYというコンテストも定期的に開催してきます。昨年は約200タイトルの応募がありました。もちろん今年もやりますよ」 DREAM BUILD PLAYは、Microsoftが行なっているXNAゲーム開発者向けのコンテストで、前回のコンテストでは、入賞作の開発者に3,000ドルの報奨金、GDCへの招待、MicrosoftやLionheadへのインターン制度といった豪華賞品が与えられた。XNAゲーム開発者はXbox LIVE Community Gamesでの配信で腕を磨き、DREAM BUILD PLAYコンテストで入賞を狙う……というのがXNAコミュニティにおけるサクセスストーリーの典型になるのだろうか。 なお、XNAコンテストは日本でも行なわれている。日本では「XNA Game Studio Japan 2008 Spring Contest」として作品募集が始まっている。XNAゲームのコンテストはワールドワイドで展開しており、Microsoftは新しい若い才能を発掘することへの本気が伺える。 XNAは、Microsoftが開発したハードウェアに依存しないソフトウェア環境「.NET」フレームワークをゲーム向けにモディファイしたものがベースとなっている。 ハイパフォーマンスなXbox 360でユーザーアプリケーションが動作できるということは、ゲームだけではなく、非ゲームアプリにも利用できるのではないか? MicrosoftとしてはXbox 360、Windows、ZUNEといった民生向け普及ハードウェアにおける共通ソフトウェア開発プラットフォームとしていく方針はないのだろうか。
Satchell氏:「今はXNAはゲームに集中して開発環境を整備していますね。もちろん『.NETフレームワーク』ベースですし、高いプログラマビリティはあるのでノンゲームアプリが作れないことはないですけれども。ゲーム機のハイパフオーマンスコンピューティング能力を活用したノンゲームアプリといえば『Folding@home』などがありますね。あれは意義はあると思うのですが、あまりエンターテインメント的ではないですよね。Xbox LIVEはユーザーの数も多く、こうした状況を利用した学術研究をしたいといってきている大学もあるにはあります。Xbox LIVEのコミュニティの力や、ユーザー間でゲームを遊ぶことによって何かのリサーチにつながるような、そんなプロジェクトが始まるといいなとおもいます」
■ XNAサポートでZUNEは飛躍する?
Microsoftは、GDC 2004でXNAコンセプトを発表した際、XNAは、Xbox (360)、Windows、そして何らかのモバイル機器をサポートすることを宣言した。実際、XNAがリリースされたときにはXbox 360とWindowsへ対応したのみで、モバイル機器については、まったく触れられてこなかった。今回、携帯XNAプラットフォームとしてZUNEを選択したのはなぜだろう?
しかし、Xbox 360とZUNEではハードウェアのスペックが違いすぎる。いくらハードウェアに非依存のゲーム開発フレームワークといえども、ここまで違うとZUNEで動作できるゲームスペックの標準化が必要になるはずだ。 Satchell氏:「その通りです。Xbox 360とZUNEではハードウェアのスペックが違いすぎますね。XNAにはXbox 360とWindowsで共通に動かすためのフレームワークレイヤーが組み込まれています。ZUNE対応版XNAではさらにXbox 360、Windows、ZUNEのすべてで動作するフレームワークレイヤーを組み込んで対応します。もともとXbox 360やWindowsを前提に開発したゲームはZUNEへ持って行くことは難しいでしょう。しかし、逆にZUNEをターゲットに開発したゲームはXbox 360やWindowsでの動作は容易です。余力があればゲームロジックはZUNEと同じにしても、グラフィックスはXbox 360やWindowsは強化版を実装する……といったことも可能でしょう。まぁ、ZUNEで動かすことまでを考えるならば開発の初期段階からZUNEを意識した方が面倒がないとは思いますけど」 ZUNE向けのゲームを制作したとして、これをZUNEユーザーに遊んでもらうにはどのようにしたらいいのだろう? ZUNEへもXbox LIVEのような仕組みを提供するのだろうか。
Satchell氏:「今年はZUNEのXNAゲームの配布システムについては考えていませんね。今年はZUNEでXNAゲームを開発できる……というところまでの対応とします。最初の『XNAGS』でも、Xbox 360とWindows用のゲームは作れたが、そのゲームの配布はXbox LIVEなどとは無関係にファイルのやりとりをする方法にしていましたよね。ああいう感じで1つ1つ進化させていきます」
Satchell氏:「ZUNEは802.11b/gのWi-Fi機能を搭載しています。『XNA Game Studio 2.0』ではネットワーク機能が搭載されましたが、このうち、ZUNEでもPeer-To-Peerネットワーキング機能が利用できるようにしてあります。だからZUNEユーザー同士で4人同時プレイのゲームを制作することはできますよ」 それではLIVEのマッチメイキング機能を使いクロスプラットフォーム対戦は可能なのだろうか。たとえばXbox 360ユーザーとZUNEユーザーが共通のゲームタイトルで対戦するというようなことは実現できないのだろうか。
Satchell氏:「それは対応していないですね。すでに『XNA Game Studio 2.0』では、Xbox 360とWindowsの間では可能となっています」
■ ZUNEはXboxポータブルなのか
Satchell氏:「出てもいない製品についてコメントはできませんよ(笑)。ただ一つ言えることは、XNAゲームがZUNEで動作するということ。そしてXNAゲームは、2008年、1,000万のXbox LIVEユーザーにプレイされる可能性を秘めているということですよ」 ただし、現状、ZUNEで動いているゲームは2Dベースのゲームだ。XNAという共通フレームワークを使っているのに、Xbox 360/WindowsとZUNEとではあまりにもゲームスペックが異なりすぎていて、共通フレームワークを使うことの意義が薄いように見える。やはり、現在のZUNEでは駄目でも、将来のZUNEで3Dグラフィックスチップの搭載は必要不可欠なのではないだろうか。XNAのもともとのコンセプトを考えれば、Xbox 360、Windows、ZUNEの3つすべてのプラットフォームで、ほぼ同じゲームが楽しめることが絶対に理想形なのだから。
Satchell氏:「現在のZUNEのグラフィックスはCPUベースのソフトウェアレンダリングですね。将来のことを言えば、3Dコアを実装したGPUの搭載の可能性はあり得ますよ。現在の最先端の携帯電話ではすでにそうしたGPUを搭載した機種も存在しますしね。我々はZUNE上でのソフトウェア3Dエンジンを実装する実験を行ないました。「Wolfenstein 3D ('92年) 」は知っていますか。我々のZUNE版のソフトウェア3Dエンジンは「Wolefnstein 3D」が30fpsで動いています。だから現状でも3Dグラフィックス表現はできなくはないですね」
■ Microsoftゲームプラットフォームを支えるXNA せっかくなので、XNA以外の、Microsoftゲームプラットフォームについての話題を伺った。 まず聞いたのは2007年について。北米では2007年は任天堂のWiiが圧勝したわけだが、Microsoftはどのようなキャッチアップ・プランを持っているのだろうか。 今回の「Xbox LIVE Community Games」の展開は、Xbox 360がメインターゲットにしてきたシリアスゲームだけでは勝てないと考えを改めたことの現われ、もしくはXbox 360でもカジュアルゲームがあるんだということをアピールするためなのだろうか。 Satchell氏:「2007年は、我々にとって成功した年だと思っていますよ。昨日の基調講演にもあったように高評価を受けたゲームはすべてXbox 360上で出ているんですから。2008年はXbox LIVE Community Gamesの提供もあって1,000タイトルがXbox 360でプレイできることは確実視されていますし、Xbox LIVEの成長も著しいです。『GRAND THEFT AUTO IV』のようなマルチプラットフォームタイトルもXbox 360上で一番楽しくプレイできます。2008年は、(シリアス、カジュアルに関係なく) あらゆるゲームがプレイできるプラットフォームとしてXbox 360は成長を遂げると信じています」 インターフェイスについてはどうだろう。 Wiiの成功を考えると、今世代のゲーム機では、Wiiのような、なにかユニークなゲームコントローラが必要なのだろうか。ソニー・コンピュータエンタテインメントのPS3もSIXAXISという加速度センサーをゲームコントローラに内蔵した。MicrosoftはPCゲームコントローラとして長年サイドワインダーシリーズを開発してきており、中にはSIXAXISの前身ともいえるような傾き入力対応のゲームパッドもあった。Xbox 360に、全く新しいゲームコントローラを登場させる計画があってもよいと思うのだが。専門分野ではないのを承知の上で、インタビュー最後の雑談の中で聞いてみた。 Satchell氏:「我々は他のコントローラの必要性は特に感じていません。Xbox 360標準コントローラは本当によくできていますし。XNAに関して言えば、ここ最近のXNAに対しての要望として最も多かったのは、特殊なコントローラへのサポートよりも、ネットワーク機能の実装でした。だからこそ『XNA Game Studio 2.0』ではネットワーク機能を充実させたのです。今後もコミュニティからの要望を聞いて機能を拡張していきたいと思っています」 最後にXNAの今後について、何か一言。 Satchell氏:「今年のXNAはなんといってもZUNEへの対応が最大のトピックです。パフォーマンス改善、コンテンツ作成ツール、フレームワークの進化などについては今後も継続して進化させていきます。XNAの今後の展開と発展にご期待ください」 Microsoftは、ゲームプラットフォームホルダーでありながら、それ以前にソフトウェアメーカー、それも開発ソフトメーカーだ。ここ数年の着実なXNAの進化は、「Xbox 360でゲームプラットフォームのナンバーワンをとろう」ということとは別次元の採算度外視の事業として取り組んできている節もあり、ゲームソフト業界の成長という観点から、長期的な視点で見た場合には、とても大きな偉業となっていると思う。特に、今回の「Xbox LIVE Community Games」によるアマチュア開発者制作ゲームの配給の仕組みは、ゲーム開発者を育て発掘していく上で、非常に意味のある取り組みだと思う。
“帝国”と揶揄されるMicrosoftだが、今回の一連のXNAがらみの取り組みは“民主”的な印象を開発コミュニティに与えたのではないだろうか。
(2008年2月22日) [Reported by トライゼット西川善司]
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