【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】

Gamefest Japan 2007レポート

LIVEのクロスプラットフォーム化、Xbox 360でのMMO実現に向け
マイクロソフトのオンラインゲーム開発支援内容を紹介

9月6日、7日開催

会場:グランドプリンスホテル赤坂



 「Gamefest Japan 2007」の二日目となった7日、初日に続いて多数の技術説明セッションが催された。特に「LIVE」関係では、Windows版での今後の展開を紹介する内容に続いて、Xbox 360を含めた両プラットフォームで本格的なオンラインタイトルを実現するために整えつつある体制や必要な各種ノウハウついて紹介と提案がなされた。

 その中でマイクロソフトは、Xbox 360ではまだ非主流であるMMOG(大規模参加型オンラインゲーム)を視野に入れ、ビジネスと技術の両面で新規タイトルの実現化を支援していく姿勢を明らかにした。技術的な面ではP2P形式で同時数千人のプレイを可能にするテクニックなど、将来の応用が期待されそうな興味深い提案も見ることができた。


■ ゲームのオンライン展開を重視するマイクロソフトは、MMO形式のゲームサーバー実現にもフォーカス

セッションの各所で「UGC」を意識し、コミュニティに重点をおいて解説がなされた
 セッションでは、まず現在進みつつある「Games for Windows - LIVE」の機能と展開について紹介がなされた。その中でポイントとなるのは、マルチプラットフォーム化に際してXbox 360版を含めたこれまでの「LIVE」に加えられる変化の部分だ。

 ひとつは、PCで利用が想定される「専用サーバー」を使い、無料のシルバーメンバーシップでもオンラインプレイが可能になるという点。これは同時に、現在Xbox 360版で主流であるP2P型のマッチメイキング方式に比べ、持続的なサーバーが存在することになるため接続性の高い快適なゲームが可能になるという事でもある。これはWindows版のユーザーだけではなく、Xbox 360版のユーザーに対しても利益を与えることになる。

 機能の紹介としては、「LIVE」のWindows版では、Xbox 360版と同様に「実績」のサポートや、プレーヤーをより良いゲームに参加させるインテリジェンスなマッチメイキング機能、他プレーヤーへの招待機能がサポートされ、このあたりはXbox 360版と同等の機能を実現する格好になる。さらにWindows版ではPC特有のハッキング対策が取られており、バイナリの改ざん防止、実行時のデバッグ防止、メモリの保護など、PCの商用オンラインタイトルでは必須となるがセキュリティ要件が「LIVE」満たされることになる。

・Xbox 360のオンラインフィーチャーを拡大するため、ゲームサーバー開発を支援

「Forza 2」では開発者が想像した以上のスケールでコミュニティ活動が拡大した
 続いてマイクロソフトは「ForzaMotorsport 2」での実例を挙げつつ、コンシューマーゲームの世界でさらに魅力を増しつつあるゲームのオンラインフィーチャーの要点と実現について解説した。「『Forza 2』では、オークションハウスを中心に予想を遥かに越える面白い現象が起こった」とし、ゲームコミュニティが自己触媒的にタイトルの価値を高める現象に注目。

 「Forza 2」では、そのコミュニティ活動を支えるために専用のサーバーを構築したのだという。65万人を越えるオンラインユーザーが次々にカスタムコンテンツを作り、日々データベースがギガバイト単位で増大していく。それを支える技術的要件として「将来のストレスに備え、当初予測の2倍のサーバー性能を用意するべき」という経験に基づいた教訓を披露。コミュニティを支えるためには相応のコストを支払わなければならないという当然の見解だ。

 マイクロソフトではこうした経験を生かし、開発したサーバー技術は他のタイトルでも応用が可能な形で保持しているとのことだ。将来的には同一のプラットフォームをサードパーティのタイトルでも再利用できるようにし、必開発コストの軽減やサービスクオリティの向上を目指す。このプラットフォームには既に「Xbox LIVE Server Platform(XLSP)」という名前が与えられており、現在はLIVE対応ゲームのサーバー構築に向けてガイドラインの策定を急いでいる状況のようだ。

・「LIVE」のMMOビジネスは始まったばかり。マイクロソフトはパートナーシップを求める

マイクロソフトではXbox 360版のMMORPGを支援するため、本格的なアップデートに対応した独自のローダーを準備。実行ファイルが置き換わったとしてもHDDからのローディングで対応が可能になる
 7日午後には、「XLSP」に関するセッションも行なわれた、「サーバーベースのゲーム開発」と題し、ここでは「Forza 2」のようなコミュニティ機能だけではなく、Xbox 360ではまだ非主流の本格的なMMORPGも視野に入れている。「XLSP」は、サーバー自体の特定のSDKやプラットフォームを指す言葉ではなく、Xbox 360を含めて「LIVE」サービスで展開するオンラインサーバー全般への指針を指すようだ。したがってゲームサーバー自体はWindows Server 2003ではなくLinuxで構築されるというケースも当然あるということだ。

 従来のXbox 360タイトルに多かった小規模オンライン型のゲームに比べ、PCで主流のMMORPGなどでは継続するサービスの中で頻繁なプログラムの更新、コンテンツの大幅な拡張が必要となる。マイクロソフトではこれに対応し、MMOタイトルに関してはゲーム機の記憶領域の要求を許可した。つまり、Xbox 360で5GBや10GBのHDD領域を占有する、といった動作環境指定をタイトルが行なえることになる。これは「マスタ記憶領域」と呼ばれるが、ユーザーのHDDを占有する以上は事後の拡張がきわめて難しいため、あらかじめ将来に備えた容量を指定することを求めていた。

 LIVE対応のMMOタイトルでは、コンテンツの更新は当該タイトルのサービス提供元が自律的に実行できるようになる。ただしプログラムの更新については必ずマイクロソフトのサーティフィケーションを得ることが必要だ。これについては「年6回までの更新は無料、それ以上の更新や、緊急更新は有料で対応する」とのこと。対応は24時間体制でオンラインゲーム特有のリアルタイム性に配慮する。

 また一般的なPC用のMMOタイトルと違い、LIVE対応のMMOGは実質的にマイクロソフトとのビジネスパートナーシップを組むことになるため、タイトルの展開には事前にマイクロソフトからの承認を受ける必要がある。資本面だけなく、既存の例では各国の法律に配慮した法的なレビューも行なわれており、これも今後ガイドラインに含まれることになりそうだ。この点についてマイクロソフトは「自動承認は行なわれない。まずはご相談を」と説明した。

「Forza 2」ではコミュニティを支える為にバックボーンへの大きな投資が必要だった。マイクロソフトはそのコストを認識しつつも、新しいビジネスモデルも含めたタイトルの価値向上のため大きな意味があると考えているようだ

「サーバーベースのゲーム」に関して、マイクロソフトでは現在公式なガイドラインを設定する段階にあるという認識。予測される流れでは今後多数の実装例が見られるようになるだろう。ただMMOPRGのビジネスモデルの特性から、その展開にはマイクロソフトとの濃密なパートナーシップを結ぶ必要がある。PCのように自由というわけにはいかないようだ


■ オンラインタイトルの技術支援に新しいSDKが登場。P2P形式でMMOGを実現する興味深い技術提案も

 技術面に注目したセッションでは、マイクロソフトの技術研究機関であるMicrosoft Researchから、いくつかの提案がなされた。興味深いのは、その中でもゲームのMMO化を意識した研究が行なわれていたという点にあるだろう。

 セッションではそのMicrosoft Reseachで本格的な実証試験が行なわれたという2方式について解説。ひとつは、ゲームのAIを劇的に強化するために用いるネットワーク分散システムのアプローチ。もうひとつはFPSゲームをP2Pネットワーク形式で1,000人規模の大人数でプレイ可能にするという方式についてだ。その両方で「Quake III: Arena」を題材にとり、実際にソースコードを改変して機能を組み込んだバージョンで被験者にプレイしてもらったのだという。

・分散システムによりNPC AIの劇的な強化が可能に

Microsoft Researchでは「QuakeIII」のコードを改変して2種類の実証試験を実施。その結果として興味深い結論が得られている
 このテーマでは、集中型ネットワークでサーバーに過度の負荷をかけるNPC AIの実行を部分的にクライアントが担当することにより、パフォーマンスやセキュリティ上の犠牲を受けることなく性能を劇的に強化することが可能である、という内容で解説がおこなわれた。ここでMicrosoft Researchが実証したのは、NPC AIの移動処理(ナビゲーション)について。オンラインゲームではNPC制御の中でも地形に関連した経路探索と移動処理に大量の計算を必要とし、これがCPUパワーの大部分を食い尽くすことが当たり前になっている。

 提案された方式では、サーバー上では「単純で、高速、チューニング可能なAIを実行」する。これだけでもAIは動作可能だが性能が低下しまうので、それを補うため、接続した各クライアントに「高性能で複雑、低速な処理」を担当させるというものだ。ゲームの進行上、サーバーは各クライアントにゲーム展開のスナップショットを常に送っている。クライアントはこれを使って高精度の計算を実行、その結果をまとめたパラメータをサーバーに送る。サーバーはそのデータを使ってAIの実行を改善するというわけだ。

 この方式で実装された「Quake III: Arena」のBOTと、改善されていない通常のBOTを戦わせてみた結果、スコアに明確な差が現われたのだという。改善したのは移動処理だけであり射撃やその他の要素はまったく同じコードで動いているので、結果を見れば「AIがよりインテリジェンスに戦った結果」、スコアに差がついたのだといえる。この方式は、今後のオンラインタイトルで一歩進んだAIを提供しようとするデベロッパーにとって参考になるケースではないだろうか。

・特定のサーバーを必要としないP2PネットワークでのMMOプレイ体験とは

 続いて解説が行なわれたのは「FPSの規模を劇的に拡大」するという方式。通常FPSではクライアント・サーバー(C/S)形式のネットワークが使われるが、この方式ではピア・ツー・ピア(P2P)方式を使う。P2P方式では、通常の実装によると「人数の2乗に比例して帯域を食う」ため、一般にはMMOに全く不適といわれる。ところが提案された「Donnybrook」方式では、「人数に比例して帯域を食うC/S方式よりも負荷がゆるやか」になるのだという。

 技術的な要点は、P2Pネットワークでつながった各クライアントで徹底的な「補完処理」を行ない、欠落したデータをAIによるナビゲーションも組み合わせた方法でなめらかに見せるテクニックを駆使するということだ。さらに通信は「プレーヤーが特に関心を持つオブジェクト」に限定する。つまり敵が近くにいたり、攻撃をしていれば最優先で通信され、それ以外のキャラクタは大胆に省略されるというものだ。これにより低帯域幅でも快適なプレイが可能となる。

 この方式も「Quake III: Arena」を使って実装し、通常はキャラクタの動きが著しくぎこちなくなるナローバンド環境で被験者にプレイさせたデータを抽出。結果としては「プレイ体験の質」の点で通常のナローバンドを大きく超え、LANという完璧なブロードバンド環境でプレイしたケースに迫る快適さを実現したとのこと。「プレイの公正さ」についてはBOTで試験した結果、ナローバンド環境で一部の武器が有利になりすぎる傾向が出て、これについてはブロードバンド環境に比べてインバランスが出たようだ。

 大規模なオンラインゲームをサービスする上で、事業者をコスト的に圧迫する中央サーバーの存在は、ビジネス上の障害になっていることは確かだ。今回マイクロソフトから提案のあったこの方式では中央サーバーを必要とせずに快適なMMOゲーム体験を実現する可能性があるため、ひとつの方式として新規タイトルに利用を検討する価値があるかもしれない。筆者としてはこの点を大きく評価したいセッション内容だった。

・ネットワークゲーム開発を支援する新ライブラリ「XRNM」と「QNet」

「XRNM」は基礎的なネットワークレイヤを提供し、その上に構築された「QNet」によりセッション管理など抽象性の高い機能を提供。今後Windows版の提供も予定しているとのこと
 最後のセッションではオンラインゲーム開発を支援するライブラリについての紹介が行なわれた。「XRNM」はポイント・ツー・ポイント通信を行なう為の基礎的なネットワークレイヤーで、UDPプロトコルの上に実装されている。生のUDPプロトコルはメッセージの保証機能がなく、広域ネットワークを通じて通信すればパケットロスや順列の混乱などの可能性があるが、「XRNM」ではこの点について独自のプロトコル実装を行ない、TCPに匹敵するメッセージ保証を「選択的に使用できる」ようにしたということだ。

 この「XRNM」は基本的なデータ通信のレイヤーを扱うものなので、ゲームプログラマはありとあらゆる用途にこれを使うことができる。位置的にはWindowsのDirect Playの基本通信機能にあたる存在だ。セッションで紹介されたもうひとつのライブラリ「QNet」は、ゲームセッションの管理やボイス処理を抽象化した、より高いレイヤーを担当するラッパーであるとのこと。主な用途としてはLIVE Arcade タイプの簡単なゲームに利用されることを想定しており、マルチプレーヤーゲームを実現する為の「凝り性向けでない」基本機能が簡単に実装できるものだという。位置的にはDirectPlayのセッション管理機能など抽象性の高い部分にあたるようだ。

 セッションではこれらのライブラリを使ったプログラミングについて簡単な解説がなされ、高性能なネットワークゲームを実現するために必要なポイントが紹介された。このSDKはXbox 360だけでなく今後はWindowsにも提供されるとのことだ。クリスマスシーズンまでには「QNet 1.2」が、「XRNM」のWindows版はまだ発表されていないが、開発者の要望次第で検討する方向になっているとのこと。いずれにせよ、オンラインゲームの難しいプログラミングを支援するSDKは多い方が良いし、これが提供されることでデベロッパーの負荷が幾分でも軽減されることを期待したいところだ。

【Microsoft Researchによる研究内容】
「AI強化」の手法では、クライアント側で複雑な計算を済ませ、近似式のパラメータをサーバーに送ることでサーバー上のAI挙動を大幅に改善するとのこと。BOTを対戦させて得られれたデータでは、改善済みのBOTのほうが安定して高いスコア水準を獲得できることがわかったようだ

ナローバンドで快適なゲームプレイを実現する方式の検証では、実際にブロードバンドに匹敵する快適さを被験者が感じ取れたとのことだ。厳密な正確性ではなくゲームの楽しさにフォーカスするのであれば、今後FPS系のタイトルで実際に応用する事例が出てくるかもしれない。その際にはタイトルの特性に応じた改良も考えられるだろう

□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□「Gamefest Japan 2007」のホームページ
http://www.microsoft.com/japan/msdn/xna/gamefest2007j.aspx

□関連情報
【9月7日】Gamefest Japan 2007レポート
「LIVE」技術セッションで見えてきたクロスプラットフォーム戦略の展望
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070907/gfest.htm
【9月6日】マイクロソフト、「Gamefest Japan 2007」を開催
XNA Studio 2.0を正式発表。GFW - LIVEの開発ロードマップも公開
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070906/gamefest.htm

(2007年9月10日)

[Reported by 佐藤“KAF”耕司]



Q&A、ゲームの攻略などに関する質問はお受けしておりません
また、弊誌に掲載された写真、文章の転載、使用に関しましては一切お断わりいたします

ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2007 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.