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会場:San Jose McEnery Convention Center
セッション終了後の長いスタンディングオベーションは、GDCの一種の伝説として参加者の間で語りぐさになっているほどだが、今年はビジョントラック(昨年から始まったビジョンを語るトラック)から、これまではプラットフォーマー限定だったキーノートに昇格し、再び「SPORE」を題材に開発者たちにゲームデザイン上の要諦を熱く訴えかけた。例によって「What's Next inDesign」というタイトルはGDC側が勝手に設定したものとして一蹴。今回のテーマはずばり「ゲーム開発におけるリサーチの重要性」。 「SPORE」の進捗については、Electronic Arts側の干渉を嫌うためか、スケッチデザインとモデリングサンプルの提示にとどまっていたが、昨年のプロトタイプのレベルから、いよいよ本格的な開発へと移行したものと見られる。完成は2007年か、2008年かというレベルの話になりそうで、首を長くして待つしかなさそうだ。 なお、ゲームの基本的なゲームデザイン、コンセプトについては昨年のGDCレポートで詳しく触れているので、ぜひ合わせて参照していただきたい。
■ 宇宙生物学との対比からリサーチの重要性を主張
Wright氏は、「ゲームリサーチと宇宙生物学の研究はよく似ている」と切り出し、両者を直結し、リサーチの概要を紹介しながら、なぜかどんどん話を宇宙生物学の方向へシフトさせた。要は「SPORE」の原点には宇宙生物学があるというわけだが、こうした無茶な論の展開はWright氏ならではである。 まずWright氏は、リサーチについて「文献を読む、インターネットで検索する、人に聞く」といった基本的なアプローチを取り上げ、これまで自身がインスパイアされた文献を紹介した。Wright氏のリサーチの主体は読書のようだ。具体的な文献は以下の通り、左側がゲームタイトル、右側が参照した書籍名を指している。
・「Simcity」→「Urban Dynamics」 Wright氏は、このほかにも風水学やビジネス啓発本、行動心理学などの書籍を紹介し、「ゲーマーそのもののリサーチにこうした基礎を語る本は参考になる」と、ゲームアーキテクトらしい見解を寄せた。 続いて典型的な「オタク」の人物像のスライドを見せ、「オタクをどう思うか?」と質問し、会場が大きな拍手に包まれると、「ふつう逆だろう?(笑)」と苦笑しながら、「社会的にはいろいろ言われているが、実際はフィギュアに夢中になってるだけではなく、しっかりとした哲学を持っていて、仲間とコミュニケーションを取りながらいくつかの物事に集中している」とオタクの内面性に着目し、リサーチャーとして一定の評価を与えた。 リサーチ後のゲーム開発については、まず初めにシミュレーションプロトタイプを作り、テストを繰り返す。そこで各種結果データを出力し、問題を見つけ、ゲーム化への方向性を探る。次のステップではゲームプロトタイプを作り、その結果を、シミュレーションプロトタイプにフィードバックし、さらにテストを繰り返す、といったアプローチが有効だとした。
このプロセスがうまく働かず失敗した好例として「The Sims Online」を取り上げ、膨大な時間、予算、人員を投入したにも関わらず、結果としては「ドイツの世界最大の工作機械Bagger 288のようなようなものになってしまった」と報告。Bagger 288は超巨大で低速でしか移動できない工作機械。Wright氏は「『SPORE』はそれに比べればクールなドライブをするだろう」と付け加えた。
■ 「SPORE」と宇宙生物学との密接な関係について
「SPORE」は、生命の誕生から、種の成長、文化形成、文明の形成、宇宙への移住、新たな星への入植までをカバーした壮大なシミュレーションゲームである。スケールでいえば、種の原点である微生物からギャラクシーまでということになる。 Wright氏は、「SPORE」のリサーチ結果として、宇宙に生物のいる確率を求める計算式「ドレークの方程式」や、“宇宙人が存在するならなぜ地球に来ないのか”という「フェルミのパラドックス」、そして最初の生命は宇宙からやってきたとする「パンスペルミア説」、南極で発見された芋虫の化石が含まれた隕石「アランヒルズ84001」などを紹介しながら、「SPORE」のゲームデザインのコアとなるテラフォーミング(他の惑星への移植)の裏付けとして「パンスペルミア説」を採用するに至った経緯を説明。 Wright氏は、「リサーチにリサーチを重ね、膨大なリサーチの中からゲームとなる要素を絞り込み、シミュレーションを行ない、さらにフィードバックを重ねていくことが重要だ」とコメントし、拍手喝采を受けた。 ゲームプロトタイプまでの工程を経ると、次に実際にゲーム化の検討に入る。Wright氏は検討されるべき要素として以下の4つを挙げた。
・革新性 「SPORE」の革新的な要素としては、プレーヤーのクリエイティビティを刺激し、再現のない世界を再現する「プロシージャルコンテンツ」、社会の変遷や多様なテーマを包含した「ポリネートコンテンツ」、エピックスケールのゲームでありながら、全世代に対して親しみやすい「多様なゲームプレイ」を挙げ、再び賞賛の拍手を受けた。 プロジェクトリスクについては、テクノロジー、デザイン、プロダクション、マーケティング、ポリティカルの5つを挙げ、具体的な要素としてはプロシージャルアニメーション、エディターユーザービリティ、ゲーム化の範囲、ポリネートコンテンツ、開発パイプラインの6つ。革新的要素であるポリネートコンテンツをリスクとしてあげているのがユニークだ。 ポリネートコンテンツは、「SPORE」における種の成長を左右する重要な要素で、定型の生命物や建物、乗り物に、自分好みのエレメントを“受粉”させることで、種、生物、部族、文明、宇宙人としての無限のバリエーションを実現する。個々のデータをしては、ベースとなる基本モデルデータと、あとは“受粉”パーツだけで済むため、全体のデータ量を抑えることができるというのが最大の特徴である。しかし、“受粉”パーツは無限ではないから、予算とヒューマンリソースの兼ね合いになり、当然どこまで用意するのかはリスクとして残る。 明快な楽しさについては、ナノミリメートルの微生物世界から、光年単位の宇宙世界、そして200万年で一周するギャラクシーまでをカバーした圧倒的なスケールのゲーム世界そのものをアピール。Will Wright氏は、シミュレーションプロトタイプのひとつであるバイオームシミュレーションを起動し、数百万年単位で行なわれるギャラクシーにおけるテラフォームの過程をシミュレートしてみせ、場内を驚かせた。これだけいろいろな資料を見せているのにも関わらず、まだ全体像が見えないとは弩ゲームである。 深いメッセージ性、すなわち「SPORE」に込められたメッセージとしては、「コペルニクスの定理」(地動説)、「フェルミパラドックス」(地球外に生命体はいるのか?)、「人類原理」(人類と宇宙との関連性)、「レアアース仮説」(地球誕生の経緯の証明)の4つを挙げた。ここまで来ると、「SPORE」とは果たしてゲームという枠に閉じこめていいのかという疑問すらわき上がってくる。
最後にWright氏は「これがプロトタイプのベストだ」と宣言して、「Sim Everything」という新規プロダクトのパッケージを紹介。パッケージの裏には「真実は小説より奇なり。リアルな光速で銀河を支配せよ」などとあおり文が載せられ、必要スペックには、Windows QP、メインメモリ2Tbytes、ビデオGeForce 12Gbytes、分子ストレージ 2.5リットルなどと書かれてある。言うまでもなくWright氏らしい冗談である。つまり、「SPORE」のプロトタイプをすべて集めてゲーム化すると、「Sim Everything」に相当するものができあがるというわけだ。 Wright氏は、次々に「SPORE」のデザインスケッチを次々に切り替えながら、「ドレークの方程式では生命が存在する確率はとても低いが、『SPORE』では、この答えが出せるかどうか、ゲームで再現できるかどうかにチャレンジしたい。新しいアイデアをディスカッションし、惑星のデザインを作って、データに落とし込み、最適な形にする。宇宙というものをゲームの形にしたい」と「SPORE」について抱負を語った。
大きな拍手が鳴りやむのを待ってWright氏は、「みんなも何か始めるきっかけを作ってほしい。何かに目覚めるべきだ。大枠で物事を考え、おもしろいことを見つけよう。ハマることを楽しんで、それを仲間と共有しよう。そうすればあなたに傑作ができるかもしれない。ありがとう」と結び、同氏のキーノートで何度目かとなる割れんばかりの拍手に包まれた。やっぱり今年のベストセッションもWill Wrightだった。文句の付けようのない素晴らしいキーノートだった。
□Game Developers Conference(英語)のホームページ (2006年3月26日) [Reported by 中村聖司]
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