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「2Dゲームは死なない!」、「ドラキュラ」シリーズの五十嵐孝司氏、
2Dゲームならではの利点と未来を熱く語る

3月5~9日開催

会場:Moscone Convention Center

 「GDCにもこのようなセッションに参加するのも初めてで、とても緊張している」というコメントでセッションをスタートさせたのはコナミの「悪魔城ドラキュラ」シリーズのプロデューサーを務める五十嵐孝司氏だ。会場には五十嵐氏のファンも多いようで、講演前で緊張する五十嵐氏を盛んに撮影するファンの姿も見られた。


■ 2Dゲームならではの駆け引き、五十嵐氏がこだわり続けるアクションゲームの4つのポイント

コナミ「悪魔城ドラキュラ」シリーズのプロデューサーを務める五十嵐孝司氏
五十嵐氏の定義するアクションゲームの4つの要素
 現在ゲームハードの表現力は大きく向上し、3Dグラフィックスの表現によるゲームが当たり前になっている。そんな中で「ドラキュラ」シリーズは2Dのグラフィックス、そしてゲーム性にこだわり続けている。なぜこだわり続けるのか、それは五十嵐氏自身が好きだというだけでなく、間違いなく「ドラキュラ」シリーズには2Dであるメリットが存在するからだ。

 最初に語られるのは「2Dと3Dのゲーム性における相違点」。五十嵐氏の捉えるアクションゲームのポイントは「タイミング」、「距離」、「位置取り」、「方向」の4つ。3Dゲームはコンピュータ上に3D空間を再現するが、それは現実の目で見ている空間とはギャップがある。このため距離の概念がわかりにくくなる傾向にあり、これが最大の問題点である、と五十嵐氏は指摘する。

 五十嵐氏は「Castlevania」を例にとって3Dグラフィックスで「ドラキュラ」シリーズのゲーム性を再現させるために工夫した点を紹介する。左右に揺れるギロチンの刃は、ダメージを受けるところに線を引き、空間を動き回る敵には足下に影を表示させ、正確な立ち位置がわかりやすくしている。

 一方、2Dでは画面からすぐに空間を認識し、アクションの駆け引きを楽しむことができる。「2Dは3Dに比べ“距離の遊び”の導入が簡単だ」と五十嵐氏は語る。3Dでは飛んでくる弾を認識してよけると言うよりも、敵の射撃ポーズを知覚することで物陰に隠れるという駆け引きが多い。

 2Dではまた、意図的に遊びの幅を制限することでよりわかりやすい駆け引きが可能だ。横視点で重力という要素をつければ、横方向と、ジャンプによる縦方向の遊びを提供することができる。制限された遊びはより緻密な駆け引きを必要とし、そこを大きく膨らませていくアプローチが可能だ。

 次に五十嵐氏が語ったのが「ドット絵へのこだわり」。「ドラキュラ」シリーズではドット絵が重要な意味を持つ。「ドラキュラ」シリーズは、最初のファミリーコンピューター版をのぞき、それ以降の作品はすべて16色で描かれている(ファミコン版は4色、最近の作品は一部で256色を使用)。これは画面のアスペクト比と色数をほぼ同じものにすることで過去の資産を有効に使うことができるためだ。

 これはゲームのボリュームアップ、人的資源の節約を可能にし、クオリティーアップをしやすくする。過去の資産を使用するということは、前作以上のクオリティーを求められていくことになる。新人デザイナーはプレッシャーに負けずに画面を作っていくことが求められる。結果として、スタッフは自然に鍛えられ、実力が大きく増すことになる。

 一方でキャラクタのアニメーションパターンに関しては3Dグラフィックスの場合モーションを足していけばいいが、2Dの場合は全て絵として描き起こさなくてはならず、膨大な作業量が発生してしまう。2Dでは3Dモデルではあり得ないようなデフォルメの表現も可能だが、作業が倍々になっていくため、3Dに比べてアクション要素の追加などがシビアな問題になりがちだ。

 また、アニメーションは2Dの方がなめらかさに欠け、絵の力量がダイレクトに出てしまうという特徴もある。より高画質の描画能力を持つハードの場合は作業量が大きく増えてしまうのに効果としてそれほど上がらないという問題もある。いちどPS2で高解像度の実験をした時は、「もうやめてください」とデザイナーが音を上げてしまった。五十嵐氏は高解像度のハードには新しいアプローチがあるかもと考えている。それにはテレビのアニメーションなどで使われている技術がヒントになるのではないかと現在模索をしているという。

「Castlevania」を例にとって3Dグラフィックスでのゲーム性を紹介 2Dと3Dのゲーム性における違い ゲームの要素をシンプルに限定することでプレーヤーはゲーム性を把握しやすくなる
「ドラキュラ」シリーズは基本的に16色で作られている作品がほとんどだ 作品を通じてキャラクタの画面比率なども決められている ハードの画面の比率に合わせてわずかにキャラクタの大きさを変更した場合も


■ 市場性や技術、旧世代技術なための製作者の焦り。ネットワークへの展開も?

「2D games will never die!」という文字がスライドで表示されると同時に、会場からは大きな拍手と歓声が上がった
五十嵐氏をカメラに集めよう、間近に見ようと集まっていく熱狂的なファン達
 プログラムの側面からは2Dゲームは2つの大きな利点があると五十嵐氏は語る。2Dゲームはカメラの概念がない、カメラは、3Dゲームを作るプログラマーを悩ませる大きな問題で、ゲーム性にも大きく関係してくる。もう一つの利点は、X軸とY軸のことしか考えなくていいためにゲームがシンプルで、完成系をイメージしやすい。

 問題点としては、演出が固定しがちで、単調になりかねない。また、最新の技術ではないという認識から、プログラマーに焦りの気持ちを生じさせる場合もある。特に2Dゲームは先陣が様々なアプローチを重ねた結果、技術としては円熟しており、進化の伸び幅が少ない。2Dはゲームのプログラムが組みやすく、3Dのゲームは演出のプログラムを組みやすい傾向がある。

 2Dゲームは開発のチームを小規模にできる。このため、チームの結束をよく高めることができる。五十嵐氏は個人的には10名程度のチームが理想的だと思っている、と語る。2Dゲームの場合は、デザイナーが1つのステージや、1つのボスを担当する事が多い。3Dゲームの場合は、ステージの1部屋とか、キャラクタのモデリング、エフェクト、といった分業体制になる。このため、ゲームのどの部分を作っているか認識しにくくなる。

 これは五十嵐氏にとっては重要な問題だという。分業体制が進むと、クリエイター個人のスタンドプレイがしにくくなる。そうなると「作業感」が大きくなり、ゲームに対する情熱を持てなくなってしまう。これは作品のできにも大きく関係してくる。これを避けるために、細分化したところに管理者を置き、作業をしっかりした管理の下に行なわせる方法がある。もう一つは、社内で閲覧できるデータベースを作り、知識の共有を常にはかるというものだ。

 しかしこれでもうまくいかない場合がある。前者の場合はプロジェクトが終わると各部門で不満が大きく噴出するし、後者では忙しくなると提示したドキュメントを見なくなってしまう。どちらも開発者が「もっと企画段階から関わらせて欲しい」ということを必ず言ってくる。しかし、制作人数の問題からも、末端の開発者を企画段階から投入していくのは難しい。小規模のチームは全てのメンバーが企画段階から関わることができる。とはいえ、チームのモチベーションを上げるのは実は、「いい作品を作っている」という実感だと五十嵐氏は語る。

 2Dのメリットは様々なところである。しかし、「市場」と「技術」という面で、2Dゲームは大きな不安を抱えている。2Dゲームは古くさいという印象を与え、一般ユーザー層から受けが悪い場合がある。一方、3Dゲームは派手な見た目からかライトユーザーの興味を惹きやすい。PS2以降はその傾向が顕著になっている。

 このため、「良いものを作っても評価されないのではないか」という感情が開発者の中から出てくる。実際最新作である「悪魔城ドラキュラ ギャラリー オブ ラビリンス」は北米では好調だったが、日本ではあまり成功しなかった。「日本で受けいられないと、スタッフはものすごくヘコみます」と五十嵐氏は語る。

 技術的な面では、2Dゲームは旧世代であることは否めない。このため、クリエイターを確保することが大変になっている。クリエイター自身も最新技術に触れていたいという願望があり、また、より評価されたいと思っている。しかし、ドット絵のうまいクリエイターは、3Dモデルなどもうまい、特徴を限られた状況で捉えるという作業は、間違いなく力を増すからだ。「3Dのモデリングをする人はたくさんいるが、ドット絵は君しか描けない」と言い聞かせて、五十嵐氏は優秀なスタッフをつなぎ止めているという。

 「色々不安な要素もあるが、2Dゲームで重要なタイミングと距離のゲーム性というのはけしてなくなることはない。それは格闘ゲームなどのシビアな駆け引きをするゲームにおいても必要不可欠で、“アクションゲーム本来の遊びである”と僕は捉えています。市場的な部分でも、DSやXbox Live Arcade、バーチャルコンソール、モバイルゲームなどの市場もある。手軽に遊べる2Dゲームは今後も大きな市場として見込める。コストが高騰しつつあるゲーム制作においても2Dゲームは希望の光だと思う。最後に私はこういいたい。『2Dゲームは死なない!』」。

 「2D games will never die!」という文字がスライドで表示されると同時に、会場からは大きな拍手と歓声が上がった。続く質疑応答では、五十嵐氏はダウンロードコンテンツに興味があること。「悪魔城ドラキュラ ギャラリー オブ ラビリンス」の協力プレイは、ネットワークゲームへのアプローチとして実験的に取り入れられたものであることを明らかにした。シビアな判定を要求する2Dアクションゲームの駆け引きをネットワーク上で再現するにはまだまだハードルが高いとのことだが、「ドラキュラ」シリーズの今後の展開に注目したい。

開発コストが抑えられるのも2Dゲームのアドバンテージの1つだ プログラム技術における2Dゲームはシンプルなため全体像が把握しやすい より小さなチームで、情報と情熱を共有してゲームを作ることができる

□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□関連情報
【3月7日】サンフランシスコにてGame Developers Conference 2007が開催
史上最大規模での開催。任天堂とSCEのキーノートに期待
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20070306/gdc2007.htm

(2007年3月12日)

[Reported by 勝田哲也]



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