|
会場:Moscone Convention Center
■ 今年のトレンドは“多様化”。あらゆる面で多様化する世界のゲーム産業
今年のGDCの会場は昨年と同じサンフランシスコのMoscone Convention Center。昨年ようやく会場が固定化され、今後はしばらくサンフランシスコでの開催が続く見込みだ。Moscone Convention Centerは、近年、再開発が進むソーマ地区の中心部にあり、向かいにはソニーグループのアンテナショップMETREONがあり、徒歩圏にはホテルやレストランが密集しており、サンノゼに比べると遙かに参加しやすい環境下にある。 会場は昨年と同様、Moscone West Hallをメインに、North Hall、South Hallの3箇所を使用。セッションやEXPOのスペースは昨年と同等だが、その他のパブリックスペースまわりのレイアウトが変わり、昨年と比較すると密度が増して、さらに充実した印象を受ける。このまま拡充が進むと、Moscone Convention Centerでも手狭になる日が来るかもしれない。 さて、今年のGDCのトレンドは、ずばり“多様化”にあると言えそうだ。多様化の方向性としては、モバイルやカジュアルゲーム、Xbox Live Arcade、Wii Wareといった非メインストリーム系への動きの活発化、もうひとつは、販売、開発などあらゆる要素の欧米から海外へという動きの2つだ。 まず、キーノートスピーチは、ここ数年キーノートの顔として君臨していた任天堂とSCEAの両社が不在で、代わりにMicrosoftが復活した。Microsoftのキーノートは2005年のJ Allard氏以来で、実に4年ぶりとなる。一方、Microsoftは、Xbox 360を他社より1年早くリリースしたため、一足早く“収穫期”に突入しつつある。今回、Microsoftがどのようなビジョンを見せてくれるのか楽しみだ。 任天堂とSCEAの両社がキーノートに出ない理由は様々考えられそうだが、ひとつはやはり次世代機が現世代機となり、プラットフォーマーとして提示できる大型の話題がないということ。もうひとつは、ゲームプラットフォームが多様化したことにより、単一のプラットフォーマーが全サードパーティーを牽引する時代はもはや終わってしまったことが挙げられる。 ちなみにもうひとつのキーノートは、フューチャリストのRay Kurzweil氏がゲーム産業の20年後を予測する。South Hallで行なうキーノートは以上の2つで、例年の半分以下となっているが、その代わりに昨年までビジョントラックとして通常セッション以上キーノート以下という微妙な扱いを受けていた枠が、オーディオ、モバイル、ゲームデザイン、プログラミングといった各分野のキーノートに格上げされた。キーノートが多様化された結果として毎日複数のキーノートが開催されるような案配で、さらに参加セッションを選ぶ悩ましさが増大している。 次に、年々増加傾向の日本人開発者の助けとなっている同時通訳セッションが倍増し、全28セッションとなった。今年からついに全日程全セッションで日本語だけを聞くという参加が可能になっている。同時通訳の増大は、海外からの参加を促し、米国から海外へという流れを促進させるという狙いがある。こちらも確かに多様化の一側面が感じられる。 ちなみに、注目の日本人セッションは9つが予定されている。傾向としてはWiiの一極集中といった印象で、ソラの桜井政博氏の「『大乱闘スマッシュブラザーズX』の開発・事例検証」を筆頭に、「『Wii Fit』家庭向けコンソールにおける革新的インタフェース」(任天堂・澤野貴夫氏)、「Wii メニューをデザインする:企画から Wii Ware まで」(任天堂・青山敬氏)、「WiiWare のライフサイクル?『小さな王様と約束の国 ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』研究事例」(スクウェア・エニックス・白石史明氏、土田俊郎氏)とWii系のセッションがズラリと並ぶ。 そのほかの日本人の注目セッションとしては、「ファイナルファンタジー XIII」と次世代MMORPGに実装が予定されているテクノロジープラットフォームの内容を初めて語る「『ファイナルファンタジー』のテクノロジー」(スクウェア・エニックス・村田琢氏)、「『ロストオデッセイ』の開発を振り返る ~日本式と欧米式の融合~」(フィールプラス・中里英一郎氏)、「改良という創造」(ゲームリパブリック・岡本吉起氏)などが挙げられる。
今回、チュートリアルに参加していて痛感させられたのは、北米市場におけるゲーム市場の一種の飽和感であり、爆発するような他プラットフォームへの展開熱意、あるいは海外展開へのエネルギーである。セッションリストを見る限りでも、次世代機(この場合、PS3とXbox 360を指す)向けの開発環境の整備というのは、もはやトレンドではない。なぜならそれは、豊富な資金力と人材を持つごく一部の超大手メーカーのみが実現できる専売特許だからだ。参考にできなければ意味がないわけである。 GDCは毎年テーマが設定されていた。2005年が「Future Vision」、2006年が「What's Next」、そして2007年が「Take Control」。今年は「Learn Network Inspire」と例年とは毛並みの異なるテーマが設定されているが、いずれにしても華々しいスローガンの後に実現した世界は、当時とはずいぶん風景が異なっていたことだけは間違いない。 今年、代わりに台頭してきているのは、次世代機以外の分野に対する成功事例であったり、具体的なノウハウの提示である。例年のようなカッティングエッジな印象は薄くなっている一方で、異様な熱っぽさと新鮮さを感じ取ることができた。日本企業は、現在生き残りを掛けて日本から欧米へという流れを作ろうとしているが、実は欧米のほうが真剣に取り組んでいるのかもしれない。
我々ゲームファンとしては、国内外を問わず、クオリティの高いゲームに触れる機会が増えるのは嬉しい限りだが、毎年の成長を義務づけられたメーカーに取っては難しい時代が来たことを予感させる。初日に参加してみた限りでは、世界規模での新たな生き残り合戦のゴングが鳴ったという印象を持った。こうした欧米メーカーの新たな取り組みは、チュートリアルレポートやセッションレポートを通じて詳しくお伝えしていくつもりだ。引き続き弊誌のGDCレポートにご期待いただきたい。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2008年2月19日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|