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会場:ホテルニューオータニ幕張
今回開かれたカンファレンスは、この「コ・フェスタ」の枠組みから、ゲームの世界展開およびクロスメディア展開をテーマにコンテンツ業界の第一人者達が参集。流通プラットフォーム、クリエイター、プロデューサーといった立場から業界の現状と展望を語るものとなった。
■ オンラインコミュニティを重要視するMicrosoft Game Studios カンファレンス最初のセッションは「インターナショナルセッション」として、Microsoft Game Studiosを構成する主要なデベロッパーのキーパーソンたちが登壇した。 ・コミュニティのパワーに強い期待を抱くMicrosoft Game Studios
スペンサー氏は、Microsoftのファーストパーティゲーム部門を指揮する立場から、Xbox 360とWindowsを軸に展開する同社のゲームコミュニティに対する積極的な姿勢を披露。日本のコンテンツ事業者に対しても、ユーザーコミュニティをビジネスの機会として捉え、それをつくり育てていくことが今後のマーケットに対応する上で非常に重要だという認識を示した。 その背景には、ゲームのオンライン化が進んだ結果、ユーザーが「ゲームそのものを超えた価値を期待」しているという現状認識がある。スペンサー氏は「Forza Mortor Sport 2」を例にとり、「日本で先行発売した結果、日本のユーザーの手により多種多様なカスタムカーがゲーム内マーケットで流通したことが他地域での期待感を刺激し、北米・欧州でのセールスに大きく貢献した」と、日本のゲームコミュニティが起こした現象を高く評価。
スペンサー氏は「ゲームコミュニティをゲームの外でもつないでいくために」として、Xbox 360で始まった「LIVE」サービスを基点に、Windows版やモバイル機器への対応、Windows LIVE Messengerとの統合や、LIVEマーケットプレースでHD映像コンテンツの流通を開始するなど、現在の主要な取り組みを紹介。コミュニティを育てるためにはゲームの外部からのアプローチも重要だという、プラットフォームホルダーらしい姿勢を披露した。
・シリーズ累計販売本数2,000万本を記録する「AoE」。その経験は「Halo Wars」へ生かされる
同シリーズは'97年の第一作から現在まで、累計で2,000万本以上を売り上げたという超ビッグタイトル。シェリー氏自身の認識では、同シリーズが世界的に評価された理由の要点は次のようなものだ。1つはゲームのクオリティが高いこと。これは当然のこととして、第2の理由は「広く太くアピールしたこと」。つまり、カジュアルゲーマーにもハードコアゲーマーにもアピールできるゲーム性、洋の東西や老若男女を問わない世界史という普遍的なテーマが、市場の非常に広い範囲にアピールする要因であったということだ。
最後にシェリー氏は、Ensamble Studiosで現在開発が進行している注目作品「Halo Wars」での取り組みについて紹介。Xbox 360専用RTSとして2008年のリリースが予定される同作品だが、シェリー氏は「Xbox 360におけるこれまでのRTSは失敗に終わった」と、PC的な環境に最適化されたジャンルをコントローラーで操作することの難しさを指摘。そこで「Halo Wars」の開発にあたって、「Age of Mythology」をXboxコントローラ向けの操作スキームへと根本的に変更したテストをおこない、その結果キーボード+マウスよりも良い感触を得たのだという。その結果を経て「Halo Wars」の開発を決意した、というのが経緯であるようだ。
・「Halo 3」が取り組むUGCへの手厚いサポート。その一端を紹介
「Halo 3」はユーザーのソーシャルグループを作ることに主眼をおいて開発したのだという。そのために取り入れた第一の機能は、ゲームを協力してクリアする「パーティプレイ」。FPS作品としてこの要素を前面に押し出した作品は、筆者の知る限りでもこのタイトルが初めてだ。ゲームの開発にあたって今年5月に実施されたオープンβテストでは、82万人のプレーヤーが25カ国から参加し、1,200万時間のプレイデータが得られたという。Bungieではそのフィードバックをもとにゲーム性を洗練させてきたとのこと。 またバーンズ氏はカスタムゲーム、つまりゲームのルールをユーザー自身が作りだせるという機能を紹介。「Halo 3」では、「Forge」と呼ばれるツールセットが同梱されており、マップを編集したり、本編とは全く異なるルールのゲームを作成できる。野球ゲームを作ることさえ可能だという。バーンズ氏は、それにより「開発者が想像もしなかったアイディアが出てくるだろう」と期待感を示しつつ、さらに同作品が持つ「Theater」機能を紹介。
「Theater」は、前作「Halo2」で盛んな動きをみせたユーザー製作のゲームムービー(マシニマ)をヒントに実装したもので、プレーヤーはネットワークでプレイしたゲームセッションのリプレイを保存し、それをマルチユーザーで自由に再生、様々なカメラ位置で鑑賞することができる。会場ではバーンズ氏らが4人でプレイした「スカラベ」との戦いが多様な視点で映し出されるというデモが行なわれた。ビデオのように時間をとめることもできる。同氏はこの機能も含めて「コミュニティ体験を新しい体験を提供し、ゲームに対する関心を持ち続けていただけるようにしたい」と述べ、コミュニティへのアピールという、これからのゲームに求められる要素を明確にしてみせた。
■ オンライン時代の「勝ち組メディア」はPCとモバイル機器
・レーティング制度に縛られがちなゲーム業界。「玩具」から「メディア」への脱却が必要
名越氏は「倫理問題、これをブレークスルーしなければ未来はないと、現場では強い思いとして出てきています」と語る。その背景にはタイトルの審査段階で「下着じゃなくて水着なのでOK」、「ゾンビなので虐殺してもOK」といったレーティングの評価基準があるという。表現の本質的な意味でなく、表面的な言葉や形だけの審査で規制されるかどうかが決まるという現状に強い不満を抱いているようだ。 同氏が手がけた「龍が如く」シリーズは、家庭用ゲーム機向けとしてはかなりダークな主題を扱っている。そのため審査段階の障害も多かったのであろう。名越氏は、同作品の方向性として「ケンカはするが、売られたケンカを買うだけ」、「その先の本質には人間ドラマが描かれている」とし、そういった本質的な部分では「GTA」などの暴力ゲームとは対極にあることを強調、倫理審査のハードルを乗り越える苦労を味わいながらも、だからこそ実写映画化というメディアミックス展開が可能だったという認識を披露した。
名越氏は倫理規定について「ゲームは玩具から始まった束縛を受けている」という認識を語りつつ、「ゲームは今、スポーツ、SF、ファンタジー、歴史物くらいのジャンルでマーケットの殆どが占められている。インタラクティブメディアとして最も優れているメディアが一番閉鎖的だという現状は容認できません」と語った。そんな中で同氏は、ゲームが一番学ぶべきメディアはTV番組だという。「モニタがなければゲーム産業はありえない。リビングに座ってソフトが動く、それで産業が動いていくということを考えると、TV業界は参考にして学んでいく価値があります」として講演を締めくくった。
・アメリカ型のコスト構造を持つアニメ業界は世界展開の最先端を走る
これについて滝山氏は、映画製作スタジオと放送ネットワーク企業がそれぞれに成長したアメリカでは、ネットワーク各社と映画会社の統合が進んだ現在においても映像作品の独立性が強く、権利関係の処理が厳密に行なわれている背景があるとのこと。日本の映像産業については、「映画文化が早くから小規模化し、TV業界に吸収された結果、製作スタジオの独立性が低く、権利関係の処理もあいまいになってしまった」という経緯を紹介。このため海外展開において映像、音楽、あるいは俳優などの契約、権利関係の処理が難しく、映像ソフト化など2次展開以降の歩みが困難なのだという。 その滝山氏によれば、日本の映像業界において例外的な立場にあるのがアニメ業界。もともと子供向けというスケールで展開してきたアニメ業界は玩具企業とのタイアップや映像ソフト化によるコスト回収という必要性に迫られていたため、作品にまつわる権限が集中しており海外展開においても問題が少ないのだという。また重要なポイントとして「子供向けコンテンツは、成長途上の子供向けであるがゆえに各国固有の文化障壁が低い」という事実を紹介。当然ながら日本独自に発展したコンテンツとして競争力の高さもある。
何よりも重要な普及段階の戦訓について滝山氏は、柔軟な権利処理を挙げ、「これはだめ、あれはだめ、ということでは新しいメディアに対応できなくなってしまう。YouTubeやニコニコ動画なども含め、セールスプロモーションの充実をはかり、もっと訴求していきましょう」とした。そのためにも作品に関連する権利関係は担当者に集中させ、戦略的展開を容易にすることを求めた。またゲームとのクロスメディア展開についても、ゲームコンテンツが進化してきたことによりコミック原作からゲーム原作への流れを意識。ゲームメーカーと共同してどんどん作品を作っていきたい、と意気込みを披露した。
久保氏は現代メディア事情のオーバービューとして、映像・音楽・ゲーム・出版の各分野における市場規模の推移を紹介。その中で特に落ち込みが激しいのが映像のDVD販売、音楽のCD販売や、パッケージソフト販売といったもので、いわゆる物理メディアの低調ぶりが激しい。逆に追い風を受けて伸びているのがオンラインコンテンツであり、久保氏はその舞台となっているPCや携帯機器を指して「勝ち組メディア」と表現。これからのコンテンツ業界がいかにしてこれらのメディアに展開していくかが重要だという認識を披露した。 そのための戦略として氏は、「顧客のライフルスタイルをチェックすること」を第一に掲げ、TV番組の視聴率の低下傾向の背景に「mixi」、「Yahoo!オークション」、「Amazon」など、ユーザーの生活を変えつつあるWebサービスに注目。氏が手がける「ポケモン」では公式サイトの設営に「億単位のコストをかけてゲームを楽しめるサイトを用意しました」と、実際の取り組みを披露した。
氏は「ケータイに関して、ポケモンはまだうまくやれてないかもしれません」としながらも、人気TV番組の放映時間帯を狙ってニュースメールを配信するなど、細かい部分からライバルとの戦いを意識しているようだ。久保氏は最後に「コンテンツビジネスは、まず人の心を動かしてからモノが動くという、非常にエモーショナルな産業なのです」と語り、産業界が戦略を立てるうえでまずユーザー心理をつく必要性を強調し、講演を終えた。
本セッションの最後に行なわれたパネルディスカッションでは、「YouTube」、「ニコニコ動画」などユーザー参加型の動画サイトに無断で掲載される映像作品の扱いについて、講演者各位の寛容な姿勢が印象的だった。 ANIMAXの滝川氏は「権利者のお考えも尊重してますけど、あまり目くじらを立てることもありません。皆さんが見ていただけるということは作品の活性化につながりますし、こういうものがあるなら積極的に使いたいし、パートナーとしてやっていきたい」とコメント。 セガの名越氏は自身が熱心なユーザーであるようで、「毎日のように見てますし、ユーザーが作品の匂いを嗅ぎ取って扱いを決めているという、それが新しい形のマーケティングになっているかなと思います。リアルタイムマーケティング的な、ネットをつかった正しい市場調査のやりかたを作り出す必要があります」と、ユーザーコミュニティの動向に強い関心を示していた。
コンテンツ業界の将来を占う上で、Web技術の進化と社会の対応というものが強いインパクトを持ちうるというのは当然の理解だろう。そのような時代の中で日本のゲームをはじめとするコンテンツが強い競争力を持つためには、本セッションの講演者たちにみられたような柔軟な思考こそが求められるのかもしれない。そんな印象を抱く内容だった。
(2007年9月21日) [Reported by 佐藤“KAF”耕司]
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