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会場:東京大学
「.hack//G.U.」はバンダイナムコゲームズから発売されたPS2用RPG。3部作で構成されており、「Vol.1 再誕」は2006年5月18日、「Vol.2 君想フ声」は2006年9月28日、「Vol.3 歩くような速さで」は2007年1月18日に発売された。“オンラインゲーム”をテーマにしていて、2017年の未来社会で流行しているオンラインゲーム「The World」のプレーヤー“ハセヲ”は、不思議なプレーヤーとの出会いがきっかけとなり、仮想とも現実ともつかない「事件」に巻き込まれていく……。本稿ではサイバーコネクトツーの2つの取り組みを紹介したい。
■ 2作目にプロジェクトのクライマックスを! 「.hack//G.U.」のクロスメディア戦略
最初に松山氏は「.hack//G.U.」で行なわれたプロジェクトを紹介した。プロジェクトは作品が始まる前からスタートしており、前作のアニメの再放送から、角川書店の専門誌「.hack//G.U.The World」の創刊、そして「.hack//G.U.」の8カ月前の世界を描くアニメ「.hack//Roots」がスタートする。「Vol.1」発売と同時期にファンイベントが開催され、その後もラジオ番組の公開収録など、様々なイベントが積極的に開催された。 一通りプロジェクトを説明した後、松山氏は「.hack」シリーズの販売本数を紹介する。前作は4部作として作られたが、販売本数は右肩下がりとなり、一番売れたのが第一作だった。「普通シリーズ物はこんなものです」と、言いながら松山氏は次のスライドを紹介する。「.hack//G.U.」は“普通”とは違い、右肩上がりの販売結果となった。ユーザーのゲーム予約数が販売店の姿勢を向上させた結果だという。 これには、松山氏を始めとしたスタッフが前作の売り上げを冷静に分析した結果にあるという。前作は3作目が大きく落ち込み、4作目は更に下がっている。その原因は「2作目」ではないか? 今回の「.hack//G.U.」プロジェクトのスケジュールは、2作目の販売をどこまで盛り上げるかに集中させた、と松山氏は語る。 アニメもゲームもない時期に雑誌をスタートさせたのは、コミックの発売と「Vol.2 君想フ声」の発売日を近づけさせるためだ。アニメも、その最終回の次の日が「Vol.2」の発売日になっている。テレビアニメの最終回のラスボスの目的が「Vol.2」とリンクするようになっており、更にゲームショウでラジオの公開録音でゲームをアピールする。プロジェクトのクライマックスが「Vol.2」発売に合わせるように計算されているのだ。さらに「Vol.2」で「Vol.3」のラスボスを明らかにするという、次回作への“引き”を重視した。 この“クライマックス”を演出するために、サイバーコネクトツーはバンダイナムコゲームスの協力の下、様々な媒体に積極的に働きかけた。ガイナックスとも、シナリオ制作者とも、アニメ制作会社にも……角川書店の雑誌もネームやプロットもサイバーコネクトツーは全部目を通した。松山氏は、プロジェクトの佳境には毎週会社のある福岡から東京まで通ったという。 松山氏は「絶対に忘れていけないこと、手を抜かなかったことは、“ゲームを中心としたプロジェクトだ”ということを常に提示し続けたこと。これを理解してもらった上で、色々なところを任せてもらいました。バンダイナムコさんはすごい会社だと思います。感謝しています・……このくらい褒めていけばいいかな」と冗談を交えて言葉を結んだ。
他の講演で出た話だが、「ゲームからアニメの展開はうまくいくことがあるのに、アニメからゲームに展開すると成功しない」というものがあった。特に昨今はそういうケースが多いようにも思える。考えてみると、ゲーム制作者はアニメーションの表現や手法をある程度理解している傾向にあるが、ゲームという表現の可能性について、アニメ制作者がまだわかっていない部分があるのかもしれない、と思える。クロスメディアに関しては、今後考えていきたいテーマであり、メーカーがどのように取り組んでいくかも注目していきたい。
■ グラフィッカーがシーンすべてを作成できる「CCS(Cyber Connect Streaming)」による作業の効率化
今回語られた主題は「開発環境の構築」である。PSからPS2へ移行する時期、サイバーコネクトツーは開発体制を大幅に見直すことになった。このとき最も切実だった要望が、「プログラマが楽をできるシステムを構築したい」というもの。この要望の元、作られたのが「CCS(Cyber Connect Streaming)」というシステムだ。 CCSのコンセプトは、3dsMax(3Dソフト)で作成したシーンをそのまま動かすことができること。開発機で動作するツールでデータが調節できること。これを実現するために、「モデルビューア」、「モーションビューア」、「エフェクトエディタ」、「デモシーンエディタ」という4つの機能を盛り込まれたシステムとなった。 CCSを使うと、グラフィッカーは、モデルを作り、アニメーションを設定し、エフェクトも決め、カメラやライトもすべて設定することができるようになる。モデルを設定し、動かしたり、エフェクトを決めるたびにプログラマに戻したり、アニメーションに関して、何ができて何が無理なのか、実際にやってみたときそれが本当に頭に描いたシーンを再現できたのか、グラフィッカー自身がその場で確認できるようになる。 グラフィッカーやデザイナーが考えたシーンをプログラマにうまく伝えられなかったり、プログラマの「できない」という言葉にグラフィッカーが反論できないという場面は、ゲーム開発現場で日々繰り返されている光景である。CCSはある程度制限はあるものの、この苦労を低減してくれる。 グラフィッカーは、自分の創意工夫と、与えられたツールで思ったシーンを再現することができ、クオリティに関しても自分の責任となる。プログラマはそのデータをゲームに実装していけばいい。素材提出期間の最後の最後まで手を加えられるところは、グラフィッカーにうれしい部分だろう。一方で、プログラマはグラフィッカーの要求に応える作業量は減り、エフェクトやグラフィックの調整に時間を取られない。その分、ゲーム性を追求できる。 もちろん、デメリットもある。グラフィッカーは絵を作るだけで終わらず、ある程度のプログラム知識やツールの癖など、今までよりずっとシステムに対する深い理解が求められる。グラフィッカーはやはり「凝りすぎて」しまうため、何か問題が発生した場合に、修正をするための原因究明が大変だ。 とはいえ、グラフィッカーがエフェクトを、プログラマが想定したよりも自由に使いこなしたりと、CCSの使い方はチームでより巧みになり、「.hack」シリーズ、「ナルティメット」シリーズなど、サイバーコネクトツーの開発タイトルで活躍し続けている。現在は6人のプログラマの力で、次世代向け環境が開発されているという。 質疑応答では、サイバーコネクトツーのそのほかの取り組みへの質問があった。サイバーコネクトツーは「徹夜をしない」きまりで、その代わり朝9時出社厳守、日曜は必ず休む。全員が会社にいる環境を作り、コミュニケーションを円滑にする体制を作っているという。松山氏は、「これは福岡だからこそ可能なことで、朝9時全員出勤は渋滞や通勤電車の混雑がある東京では無理だ」と語る。 この他にも3人で1つのチームとなっていて、その中の1人がリーダーとなり、リーダーも3人でチームとなっている。これにより、打ち合わせはチーム単位や、部署のリーダー単位など少人数で行なうことにする。パーテーションもなく、他の人とも背中合わせで、コミュニケーションの充実を図っているという。
ゲーム開発会社に限らず、社内環境に気を配る会社は多いが、サイバーコネクトツーはそこにもかなり注力しているように思えた。ツール開発に時間と人員を割くことは、それが絶対に必要にもかかわらず、実現できていない開発会社も多いのではないだろうか。CEDECで会社の取り組みをきちんと開陳したサイバーコネクトツーの姿勢は評価したい。こういった熱意あるメーカーの姿勢が、業界全体の「よりよい環境へ模索」に繋がって欲しい。
□サイバーコネクトツーのホームページ (2007年9月28日) [Reported by 勝田哲也]
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