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DSC実行委員会、第2回デジタルコンテンツシンポジウムを開催
ゲーム分野では「オンラインゲームの制作支援と評価」プロジェクトを発表

6月6~8日開催

会場:科学技術館

 デジタルコンテンツ産業に関わる13の学術/後援団体で構成されるデジタルコンテンツシンポジウム実行委員会は、6月6日より都内科学技術館を会場に、「デジタルコンテンツシンポジウム ~デジタルコンテンツ関係学協会連合大会~」を開催している。2日目となる本日は、オンラインゲームをテーマにした企画セッションが行なわれたのでその模様をお伝えしていきたい。シンポジウムは明日8日まで開催される。


■ 国費を投入して5カ年計画で研究成果を挙げる「オンラインゲームの制作支援と評価」プロジェクト

「オンラインゲームの制作支援と評価」プロジェクトの概要を説明するはこだて未来大学教授の松原仁(ひとし)氏
ゲーム機がすべてオンライン化していることを説明する松原氏。マイクロソフトXbox 360の次の「次々世代機」まで視野に入れているところがおもしろい
 デジタルコンテンツシンポジウムは、アニメーションやゲーム、映像技術といったコンテンツ産業の新興を目的に、各分野の活動を促進していくための連合大会として位置づけられたシンポジウム。昨年に第1回が開催され、今年で第2回目となる。

 カテゴリとしては、映像、バーチャルリアリティー、三次元表現、モーションキャプチャなど9つの部門に分かれ、3日間かけてそれぞれの関連セッションが行なわれている。今年から共催学協会のメンバーとして国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)が加わり、IGDA日本代表の新清士氏のキーノートスピーチと、ゲームコンテンツをテーマにした企画セッションが新たに盛り込まれた。

 今回のシンポジウムにおけるゲーム部門の座長は、ゲームへの利用を前提とした学術研究の第一人者であり、CEDEC等のゲーム開発者向けカンファレンスの常連講師のひとりであるナムコ インキュベーションセンター リーダーの馬場哲治氏が務めている。メンバーには、先月5月に日本デジタルゲーム学会を立ち上げた東京大学教授の馬場章氏、コーエーの松原健二氏の実兄で、人工知能を専門とするはこだて未来大学教授の松原仁(ひとし)氏、バーチャルリアリティーやAI、感情表現など様々な分野を研究している筑波大学教授の星野准一氏ら、錚々たるメンバーが名を連ねている。

 今回の企画セッションのテーマとなった「オンラインゲームの制作支援と評価」プロジェクトは、独立行政法人科学技術振興機構(JST)で採択された研究領域である「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」の研究テーマのひとつである。研究そのものは2005年10月からスタートしており、5カ年計画で各分野の研究を同時並行して行なっていく。

 研究代表は松原仁氏。文部科学省とJSTを通じて国家から予算が下りた広義での国家プロジェクトであり、研究成果の定期的な公表を義務づけられている。今回の企画セッションはその第1回目の公表の場となる。

 まずは松原氏が登壇し、プロジェクト開始の経緯を説明した。松原氏によれば、テレビゲーム、デジタルメディア作品として国際競争力を有する非常に有力なコンテンツであり、中でもオンラインゲームは、今後も順調な成長が見込まれ、かつ国際性があり、またネットワーク社会全体への適用も期待できることからテーマとして至当であると説明。

 しかし、実情はかつてのハリウッド映画のように、CG制作を主因とした開発費の高騰により、ヒット作の続編に逃げており、かつ社会的にも引きこもりなどと関連づけて反社会的な存在と見られがちであることを報告。そこで、そうしたネガティブな風評の蔓延に対抗するために、学術的なアプローチからオンラインゲームのポジティブな評価を行なうこと、またその方法論の確立をプロジェクトの目的として設定。二次的な目的として、良質ゲームなゲームを安価で開発するための新しい効率的な制作方法論の確立を挙げた。2つ目については、どのレイヤーの話をしているのか不明瞭で、現時点では内容が見えてこないが、ゲーム開発に学術的な見地からメスを入れるというアプローチはおもしろい。今後の経過報告に期待したいところだ。

【オンラインゲームの制作支援と評価】
「オンラインゲームの制作支援と評価」のサブテーマの概要を記したスライド。2005年10月にスタートしたばかりで、5カ年で研究を行なうため、具体的な研究成果が出るのはまだまだ先となる


■ 人工知能、触覚、嗅覚など先端技術を導入し、反社会要因を排除

 「オンラインゲームの制作支援と評価」プロジェクトは、以下の4つのサブテーマに分かれている。

1) オンラインゲームの教育的目的利用の研究(東京大学 馬場章)
2) 人工知能技術のオンラインゲームへの適用の研究(はこだて未来大学 松原仁)
3) オンラインゲームの表現に関する研究(筑波大学 星野准一)
4) 実世界を志向したオンラインゲームデバイスの研究(名城大学 柳田康幸)

「オンラインゲームの実世界志向インターフェイスの検討」の紹介を行なう名城大学の柳田康幸氏
3つのサブテーマのイメージ図。マルチモーダルディスプレイはおもしろいと思ったが残る2つは、まだメリットが見えてこない
 このうち1が評価、2~4が制作支援となる。今回明らかにされたところでは、東大の馬場氏が主催する「オンラインゲームの教育的目的利用の研究」では、「信長の野望 Online」のアクセスログを解析し、正の効用の抽出を狙いとした学術的研究を行なう。数年分、数万人分のアクセスログを手作業で解析するのは不可能に近く、またプライバシー的な問題もあるため、まずは、ログデータをぶち込めば、自動的に必要なデータのみを抽出し、結果をアウトプットしてくれる専用のプログラムの開発を行なう。このプログラムは、プロジェクト終了後は、ログデータを提供したコーエーに無償提供され、今後のゲーム開発のために役立てられる。最終的には、すべてのオンラインゲームパブリッシャーに、この学術的アプローチを浸透させていくのが狙いである。

 2については、今回は「人工知能の技術を利用した新しいタイプのNPCの実現」という概要の紹介のみに留まった。主催する松原氏の説明によれば、現在オンラインゲームで発生している反社会性は、不特定多数のプレーヤーが存在しているためだという。つまり、反社会的な行動を行なうプレーヤーを、高度な人工知能を備えたNPCに“置き換える”ことにより、普遍的な社会性を維持したオンラインゲーム世界を実現するという考え方である。一種時代を逆行しつつも実は新しい、Will Wrightの「SPORE」に匹敵するような新しいオンラインゲームの考え方である。

 3は、リアルなゲーム環境の制作支援、結果としての制作コストの低減を目的とした研究で、今回2人の学生が研究経過を報告した。ひとつはモーションクリエーション、もうひとつはストーリー表現技法。いずれもスクリプトとパラメータを活用した自由度の高いキャラクタ表現、ストーリーテリングを狙っているが、その研究成果の出力先がオンラインゲームである必然性がないのと、考え方としてもすでに商業レベルで実現済みのものばかりで、まだまだ練り直しが必要だと思った。

 今回、もっとも興味深く聞けたのが4の研究経過報告となる名城大学教授柳田康幸氏の「オンラインゲームの実世界志向インターフェイスの検討」である。柳田氏は、オンラインゲームは「健全でない」、「引きこもってあの世に入り浸る」、「若い男性中心」、「ネカマ現象」といった痛烈なネガティブイメージを紹介。

 柳田氏によれば、こうしたイメージは、キーボード(ゲームパッド)による入力、モニタによる出力というマンマシンインターフェイスに起因する「かじりつき状態」が問題だとした。そこでミッションの目的として、デバイスやインターフェイスに起因するネガティブな要素をひとつずつ解決していくことを挙げ、「室内から外へ」、「男性だけでなく女性も」を大目標として掲げた。ゲーム業界からはなかなか出てこないもの凄い発想の転換である。

 サブテーマとしては、「マルチモーダルディスプレイ」、「空間型インターフェイス」、「Kawaii User Interface(KUI)」の3つを挙げた。「空間型インターフェイス」は、たとえばトスのモーションで相手にモノを渡すという、実空間とゲーム空間を一部直結させるという考え方で、日常世界の動作をメタファとして、一種のサイン的な利用方法でプレーヤー間インタラクションの効率化を図るというもの。「Kawaii User Interface(KUI)」は、インターフェイスを“可愛く”し、それによって、男性偏重のユーザー比率を、現実世界同様の半々にまで是正しようというもの。この2つについては、現状のマンマシンインターフェイスと発想があまりにもかけ離れていてコメントしようがない。ここでは柳田氏の担当分野である「マルチモーダルディスプレイ」を取りあげる。

 「マルチモーダルディスプレイ」の基本的な考え方は「画面からの脱却」。モニタから脱却することで、視界が占有されなくなる。そうなると実生活の中、公共空間の中でもゲームプレイが可能になるという考え方である。具体的なアプローチとしては、携帯型端末、触覚(振動)、香り/空気の3つを挙げた。携帯端末についてはまだ検討中として具体的な言及は避けたが、触覚と嗅覚については、歴史的な研究事例を取り上げ、決して夢物語ではないことをアピールした。

 触覚については、メリットとしては、全身に分散する感覚器をフルに活用した全身型インターフェイスの実現と、それによる「仮現運動」の触覚的なアプローチの実現。解りやすい例でいえば、なぞられる感覚がある。デメリットとしては、有線の引っかけは無線にすることで対処できたものの、ウェアラブルデバイスならではの洗濯、メンテナンスという問題がある。

 一方、嗅覚は、出しゃばらない出力として、残り香として実空間にプレーヤーの痕跡を残したり、空気砲を用い特定のプレーヤーに対して香りを提示するといった使い方を紹介した。バーチャルリアリティの分野で、視覚、聴覚、触覚の次は嗅覚だと言われて久しいが、なぜ実用化されないかというと、色の三原色のような、香りをシンセサイズするための仕組みが解明されていないためである。このため、仮にオンラインゲームに投入するとしても、香りを限定した使い方にならざるを得ないようだ。

【「マルチモーダルディスプレイ(触覚)」】
ウェアラブルデバイスで、全身の感覚器を活用。ついにオンラインゲームで、大蛇に締め付けられるシーンや背中を切られる恐怖を体感できるのかどうかは、今のところよくわからない

【「マルチモーダルディスプレイ(嗅覚)」】
ゲームに香りを導入するだけならまだしも、実世界との連動を指向しているところが新しい。実現はまだまだ時間が掛かりそうだがおもしろいテーマである


■ IGDA日本代表新氏のキーノート「オンラインゲームは世界の何を変えたのか?」

キーノート「オンラインゲームは世界の何を変えたのか?」を行なうIGDA日本代表新清士氏。新氏はMMOの未来像として、今後も仮想空間の拡大化を予測した
 最後に、企画セッションに先立ち行なわれた、IGDA日本代表の新清士氏のキーノートスピーチについて触れておきたい。新氏のキーノートは、「オンラインゲームは世界の何を変えたのか?」と題し、“オンラインゲーム概論”とでも呼べそうなユニークな講演となった。

 講演の内容は、新氏が専門学校の講義等で使用しているスライドをベースに、オンラインゲームの“はじまり”から未来像までを総覧する氏独特のアプローチによってオンラインゲームを紹介していくというもの。参加者層が比較的高年齢が多かったためか、新氏の得意分野であるFPS関連のデモの反応は今ひとつ、むしろネガティブな印象だったが、MUD、Habitatを皮切りとしたMMOタイプのオンラインゲームの話に移ると、熱心にメモを取る参加者の姿が見られた。オンラインゲームは、MMOに限って言えば、現実世界と意外なほど親和性が高く、それだけに高年齢層を中心にまだまだ途方もない潜在需要が眠っているという印象を覚えた。

 新氏はオンラインゲームの魅力について、ゲームの歴史そのものが人対人で培われてきたものであり、かつコンピュータと比較して無数のパラメータを同時に扱え、結果として開発者が想定しない遊びが仮想世界の上で展開されること、と定義。また、オフラインゲームにはないオンラインゲームのおもしろさとして、オブジェクト指向に基づくユーザー主体のオブジェクト生成を指摘した。こうした考え方は、非常にベーシックな部分であり、新しい考え方でも何でもないが、オンラインゲームを知らない層には刺激の多い話だったようだ。

 さらに新氏は、バグ悪用による仮想世界の崩壊事例や、テキストチャットを悪用したバーチャルレイプ問題、ユーザーが他のユーザーを殺すPK問題、MUDに代表される著作権侵害問題、サーバーを極端に不安定化させるゲーム内デモ活動問題など、ネガティブな話題も提示。これらの多くは現在も継続している問題であり、乗り越えるべき課題だとした。

 その一方で、ゲーム内結婚やゲーム内劇などMMOゲームならではのポジティブな話題も提示したが、その比重の違い、世界に影響を及ぼす程度の違いが、そのままオンラインゲームの闇を示している。客観的に見て、現行のオンラインゲームでユーザーに与えられた自由度はまだまだ狭い。新氏の好む用語である“創発性”という意味での高い自由度を備えつつ、物理的に堅牢かつセキュアな世界。これが次世代に求められるオンラインゲームのひとつの理想像ではないだろうか。

□デジタルコンテンツシンポジウムのホームページ
http://weekendwolf.jp/modules/news/
□「第2回デジタルコンテンツシンポジウム」のホームページ
http://www.digital-content.jp/2006/index.html
□関連情報
【5月18日】コーエー執行役員松原健二氏特別インタビュー
次世代機時代のコーエーのオンラインゲーム戦略を聞く
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20060518/koeiint.htm

(2006年6月7日)

[Reported by 中村聖司]



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