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会場:東京大学
ここで語られる「アニメーション」は、セルやCGで2Dの絵を動かすものではなく、3Dモデルで表現されたキャラクタを3D空間上で動かすものをさす。キャラクタのモーション、3Dならではの演出、カメラの制御、3Dのキャラクタに“魂”を吹き込む行程は新しい方法論と、演出テクニックを確立しつつある。今回の講演では、3つの作品を例に、それぞれ別々なテーマと切り口で現場での取り組みが語られた。
■ プロのダンサー達と、「手で作る」こだわりによって生まれた「アイドルマスター」
今回、「Xbox 360版アイドルマスター キャラクタアニメーション製作工程」を語ったのは、バンダイナムコゲームスコンテンツ制作本部第1制作ディビジョン第1制作ユニットアニメーション課の佐々木久美氏だ。佐々木氏は360版「アイドルマスター」でアニメーションリーダーを務めている。 アーケード版として登場した「アイドルマスター」だが、Xbox 360版制作にあたり、キャラクタのモーションすべては1から作り直されることとなった。アニメーションとして作られたファイルは1,000以上、2分強のダンスは16曲となり、さらに3人で踊ることもあるため、1キャラクタにつき3つのポジションのデータが作られることになった。コミュニケーションパートでのキャラクタの自然な動作を実現させるために、PS2「ゆめりあ」で培った手法が役に立ったという。 アニメーションでの作業は2005年の10月からモーションのリスト作成などの準備が行なわれ、12月にモーションキャプチャー、2006年1月から10月まで本作業が行なわれた。制作スタッフは、ダンスパートで3人、コミュニケーションパートで2人、「ゆめりあ」や「鉄拳」、「ソウルキャリバー」などを手がけたスタッフ達である。 使用ツールは主に「SOFTIMAGE XSI5.0」、口パク用に「Maya7.0」を使用している。リグ(骨格)は、標準のものに指の骨格を取り入れたオリジナルの「春美」というモデルを使用している。春美の大きさを変化させるなどしてすべてのモーションを振り付けていったという。指はモデルの上のボックスが連動しており、親指以外の指は連動でひねったり広がる。直感的でヘルプスタッフにも好評だったという。 モーションキャプチャーでは、曲を聴いたプロのダンサーにまず振り付けを考えてもらって、実際に踊りながら打ち合わせをする。ユーザーが覚えやすい、真似しやすいものを考え、上半身の振り付けを大きめに、トリオの時を重要視しつつ、ソロやデュオでも見栄えのするものを。便利なのが蹄鉄型の足形を置く印。モーション終了時にこれを置いておくと足の位置、向きなどが次と同じにできるため、データとして利用するときズレが少なくすむ。ダンサーのモチベーションにも気を配ったという。 キャプチャデータをゲームにコンバートする際に、曲と完全にシンクロさせるのは一曲につき1日以下、指先のアニメーションが1日半、そしてこれをゲームで使えるものに修正を加えるのが、全作業の9割、つまり制作実作業の10カ月中、ほとんどが修正作業に追われていたことになる。モデルののめりこみを自然にしたり、キャラクタならではの特徴を入れたり、頬などの柔らかい質感を出すには、データをそのまま出すだけでは決してできないという。 更にカメラもこだわった。4つのカメラを用意し、1カメと2カメで人物を大きく撮り、3カメは3人並んだ時の引き、4カメはステージ全体。歌のフレーズでカメラを移動させるだけでなくランダム要素も持たせ、同じ曲でもユーザーに飽きさせないことを目指した。
また1カメ、2カメの時はキャラクタがカメラを追うようなプログラムが入っており、カメラを目線のアイドルっぽい動きを演出している。佐々木氏は、特にカメラはまだまだこれから、と言う。今回は様々な制限のため汎用性重視になったが、表現の可能性はまだまだある、と語った。
■ より効率的な環境を作るための技術的アプローチが行なわれた「エースコンバット6」
「エースコンバット」シリーズのもう一つのセールスポイントがストーリーだ。プリレンダムービーと静止画など、様々な手法でストーリーが語られてきたが、今回は3Dモデルで描き出されたキャラクタ達によって“様々な視点で語られる本格的な戦争群像劇”が描かれる。 今回のムービーでは、ゲーム中と同じレンダリングエンジンによってリアルタイムでレンダリングが行なわれる。ゲーム内の雰囲気と近いものになり、実写に近い雰囲気を出すことができる。しかしこのためにより気を配ったアニメーション表現、画面密度が必要となり、結果として作業ボリュームと、コストは増大してしまう。これをどこまで効率化できるかが今回の課題になったという。 特に人物パートのアニメーションは6名のスタッフにより作られることになった。アートディレクター1名、演出・ディレクョン2名、キャラクタ制作5名、背景7名、戦闘機アニメーション2名と、ムービーだけでもたくさんのスタッフが関わっている。製作チームは、これまで以上に新技術を投入し、効率の良い環境を目指した。 モーションキャプチャ時にはリアルタイムプレビューを使うことでゲームに近い環境を意識して収録、カメラキャプチャーを使い、「戦時下の映像」の雰囲気を再現、ハンドキャプチャーもつけるセンサーは多くはないが、ものを触った時に曲がる指や力の方向などが明確にわかるように工夫をした。 今回苦労した点は顔の表情を取り出す「フェイシャルキャプチャー」だという。社内のモーションキャプチャーチームと数ヶ月に渡り技術検証を繰り返し、より自然な表情作りを目指した。もちろん「手」による修正、クリエーター達による手直しは絶対に必要なものの、実際の動きならではの独特の動きを収録することができたという。また、作業の精度を上げることでコストが削減されたメリットも大きい。
データの共用、より実用に近い形での映像を見ながらの作業、実験機をスタッフが充分に使うことができる環境作り、など様々な点に留意して、作業は進められていった。環境に配慮しながらも、一番気をつけるのは説得力のあるポーズであったり、ユーザーに伝える感情、動画としての流れといった基本的な部分は最も重視する点だと森本氏は言葉を結んだ。
■ クリエーターのエゴを取り込み、支える事で生まれる「鉄拳6」のキャラクタ像
LEOは中国武術である「八極拳」を使うキャラクタ。彼の技は文献や資料から基本が作られる。一方ZAFINAは、古代暗殺術という全く架空の武術、女性特有の「柔らかな腰の動き」を強調し、妖艶な技のスタイルを作り上げていくという。 この他わかりやすいキャラクタの動きとして、マーシャルアーツを使うマーシャル・ロウは人間くさい躍動感のある動き、ロボットであるジャックの、人間とは異なった重々しい動きが紹介された。キャラクタによってテーマがあり、明確な技がある。格闘ゲームは特にアニメーションがはっきりと作品のテーマに繋がるジャンルだ。 キャラクタへの思い入れ、そこに託される強烈なクリエーターの「エゴ」を、作品にどう柔軟に取り込むか、そして、複数のスタッフ達の統一感をどう持たせるか、更に製品としてのクオリティをどうしていくか……。「作業フロー」、「質と量のバランス」、「製品化への動き」というのが、中村氏が制作時に大事にしている3つのポイントだと語る。 作業フローに関しては、アニメーションディレクターはディレクターや調整スタッフの言うことをそのまま伝える「ピラミッド型」になりがちだが、初動期や全体の骨組みを決めるときはこういう形で良いが、中盤からは逆転する。制作していく上で生まれてくるクリエーター達の想いを、人間関係を構築しつつ、スタッフを主役にし、製作チーム一人一人にスポットを当て、ディレクターは彼等を支える。「スタッフが受動的なのはやだな、と思って、能動的になってもらえるようにしていくんです」と中村氏は語る。 能力も想いも違うスタッフ達が作る作品にどう統一感を持たせるか。作品のコンセプトを見直すことでスタッフの目標を統一していく。良いものを作るために、空手のビデオを見て本物の技を見たり、実際に技をモーションキャプチャーして技を見る。作り上げるキャラクタのイメージが明確になることで、キャラクタ像が強固なものになっていく。こうなると気持ちもゆとりが出てきて、更に上の発想やこだわりが生まれてくる。 製品化までには、「手間をかける」という難関が待っている。作り上げてみても全体から見ると様々な問題が出てくる。他のチームから、「かっこわるい」とか、「ゆるい」とか言われることもあり、それに負けずによりよいものを目指す。そこでいよいよゲームに入れてみて、バランス調整や、他キャラクタと比べて必要な技など、ゲームとしてより面白くなるためのクオリティアップをしていく。
「結局大事なのは、“人が作る”ということです」と中村氏は語る。技術を投入しても、面白くなくては意味がない。様々な“バランス”を考えて、中村氏はチームを引っ張り、ゲームを作っているという。
(C)2007 NBGI
□バンダイナムコゲームスのホームページ (2007年9月28日) [Reported by 勝田哲也]
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