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会場:Moscone Center
GDC 2007では、まだまだ未知なこの分野において10年以上の実績を持つスクウェア・エニックスが、「The Square-Enix Approach to Localization」と題してそのものズバリの講演を行なってくれた。日本語から英語という2バイトコードが絡む問題を、同社のローカライズ部はどのように乗り越えてきたのか。また文化圏の違いをどう克服していったのか。日本産のタイトルの話ながら、初耳の報告が満載のセッションだった。
■ スクウェア・エニックスのローカライズの定義とは何か?
セッションは、Honeywood氏の9年のキャリアを振り返り、ローカライズ部の歴史からスタートした。まずHoneywood氏はローカライズの定義づけを行なった。スクウェア・エニックスにおけるローカライズは、単なる翻訳ではなく、文化の違い、ターゲットユーザーの違いをふまえた、現地タイトルと戦う競争力を備えるために必要なあらゆる仕様変更のことを指す。 ここで具体的な例として、「チョコボレーシング」と「バウンサー」における仕様変更をスライドで提示してくれた。「チョコボレーシング」ではテキストが英語になっているだけでなくキャラクタデザインが変わっており、「バウンサー」ではインゲームムービーのキャラクタのボディランゲージの内容が変わっている。確かにいずれもテキストだけでなくゲームの仕様が変わっている。 またゲームの難易度を調整することもローカライズ部の仕事だという。「ファイナルファンタジー」シリーズでは、ターゲット層に合わせて、エンカウント率やモンスターのヒットポイント、経験値の量を調整してきたという。同シリーズが世界的なRPGに成長し、普遍的な存在になってきたことで、今日ではこれらの調整は不要になったということだが、文化の壁を乗り越える修正を、テキスト以外の部分で見せていく必要が出てきているという。
現在、スクウェア・エニックスが対応している言語は、英語のほか、フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、韓国語の6カ国語。まずは日本語を英語に直し、そこから他の言語にローカライズしていくという2段がまえの体制になっている。ここで必要になるのは、単なる翻訳家ではなく、文化圏の違いを理解したスタッフであり、具体的にはマルチランゲージを修得したネイティブなスタッフということになる。
■ ローカライズ部はスクウェアとエニックスの良さを併せ持つ組織に
ローカライズ部に存在する役職としては、ローカライズ作業全体をマネジメントするLocalization Coordinators(Lead Directors、Assistant)、言語ごとの文化を理解したトランスレーターであるLocalization Specialist、翻訳されたテキストをブラッシュアップするEditor、そしてここが大きな特徴となるが、ローカライズの過程で発生したプログラムの改良を開発チームと共に行なうLocalization Engineersが存在する。 旧スクウェアは、常に内部スタッフでローカライズを行ない、開発チームのすぐ隣に席を置くなど、開発に密着した体制を敷いてきたが、一方の旧エニックスはローカライズ作業を外注に出すことで、低コストでローカライズを行なってきた。 両社が合併してスクウェア・エニックスとなった後は、旧スクウェアの内製チームに加え、同時並行して旧エニックスの外注チームも持つという変則的なスタイルとなった。この全体を統括するのがTranslation Directorであり、ローカライズ部に対して複数の仕事を同時にオペレーションしつつ、外部スタッフをトランスレーションプールとして状況に応じてワンポイントで投入するという仕組みが構築されている。
ローカライズの作業工程としては、「準備/習熟期間」、「用語集の作成」、「翻訳/編集期間」、「統合/QA期間」、「マスターアップ/アフターサービス期間」の5つの項目がある。中でもユニークな「用語集の作成」のプロセスでは、すべてのキャラクタ、モンスター、アイテム、地名、出来事をリストアップし、キャラクタの性格付けを含めた形でライティングスタイルを定めていく。ライティングスタイルとキャラクタの性格付けに関しては、ゲームクリエイターと協議の上でさらに調整していく。最後に法的なチェックを通して、翻訳のベースとなる用語集が完成する。これだけでもかなり期間を要しそうである。 ■ 英語版「ドラゴンクエスト VIII」はフルボイス仕様&メニュー入れ替え
まず、「ファイナルファンタジー VIII」については、限られたメニュースペースの中で、過不足なく表現するために漢字表記を一部アイコンに置き換えている。 一方、大幅に変更を加えているのが「ドラゴンクエスト VIII」で、シリーズ通してテキストオンリーだったイベントシーンの展開に、フルボイスを加えていて驚かされた。また、メニュー表示も一新し、装備やアイテムがアイコン化されたほか、英語表記するとどうしても長くなる“危ない水着”といった「ドラクエ」ならではのアイテム名を略称抜きで表示し、さらに解説も加えるなどしてニュアンスを伝える努力を行なっている。 Honeywood氏によれば、こうした信頼関係を構築するのに長い時間が掛かったとのことだが、GDCで講演するにふさわしいチャレンジする価値のある偉業だと思う。Honeywood氏は、対開発チームだけでなく、リーガル、レーティングに対するズレなどにも言及していたが、聞けば聞くほどローカライズとは大変な作業であることがわかる。
最後にHoneywood氏は、今後の課題として、多国語への同時翻訳、フォーマットの標準化、ツールの強化、リップシンクの改良、マーケットリサーチの強化などを挙げた。今回紹介された取り組みがどのように販売に結びついているのかは残念ながら未知数だが、日本のタイトルを海外で販売していく上で、極めてまっとうなアプローチだと思える。ゲームのローカライズの中でももっとも難関であるシングルプレイRPG制作の第一人者として、今後の進展を見守りたいところだ。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2007年3月11日) [Reported by 中村聖司]
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