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さらにMAPを制作するにあたりテクスチャや独自の効果音などを分業作業によって進める団体も出現し、まさにゲームそのものがプラットホーム化され、Wikipediaに見られるコンテンツコラボレーションが実現されている。まさにこれがWeb2.0的なゲームの姿ではないだろうか? 残念ながら日本国内ではFPSの人気は高いとはいえないが、これらムーブメントをぜひとも見逃さないでほしい。 さて、日本でも似たようなムーブメントが存在する。「RPGツクール」シリーズがその良い例である。このソフトウェアは、簡単なMAP編集によって自分だけのRPGが作れてしまうという優れもので、エンドユーザー向けのゲーム開発ツールといえる。こういったコンセプトはぜひともMMORPGの世界にも何かしらの形で導入されるべきである思う。 最近、通称『エミュ鯖』というMMORPGのサーバーをエミュレーションしたサーバーのうわさを聞く。出現の理由のひとつには、『無料であのゲームを楽しみたい(もちろん違法である)』というものと、『このバランスの方が面白い』や『こういったイベントをやってみたい』というプレーヤーの切望の表れではないかと思う。もちろん違法行為であるのでやめていただきたいのだが、ここにもヒントはある。
つまり今プレーヤーが求めているものはアバター性のような差別化を超えた自己表現・創造によるオンラインゲームへ参加である。言い換えるならば、プレーヤーがオンラインゲームという与えられたプラットホーム上で、新たなルールやバランス、MAPといったものを個人やコラボレーションによって自由に創作し提供でき、それを共有できるサービス。これが次世代のオンラインゲームに求められるのではないだろうか。
■ コミュニティ・コミュニケーション機能のさらなる進化
ここで違った視点でコミュニティを考えてみる。多くのオンラインゲームの場合そのコミュニティ機能は、クランやギルドといった縦の繋がりが主であり、また単一のコミュニティにのみ属することが許されるといった、現実的にはありえない単方向性のコミュニティへの所属しかできない。これは違和感極まりないと私は思う。 現実世界で私たちは企業も学校という縦の繋がりに加えて、地域や趣味という横の繋がりもある。このような水平のコミュニティにも注目したい。現在のギルドやクランでは、こういった水平のコミュニティも垂直コミュニティとともに存在しているため、ある種歪となっている。 前回お話した韓国と日本の違いというのは、もしかすると国家や軍隊といった垂直のコミュニティと、趣味を中心に集まった水平のコミュニティとの違いということにも置き換えることができそうだ。要は現在のオンラインゲームは、こういった現実のコミュニティに対する考察と、ゲーム内にサポートされるコミュニティ機能がまだまだ甘い。私の提案では、コミュニケーション機能というよりも、こういった縦と横のコミュニティのサポートをぜひともゲーム内で実現していただきたい。 コミュニティのもうひとつの課題は、どのようにゲーム内で形成されていくかである。前回ご紹介した「R.O.H.A.N.」の『結束』のようなピラミッド型のコミュニティもそのひとつであるが、そもそもゲームに触れるきっかけとして、「友人の紹介」という部分に着目してもいいと思う。
たとえば、どのプレーヤーの紹介でゲームに入ってきたかという情報は、単なる集客の手法として「お友達紹介」や「SNS」的な手法がすでにいくつかのオンラインゲームで実践されているが、ゲームの中にまでその経緯が引き継がれ、そして活用されれば、さらに強固なコミュニティの実現が期待できる。なぜなら、紹介したユーザーと、新規ユーザーの間では、ほとんどの場合、すでにゲーム外コミュニティができあがっており、より多くのユーザーの獲得に結びつく可能性が高いからだ。先に提案した横のコミュニティと合わせて、この部分にも何かしらの実装を期待していきたいと思う。
■ マッチングシステムの理想は「インゲームGoogle」
簡単なゲーム内での適用例を挙げれば、アイテム売買がそれに当たる。もちろん、アイテムトレードも含まれる。最近のオンラインゲームではこういったアイテム売買や交換をインゲームや公式ページ上で行なう例が増えてきている。簡単にこれをRMTの公式サイトでのサポートと呼ぶ場合も多いが、実際にはユーザーマッチを行なっている良い事例である。 なにもユーザーマッチはアイテムの取引に限定したことではない、パーティ募集やクエストお手伝い、ボス討伐などもこういったユーザーマッチ機能で実現されればなお便利になるのではないかと思う。現在これらは町でチャットによって求めてみたり、情報サイトの待ち合わせ掲示板で実現されているがこういう機能こそコミュニティが重要となるオンラインゲームで実現されるべき機能である。
カジュアルゲームにおけるロビー機能などよい実現例があるわりにMMORPGなどには実装されないという不思議な状況に首をかしげている方も多いのではないかと思う。現在のオンラインゲームではゲーム開始時に知り合った友人かもともとゲームをする前から知り合いの友人としかプレイをしないという現象が起こっている。こういったマッチング機能の充実こそゲーム内での開かれたコミュニティを形成させるひとつの解決策になるのではないだろうか? ぜひともこれらの機能を導入し、「ゲームに入ったらまず“ぐぐる”」を実践してみたいものだ。
■ アイテム課金はロングテールをつかむ手法
Web2.0を語る際によくロングテールという言葉を耳にする。これはムーアの法則によるITの急激な発展と、Web2.0に代表される「Webアプリケーションのシームレス化」により膨大な情報量を短時間に多角的かつローコストで把握することが可能となり、また物理的な在庫を持たないデジタルコンテンツ市場においては従来非効率的とされていた「死に筋やニッチ」に着目した決め細やかなマーケティングが可能となったためである。 つまり従来のように、売れ筋の商品だけを売るといったコンビニエンスストアに代表されるニッチを切り捨てるABC分析とは対極的なアプローチである。簡単に言えば『売れる商品を売る』ではなく『消費者の欲しい商品を売る』という販売行動の変化の表れでもある。すなわちロングテールとは、顧客のプロファイリングを細かくおこなったニッチに向けた商品提案を行なうことで「消費予備軍への気づき」を誘発し、結果売上げの底上げをおこなっていくという意味なのである。 ロングテールの代表的な例としてはアマゾンが有名である。アマゾンは230万冊を超える膨大な品揃えと在庫を持つなかで、いかにユーザーと商品をマッチングさせるかといった様々な試行錯誤の経験が、先に紹介したリコメンデーション(顧客に合わせた商品提案)やアフィリエート(自分の推薦図書を紹介し成果報酬を得る制度)を世に送り出すことに繋がっている。 私自身の例で言えば、10年以上前に参画していた某通販会社の実証実験において『買おうかな?』思った商品に対して、現在で言うところのしおり機能を購入画面に持たせたことがある。これは、カタログ通販でいうところの『折り目をつける』のコマースサイトでの実装だったわけだが、これも『あと少しで購入する』つまり『あと一押しで買う』といった情報収集と分析に繋がる。これもまたロングテールに着目したアイデアのひとつである。 売れていないものを切り捨てる、買わない人を切り捨てるといった効率重視経営はWeb2.0時代では大きな機会損失となる。現状のオンラインゲームにおいて、同様のチャンスロスを招いている例は枚挙にいとまがない。代表的な例が、いったんオープンβテストでユーザーを集めておいて、正式サービス時には有料化へと踏み切る月額課金がそれに当たる。わざわざ“選民”するぐらいだったら、最初からβテストなどはやらなくていいわけである。 一方、アイテム課金では、時代に即した課金システムということもあり、すでにロングテール的な発想による研究や実装が進められてきている。たとえば、レベルや職業・種族に合わせたアイテムモールでのフェイシングコントロール(プレーヤー別の商品の見せ方)などはこれから徐々に一般的になってくるはずだ。 また、アイテム課金はユーザーの懐事情や職業、接続時間の制約に関してもプレーヤーに選択肢を与え、集客の面でもロングテールにリーチしている。たとえば、ブースト系アイテムは時間のない社会人には好都合だろうし、低年齢層(学生)の場合は、時間をかけたキャラクタ育成が可能となるためその様なアイテムは不必要であり、結果、ゲームに対する投入金額は少なくてよいことになる。 つまりそれぞれの立場に合わせたプレイ環境やプレイ機会を与えることはより多くのユーザーにゲームをプレイさせることに繋がり、結果として“プレーヤーというコンテンツが充実してくる”のである。さらに月額課金がお金を支払ってから遊ぶという消費者にとっては相当な決断が必要となることに対して、遊んでからお金を払う方式は消費者とって安心感をもたらすということも忘れてはならない。 このようにプレーヤー別の状況に合わせたプレイスタイルの選択や商品提案ができることがWeb2.0的なビジネススタイルである。アイテム課金がオンラインゲーム市場にもたらしたものは、ロングテールへ着目したビジネススタイルのシフトであり、多くのユーザーをゲームに誘導、つまり、コンテンツが成長することに繋がる。但しひとつ注意をしておくと、ロングテールへのアプローチはマスマーケティングだけでは通用しない。アマゾンに見られる個人の行動分析・プロファイリングといった創意工夫による、きめ細かな『One To One』マーケティングが必要となることを忘れないでほしい。
私はオンラインゲーム内で人を減らす行為は、コンテンツとして自殺行為であると考えている。この減らす行為とはなにか? オープンβから正式サービスへと移行するユーザーに対して「月額」という大きな障壁を作ってしまうことがその大きな原因のひとつである。オンラインゲームは接続者すなわちプレーヤーがそこに住んで初めてコンテンツとして完成する。その意味をもう少し考えられないものかと思う。 オンラインゲームは、パッケージゲームのようにコンテンツを楽しむのではなく、それ自体がプラットホームであり、そこに入場制限を加えた段階で、プラットフォームとしての強みをスポイルすることに繋がってしまう。もちろん月額課金で成功しているゲームはある。しかし、残念なことに、実質的には先行者利益(「ラグナロクオンライン」や「リネージュ」)もしくは大きなブランド(「ファイナルファンタジーXI」、「信長の野望 Online」など)以外には成功を収めるのは難しいのが現状である。 今オンラインゲームに求められていることは、いかに「住人が減り、過疎がおこることを防止できるか」である。不正プレーヤーは別として運営側がプレーヤーを選民してしまってはいけないということである。人がコンテンツの主体をなすものであるというところからオンラインゲームをもう一度見直してみてはいかがだろうか。 3回にわたってWeb2.0をテーマに、Web2.0サービスとの連携やコミュニティ、そこから見える理想のオンラインゲームについて述べてきた。私のわずかな経験の中で語るにはおこがましい部分もあったが、なるべくわかりやすい言葉で説明するよう心がけた。一方、細かな手法や技術解説を省いたため逆にわかりにくい説明になってしまったかもしれない。この場をお借りしてお詫び申し上げる次第である。 さて、次回からは別のテーマに切り込んでいくことにしたい。その第1回目として「RMT」を取り上げる。今後も担当編集の中村氏と一緒にオンラインゲームに関して私なりの視点で色々語っていくので、ぜひご期待いただきたい。
□バックナンバー 【8月23日】「Web2.0時代のオンラインゲームビジネス」その2 オンラインゲームにおけるコミュニティの重要性とは? http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060823/online02.htm 【7月24日】Web 2.0時代のオンラインゲームビジネスとは何か!? まずはオンラインゲームのWebサイトをWeb 2.0化する http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060724/online01.htm (2006年9月19日) [Reported by アラン・ブラフォード]
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