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会場:グランドプリンスホテル赤坂
その中でマイクロソフトは、Xbox 360ではまだ非主流であるMMOG(大規模参加型オンラインゲーム)を視野に入れ、ビジネスと技術の両面で新規タイトルの実現化を支援していく姿勢を明らかにした。技術的な面ではP2P形式で同時数千人のプレイを可能にするテクニックなど、将来の応用が期待されそうな興味深い提案も見ることができた。
■ ゲームのオンライン展開を重視するマイクロソフトは、MMO形式のゲームサーバー実現にもフォーカス
ひとつは、PCで利用が想定される「専用サーバー」を使い、無料のシルバーメンバーシップでもオンラインプレイが可能になるという点。これは同時に、現在Xbox 360版で主流であるP2P型のマッチメイキング方式に比べ、持続的なサーバーが存在することになるため接続性の高い快適なゲームが可能になるという事でもある。これはWindows版のユーザーだけではなく、Xbox 360版のユーザーに対しても利益を与えることになる。
機能の紹介としては、「LIVE」のWindows版では、Xbox 360版と同様に「実績」のサポートや、プレーヤーをより良いゲームに参加させるインテリジェンスなマッチメイキング機能、他プレーヤーへの招待機能がサポートされ、このあたりはXbox 360版と同等の機能を実現する格好になる。さらにWindows版ではPC特有のハッキング対策が取られており、バイナリの改ざん防止、実行時のデバッグ防止、メモリの保護など、PCの商用オンラインタイトルでは必須となるがセキュリティ要件が「LIVE」満たされることになる。
「Forza 2」では、そのコミュニティ活動を支えるために専用のサーバーを構築したのだという。65万人を越えるオンラインユーザーが次々にカスタムコンテンツを作り、日々データベースがギガバイト単位で増大していく。それを支える技術的要件として「将来のストレスに備え、当初予測の2倍のサーバー性能を用意するべき」という経験に基づいた教訓を披露。コミュニティを支えるためには相応のコストを支払わなければならないという当然の見解だ。
マイクロソフトではこうした経験を生かし、開発したサーバー技術は他のタイトルでも応用が可能な形で保持しているとのことだ。将来的には同一のプラットフォームをサードパーティのタイトルでも再利用できるようにし、必開発コストの軽減やサービスクオリティの向上を目指す。このプラットフォームには既に「Xbox LIVE Server Platform(XLSP)」という名前が与えられており、現在はLIVE対応ゲームのサーバー構築に向けてガイドラインの策定を急いでいる状況のようだ。
従来のXbox 360タイトルに多かった小規模オンライン型のゲームに比べ、PCで主流のMMORPGなどでは継続するサービスの中で頻繁なプログラムの更新、コンテンツの大幅な拡張が必要となる。マイクロソフトではこれに対応し、MMOタイトルに関してはゲーム機の記憶領域の要求を許可した。つまり、Xbox 360で5GBや10GBのHDD領域を占有する、といった動作環境指定をタイトルが行なえることになる。これは「マスタ記憶領域」と呼ばれるが、ユーザーのHDDを占有する以上は事後の拡張がきわめて難しいため、あらかじめ将来に備えた容量を指定することを求めていた。 LIVE対応のMMOタイトルでは、コンテンツの更新は当該タイトルのサービス提供元が自律的に実行できるようになる。ただしプログラムの更新については必ずマイクロソフトのサーティフィケーションを得ることが必要だ。これについては「年6回までの更新は無料、それ以上の更新や、緊急更新は有料で対応する」とのこと。対応は24時間体制でオンラインゲーム特有のリアルタイム性に配慮する。 また一般的なPC用のMMOタイトルと違い、LIVE対応のMMOGは実質的にマイクロソフトとのビジネスパートナーシップを組むことになるため、タイトルの展開には事前にマイクロソフトからの承認を受ける必要がある。資本面だけなく、既存の例では各国の法律に配慮した法的なレビューも行なわれており、これも今後ガイドラインに含まれることになりそうだ。この点についてマイクロソフトは「自動承認は行なわれない。まずはご相談を」と説明した。
■ オンラインタイトルの技術支援に新しいSDKが登場。P2P形式でMMOGを実現する興味深い技術提案も 技術面に注目したセッションでは、マイクロソフトの技術研究機関であるMicrosoft Researchから、いくつかの提案がなされた。興味深いのは、その中でもゲームのMMO化を意識した研究が行なわれていたという点にあるだろう。 セッションではそのMicrosoft Reseachで本格的な実証試験が行なわれたという2方式について解説。ひとつは、ゲームのAIを劇的に強化するために用いるネットワーク分散システムのアプローチ。もうひとつはFPSゲームをP2Pネットワーク形式で1,000人規模の大人数でプレイ可能にするという方式についてだ。その両方で「Quake III: Arena」を題材にとり、実際にソースコードを改変して機能を組み込んだバージョンで被験者にプレイしてもらったのだという。 ・分散システムによりNPC AIの劇的な強化が可能に
提案された方式では、サーバー上では「単純で、高速、チューニング可能なAIを実行」する。これだけでもAIは動作可能だが性能が低下しまうので、それを補うため、接続した各クライアントに「高性能で複雑、低速な処理」を担当させるというものだ。ゲームの進行上、サーバーは各クライアントにゲーム展開のスナップショットを常に送っている。クライアントはこれを使って高精度の計算を実行、その結果をまとめたパラメータをサーバーに送る。サーバーはそのデータを使ってAIの実行を改善するというわけだ。 この方式で実装された「Quake III: Arena」のBOTと、改善されていない通常のBOTを戦わせてみた結果、スコアに明確な差が現われたのだという。改善したのは移動処理だけであり射撃やその他の要素はまったく同じコードで動いているので、結果を見れば「AIがよりインテリジェンスに戦った結果」、スコアに差がついたのだといえる。この方式は、今後のオンラインタイトルで一歩進んだAIを提供しようとするデベロッパーにとって参考になるケースではないだろうか。 ・特定のサーバーを必要としないP2PネットワークでのMMOプレイ体験とは 続いて解説が行なわれたのは「FPSの規模を劇的に拡大」するという方式。通常FPSではクライアント・サーバー(C/S)形式のネットワークが使われるが、この方式ではピア・ツー・ピア(P2P)方式を使う。P2P方式では、通常の実装によると「人数の2乗に比例して帯域を食う」ため、一般にはMMOに全く不適といわれる。ところが提案された「Donnybrook」方式では、「人数に比例して帯域を食うC/S方式よりも負荷がゆるやか」になるのだという。 技術的な要点は、P2Pネットワークでつながった各クライアントで徹底的な「補完処理」を行ない、欠落したデータをAIによるナビゲーションも組み合わせた方法でなめらかに見せるテクニックを駆使するということだ。さらに通信は「プレーヤーが特に関心を持つオブジェクト」に限定する。つまり敵が近くにいたり、攻撃をしていれば最優先で通信され、それ以外のキャラクタは大胆に省略されるというものだ。これにより低帯域幅でも快適なプレイが可能となる。 この方式も「Quake III: Arena」を使って実装し、通常はキャラクタの動きが著しくぎこちなくなるナローバンド環境で被験者にプレイさせたデータを抽出。結果としては「プレイ体験の質」の点で通常のナローバンドを大きく超え、LANという完璧なブロードバンド環境でプレイしたケースに迫る快適さを実現したとのこと。「プレイの公正さ」についてはBOTで試験した結果、ナローバンド環境で一部の武器が有利になりすぎる傾向が出て、これについてはブロードバンド環境に比べてインバランスが出たようだ。 大規模なオンラインゲームをサービスする上で、事業者をコスト的に圧迫する中央サーバーの存在は、ビジネス上の障害になっていることは確かだ。今回マイクロソフトから提案のあったこの方式では中央サーバーを必要とせずに快適なMMOゲーム体験を実現する可能性があるため、ひとつの方式として新規タイトルに利用を検討する価値があるかもしれない。筆者としてはこの点を大きく評価したいセッション内容だった。 ・ネットワークゲーム開発を支援する新ライブラリ「XRNM」と「QNet」
この「XRNM」は基本的なデータ通信のレイヤーを扱うものなので、ゲームプログラマはありとあらゆる用途にこれを使うことができる。位置的にはWindowsのDirect Playの基本通信機能にあたる存在だ。セッションで紹介されたもうひとつのライブラリ「QNet」は、ゲームセッションの管理やボイス処理を抽象化した、より高いレイヤーを担当するラッパーであるとのこと。主な用途としてはLIVE Arcade タイプの簡単なゲームに利用されることを想定しており、マルチプレーヤーゲームを実現する為の「凝り性向けでない」基本機能が簡単に実装できるものだという。位置的にはDirectPlayのセッション管理機能など抽象性の高い部分にあたるようだ。
セッションではこれらのライブラリを使ったプログラミングについて簡単な解説がなされ、高性能なネットワークゲームを実現するために必要なポイントが紹介された。このSDKはXbox 360だけでなく今後はWindowsにも提供されるとのことだ。クリスマスシーズンまでには「QNet 1.2」が、「XRNM」のWindows版はまだ発表されていないが、開発者の要望次第で検討する方向になっているとのこと。いずれにせよ、オンラインゲームの難しいプログラミングを支援するSDKは多い方が良いし、これが提供されることでデベロッパーの負荷が幾分でも軽減されることを期待したいところだ。
□マイクロソフトのホームページ
□関連情報 (2007年9月10日) [Reported by 佐藤“KAF”耕司]
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