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有名な話を紹介すると、元ライブドアの乙部さんのブログで、彼女がとある商品を紹介したことがある。その数日後その商品は爆発的なセールスを記録したという話である。これは、有名人やその世界の『オピニオンリーダー』の発言が、口コミで波及し、知らず知らずのうちに大きな効果を生んだという事例である。 このような消費者の立場にある個人を媒介にしたメディアを従来のマスメディアと比較してCGM(Consumer Generated Media)と呼び、消費者がメディア化するというWeb2.0時代におけるわかりやすい社会的変化のひとつとして注目されている。また、オンラインゲームにおいても、CGMの影響は無視できない。CGMの性質を理解し、これをうまく利用することが、より多くのユーザーを集めるための重要なカギを握る。
第2回は、こういったWeb2.0の非技術的な側面、つまりインターネット時代の社会的変化やオンラインゲームの特性を理解したうえで、どのようなサービスが求められるのかを考察したいと思う。 ■ まずは韓国ゲームメディアにおけるコミュニティ事情を知る オンラインゲームのサービスを開始する際にまず考えることは、『どうやって会員を獲得するか』ということと、獲得した会員を『いかに定着させるか』ということになる。 前者の場合、運営側の一般的な行動としては、プレスリリースをメディアに配信し、ニュースとして掲載してもらう。それを見たユーザがゲームサイトに訪れ、興味があれば会員登録しコンテンツをダウンロードしログインするといった構図になる。この際、よりメディアとの連携を深めるために、メディアやポータルを通じた限定アカウントの配布なども効果的だし、さらにはバナー広告等により、ユーザを直接誘導することも効果的だ。半ばイレギュラーなアプローチとしては、「2ちゃんねる」などの巨大掲示板での工作活動なども考えていいだろう。 後者については、飽きのないコンテンツの提供や定期的なアップデート、ゲーム内イベントの開催、ゲーム内外で生まれるコミュニティの支援などが考えられる。中でも重要となってくるのが、コミュニティ対策で、これはゲーム内のギルド機能の早期実装やコミュニケーションスペース(公式BBS、公式ギルドページ)の提供、あるいは個人サイトの設立を促すファンサイトキットの配布などがそれに当たるだろう。 特にMMORPGの場合、コミュニティに所属することこそがユーザーの定着につながり、その結果有料化への移行率に直接影響を及ぼすわけである。こういった実情を受け、最近のオンラインゲームのマーケティングでは、コミュニティを最重要と考えた戦略こそがコンテンツ成功の秘訣とされている。 オンラインゲーム先進国韓国では、日本と少し違った状況にある。韓国のゲーム系Webメディアでは、報道活動はもちろんのこと、それとは別に読者コミュニティというものが存在する。新しいタイトルがリリースされれば、そのタイトルのコミュニティサイトを作り運営するということがサービスの一環として日常的に行なわれている。 韓国のオンラインゲーム運営会社がゲームメディアを重要視する背景には、こういったゲームをプレイする前から存在するコミュニティの存在がある。また、モデレーターやオピニオンリーダーと呼ばれる大手コミュニティの有名ゲーマーやサイト管理人のような存在を取り込む働きかけも積極的に行なわれている。仮にその働きかけが成功すれば、コミュニティを丸ごと新しいゲームに引き込むことが可能になる。 具体的な例を挙げれば、韓国のIMC Gamesの「グラナド・エスパダ」がクローズドβ実施時に「Pro-Tester」なるテスターに多くのコミュニティサイトのオーナーやメディアを招いたことや、「ローハン」や「SUN」といったMMORPGが「リネージュ2」の大手クランを直接引き抜いてゲームを活性化した話などがよく知られている。
多くの韓国ゲームメーカーが日本に上陸した際に頭を痛める部分が、日韓のコミュニティの違いである。この違いを理解しないまま、同じようにサービスを提供してしまう。韓国のオンラインゲームがなかなか成功しないのはここに理由がある。
■ あくまでもボトムアップ的志向の強いコミュニティ
ガンホーは、同人誌を中心とするコミュニティに対して積極的に働きかけ、サブカルチャー層に対しメインストリームへの架け橋を作ることで、違う属性のユーザー層の獲得に成功している。これは、「スカッとゴルフパンヤ」についても同様のことが言える。ここで重要なのは、何に、どこに働きかけたかではなく、個人や小規模な団体がメディアとなって情報が伝播していく点である。 実際に現象面からオンラインゲームのコミュニティを見てみると、韓国では組織的な大規模ギルドやクランが多い。これは大規模戦闘システムやPvP、RvRを好むユーザ特性もその要因として推察される。これに対して、日本では小規模なギルドが多い。つまりこれもコミュニティ形成の目的やプロセスが違うわけである。
いわゆるクランとして帰属していく韓国のオンラインゲームコミュニティと、たまたま知り合った気の合う誰かと友達感覚で出来上がる日本のオンラインゲームコミュニティとの違い。こういった民族性の違いや日韓の気質の相違は、ローカライズの現場では重要なポイントとなる。事実オンラインゲームを日本でローカライズする際に、『小規模パーティ機能』や『小規模ギルド』に対する留意が必要といわれるのもそのためだと思われる。 ■ 人が人を呼ぶオンラインゲーム 特定の個人の情報発信によって、その情報の信憑性は大幅に上がり、その結果、ブログなどの読者は、コンテンツへの興味が高まる。ゲームでいえば、それはユーザーの獲得ということになる。そこにアフィリエートなどのサービスを付与することで、人が人を呼ぶまさにCGMのビジネスモデルが完成される。韓国のオンラインゲーム系メディアも実際には、企業というよりも同人メディア的要素が強いことが口コミの発信源として受け入れられているのかもしれない。 私がよく訪れてる、ゲームサイトをいくつか紹介しておこう。ひとつめは『ネトゲ研究日誌』(http://blog.livedoor.jp/borisgoto/)である。これは主催者が独自の視点でオンラインゲームについて熱く語ったサイトで、筆者の記事に対して、コメントやトラックバックが可能となっている。そこでは賛否両論の意見が交わされ、読んでる側として『やってみたいな』と感じるサイトである。さらに同様の切り口のサイトとして、『Rasphard's Diary』(http://rass.blog43.fc2.com/)がある。これら個人がメディア化している良い例でもある。 では、GAME Watchはいかがであろうか? 記事の内容は別として、記者の顔が見えるメディアであると思う。これは何によってもたらされているのだろうか? CGMといった個人がメディア化する中で現象的に注目されている理由のひとつに、実名主義であるという点が挙げられる。 たとえば、この記事を担当している中村聖司氏もその一人といえよう。記事の信頼はどこから生まれるのか? 要は実名主義という従来のネットの匿名性からの脱却が、結果的に記事に信頼性を与えているのである。こう考えると、社長ブログや有名人ブログなどが非常に脅威的な存在であることがわかる。
蛇足だが、オンラインゲーム運営会社にお願いしたいのは、GMやスタッフブログに現われる人物の実名化である。信頼性や親近感は勿論のこと、実名を出すことによる逃れられない責任も生ずるわけで、昨今頻発する内部不祥事のひとつの解決の糸口になるやもしれない。もちろん労働条件の改善など、さきに改善すべきことはあると思うわけだが。
■ ソーシャルネットワークとオンラインゲーム
SNS成功の要因はいくつか挙げられるが、先に述べたように、たまたま知り合った気の合う誰かと友達感覚で出来上がるコミュニティ形成をネット上で実践し、リアルでの距離や時間の問題や年齢・性別の問題を超えて同人が集合するからだと考えられる。友達紹介やコミュニティ誘導機能がうまく働き、口コミ効果も絶大であることから急速に利用者を伸ばしている。 またSNSでは、友人がいつログインした、いつ書き込みをした、こんなコミュニティに属しているなども見ることができるなど、多角的なプロファイリングができることもその特徴のひとつである。こういったSNSの流れは、近年のインターネットの消費者の行動プロセスであるAISAS(Attention、Interests、Search、Action、Share)にもマッチすることからECサイトなどとの連携が注目されている。 オンラインゲームでもこういったSNSとの親和性は非常に高いと考えられている。攻略情報の共有、ゲーム内のクランやギルドのコミュニケーションの場、ユーザーによるゲームレビューなど活用の場は多く、実際多くのオンラインゲームユーザーが利用している。 ただし残念なことに、現時点ではゲームそのものとSNSとの連携がシームレスでない。『現在どのゲームにログインしてどのフィールドにいるか?』、『このアイテムが出展されているので入札してみよう!』、『友達のレベルが上がった♪』などといったユーザのプレイ情報との関係性が生まれてくるとさらに利便性が向上するのではないかと思う。そうなってくるとまさにWeb2.0的だと言える。
■ 「Online Game2.0」的コミュニティアプローチ事例 さて、最後に最近プレイしたゲームの中で、「これはうまいな」と思ったものをいくつか紹介してみる。 まずは、「R.O.H.A.N」である。そもそもゲームシステムのコンセプトとして『人脈をつくる』というSNS的な要素が組み込まれており、8月25日から始まるオープンベータサービスが楽しみなタイトルでもある。システム的には『結束』というハイアラーキーシステムを採用しており、マルチ商法のような特典が上位のユーザに与えられる。ゲームの外部との連携もできるようになれば、従来の『お友達紹介システム』とあいまって、相当の効果が生まれるものと予想される。開発投資にはエキサイトも絡んでいるところから、今後の動きに注目したいところである。 この「R.O.H.A.N.」でのコミュニティ形成を、実際の会員獲得に活用している例が、「CABAL Online」である。本タイトルは、初回のクローズドβテストの募集は通常通り行ない、先日発表のあった1次から3次までのクローズドベータテストから、前回の当選者の友達5名までを招待できるという一風変わった「ILS(Invitational link System)」の導入を発表した。 友達紹介自体は珍しいアプローチではないが、友達紹介で会員誘導するという点がミクシィと同様、強固なコミュニティの形成を促しており、これこそいわばSNS的発想によるマーケティングと言える。このケースは友人からの紹介のみの会員を集めることで、ユーザーはゲーム開始直後からシームレスにゲーム内コミュニティを形成することができる。そして、課金移行時は『やめにくい環境』を作り出すという、いわば『新規会員獲得』と『課金移行時の定着』の両面を押さえた展開となっている。今後、このように集めた会員をどのようにゲーム内でも支援していくかが注目されるところである。
次に紹介するのが、「ゴルトモ」。ゴルフゲームがオンラインカジュアルゲームの中でも競争の激しいジャンルだが、ここのサービスの特徴は、SNSをベースとし、ゲームのプレイ結果がblog記事として自動生成される『glog』機能などが搭載されるなど、コミュニティオリエンテッドな機能を数多く取りそろえている。これらアイデアをMMORPGに適用し、その日のパーティプレイやSSの自動アップロード、取得したレアアイテム情報などと連携すると面白くなるのではないだろうか。 次も同じくゴルフゲームで、「ゴルフだいすき!~ I LOVE GOLF!~」もおもしろい。これも「ゴルトモ」と似たようなアプローチで、ゲームとは別に“オープンスペース”なるビジュアルロビーが存在し、そこにゲームがプラグインされている。8月22日にクローズドβテストを開始したばかりなのでまだ何とも言えないが、3Dアバターを含めてアイデアとしても機能としても目新しさはない。今後まだ見えていない部分がどのように進化していくかお手並み拝見である。
今回はコミュニティの性質や、個人のメディア化などの現状を、Web2.0という切り口から簡単に述べてきた。Web2.0時代のオンラインゲームは、ネット上のコミュニティをいかにゲームとシームレスに繋げていくかが最大のポイントということがわかっていただければ幸いである。 別の言い方をすれば、シームレスとは「モノにつられてゲームする」のではなく「人につられてゲームする」といったエモーショナルな環境構築ということであり、オンラインゲーム運営各社にはゲーム内のコミュニティの活性化と並行して、ゲーム内外連携形のコミュニティ形成を促す施策を、今回紹介した個人サイトや最近のオンラインゲームなどを参考にしながら、提供に結びつけていってほしいと思う。ただ単にゲームを陳列し、アバターのみでの収益を確保する時代は、Web1.0時代のバナー広告同様、もうとっくの昔に終わっているということである。 さて次回は、今後の出現するWeb 2.0的オンラインゲームとサービスに関して私見や理想を織り交ぜながら大胆に提言していきたいと思う。
□バックナンバー 【7月24日】Web 2.0時代のオンラインゲームビジネスとは何か!? まずはオンラインゲームのWebサイトをWeb 2.0化する http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060724/online01.htm (2006年8月23日) [Reported by アラン・ブラフォード]
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