|
会場:韓国国際展示場(KINTEX)
入場料:5,000ウォン(前売り3,000ウォン)
驚かされるのは環境の良さだ。こちらもG★と同様に、韓国政府が直接支援している。海外規模としては、日本のCEDECとほぼ同等の水準ながら、真新しい国際展示場を会場として用い、CEDECを上回る数のスピーカーを海外から招待し、それでいて受講料は2日通しの前売りで75,000ウォン(約9,000円)。学生の場合、37,500ウォン(約4,500円)となる。この価格には、2日間のランチと、G★の入場料も含まれており、空き時間を利用して会場を回ることができる。
これは、5日間で1,000ドル超のGDCは別格としても、日本のCEDECと比較して、会期が1日短いことを差し引いても断然安い。これが主催団体のKGDAの営業努力の結果なのか、文化観光局の資金援助が潤沢なのかは不明だが、いずれにしてもG★の一般客の入りの少なさと比較して、KGCは学生達を中心に非常に活況を呈しており、ゲーム業界によって良い環境が醸成されつつあることを感じた。 ■ 「ハンゲーム」の成功秘話を新社長が改めて披露
講演の内容は、2000年のハンゲームジャパン(現NHN Japan)の立ち上げから、現在までの苦闘と成功の歴史から、在韓企業の日本進出の仕方をレクチャーするというものだった。NHNが韓国内の並み居る強豪メーカーを抑え、日本のオンラインゲーム市場でもっとも大きな成功を収めた事実は、韓国でもよく知られており、それだけに講演会場は立ち見も出るほどの盛況ぶりだった。 森川氏は、まず始めに現在の状況をデータで示して見せた。累計登録会員数2,350万人、提供ゲーム数165タイトル、最大同時接続者数129,000人、男性70%、女性30%、10代と20代がユーザーの過半数を占める。森川氏は、オンラインゲームを増やしたことで、男性比率と年齢層が高くなったと分析。 しかし、続いて示された年表を見ると、現在の圧倒的な実績とは裏腹に、実は2000年から2004年初頭までは、ほとんど会員数、売り上げ共にずっと停滞が続いていたことがわかる。しかし、講演ではこの期間に蒔いた種が実を結んだことが森川氏の口から明らかにされた。 2000年にオープンしたゲームポータル「ハンゲームジャパン」(現ハンゲーム)は、開始当初は10種類のゲームと、クオリティの低いアバターからスタートした。2002年には、創業者である千良鉉氏の発案で、アバターアイテムのビジネス化に踏み切ることになる。まずは、Yahoo!やGooといった検索ポータルに対するBtoBビジネスとして始まり、その後BtoCへと広げていく。当時社内では日韓双方のスタッフから、アバターのクオリティの低さや、日本がコンシューマゲームの牙城であることを理由に猛反対されたというが、結果的にはこの決断が、現在のNHN Japanの成功に決定的な影響をもたらした。 森川氏によれば、日本と韓国ではアイテム課金の発想が違うという。韓国は、競い合う文化が強く、相手に勝つためのアイテムが好まれるのに対し、日本は仲良く楽しむ文化が強いため、人と仲良くなるためのアイテムが好まれるという。 そこでハンゲームでは、オリジナルのデザイナーを雇い、クオリティの高いアバターアイテムを開発する一方で、オンラインで楽しめる新たなゲームの開発に着手した。最初に麻雀、将棋、パチンコ、パチスロといった日本で人気の高いゲームから手がけ、最終的にはボードゲームをすべてカジュアルゲーム化してしまったという。 この結果、まず最初にゲームを無料で楽しみ、そこで知り合った仲間とよりよいコミュニケーションを計るために自分を装い、さらに仲良くなってゲームも楽しくなるという正のスパイラル構造を構築し、収益に結びつけることができたという。この部分は、過去の講演などで繰り返し語られてきたエピソードだ。 もっとも、この間、一時的にゲームが有利になるアイテムを導入したこともあったというが、ユーザーの反発があり、購入者がいじめられたり、購入者お断りのルームが発つなどのトラブルも経験したという。これはゲームで仲良くなるというポリシーと相反するため、ゲームが有利になるアイテムは全廃したという。 次の一手として、今度は商品の売り方に工夫を取り入れた。現在ではあらゆるメーカーが類似製品を導入している「ガチャガチャ」の導入である。これも韓国では「何が出るかわからないものにお金を払うはずがない」と反対したというが、実際には大ブレイクし、売り上げが一気に2倍になったという。 NHNではここでもさりげなく仲良くなるための仕組みを導入している。「アバたま」は、卵の形をした可愛らしいガチャアイテムだが、複数のユーザーで育てることができ、うまく育てればレアアバターが生まれるという、他のユーザーと仲良くなるためのフックにもなっている。これらの施策により、顧客単価を上げることに成功したという。
仕上げの段階として、2004年以降、マスプロを本格化。その結果、ハンゲームを認知するユーザーの数が急増し、Yahoo!のベストサイトのエンターテインメント部門で3年連続1位を獲得するなど、代表的なエンターテインメントサイトとしての地位を確立した。 ■ ゲームポータル完成後はオンラインゲーム事業にシフト
森川氏は、「Webボードゲームは、ユーザーを集め、コミュニティを形成させるための撒き餌にすぎない」と語る。その一番大きな弱点として挙げられるのが、いずれも底の浅い単純なゲームであるため、入りやすいが出やすい、つまり飽きられやすいことだという。コミュニティを形成する前にゲームに飽きられてサイトから足が遠のいてしまっては、NHNのビジネスモデルが根本から破綻してしまう。 そこでNHNでは、IDごとに紐付けされた「マイプロフィール機能」を強化し、自分のゲーム資産やコミュニティ資産が確認でき、自己表現できる場所として再構築しなおした。つまり、プロフィール機能をコミュニティ形成のための大型のフックとして活用できるようにしたわけだ。これにより、ゲームに飽きてしまっても、ハンゲームには再び訪れてくれる率が高まり、一時は、ゲームよりWebのほうがユーザーが多いこともあったという。 その後、NHNは満を持して、オンラインゲームパブリッシャーの道のりを歩み始める。2005年10月に「FreeStyle」を展開し、3カ月で50万人以上という抜群の集客力を見せ、その後、チャネル事業を展開する上で大きな実績を残した。2006年8月には、マルチタームの買収を挟み、日本の大手メーカーであるバンダイナムコゲームスと業務提携し、「ファミスタオンライン」を共同開発する。こちらも3カ月で80万人を集客し、大きな成功を収めた。その後の軌跡については弊誌でもたびたび取り上げてきているのでここでは省略する。 森川氏は、「日本でなぜオンラインゲーム市場が停滞しているのか」という韓国メーカーの共通認識に対して、日本テレビでの経験をふまえ、「コンシューマゲームとオンラインゲームは、映画とTVの違いに似ている」と切り出した。
森川氏は「映画がパッケージゲームと同様に、後でやり直しがきかないために長い時間をかけて細かく作り込むのに対し、TV番組はとりあえずスタートさせ、視聴率を見ながら番組の内容をカスタマイズできる。かつて日本でも番組を買ってきて放送していた歴史があるが、現在は、ハリウッド映画だけでなく、日本人の好みにあった番組を作っていくことが重要」だという。大作を押し売りするのだけではなく、日本に合わせてしっかりカルチャライズしていくことが大事という非常にわかりやすいメッセージだ。 ■ ハンゲーム2.0は、モバイルエンターテインメントの時代になるか!?
森川氏は、Webボードゲーム時代を「ハンゲーム1.0」とし、それに続くオンラインゲームパブリッシャー時代を「ハンゲーム1.5」と規定。現在は、ハンゲームの機能を、Webボードゲームを集めた「かんたんゲーム」と、他社を含む数多くのオンラインゲームを集めた「じっくりゲーム」とに分け、1.0と1.5の入り口を明確に分け、同時並行して事業を展開している。 それでは「ハンゲーム2.0」とは何なのかというと、まだ時期尚早ということで具体的な内容は明かされなかったが、人と人とが繋がるというNHN Japanの根本部分をさらに強化し、ユーザーの自己表現を深掘りする、複数のゲームを遊ぶ価値を提案していくといったいくつかのヒントが提示された。 先日弊誌のインタビューで明らかにされたオンラインゲーム運営プラットフォーム「PURPLE」は、広い意味でオンラインゲームパブリッシング事業、つまり「ハンゲーム1.5」の枠に収まるビジネスだ。その次の事業としては、現在NHNが水面下で進めているモバイル事業ということになるが、それが単純にモバイルオンラインゲームなのか、モバイル版の「ハンゲーム」なのかは現時点ではわからない。いずれにしてもモバイル方面で今後大きな動きがあると見て良いだろう。 最後に森川氏は、「極端な話、ゲームはつまらなくてもいい、ゲームを通じて人と仲良くなれるかどうかが重要。ゲームでは強い人には絶対に勝てない。だから負けても落ち込まないゲームを作りましょう」とユニークな提言で締めくくった。
NHN Japanは、昔も今も他のゲームメーカーとは明らかに毛並みの異なるメーカーだが、極めてビジネスライクであると同時に、ユーザーニーズに直結した大胆な施策を実行することでユーザーの心を掴んできた。今回、そのトップが千氏から森川氏にバトンタッチしたことで、NHN Japanのビジネスポリシーにどのような変化が生まれるのかに注目していたが、何も変わらない一方で、より先鋭化するのではないかという大きな期待感を持った。今後も引き続きNHN Japanの展開に注目していきたいところだ。 (2007年11月12日) [Reported by 中村聖司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c)2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved. |
|