|
会場:Digiworld本社
そのロジックは非常に明快であり、メーカーが本来求めるゲームデザインと、ユーザーが望むゲームデザインが、RMT利用者という外的圧力によって破壊されるのはおかしいということに尽きる。この性質は、世界のRMT市場の偏在状況を見る限りでは、ゲームに対して高度なカタルシスを求める比較的長いゲーム史を擁した地域であるほど強く、浅い地域であるほど弱い。 強ければメーカーとユーザーの双方から自浄作用が働くが、弱ければユーザーニーズとして「優秀でバランスの取れたゲームデザイン」以外の要素が入り込む余地が増え、結果としてオンラインゲームにおいてはRMTが活発化することになる。これは善し悪しの問題ではなく、ゲーム史上の地域文化論に属する話である。 日本では、2006年前後をターニングポイントに、「RMTは規約で禁止しており、それゆえにRMTを行なえば処罰される」ことが有言実行に移されてきた。規約で禁止しているにも関わらず、RMT利用者を野放しにしているメーカーは、運営怠慢と見なされ、次第にユーザーが離れていくことになる。この点において日本は、確実に自浄作用が働いている地域のひとつと言える。 しかし、RMTそのものに善悪はなく、行為そのものは古本の売買と変わらない。ただ、オンラインゲームは、進化し続けるインタラクティブなエンターテインメントであり、古本の売買とは決して同質ではない。それはいわば秀れたテーマパークの中で、まったく関係のない露店を開くことを風景として運営者と来場者が許容するかどうかの問題である。それを「許容する」のであれば、もはや第三者が文句をいう筋合いではないわけである。 今回は、RMTを実質的に「許容する」地域のひとつである台湾において、大手RMT「宝之林」サイトを運営しているDigiworldに取材を申し込み、その実態を伺った。「RMTを許容する」とは何を意味するのか。台湾のゲームファンはRMTとどう付き合っているのか。異色のゲーム産業地域文化論レポートを展開してみたい。
■ 元Gamania社員が起こしたRMTサイト運営会社Digiworld
RMTサイト運営以外のビジネスとしては、オンラインゲーム事業や携帯コンテンツ事業、デジタル雑誌制作事業などがあるが、ほとんどが準備段階で、売り上げを出しているのは、携帯コンテンツ事業のみだ。携帯コンテンツのメインビジネスは、ストリーミングコンテンツの配信サービスで、日本の映像メーカーからライセンスを受け、1時間の映像を、見せ場だけ2~3分の映像に区切って配信するサービスを行なっている。 ビジネスモデルは都度課金で、1回視聴当たり20元(約70円)から30元(約105円)。配信先は中華電信、台湾Mobile、VIVOといった大手キャリアで、コンテンツの内容は成人男性向けの映像がメインだという。台湾では成人男性向けの映像は、法律で配信が禁止されているが、現に台湾最大手キャリアの中華電信で配信されている。このあたりがいかにもアジア風である。 さて、RMTサイト「宝之林」は、最大手の「8591(“アイテム取引”の発音を数字で表現)」に次ぐ、台湾で第2位に位置づけられる大手RMTサイトである。台湾のRMTサイトの大きな特徴のひとつは、自社での売買は行なわず、ユーザーとユーザーの仲介業に徹しているところだ。このため、日本のようにバックにいわゆるゴールドファーマーは持っておらず、わずか2名の女性スタッフのみで至って事務的に運営が行なわれている。 「宝之林」では、売り買いのいずれの場合でも、「Cコイン」を中間通貨として利用する。「1台湾ドル=1Cコイン」で等価交換可能なバーチャルマネーで、商談成立後に取引価格の6%を手数料として徴集するという仕組みだ。場を設けることで、RMTの機会と安全性を提供する一種のポータルサービスだ。 ゲーム内通貨を買う場合は、いったんCコインを購入して任意の出品に対して応札する。売買成立後は、Cコインが減算されて、ゲーム内通貨が任意のアカウントのキャラクタに送付される。ゲーム内通貨を売る場合は、逆のプロセスを経てCコインが加算される。Cコインを現金に換えたい場合は、公式サイトで手続きを行なうことで任意の口座に現金が振り込まれる仕組みだ。 扱っているタイトルは、基本的に台湾でサービスしているすべてのタイトル。これは「信長の野望 Online」や「大航海時代 Online」といった日本産のタイトルも含まれる。「宝之林」では、自社で買い取りは行なっておらず、在庫リスクがまったくないため、タイトルラインナップはいくらでも増やせるわけだ。 商材については、ゲーム内通貨を中心に、装備品、アイテム、そして未使用のプリペイドカードなどトレード可能なものなら何でも構わない。値付けも自由に決められる。ただ、買い手がいなければ商談不成立となるだけだ。 ちなみに台湾のオンラインゲームパブリッシャーは、日本と同様に原則としてRMT行為を規約で禁じている。それなのになぜ「宝之林」のビジネスが成立しているかというと、「自ら売買は行なわず、仲介のみであり、従ってそれはRMT行為ではなく、規約に違反していない」という論理展開が、法的に許容されているからである。「規約違反行為を行なっているのはユーザーである」とは明示しないが、RMT行為の責任をすべてユーザーに丸投げすることでビジネスを合法的なものにしている。これは台湾では共通して言えることだが、幇助が従犯行為であるという概念が非常に弱い印象がある。
■ 売り手は中国人、買い手は台湾人、そしてゲームをしない相場師の存在
業を煮やした台湾大手メーカーが中国からの接続を制限し、アクセス制限を掛けたところ、売り上げが一気に3割減り、慌てて元に戻したという事例があるという。元に戻してしまうというのが凄いが、すでに台湾ではそれほどまでに中国ユーザーが浸透しているのだ。伊能氏によれば、「台湾のメーカーは、RMT抜きには立ちゆかない」という。 台湾のオンラインゲームに中国人が多い理由は、なんといっても言語が中国語であり、繁体字と簡体字の壁はあるものの意志の疎通に問題がないこと。ビジネスモデルが月額課金からアイテム課金にシフトし、初期投資および固定費が掛からないこと。物価が台湾のほうが高いため、中国でRMTを行なうより効率が良いこと。そしてなんといっても台湾人が、RMTに対して抵抗感がないことが挙げられる。 最後の理由が、台湾がRMT大国ならしめている最大の要因で、友人がRMTで高価なアイテムを手に入れたら、日本の場合、ゲームファンとして恥ずべき行為であり、RMTを辞めることを忠告するか、自分はゲーム内で努力して獲得したいと思うのが通例だが、台湾の場合「よし、じゃあ俺もRMTをするか」となる。 台湾ユーザーが1カ月にRMTに使う金額は約1,000元程度。日本円で3,500円程度となり、有料アイテムに使用する額が500元(約1,750円)程度なのに比べると、倍の金額を使ってもいいと考えている。 ゲーム内リソースの価格は、需要と供給のバランスによって決まり、大型アップデートで魅力的な新アイテムが実装されると、とたんにゲーム内通貨の値段が跳ね上がる。台湾のユーザーは、欲しいと思ったら何が何でも手に入れたくなるため、レートが倍になることも珍しくないという。 「宝之林」の手数料は常に6%であるため、それを超える範囲で値段が上下するということは、株のように相場を見て取引を行なうだけで、現金が儲かるということになる。中国人の勢いが強いにもかかわらず、利用者の8割が台湾人なのは、そこにギャンブル的な楽しさを見いだし、ゲームをプレイせずに取引をしているユーザーが多いためだ。いずれにしても「宝之林」は6%のハウスエッジを取るため、確実に儲かるということになる。 当然のことながらメーカーとの関係は悪い。しかし、伊能氏の前職を見てもわかるように、オンラインゲームパブリッシャーとRMTサイト運営会社は不思議な共生関係にあり、パイプも太い。実際、GamaniaとDigiworldは同じビルに入居しており、個人レベルでの仲は良いという。 伊能氏は、表向きの対立の構図を解消し、提携関係を結ぶのが今後の目標だという。将来的には、携帯サイトもオープンし、携帯電話での取引にも対応させるという。スーツにネクタイ姿の大企業のサラリーマンが、休憩中に携帯からRMTを行ないお小遣いを稼ぐ。そういう時代が来るのかも知れない。 台湾のRMT産業は、RMT運営会社だけが儲かるだけでなく、メーカーの売り上げに寄与し、ユーザーに利便性を与えているのは間違いなく、一見Win-Winの関係ができあがっているように見える。ただし、見落としてはならないのは、そのスキームの中に、ゲームという高度なデジタルエンターテインメントの存在はもはやないことであり、台湾のゲーム産業が、韓国はおろか、中国にも遅れを取り始めているのは、ここに宿痾が眠っているように思えてならない。
台湾はOEMで発展を遂げてきた地域であり、伝統的に開発力、発信力は弱い。それはオンラインゲーム産業においてもまったく同じことが言えそうだが、台湾人の旺盛な消費欲、ギャンブル欲に頼り切り、海外産のオンラインゲームとRMTサービスの提供だけに留まって良いのか。台湾のRMT事情を覗いてみて、「RMTはやはりゲーム産業をダメにする」という見解を改めて強く持った。 (2008年1月27日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c)2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|