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ソニー・コンピュータエンターテインメント・ワールドワイドスタジオの社長Phill Harrison氏は、3月22日(現地時間)、GDC2006基調講演を「PlayStation 3: Beyond the Box」と題して行なった。 ■ PS2とPSPは好調だ
「そのPS2の製品寿命を延ばす役割を果たすのが優秀なゲームソフトウェアである」としたHarrison氏は、今年期待のPS2用タイトルとして「God Of War II」を紹介した。「God Of War」は、人間がモンスターのような異形の神々を倒していくアクションアドベンチャーゲーム。「II」ではド派手かつ過激な攻撃アクションがさらに極まっており、自キャラの何倍もある巨体のサイクロプスによじ登って攻撃したり、空飛ぶ巨大ワシの羽を切り落としたりするシーンが描かれ、場内からは歓声が起こった。 続いてはPSPの状況について報告。PSPはPSやPS2を超える成長率で普及を伸ばしていること、RSSチャネルやオンラインコンテンツの販売、Flashプレーヤーのリリース、PSP用のGPSユニットやCCDカメラ提供の話、PSPの開発キットを7,500ドルから5,000ドルに引き下げること、PSPでPSのエミュレーションを実現する話を述べたが、これらも日本で行なわれた発表会の内容と同じだ。
PSP関連のプレゼンの最後には、ユニークなPSP向けソフトとしてその登場が注目されている「LocoRoco」の映像が公開された。
■ 北米でも発売延期を正式報告 ~黄色いゴム製アヒルの新作デモを公開
当初PS3は2006年春に発売されるという触れ込みであったが「An Apology(お詫び)」というスライドを掲げ、その発売が2006年11月初旬へと延期されたことを正式にアナウンスした。 「お詫び?」として、黄色いゴム製アヒル達の新しいデモが公開された。水底に沈むおもちゃの海賊船とゴム製アヒルのクローズアップから始まるが、周りには無数の魚が泳いでおり、それぞれの群れやアニメーションはプロシージャル生成されたものであるという説明がなされた。水底から見上げた、水面の向こうで輝く太陽は水面下の輝度の16,000倍は明るいHDR光源として設定されているそうで、このデモはHDRレンダリングのショーケースの意見合いもあるようだ。 PS3本体の開発は順調で、ライブラリやミドルウェアも着々と準備が進められていることをアピール。日本では語られなかったミドルウェアの具体的なバージョン番号も公開され、それぞれUnreal Engineは3.0、AGEIA PhysX は2.4、またHavokは3.3が用意される。これら3つはPS3のハードウェアに対しての最適化がなされており、PS3のCPUとなるCellプロセッサの……もっといえばCELL内に含まれるSPU(Synergistic Processor Uinit)……を最大利用する形で開発されているという。
SCEはミドルウェアメーカーのSNシステムズを買収取得しており、C++コンパイラからデバッガまでを含んだトータルな開発システムをSNシステムズと共同で開発を進めている。なお、開発システムの1.0は完成は6月を予定している。
■ 物理ミドルウェアはCELLプロセッサのSPUに積極対応 このあとは物理ミドルウェアメーカーのHavokがCELLプロセッサ向けに実装したHavok物理エンジンのデモを公開した。 デモ自体は数百から1,000近い歩兵キャラクタをマップ上に配置し、このシーンに対して爆風を発生させて大量のキャラクタが吹っ飛ばすという単純なものだが、膨大な数の歩兵が、パラレルに相互衝突干渉をしながらRagdoll物理に従ってを吹っ飛ばされる様は、ビジュアルとして非常にユニークであり、CELLプロセッサの高いポテンシャルの片鱗を感じさせるものになっていた。 続いて公開されたのがSCEヨーロッパ・ロンドンスタジオの制作した自動車破壊デモ。こちらも物理エンジンのデモで、姿形も立派な自動車に対して、銃撃を加えていくと、その着弾地点がリアルタイムに窪んで穴が空き、その着弾箇所のダメージ具合に応じて自動車が徐々に壊れていくという内容であった。あらかじめ壊れ方が決まっている破壊アニメーションの再生ではなく、車の各パーツが強度(耐久度)パラメータを持ちつつ相互に支え合って組み込まれ、車の形を維持しているので、攻撃の喰らい方によって毎回壊れ方のパターンが異なるのだという。いわばプロシージャルな破壊アニメーションの形……といったところだ。ロンドンスタジオではこの方向性を採用したゲームをPS3で開発しているとのことだが具体的なアナウンスはまだ先になりそうだという。
続けて、SCEAが開発したPS3向け3Dシューティングゲームライクなデモ「Warhawk」も公開された。無数に飛び回る敵機の襲来を、夕暮れ時をHDRレンダリングで描き出すビジュアルはなかなか独創的だ。しかしそれよりも、このデモではCELLプロセッサのSPUで、雲のボリュームレンダリングを行なっていることをアピールしていた。CELLプロセッサに内包された7基のベクトルプロセッサSPUは、グラフィックス処理を行なうことがだいぶ前からアナウンスされていたが、実際にそれを実現しているアプリケーションとして注目度が高い。ゲーム進行に無関係な背景物のレンダリングや映像のポストプロセッシングなどはCELLのSPU向きのタスクといえるかもしれない。なお、メインCPU(PPU)やGPUを煩わせることなく映像処理ができるのは、Xbox 360にはない、PS3ならではの特徴である。
■ ネットワークが買えるゲームプレイとゲーム提供のスタイル 日本の発表会でも、PS3のネットワーク対応についてはアナウンスがされたが、今回の基調講演では、具体的なサービスのイメージを図で紹介した。 示されたのはF1レーシングゲームのイメージで、ゲームプレイ画面の脇にリアルタイムにプレーヤーの顔写真や場合によってはビデオストリームが表示され、音声会話までもができるような状況が示された。 また、追加のサーキットコースをオンライン上で購入したり、追加の車や関連パーツをおなじようにオンライン上で購入できるようなサービスイメージも紹介。やろうとしていることが似ているので当然かもしれないが、Xbox 360のXbox Liveと非常によく似たコンセプトになっていた。
ゲームタイトルの一部はオンライン上で販売されることもありうるとし、そうしたタイトルはHDDにダウンロードされて、ゲームの起動も直接HDDから行なえるようになる。ゲーム配信会社と契約してゲームを好きなだけダウンロードしてプレイできるようにする「加入モデル」や、ゲームを進めていく上でその都度課金されていくようなシステム(自分の趣味と合わないと気づけば途中で辞められる)など、ゲームを提供していくスタイルにも変革があるかもしれないといった例も紹介された。
■ 大容量メディアの重要性 続いて触れられたのは、PS3のストレージドライブについて。PS3ではBlu-Rayドライブ(BD)が採用されることが既に発表済みだが、過去のゲーム機の歴史においても大容量性が重要視されてきた事例を紹介し、BDの大容量性の優位性を強調した。 これまでの成功してきたゲーム機のメインメモリ容量とゲーム供給ディスクメディアの容量比が平均100:1となっていることを指摘。PS3ではメインメモリを512MB搭載することから、50GBのBDの容量はおよそこの法則に乗る計算になる。 大容量はゲームの映像のバリエーションの幅を広げ、サウンドのクオリティを向上させ、1枚でマルチ言語への対応をも可能にする。BDは映画ソフトも1枚で全世界市場をカバーするような製品開発も容認するが、同じBDを採用するPS3ではこの発想をゲームソフトにまで持ち込もうというのだ。
オンライン経由でコンテンツをダウンロードしてくるようなビジネスモデルを提案しつつも、大容量ディスクに固執するのは、BDというフランチャイズにソニーファミリーが大きく関係しているためなのはあえて言うまでもないが、まだまだブロードバンド環境の普及率が今ひとつな欧米における確実な大容量データ提供の意味合いもあると思われる。
■ サードパーティ開発の開発途中版ゲームタイトルを公開 基調講演後半にはSCEグループ外のゲームスタジオであるEvolution Studiosの「MOTOR STORM」と、Insomniac Gamesの「Resistance: Fall of Man」の開発途中版が公開された。 「MOTOR STORM」は、二輪車と四輪車が入り乱れてルール無用のオフロードレースを展開するアクションレーシングゲームで、たびたび世界の各ゲームショーでPS3時代のゲームの予告編プリレンダームービーが公開されてきたが、今回初めてその開発中のリアルタイム映像が公開された。 レンダリングエンジンはフルHDRベースで、影生成はパースペクティブシャドウマップ(PSM)技法と説明され、自車が走行した軌跡がジオメトリベースの轍(わだち)として残る様が示された。また、サスペンションの挙動を始めとした車両物理は、CELLプロセッサのSPUを駆使して処理されているという。ゲームシステムやリリース時期などの詳細情報はE3にて明かされる。 「Resistance」の方は、ゲームの内容はモンスターを撃破していくオーソドックスな一人称シューティング(FPS)。開発途中版とはいえ、テストプレイができるレベルになっており、これまでに公開されたPS3関連のなかでも最もゲームらしいものであった。Insomniac GamesのCEOであるTED PRICE氏は「PS3での開発の決め手となったのは、CELLのSPUとBlu-Rayであった」と壇上でコメント。SPUは物理シミュレーション、衝突判定、経路探索、AIなどを並列実行させるのに最適な演算リソースであり、ゲームの次世代の形を具現化するものだと絶賛。Blu-Rayはとにかくその大容量性がコンテンツクリエイターとして魅力であると指摘した。
SCE内製の技術デモだけでなく、SCE社外のゲーム開発途中版までを見せたことはPS3という「ゲームプラットフォームとしてのリアリティ」を高めたといえる。
(2006年3月24日) [Reported by トライゼット西川善司]
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