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同社の平成19年3月期の連結決算成績は、売上高が前年同期比89.8%増の9,665億3,400万円、営業利益が150.2%増の2,260億2,400万円、経常利益が79.7%増の2,888億3,900万円、当期純利益は77.2%増の1,742億9,000万円と好調を記録している。 説明会の壇上に立った岩田社長は、各種データをスライドで表示させながらニンテンドーDSの好調の原因を分析してみせた。同社によれば単年度の出荷台数としては最大で、ソフトウェアの出荷本数も過去最大となったという。現在の生産台数を月産250万台としながら、この数値について「過去にゲームボーイアドバンスで月産230万台というのを一度だけやったことがある。しかしニンテンドーDSはそれを超える250万台をずっと続けている」と、その人気の高さに戸惑いすら見せている。 実際に決算発表会で岩田氏は何度も「異常な状態」といった表現を使っている。次期の販売台数も2,200万台と現状の勢いを考えると「控えめではないか?」といった質問が飛んだが、これについても岩田氏は「我々の努力もあるが、様々な要因が重なり社会現象と呼ばれるような状態にならないとこういった事は起こらない」とし、「経営の見込みとしてそういった (過大な) 数値は盛り込めない」と、好調な時期だけにより一層慎重な姿勢をみせている。 一方で、任天堂の最終的な目標は大きい。岩田氏はニンテンドーDSを「所有者の生活を豊かにするマシン」と定義づけた。これはニンテンドーDSを持ち歩くことで楽しくなったり、便利であったりする状況をあちらこちらで引き起こせるマシンということだ。このマシンコンセプトから「これまで一家に1台だったゲーム機が、ひとりに1台となる可能性が出てきた」と語り、これまでのゲーム機の販売台数を大きく超えるパーソナルマシンとしての側面を持つと分析。 こうしたハードの出荷台数の好調な数値は人々の目を引くが、岩田氏は「ハードの出荷台数の目標を聞かれるが、ハードを売ることが目的ではない」と、一見すると意外なコメントを発している。これは、「ユーザーの方はソフトを楽しむためにハードを購入する。我々としてはハードの普及の目的はソフトウェアビジネスを活性化させるため。中長期的な最終的な目標としては、3億本のソフトを販売するためにそれに見合ったハード台数の普及を目指す」とあくまで主役はソフトウェアにあるとしている (3億本の内訳はサードパーティなども含めての数値)。 3億本というのはこれまでのゲーム業界的に考えると、とてつもない数値のように感じるかもしれないが、岩田氏にはその具体的な展開が見えているように思えた。たとえばプラットフォームの寿命についてだが、これまでの業界的な通例では5年程度とされている。この点について「我々がチャレンジをやめれば早くなるし、チャレンジしていけば寿命が延びるかもしれない」とし、これまでのゲーム業界の常識が通じないとしている。さらに「ひとつのアーキテクチャで構成されたハードの販売台数が伸びることで、そのプラットフォームが社会インフラとなれば、まったく違う価値を持つのではないだろうか」と語り、プラットフォームの寿命について「こんな使い方ができるんだと提案していくことで、プラットフォームの寿命を長くしていきたい」と語っている。プラットフォームの寿命が延びれば販売台数も増え、ソフトウェアの3億本も射程にはいる時が近い将来に来るかもしれない。
一方で岩田氏は「市場がガラッと変わる可能もある。だからハードウェアを開発しているチームは色々と考えている」と次の驚きを提供する開発を続けていることを明らかにしている。 ■ Wiiは増産中。「来月から効果が現われるだろう」 任天堂にとってニンテンドーDSと同等以上と言ってもいい大きなミッションが、Wiiのステップアップだろう。日本国内では常に売り切れで生産が追いつかない状態だが、岩田氏は増産を行なっていることを明らかにした。「任天堂はハイテクではないと誤解を受けているが、いかにコンパクトに作るかという点でハイテクを使っており、増産を行なうことは容易ではない」と説明。しかしすでに増産体制に入っており、来月から市場投入量も増え効果が現われるだろうとしている。 Wii関連でもいくつか興味深い数値が発表されている。同社の調査によればリビングへの設置率が75%に達していると言い、家族の全ての人と関わり合いを持つゲーム機 (家庭内に敵を作らない) という「任天堂の提案が受け入れられた」と岩田氏はコメント。さらにインターネットへの接続率は40%に達しており、バーチャルコンソールの有償ダウンロード総数は全世界で330万ダウンロードに達しているという。 Wiiチャンネルについては、どんどんチャンネルを増やしていきたいという。もちろん同社でも提案が続けられていくことと思われるが、すでに様々な方面から新たな提案が同社のライセンシーの部署に寄せられているという。岩田氏は「実はWiiチャンネルは収益を上げようと思って作ったわけではないんです。もちろんバーチャルコンソールなど収益を上げるシステムもあり、可能性はある。ユーザーの皆さんからお金をいただいても良いと判断すればやることがあるかもしれないが、これまで無料でできたことがある日いきなり有料になることはない」とし、「広告や他社とのアライアンス、ビジネスモデルなど色々いただいている。遠くない時期に色々とあるかもしれないが、この点に関して市場規模などを考えるには早すぎると思う」とまずは地道にチャンネルとして楽しめる新しいソフトの提案を続けていくことを考えているようだ。一方で、他社からの申し入れについて「ゲームのビジネスモデルを壊す提案はダメだが、前向きに考えていきたい」といい、幅広くアイディアを受け入れていきたい考えを示している。 Wiiリモコンについては、「とにかくユーザーになれて欲しい」段階だという。チャンネルについてもそうで、これまでにないデバイスをまずは定着させたい意向だ。岩田氏は「(ニンテンドーDSが『脳トレ』でブレイクしたように) ブレイクするときにWiiリモコンがハードルにならないように、今はユーザーさんにWiiリモコンを触ってもらわなければと思っている」としている。 ユーザーにとって気になるのは対応ソフトについてだが、来場者からの質問で「Wiiの軸となるソフトが出ていないように感じる」といった指摘があった。これについては岩田氏も認め「どれだけ次々と新しい提案を行なえるかにかかっている。これはプラットフォームメーカーの仕事で、できあがったソフトを見てサードパーティのメーカーも対応ソフトを作っていく。Wiiは下馬評では次世代機プラットフォームの中で評価が低かったように思う。だからこれからだと思う。現在、社内や弊社ブランドで予算が付いて開発中のタイトルが45タイトルある (ニンテンドーDSは79タイトル)。これらが全て製品化されるかどうかはわからないが、やり込み要素のあるマリオの新作や『スマッシュブラザース』の新作を夏の終わりから秋にかけ用意している」と、この秋に向け商品ラインナップを整えているという。 ブレイクソフトのひとつとして期待を集めている健康をテーマにしたタイトルも、秋の発売を予定している。岩田氏は「経営側として理想を言えば春に (やり込み要素のあるヒットタイトルを) 出したかった。しかしソフトを磨きたいということで、中途半端は避ける意味合いもあり、開発の時間をいただいている」と苦しい胸の内を明かしている。 Wiiについては米国でも評判が良いということで、この点について「米国ではWiiについて『究極のパーティツールだね』といった評価がある。米国の文化的にWiiとの相性が良いのではないかと感じている」とかなりの手応えのようだ。
WiiリモコンとヌンチャクによるFPSの操作性についての評価についても「まだ『メトロイドプライム』が発売されていないのでテスターによる評価だけだが、PCゲームの標準的なキーボードとマウスによる操作に近いという評価は得ている。コントローラによる操作は、標準を定めながら移動するという通常の生活ではやらない操作で、なれた人はすごいが、普通の人はできない」と自信の程を語っている。岩田氏はFPSだけでなく「Electronic Artsさんの得意なスポーツものなどでも新しいチャレンジができるのではないか」とWiiリモコンの持つ可能性について、様々な提案を行なっていきたいようだ。 ■ 岩田氏「宮本には自分のチームの制作に専念して欲しい」
「岩田氏にとってゲームとはどういったものか?」という質問について、「ゲームというよりインタラクティブエンタテインメントと言うことですが、人間のインプットに対して価値のあるものが返ってくる。インプットの労力以上のものが返ってくれば人間はプレイし続けてくれる。その返ってくるご褒美は人によって違います。『お料理ナビ』というゲームではソフトの中にご褒美はありません。しかし、ソフトを使って料理を作り食べて美味しければそれがご褒美で、この場合ご褒美は外にある。ご褒美を感じる方法は様々だけど、それがなければダメだと思う」とゲーム観を語っている。 そのゲームの幅については、広がりを見せている。「任天堂は娯楽に徹するべきだという考え方があるのでは」といった発言に対しては、「でも娯楽の幅は広がっている。英語の勉強もいまでは『えいご漬け』となっているし、料理までゲームになっている (「お料理ナビ」)」と説明し、逆にその広がりこそがアイディアの活かしどころであり、市場の広がりに繋がっていると言えるだろう。 新しいものを生み出すためには開発体制の強化も重要な点だが、中期的展望に立ち開発人員の強化は行なわれているという。また、任天堂と言えば宮本茂氏の存在が大きいが、岩田氏によれば「宮本には自分のチームに集中して欲しいと言っています。高いクオリティの他社がまねできないというようなソフトを生み出してもらうのが経営陣としてはいいのかなと思う。宮本も人間ですから、開発中のソフト全てを見ることはできない。今は優秀なスタッフがたくさん育ち、宮本の仕事を取ってきた。それができたからこそミリオンタイトルが増えている」と社内状況を分析し、宮本氏については開発に専念して欲しい意向を示している。 岩田氏は、携帯電話をはじめとした自社ソフトの他プラットフォームへの展開についての質問に対し「5年ほど前から、携帯型ゲーム機は携帯電話に駆逐されるといった話があった。しかし今の状況を見ると、そのようなことはない」とし、結論的には「我々の強みのひとつとして、ハードの開発とソフトの開発が一緒の建物にいて、コミュニケーションを密にしている。驚きを仕込むために両者が一緒に開発を行なっている。他社にソフトを提供するのは短期的な売上げ的には良いかもしれないが、この任天堂の長所をなくすこととなる」とし、これまでの任天堂の強みを生かした開発を続け、他社にソフトを提供することはしない方がよいという判断だ。
また、今期の重点目標としてあげたのが市場流通について。プラットフォームが好調でサードパーティの参入が増え、発売タイトル数が増加するのはメーカーにとってありがたいことだが、一定期間に一定数以上のタイトルが発売されてしまうと、市場として飽和してしまう。この点に質問が及ぶと岩田氏は「お客さんがソフトの購入のために調べたりプレイする時間は有限です。また営業からよく聞くのは、これまでお店において平積みになっていたものが棚差しになっていたり、ソフトを置けなくなってきたと言う点。アピールできなくなってきており、マーケティングがうまくいかない状況となっている。お客様のニーズは多様で、そのニーズにあったものを的確に届けられるのか。それは課題であり、今年の重点課題として取り組みたい」と今後取り組む姿勢を見せている。 (2007年4月27日) [Reported by 船津稔]
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