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去る6月4日に連続開催されたプレスカンファレンスおよびハンター懇親会では、サービススケジュールとビジネスモデルに加え、年内のアップデート計画や多数の提携プロモーションなど多くの新情報が公開された。 ただ、大がかりなタイトルだけに、カプコンにおける「MHF」の位置づけ、開発と運営を主導するオンライン開発部の展開戦略、アイテム課金を排除したビジネスモデルの意図、オンラインゲームでは必須事項ともなっている海外展開の抱負など、発表会ではわからなかった部分も多い。 そこで今回は、プレスカンファレンスとハンター懇親会にたびたび登壇して、精力的にメッセージを発していたオンライン開発部の部長である小野義徳氏に、そのあたりの戦略を伺ってみた。ロングインタビューとなったため前後編に分けてお伝えする。「MHF」に興味のある読者は、ぜひ前後編合わせてごらん頂きたい。
■ 「MHF」の総本山“オンライン開発部”設立の経緯と狙いについて 編: 今回の発表会は、本当に素晴らしい内容でした。「モンスターハンター」は元々コンシューマでの長い歴史があり、ユーザーさんも多いビッグタイトルです。しかし、コンテンツパワーに頼りきることなく、複数のプロモーションや開発ロードマップをローンチに突っ込む熱意が素晴らしいと思いました。
日本のゲームを考えますと、ゲームをする人数がだんだん決まってきたのではないかと思っています。ゲームをやりたいと思っている人が減っているとは思っていません。しかし、きっかけを持っていないという方は多いのではないかと考えています。そのきっかけを考えたときに、もしPS3やPS2を持っていなかったらきっかけどころかやるチャンスがないし、DSがいくら売れていますよといっても手に入らなければやるチャンスがありません。 そこで「エンターテインメントにおける最大のプラットフォームとは何だろうね?」と考えたとき、「最初に携帯電話だろうね」、「次はなんだろう?」、「PS3かな、Xbox 360かな、PSPも来るのかな。いやまて。パソコンがあるだろう」と思ったんですね。PCは、スペックがずっと上がってきて、OSが変わるたびに高スペックを要求されてきたので、エンドユーザーの環境も徐々に底上げされてきている。 ネット環境も'94年頃からインターネット元年を迎えた後少し停滞し始めて、数年前にYahoo!さんがブロードバンドを広めていただいたおかげでぐぐっと伸び始めました。このオンラインというジャンルを、もう一度ディストリビュートやパブリッシングではなくカプコン自ら参入して広げていくことをしていかないと、ゲーム好きだった人やゲームを好きだという人が減ってしまうのではないかと感じてきました。 しっかりしたものをインハウスのチームで作っていき、5年前にスクウェア・エニックスさんが「ファイナルファンタジー XI」を出されて、大昔でいくとFM7やPC-88、X1があった頃にコーエーさんがやっていた開拓的な行動を、もっとしっかりと我々ができるところをやって、パソコンを持っている人たち、ゲームをどうだこうだと語らない人たちでも入っていけるようなものや、我々の言い方で「ちょっとカジュアル」な人たちをうまくゲームって面白いよねというところにもっていけないかと思い、このプロジェクトを始めました。 編: 準備期間も含め、どれくらい前にスタートしたプロジェクトなのですか? 小野氏: 話自体はかなり前からありましたが、本決まりになったのは、昨年の東京ゲームショーの発表の前から約1年前からです。2005年の東京ゲームショーを過ぎてからぐらいです。 私自身が一ネットユーザーなので、やりたいなという気持ちは前からありましたが、コンソールゲームでの楽しさとネットゲームの楽しさはなかなか融合しないし、展開する場所もないなと思っていました。先ほどのYahoo!さんの話ではありませんが、PCのスペックがきちんと上がってきたので、じゃあオンラインを使ってやってみようかと。 2005年に、2年後を見据えたら今動くときなのかもしれないということで始まったプロジェクトでしたが、思いついたら即、人が集まるわけではないので、少しずつ他のタイトルが終わった人をうまく集めていきました。コンソールにオンライン機能をつけることは元々カプコンでもやってきたのですが、でもそうした人たちも、本作のオンライン専用ということがなかなか浸透せず、考える脳みそをシフトするところで壁にぶつかり1年半から2年弱の潜在期間を費やしてきたところです。 編: 小野さんは「MHF」を担当する前はどういったプロジェクトに携わってきたのでしょう? 小野氏: 最近では「新鬼武者 DAWN OF DREAMS」を総合プロデュースさせていただきました。その前後で弊社タイトルに携わりながら、最後は「デッドライジング」の立ち上げ部隊でした。その前に「シャドウ オブ ローマ」をやりました。「シャドウ オブ ローマ」を始めた理由というのは、海外で日本のコンテンツを勝たせようというものでした。今までは日本で作れば必ず海外で勝っていました。しかしカプコンの中では「最近、日本のゲームが海外で勝てなくなったね」と考えられ始めていました。片や海外から持ってくるタイトルは面白いものがどんどん来るのです。 それならばということで、海外専用で勝てるタイトルを作ろうとしたのです。そして見事にコケました(笑)。そしてコケた理由を徹底的に分析しました。僕らが信じる限りのものだけを作ったからダメなんだねということがわかりました。開発中に中途半端に作ってしまうと失敗した理由がわからないと思ったので、とことん海外で勝てると思った内容で突き進みました。 そして次に作ったのが「デッドライジング」です。「デッドライジング」の開発スタート以降は「新鬼武者」で忙しくなりましたので、次の管理者にバトンタッチしました。立ち上げ時は稲船と話をしてこれでいけると感じていました。他のスタッフや経営サイドからは「こんなもの面白くない」とも言われていたのですが、我々は「前回の失敗があって、今回失敗しない布石を打ちました。前回は0安打だったけれども球を見る目は養えました。今度はやるべきです」とうたって、かなり反対がある中でリリースしたら、幸運もあってうまくヒットになりました。 今回はその経験も踏まえて、オンラインゲームは初めてなので、信じられる限りのことはしましょうと。集められる限りのことは全部集めましょう。他のタイトルでこれがいやだったなと思うところは徹底的にマスクしましょうということにしました。1つ例を挙げると、今回のビジネスはBtoBではないのです。ショップに卸したら終わりではなくて、いきなりエンドユーザーさんのところにコンテンツが渡って、エンドユーザーの皆さんがノーと言えばやり直しなのです。 そこでクローズドβテストでは、エンドユーザーさんの意見をWebで公表して、「これを直します、直しません」ということをはっきり言うことにしました。直しませんということはあまり言っていませんが、直せるところはきちんと直し、検討中のところは検討中ですといいましょう。難しいところは見送りと項目を置きましょうと。今まで僕自身がプレーヤーとしてイヤだなと思っていたところもまずマスクしていっています。これによってユーザーさんに、本当に僕らのことをテストしてくれていると感じていただこうと思いました。
■ 運営ポリシー「活気のあるワールド作り」とは何を意味するのか!? 編: 発表会で印象的だったのは「活気のあるワールド作り」という明快なキーワードです。これはどう実現していくのでしょう?
かつて「Ultima Online」や「EverQuest」がそうであったと思うし、MOで言えば「Diablo」が、ユーザー自身がルールを作る形でコミュニティが出来上がっていきました。そこまでくれば立派なバーチャルワールドだと思うのです。そこまで到達するためにユーザーをかきたてさせるためには、“ハコ”をうまく用意してあげなければいけないなと。 具体的には、アップデートも“ハコ”の1つかもしれませんが、各種インゲームイベントや今回発表した「猟団」もその1つと考えています。そうした要素を運営側が用意してあげて、ユーザーさんに遊びましょうよとかきたててあげて、“ハコ”を気づかせてあげる展開をしていきたいです。これによってコミュニティが活性化していくと思います。 また、ユーザーが遊びに偏らなくなった時に、自分達でこういったコミュニケーションがあるよとか、こういった遊びをしようよ、カプコンにこういうオファーを出そうよという流れが生まれてきたときに、ユーザーとメーカーがうまいバランスになるのではないのかなと考えています。ここが整わないとメーカーのひとりよがりになってしまったり、ユーザーの不満だけがたまっていったりとバランスが取れなくなってしまいます。 編: それはつまり、インハウスの強みを活かした豊富な開発力によってコミュニティの活性化を促すという考え方ですね。 小野氏: それを実現するために特殊なフロア作りをしているのです。たとえば、ここにいるPR担当らもオンライン開発部のメンバーとして隣に座っているのです。彼の向かいには、敷居1つ隔ててプログラマーや企画マンが座っています。そういった状況をなぜ用意したかといえば、ユーザーには見えない部分ですが、そうした部分でも活性化できるのではないかと考えたからです。 僕の考えからすると、運営と開発が物理的に離れていると、時差や温度差ができると感じています。たとえば、海外で仕入れたものを日本で展開する際、海の向こうの人が何を考えて作ったのかということは理解されないし、こちらが何のために売りたいのかも理解されない。もしくは理解せずに売ってしまう可能性があります。 こういう状況は必然的にユーザーさんに温度差が伝わってしまうだろうと考えています。ショップに卸す際に、パブリッシングする側が有能で温度を上げてしまえば卸せると思うのですが、しかし、オンラインゲームを、エンドユーザーさんに直接投げたときに、ユーザーさんは手にとって触ってしまいますので、その温度が嘘か本当かわかってしまうと思います。 今回はインハウスの開発チームがオンラインに長けていないのであれば、長けているような運営のスタッフをなるべく側につけていこうと思っています。カプコンのゲーム作りがなんで面白いのかといえば、こういう仕組みだからです。どこそこのメーカーのゲームは面白い、ここは面白くないといった話を論議し合えるのです。結果としてより暖かいものができる。暖かいものをお客様にプレイしていただければ当然活性化するはずです。 運営チームも“ハコ”の意味を十分理解しているので、単純に点と点をつなぐのですよというわけではなく、開発したときからこことここでリンクしているという話もできるので、無理のないイベントができるわけです。単にインハウスで作るから即、良いというわけではなく、「MHF」はそれとはまた違ったやりかたで暖かいものをユーザーさんに提供できると考えています。 編: なるほど、「MHF」の開発はオンライン開発部ですべて行なっているのでしょうか? 小野氏: はい。 編: とすると、次世代向けに作っている大阪の新作「モンスターハンター」の開発チームとはリンクしていないのでしょうか? 小野氏: いえ、リンクしています。「モンスターハンター」のオリジナルを作っているチームとは共に歩んでいます。逸脱してしまうと「モンスターハンター」とは異なる名前を作ることになります。「モンスターハンター」のオンライン版を出したいと思っているわけで、完全にブレた商品を出してしまうと失敗したときに次のバッターが立てません。コンソール版の「モンスターハンター」を作るチームとオンライン版の「モンスターハンター」を作るチームは完全にリンクさせ、ディレクターの行き来もさせています。 編: 互いに行き来させながら、大阪で「モンスターハンター」の新作を、東京で「MHF」を作っているわけですね。 小野氏: はい。「モンスタハンター」グループとして統率しながら、新しい「モンスターハンター」や、先日発売した「モンスターハンターポータブル2nd」もオンラインをにらみながらやっていきます。 編: 今回、年内までのアップデートのロードマップが発表されました。その計画の中で、運営側のリファインアップデートと、ゲームメーカーとしての開発側のアップデートの両方を2カ月サイクルで実装していくとのことですが、これは2本のパイプラインで回していくのでしょうか。 小野氏: オンライン開発部には、プログラマーが何名かいます。それを単純に2つに割ってしまうとうまくリンクがとれなくなってしまいます。それをするなら別のアップデート班を揃えればいいなと思っています。ラインを重ね重ねで用意しておいてうまくリンクを取れるようにしていきたいなと思います。部分的には同じ人間がやってもいいと思うのです。 編: 今回様々なオリジナルアイテムを、プロモーションと絡める形で色々と用意されています。開発にはそれなりのコストが掛かっている印象がありますが、これは専属の開発パイプラインを設けているのですか? 小野氏: 運営チームが中心となって企画を立て、ディレクターの木村のところに持っていって、「手が空いているならこのクエストとこのアイテムを作ってくれませんか?」と陳情にあがって、木村が「えーっ」と言いながら「じゃあ、やるか」と即決して回転していくという流れです(笑)。これはそれぞれ離れているとできませんよね。側にいればあの人って今僕らが頼んでいるあのマップ制作の仕事が終わりかけているとわかるわけです。その瞬間を見計らって「ここでどうですか?」と言いにいけます。ですからパイプラインは作っているというより、随時見つけてきている感じです。 編: なるほど、現場はしんどそうな感じですが(笑)、小野さんもそういうやり方を是認しているのでしょうか。 小野氏: そうですね。今までのコンソールのやり方ですと終わりの見えない作り方なので、ローンチの際いくら開発費がかかるかわかりません。しかし今は長く続けるために、ある一定の人数はラインに張り付かせていかなければなりません。それを100%稼動させるのがいいわけです。ならば、そういった形でリンクしてあげて、リアルタイムでラインを回してあげる方が僕らにとってもありがたいし、ユーザーにとってもアップデートが上がってきますので、今のところ一番良い形ではないかなと考えています。これが慣れてくれば違う形で接合させてもいいかなと考えています。先ほどの「シャドウ オブ ローマ」と「デッドライジング」もそうですが、これで空ぶってしまったらもうやらないでおこうという事例になると思いますね(笑)。
■ 「アイテム課金は考えていない」。クライアント無料、月額課金を選択した理由とは何か? 編: 今回ようやくビジネスモデルが公開されました。クライアント無料で月額課金というのは意外と珍しいモデルです。このモデルを選択された理由を教えてください。
ここで原点に戻るわけです。これって何でもアリだよねと思われた瞬間ワンオブゼムになって終わってしまうのです。オンラインゲームを複数のタイトルに渡ってプレイする人はそれほど多くはありません。多くの人は、夜の8時から12時を過ごしたり、土日にやるためのゲームとして、オンリーワンのゲームを選んでいると思うのです。そこに選ばれるためにはやはりブレのないものを選びたい。これが好きだからというものを提供したいのです。素材をバラ売りするのはこのゲームではないよねと思ったときに、まずこのゲームで「アイテム課金は現状候補としてはない」と思いました。 次にパッケージ売りではどうか。「なんちゃってカジュアル」の人たちにとって見ればいまさらゲームパッケージに投資なんかしたくないわけです。ゲーム機を持っているわけではなく、持っていたとしても年に1本買うかどうか。ゲームポータルさんにある無料のカジュアルゲームを遊べばいいではないかと思っているわけですから。 その人たちを振り向かせるためにはどうしたらいいかと考えたとき、やはり触らせてみて、面白いと思わせるしかないなと思ったんです。幸い、カプコンはアクションゲームが得意です。カチャカチャやるだけがアクションゲームではないということをわかってもらうために、クライアント費用は無料にしましょうと。さらにハンターランク2までは無料にしましょうと。このために会社とかなり揉めました(笑)。 会社側からするとすごくリスキーです。ハンターランク2といえば、「イャンクック」までいけてしまうわけです。MHFのベースとなった「モンスターハンター2(Dos)」ではイャンクックはハンターランク3になると狩れるモンスターでした。しかし、MHFではバランス調整を実施し、トライアルコースで遊べるハンターランク2のクエストでイャンクックが登場します。 なぜイャンクックにこだわるかというと、初心者が初めて狩れる大型のモンスターがコイツだからです。「Dos」のままですと、ハンターランク2で狩れるのはドスランポスやドスファンゴなどのザコ敵がそのまま巨大化したようなモンスターしか狩れない状況で、トライアルといいつつも盛り上がりに欠ける内容になってしまいます。ところがイャンクックはピンで登場するボスクラスの大型モンスターで、モンハンファンにも人気のあるモンスターで、ある意味象徴的な存在なので、これをトライアルコースの締めとして登場させることになりました。 しかし、その反面、体験版ではやってはいけない満腹を味あわせてしまいかねないのです。本当に賭けなのですが、なんちゃってユーザーの人はそこで辞めてしまってもいいと思います。そうじゃなくて、「僕の人生の3時間をこれに投資していい」と思って貰えるきっかけを作ろうと。「MHF」をアイテム課金でばら売りするのではなく、「これってクエストをどんどんやっていって素材を集めて自分を着飾って遊ぶゲームなんだよね」、ひととおりわかって貰えれば、月額課金のビジネスモデルでも理解して貰えるのではないかと考えました。 編: 今回は30日、60日という大きなくくりの課金プランのみでしたが、今後1日、3日、1週間といった細かい柔軟なプランの提供の予定はないのでしょうか? 小野氏: いくつかイベントでは3日や1週間といったチケットの提供は考えていますが、販売という形ですと、ハンターランク2までは開放されていますので、あまりそのチケットの存在意義を感じていないのです。そこまでくるともうやるしかないか、満腹になって去るかだと思っています。では、なぜ3日チケットを用意しているかといいますと、そこでもまだ迷う人がいると思うのです。ユーザーの山が2つあるとすると1番上が、FM7やPC88やX1とかを買っていた世代、2つ目の層として中高生があります。中高生にとって1,400円を払うことはかなり労力がいることだと思います。バイトをしても2時間。バイト2時間とトレードオフできるのか。もうちょっと見たいときにはクーポンであったり、キャンペーンで配布するという用意はしてあります。ただし、基本コンセプトとしては半か丁かで、ハンターランク2までくれば後はもう決められるでしょうということです。 編: 質疑応答の中でアイテム課金をするつもりはないと断言されたのは見事だなと思いました。ただ、その一方で、オンラインゲームビジネスというくくりで見ると、30日1,400円というモデルだけでは、開発費まで回らないのではないかという懸念があります。たとえば、コーエーさん、スクウェア・エニックスさん、セガさんにしてもパッケージプラス月額課金です。つまり、スクウェア・エニックスの和田さんの言葉を借りれば、「パッケージ代で開発費を捻出し、月額課金で運営費をまかなう」というビジネスモデルです。カプコンさんとはまったく異なるわけですが、このあたりどのように考えていますか? 小野氏: そういう意味ではカプコンは正直厳しい戦いになると思います。なぜカプコンがあえてそれをやるのかといえば、このビジネスは次に繋げなければいけないと考えているからです。稲船をはじめとした開発サイドと経営サイドで当然温度差はあります。しかし、このビジネスは「MHF」で終わりではないのです。 ですから、最初に関しては僕ら側のリスクの天秤をぐっと載せて、そこで引っ張るかどうかはユーザーさんにお任せします。そこで触っていただければ天秤がつりあうのです。和田さんが仰るようなモデルも、我々もマネジメントする側なのでよくわかります。7,800円でパッケージを買っていただいて、さらにプレイする際に1,280円払いなさいというのが理想は理想です。しかし、現実は、カジュアル層にとっては高すぎるハードルだと思うんです。 ゲームってここが面白いよねという部分を経験させるために、こちらでうまく吸収してあげて、ぎりぎり長く続けられるところでいきましょうと。ここで儲けないと死にますという中小企業なら選択できなかったと思いますが、カプコンはオンライン専門の会社ではありませんし、「鬼武者」や「バイオハザード」といったラインナップも持っています。新しいタイトルも生み出ています。 それらの開発スタッフたちからすれば「お前らが使った金を俺らが払うのかよ」と思われるかもしれません(笑)。ただ、会社全体のことを考えると、我々がオンラインタイトルを継続してやっていく上で、まずは「MHF」をやっていって土壌を整えていくことが先決だと思っています。無理にパッケージの部分をユーザーに課したところで失敗しても、なぜ失敗したかわかりませんからね。
■ 目標会員数は60万人。既存タイトルとは競合しない新たなアプローチ 編: 逆にいうと他社さんに比べると、ユーザーに課すハードルが凄く低いわけですが、ユーザーの規模としてどれくらいの数を考えているのでしょうか?
25万~30万人という数字が国産オンラインゲームの課金ユーザー数の天井だと思っています。今回僕らが頑張りたいなと思っているところでは、ハンターランク2まで開放したところで、「モンスターハンター」の楽しさをなるべく多くの人に知ってもらえたらいいなと。それがもし「MHF」にうまく結びつかなかったとしても、PSP版を4,980円で買ってもらっても良いと思うのです。そこがうまく相乗的に繋がっていけば、カプコンがマーケット対象にできる人たちが増えていくので問題ないわけです。 稲船が過去の講演で言っていましたが、今のカプコンは個々のチームではなく全体として開発が動いているのです。もちろん全部儲かればいいのですが、失敗しても答えがあるやり方をやりましょうと。そうであればリソースを使いまわしてもうまくいくでしょうし、ユーザーの動きにも繋がるでしょう。先ほどの人数も希望を申し上げましたけれども、例えそこまでいかなくても、それで人が動いてくれればより多くの利潤がカプコンにもたらされるだろうと希望的観測を持っています。 編: 登録ベースでは年内にどれくらい数を目標としていますか? 小野氏: 「モンスターハンター ポータブル2nd」の半分の無料会員登録を目指していきたいです。タッチアンドゴーでもいいから見て欲しいです。「モンスターハンター」の「無印」、「G」、「Dos」をやったことのないユーザーさんに極力やって欲しいのです。なんちゃってカジュアルと僕らが勝手に呼んでいる人たちが入ってみて接点を持ってくれればいいのかなと思います。 編: PCオンラインでは無数のライバルタイトルが存在します。その中で勝ち抜くためにどのような戦略で臨むつもりですか? 小野氏: 同じものを出さないということです。逆に僕らは同じものを作れないのです。国産でいえば「FF XI」のようなものを作れといわれても作れないと思うのです。「FF XI」の技術力は超一流ですから。しかし、カプコンだからできることもあります。そういうものを作り続けることがユーザーさんへのサービスの差別化へも繋がります。マウスクリックを繰り返したり、スペースキーをガンガン押すというゲームは、作るほうでも慣れているので安易に2万人くらい行けるだろうと思いますね。外部の開発チームならまだしも、内部から発信するのであればそうでないものを出していきましょうと。 編: 現実問題として、小野さんが想定されているライバルタイトル若しくは目標としているタイトルは何でしょうか? 小野氏: 最大のライバルは今後出てくる「モンスターハンター」シリーズなのかなと思います。「モンスターハンター」全体のトータルバランスを考えながら、どこをとっても楽しいよねというものにしていきたいです。 編: 現在オンラインゲームにも複数のジャンルが存在していますが、一種「モンスターハンター」という新ジャンルを1つ作っていこうと? 小野氏: そうですね。僕らは「FF XI」や「大航海時代Online」、「Lineage II」を追いかけていこうという億劫なことは考えていません。どれもゲーム性の違うものですから。 編: となると、既存のオンラインゲームユーザーではなく、新規のユーザーを狙っていくことになると? 小野氏: もちろん新規ユーザーは欲しいのです。ただ、既存のユーザーでもアンテナを張っている人たちは、「MHF」を見ていると思うのです。「こちらの方が性に合うのであればどうぞ」というと言葉は悪いですが、行き着くところまで行き着いた人は是非こちらもどうですかという意図は当然あります。 PCプラットフォームを狙っていく以上は、「MHF」でゲームをする楽しさを知って欲しいと思うのはきれいごとでもなんでもありません。ですから、先ほど申し上げたタイトルの人もやって欲しいと考えています。さらに言えば、「MHF」は平行でできると思っています。比較的短い時間で終えてタッチアンドゴーできるのです。 編: ターゲットとしては、「モンスターハンターポータブル」や「Dos」のユーザーも当然選択肢に含まれると思いますが、そういったユーザーに対しては、どのような働きかけを行なっていくのですか? 小野氏: 発表会では新エリアの「樹海」や新モンスター「ヒプノック」を紹介しましたが、これらは新規ユーザー向けというよりも今中村さんの仰った層へのメッセージなのです。これらの層は、多分やり始めるとすぐにレベルキャップに行くと思うのです。最後の目標地点をどんどん追加していくようなこともやっていきます。 逆に、掛け持ちされるようなユーザーは、クエストを1つ追加されただけでもすごく時間がかかるわけです。そこでコミュニティを作ったり猟団を作ったりするのです。行き着く先が1年後に「ヒプノック」でもいいと思うのです。 一方で、フィールドを追加します、モンスターを追加しますといったものは、「ポータブル」や「Dos」のユーザーや日頃GAME Watchさんを見ているようなもっとコアなユーザーさんが到達するところではないかと思っていて、この2通りの山を狙った展開というのをやっていきたいなと思っています。 編: なるほど。想定される光景としては、PSPで「ポータブル」を遊んでいる中高生が、お父さんのパソコンをちょっと使わせて貰うような? 小野氏: 理想としては占領するところまでいって欲しいのですが(笑)、Windows Vistaはペアレント機能がつきました。それでも親御さんの許しを得るのはなかなか難しいと思います。いきなりクライアントを入れるためにはWebでサーフィンしなければいけない。Webでサーフィンすると、やはりエロ・グロ・犯罪が必ずぶつかると思うのです。僕らにとって中学生は、本当はとりたいのだけれど、多分とりきれないだろうと思ってます。ただ、高校生や大学生の初期で1つの山があることを考えると、高校生になれば分別もあって、部屋にもデスクトップやノートが置かれているだろうと考えると、十分ターゲット層として見ることができると思います。 編: 年齢層としては高校生が下限で、上は定年退職された方々でしょうか。 小野氏: はい。退職された方々がやってくれるとうれしいのですが、いかんせんアクションゲームですので、なかなか反応するのが難しいかもしれません。次に私達が見ているのは30代から40代前半の、敵の予備動作があると、次にガッ動くことを知っているような、アクションゲームとは何かを知っている人たちです。さらにPCでゲームをすることにあまりハードルを持たない世代が動いてくれればいいかなと思います。 ただ、私の本心としてはむしろ下を育てていきたい。いきなり大きな話ですが、下を育てないとこの業界自体がダメになってしまうのではないかと感じているからです。PCだけではなく、任天堂さんやSCEさんが考えておられるのも、人生の中での1個の遊びの要因として接点を増やそうということです。我々も何がしかのムーブメントを起こさなければいけないなと感じています。 編: タレントさんの起用にしても、最近は女性アイドルや女優を使うのが一般的になりつつありますが、そこに来て「長州小力」というユニークな選択はどういう発想から生まれたのですか? 小野氏: バカにできる存在を探そうと思ったのです(笑)。彼にでもできるゲームだと。こんなバカバカしいこともできるんだぜと。バカなことはアイドルにはイメージがあったりポジショニングがあったりで、なかなかできないですよね。 特定のターゲット層を捕まえるのであれば、かつて「鬼武者」で金城さんを起用してきたように、歌手だったら浜崎あゆみさん、アイドルだったら長澤まさみさんを起用しても全然違和感ないわけです。しかし、オンラインゲームの流れを考えると、あいつがやっているのだという等身大で見ることのできる存在が望ましいと思い長州小力さんにお願いしました。 (以下、後編へ) (C)CAPCOM CO., Ltd. 2007 ALL RIGHTS RESERVED.
□カプコンのホームページ (2007年6月14日) [Reported by 中村聖司]
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