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【不定期連載第1回】次世代オンラインゲームへの思索と邂逅

アラン・ブラフォードの「OnlineGame 2.0」論



連載開始にあたり

 いま、オンラインゲーム業界が色々な意味で騒がしい。昨年と変わらぬ勢いで数多くのオンラインゲームがリリースされ続ける一方で、オンラインゲームが一般化するに伴い、オンラインゲームの構造的な弱点であると同時に、克服すべき課題である不正行為やRMT、それら行為による仮想世界の破壊など、“単なるデータ”では片付けられない様々な問題が顕在化しつつある。

 実際はオンラインゲームのデベロッパーやパブリッシャーも手をこまねいているわけではなく、水面下で様々な対策、取り組みを行なっている。その上でゲームデザインの進化を目的とした様々な技術的チャレンジや実験を行なっている。こうしたネガティブな話題とポジティブな話題が渾然一体となって疾走を続けるのが、オンラインゲーム運営の宿命ということになる。

 ただ、そうした動きは、運営上、開発上の秘とされ、ほとんど表には出てこない。出てこないままいつのまにか“それ”が実装され、オンラインゲームユーザーは、得体の知れないモノに乗っかっているような居心地の悪さを覚えつつ、日夜ゲームをプレイすることになる。

 本連載は、そうしたオンラインゲームファンの居心地の悪さを解消するために企画したもので、オンラインゲームを構成するハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク、それらをドライブする各種テクノロジーなど、弊誌の一般ニュースやレビュー、インタビュー等ではなかなか扱いきれない部分にフォーカスを当て、オンラインゲームファンにわかりやすく解説することを目的としている。第1弾は「Web 2.0時代におけるオンラインゲームビジネス」。Webを軸にした、オンラインゲームの質的変容に光を当ててみたい。

(担当編集:中村聖司)



Web 2.0時代のオンラインゲームビジネスとは何か!?
まずはオンラインゲームのWebサイトをWeb 2.0化する



 近年Webサービスの普及そして肥大化するコンテンツ。これらカオスと化したインターネット環境の中で、とりざたされているのがWeb 2.0という概念による新しいWebのあり方やサービス、テクノロジーである。Web 2.0は、いろいろな解釈がある。企業で言えばGoogleをはじめとする検索サービスから派生した様々なサービスや考え方、また、ブログやWiki、SNSに代表されるコンテンツネットワーク、RSSなどもその代表的な技術といえよう。

 さて、本連載では、こうしたWeb 2.0の詳細には言及することを避け(インプレスジャパン刊「Web 2.0 BOOK」がお勧めである)、オンラインゲーム業界でどのように適用されていくか、もしくは適用されていくべきかを利用者の側面から分析し、論述することとする。本来ならばこの記事そのものも、Web 2.0的に配信され様々な意見をもったトラックバックも受け付けたいところであるが、筆者としてそこまでの影響力がないゆえ、まずは一読した上で様々なサイトでWeb 2.0的アプローチでディスカッションしていただければ幸いである。

 なお、Web 2.0の解説は、下記のような全3回での進行を予定している。

第1回 オンラインゲーム公式サイト
第2回 オンラインゲームコミュニティとメディア
第3回 今後の出現するWeb 2.0的オンラインゲームとサービス

 正直に告白すると、今回、担当に強く依頼されて連載を引き受けては見たものの、本連載が最終的にどのような提言へと進むのかはいまだ結論がない。これもまたWeb 2.0時代の結論の導き方であり、オブジェクト指向同様『演繹的』であると考えてほしい。では、能書きは一旦止めることとし、早速本論を進めていきたいとおもう。



■ オンラインゲーム公式サイトの現状と課題

ガンホー・オンライン・エンターテイメント「ラグナロクオンライン」の公式サイト(http://www.ragnarokonline.jp/)。オンラインゲームの公式サイトは日々更新され、圧倒的な情報が蓄積されていく性質を持っている
 これはWeb 2.0に限った事ではないが、情報というのはまずその発信源が重要となる。オンラインゲームでいうと公式サイトの存在がそれにあたる。では、オンラインゲームサイトはどういう目的があり、その目的に合わせどういった情報を発信、もしくはどのような機能を持っているのか。

 オンラインゲームの公式サイトとは、

『それに興味のあるユーザーの情報源であり、的確な情報発信と情報蓄積がなされる場所』

である。また、オンラインゲームというのはゲームそのものとゲームの運営、そしてゲームをプレイするユーザーの3つによってコンテンツが完成するものである。つまり上記定義に加え、『ゲーム運営側の姿勢』や『プレイするユーザー間の交流を促す機能』なども必要な機能と言える。この3つの方向性を持つことがオンラインゲームサイトとして重要なファクターとなる。

 では、現在オンラインゲームの公式サイトでは何が発信されているのだろうか?一般的なものとしては、下記のようなものが挙げられる。

(1) イベントやアップデートのお知らせ
(2) ゲームのプレイガイドやアイテム・キャラクタに関連する情報
(3) ゲームの会員登録やダウンロード

また運営という面では、

(4) 運営規約、個人情報保護方針などコンプライアンス方針の明記
(5) ユーザーサポート窓口やFAQ
(6) 料金の支払い関連
(7) GM日記に代表されるスタッフブログ

さらに、ユーザーコミュニティ向けのサービスとして、

(8) 公式BBS、画像投稿掲示板
(9) ファンサイトリンク
(10) ファンサイトキット配布

以上、簡単にあげただけでも多くのコンテンツや機能が存在する。またそれぞれのコンテンツは運営の月日が経つにつれ膨大になり、また日々アップデートを繰り返すオンラインゲームの場合それが常に更新されていくといった側面を持つ。

 こうしたオンラインゲームの公式サイトのもつ役割や性質と裏腹に、運営やWeb制作サイドは日々更新に追われ、ただコンテンツを作り続けるだけの業務に追われている。また、せっかく更新したコンテンツもいつ更新がされたのかは、公式サイトを訪れなければわからないというのが現状である。では、どうすればよいのか?

 まず先にあげた『的確な情報発信』には2つある。『的確に情報を更新する』ことと『的確にユーザーに伝える』ことである。まず、前者を解決する方法とは何か?

 この様なWeb運営の中で登場したのがCMS(Contents Management System)である。CMSは記事の管理を一元管理できる上、記事編集が簡単なため、Web管理者以外のスタッフにも簡単に扱える。いわゆるEUC(End User Computing)の実現といったところだ。これらの導入により公式サイト上の更新が素早くなされるようになった。

 ただ、残念なことに多くのCMSツールは、記事データベースを中心とした記事の更新・蓄積管理するのだが、ユーザーからのアクセスは、データベースをアクセスするプログラムを介して行なわれているため、アクセスのボトルネックや、Googleなど検索エンジンに引っかからない動的ページ(アクセスの度に生成されるページ)によってユーザーに参照されるため、せっかく更新した重要なお知らせがユーザーに届きにくい状況を作っていた。

 もちろん動的なページ生成を否定しているわけではないが、Web 2.0におけるパーマリンクがなぜ重要かという話にも繋がるのである。国内のオンラインゲーム公式サイトのお知らせ機能を見ていると、こういった動的ページ生成による、まったくレガシーな情報発信を行なっているまだまだサイトが多い。この場合コンテンツがキャッシュされないなどの問題や検索エンジンでのヒットが少なくなるなどの問題が生じることとなる。つまり、これでは『的確に情報をユーザーに伝える』ことができないわけである。



■ ユーザーに的確に情報を伝えるための工夫

ゲームポット「スカッとゴルフ パンヤ」はRSS配信に加え、画面の右側にあるようなサイドバータイプのオリジナルRSSリーダーも配布している(http://www.pangya.jp/rss/)
 最近見たオンラインゲームの公式ページでこれらを解決しているものが出てきた。CMSにブログツールを利用している例だ。実はこの簡単な施策がオンラインゲームの公式サイトを大きく変えた。ブログベースのCMSは、記事管理はDBで行ない、記事更新時にパーマリンクをもつ静的ページとして生成されるため、CGIなどプログラム経由でアクセスするレガシーなCMSと違い、アクセス時のサーバ負荷も数段少なくなる。

 もちろんGoogleなどのサーチエンジンにも引っかかる。またブログツールを利用していることから、記事のRSS配信なども行なえる。そのメリットは大きい。もちろん記事に対するトラックバックによる集客効果も認めないわけにはいかない。ちなみにGM日記だけをブログ化することだけで満足しているようではまだまだだともいえる。

 CMSをうまく使っている例は他にもある。日々更新の激しいオンラインゲームのアイテムやキャラクターの情報をWikiで管理している例だ。奇しくもそれを実践しているのがユーザーサイトであるケースが多い。Wikiそのものの性質が、共同作業にてひとつのコンテンツ、データベースを作り上げていくものでもあるわけで、そういう意味では極めてweb 2.0的アプローチのサービスといえる。

 ただし、これはおかしな話でもある。ユーザーサイト側でこれを作る事の意味である。Wikiの多くは公式サイトの情報を書き写したものである。それは本来公式サイト側が配信すべきであるはずだ。ユーザーサイトは、公式サイトが公開しない情報や略語・用語集、攻略情報を配信することに集中してもらいたいと思うのは私だけではないはずである。さらに言うなら、ゲームデータベース上のアイテムデータは、更新時にXMLで随時出力するべきでもある。

【RSS配信の利用例】
ハンビット・ユビキタス・エンターテインメント「グラナド・エスパダ」のRSS配信例(http://ge.clubhanbit.jp/news/notice/index.asp)。単にRSS配信しているだけでなく、ライブドアで展開しているブログサイトにも配信し、表示させている(http://blog.livedoor.com/category-200.html)


【Wikiを使った情報サイト例】
ハイファイブ・エンターテインメント「ブライトキングダムオンライン」のWiki (http://brkingwiki.3amop.com/)。サービス初期から登場するのが特徴的である ゲームポット「スカッとゴルフ パンヤ」のWiki(http://fesiria.kir.jp/)。多くユーザーの手で巨大な情報データベースに進化していく




■ Web 2.0時代にWeb管理者がやるべきこととは?

現在注目しているのがRSSリーダーの進化型である「RNA」(http://www.semblog.org/wiki/?rna)。RSSとアンテナのメリットを併せ持つ
 Web1.0でよく問題視されているのがリンク切れの問題である。公式サイトにファンサイトのリンクができても、リンク切れが多くてはその機能は効果的に働かない。気の利いたツールではこれらリンク切れを定期的に自動的検知するものもあるが、さらに欲を言うならば生きた更新情報をひと目でみたいものだ。

 これらを解決している例としては、『はてなダイアリー』が提供している『はてなアンテナ』のような機能がある。簡単に言うと最近の様々なブログ記事投稿を収集し、リスト表示する機能である。これこそが本来的な生きたリンクであるように思う。では、これを公式サイトでうまく利用できないものだろうか? 最近ではRNAというツールが話題になっている。機会があればサイトを訪れ、自ら体感してみるといいだろう。

 このように、オンラインゲームの公式サイトにはWeb 2.0的に構造化、最適化を図るポイントは多い。今後、記事はすべてCMSで管理され、パーマリンクをもつ静的ページで生成され、更新情報はRSSで配信されるようになる。ユーザーはRSSリーダーやRSSリーダーの機能を有するブログなどを開けば、更新情報がすぐにわかるようになる。

 そしてユーザーは必要ならばそのオフィシャルな記事にトラックバックすることができ、ユーザー自身のブログで意見を自由に書くことができる。自然にそれがリンクとなり、またアンテナで収集されることになる。アイテムやキャラクタの情報に関しても、ゲームデータベースの更新時には公式Wikiに反映され、ユーザーの作成した用語集や攻略ガイドとあいまって、ユーザーサイトではより初心者にわかりやすいハイパーリンクが生成され、提供されていく。

 一方、ユーザーサイトでは、自身が発信するコンテンツのみを充実させることに集中する。つまり公式サイトの情報をある種部品化し、ユーザーへ配信、共有することが可能になることによってより高度なユーザーと運営側の役割分担とネットワークが構築されていく。

 Microsoftが現在開発している次期主力OSであるWindows Vistaでは、『RSS anywhere』というコンセプトが提唱されている。今後は公式サイトやユーザーサイトどころか、WebブラウザやOS自体がRSSに対応していく。オンラインゲームに限ったことではないが、オンラインゲームの公式サイトこそがWeb 2.0アプリケーションのよい例になってくるのではないかと思う。

 最後に今回のポイントを整理するとWeb 2.0的には『いかに多くの人に検索され、RSSなどで多くの人に受信されるか』ということである。是非ともオンラインゲーム運営会社のWeb企画者の方々にはがんばっていただきたい。

【アンテナを使った情報収集例】
エヌ・シー・ジャパン「リネージュ2」のアンテナサイト (http://a.hatena.ne.jp/lineage2/)。公式サイト、ユーザーブログの更新状況などが一目でわかる スクウェア・エニックス「ファイナルファンタジーXI」のアンテナサイト「FFXI ANTENNA」(http://a.hatena.ne.jp/Awake/)。何かイベントがあった場合に多くの意見が覗けるのも特徴的


 今回は、オンラインゲーム公式サイトという発信者を中心にWeb 2.0の可能性について述べた。次回はこれら情報がオンラインゲームユーザーにどの様に伝わり、これまで閲覧中心だったユーザーを配信側に成長させているCGM(Consumer Generated Media)の兆候について述べてみたいと思う。

■筆者プロフィール
アラン・ブラフォード(日本在住)。コンピュータ関連カレッジ卒業後、コンピュータソフトウェア系エンジニア、研究開発を経て、オンラインゲーム関連ビジネスに身をおく。幼少よりApple IIのゲームで育ち、Macでの初代SimCityとの出会いが人生の転機となった。年末になると税率を上げるという攻略が現実の政治にも少なからずとありうる話だと子供心に感銘した経験はいまだに鮮明な記憶である。その後オンラインゲームにおいてのゲーム内外政治経済の動き強い関心を持つにいたった。日本では、ゲームセンターを中心としたコミュニティ形成に興味を持ち、自身もまた大のゲームセンター好きでもある。

(2006年7月24日)

[Reported by アラン・ブラフォード]



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