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シンポジウム第2部「ゲームデザイン・テクノロジーの今と未来」
宮本氏「Revolutionのコントローラにはまだ謎がある」、小島氏「僕が恐れていること」

12月2日開催

会場:立命館大学衣笠キャンパス



 国際シンポジウム「インタラクティブ・エンタテインメントの歴史と展望」の午後の部では、ゲーム産業の発展に寄与した識者を集め、過去と未来にテーマを分けて2本のシンポジウムが開催された。本稿では、日米の現役ゲームクリエイターによる第2部「ゲームデザイン・テクノロジーの今と未来」の模様をお伝えする。


■ 「ブロック崩し」からレボリューションまでの任天堂のゲームインターフェイスの変遷
任天堂宮本茂氏「インターフェイスのデザインとゲームデザイン」

大きな拍手で迎えられた任天堂専務取締役情報開発本部長 宮本茂氏。
導入として任天堂の「テレビゲーム6・15」を取り上げ、ブッシュネル氏の面前で、「『Pong』です。著作権上は問題ありません」とコメント。爆笑の渦に巻き込んだ
 シンポジウム第2部では、任天堂専務取締役情報開発本部長 宮本茂氏、Valve Design Lead ロビン・ウォーカー氏、コナミ執行役員兼小島プロダクション代表 小島秀夫氏の3名のゲームクリエイターと司会進行役としてエンターブレイン代表取締役社長 浜村弘一氏の計4名が参加した。

 浜村氏の紹介を受けて最初に登壇したのは宮本氏。「良くホントにこれだけの人を集めたな、立命館大学凄い!! と思っているわけです。第1部は妖怪のような人たち、第2部は若い世代でゲームを語っていきたいと思っております。といっても実は私も若くはなく、ナムコの岩谷さんと同世代であります」と挨拶し、会場を沸かせた。

 第1部の最後に、宮本氏の先輩にあたる上村雅之氏が講演を行ない、ファミリーコンピュータ発売以前の任天堂の歴史を紹介していたため、ちょうど任天堂史のバトンを渡された格好となった。上村氏が「これは宮本君、いえ宮本専務が筐体のデザインを行なったゲーム機です」と紹介した「ブロック崩し」は、宮本氏によれば、自身が左利きだったことから、利き手にかかわらずゲームを楽しめるように、前向きでも後ろ向きでも使える人間工学的な配慮を施した上下対称型のデザインを採用したという。手元に資料がないので、図示できないのが残念だが、宮本氏デザインの「ブロック崩し」は、当時のゲーム機としては突出したデザイン性を備えている。

 そのほかには小さな親切運動と称し、当時デザイナーの間で流行していたという横文字を見つけては、ユーザーが使うものだからと「セレクト」、「電源」という風にわかりやすい日本語に置き換えていったという。この取り組み方は、いまの宮本氏、ひいては任天堂のスタイルに通じるものがある。

 また、宮本氏は当時、業務用マシンのデザインを手がけていたというが、ゲームの中身まで含めてトータルでデザインした初めての作品が、よく知られている「ドンキーコングアーケード」('81)である。ジョイスティックとボタンがひとつずつという極めてシンプルなインターフェイスを採用。これを宮本氏は「『パックマン』よりボタンが1個多い」という独特の表現で言い表したが、当時は「パックマン」のようにジョイスティックだけだったり、左右が反対だったり、ボタン2個だけだったり、さまざまなバリエーションが存在し、なんとなく左にジョイスティック、右にボタンがスタンダードになりつつある頃だったという。

 話は、横井軍兵氏の代表作であるゲーム&ウォッチにおよび、中でも最大のヒット作であると同時に宮本氏が関わった作品でもあるG&W版「ドンキーコング」('82年)のエピソードが紹介された。ゲーム&ウォッチはそれまで液晶を挟んだ左右にボタンひとつずつ付けた単純なインターフェイスを採用していたが、「ドンキーコング」を移植するにはジョイスティックの問題を解決する必要がある。そこで開発されたのが十字キー(宮本氏の表現では「十字ボタン」)というわけである。

 「(ニンテンドー)DSではありませんよ(笑)」と紹介されたG&W版「ドンキーコング」は、確かにニンテンドーDSによく似ており、現在に繋がる同社の携帯型ゲーム機の原点がここにあることを伺わせる。ちなみに翌'83年ファミリーコンピュータを発売する際、コントローラにこの十字キーとボタンを採用しようとしたところ、社内でもの凄い反発があったという。

 新しいインターフェイスは、以前のものに慣れ親しんだ者にとっては、変えることに対してひどく保守的になる傾向があるという。宮本氏としては、家庭用ゲーム機は2人プレイが可能なことが基本であり、2つのコントローラをコンパクトに収める必要があったため、十字キーにボタンというインターフェイスデザインは必然だったという。

 当時は代表的なゲーム機としてATARIとMacintoshが存在したが、「どれを押したらゲームが始まるのかわからない」とコメント。誰でもすぐ遊べるようにするのがファミコンの至上命題だったため、スタートボタンを押せば必ずゲームが始まるように設計したという。また、ボタンを2つに増やしたことについては、宮本氏によれば「そろそろ、そういう時期かな」と思ったと言うが、「このあたりからこれまでゲームを作っていた人と、これからゲームを作る人の間で葛藤が始まった」という。なんとも凄みを感じさせるエピソードだ。

 宮本氏の話は、北米版ファミコンであるNES('85年)、光線銃、ロボット、ゲームボーイと続いた。ちなみにゲームボーイは、2つのボタンの位置を斜めにずらしたことから、いわゆる「Bダッシュ」がやりにくくなるという弊害を産んだが、それでも宮本氏は「自然に押し分けられる」メリットの方を優先させたという。

 インターフェイスにおいて大きな変化が生まれたのが'90年のスーパーファミコン。ボタンが2つから一気に6つに増えたが、宮本氏の認識の中ではゲームの基本は、あくまで十字キーとA、Bボタンであり、差別化を図るために、C、Dに相当するボタンをわざとX、Yとし、視覚的にもグループ分けしている。L、Rについては、当時アーケードで大ヒットしていた「ストリートファイターII」の影響が大きいというが、どんどん複雑になるインターフェイスデザインに抵抗したくて、あえて上部に付けるということを考えついたという。

 宮本氏はL、Rキーはゲームがうまい人が使えばいいという程度に考えていたというが、思ったようにはいかなかったようで、「人は意外と慣れるということをこのとき学びました」と苦笑い。同社としても有効活用してもらうために、「F-ZERO」や「パイロットウィングス」などで、十字キーにL、Rを組み合わせて通常よりさらに右、さらに左という操作体系を提案している。

 続くニンテンドー64では、3Dゲームのためのコントローラとして設計され、360度自由に動けるように、コントローラの中央に8方向移動に対応したアナログスティック(3Dスティック)を配置、その裏には「ゼルダの伝説」等で有効に活用されたZトリガーを付けている。オプションで振動する機能なども取り入れている。ちなみにさりげなく残されている十字キーは、過去のユーザーを捨てきれない任天堂の“いさぎわるさ”の証だということだ。

 ゲームキューブでは、Aボタンを大きくし、その他はできるだけ隠すデザインを採用し、インターフェイスレベルでA、Bボタン以外は使わなくても楽しめるゲームデザインを推奨した。その一方でL、Rボタンにはアナログ機能も付与し、「マリオサンシャイン」や「ルイージマンション」ではゲームの巧い人のためにL、Rのアナログ操作も実際に取り入れている。どちらか一方に偏るのではなく、常に双方のバランスを取りながらの進化の過程が非常に興味深い。

 最新機種であるニンテンドーDSでは、よく知られているようにペン入力、音声認識、ワイヤレス通信機能と、斬新だが親しみやすく、わかりやすい新機軸のインターフェイスが採用されている。中でもバランス良くインターフェイスを取り込んだゲームとしては「Nintendogs」が上げられる。ペンでイヌを撫でられるだけでなく、声によるコミュニケーション機能、そしてワイヤレス通信機能とすべて使っている。

 宮本氏によれば、ニンテンドーDSの対象年齢は5歳から95歳ということで、ノラン・ブッシュネル氏と同様、ユーザーはもっといたはずだという認識(これはATARIショック以前の北米市場やファミコン全盛当時のことを指している)のもと、より多くの顧客を取り込む努力を重ねているという。たとえば、「大人のDSトレーニング」では、より多くの層を取り込むために、完全にペンだけの操作を実現し、文字を大きく見やすく、アイコンもわかりやすくしている。

 宮本氏は最後に未来のインターフェイス像として、同社の次世代機であるレボリューションを取り上げた。リモコン型のコントローラ採用の経緯については、「お茶の間にビデオゲームがあるという前提のもと、そこに何があったら楽しいのか、また、家族全員が触る可能性がある」といったことを考慮に入れ、リモコン1本で遊べることを考えたという。

 また、過去のユーザーを捨てないという取り組みから、既存のゲームもより遊びやすくする必要があると考える。その取り組みから生まれたのが、ヌンチャクと呼ばれるゲームリモコンに接続する追加インターフェイス。これは左手で3D操作をしながら、右手でボタン操作などを行なえるようになっている。いわば現行のPCゲームにおけるマウスとキーボードのインターフェイスの、任天堂流にスマートにさせたものがレボリューションのリモコン+ヌンチャクということになるだろうか。

 最後に、宮本氏は「実はこのリモコンには、まだ秘密があるのですが、それは来年公開します(笑)」と嬉しそうに謎かけをした。それは第2第3の追加コントローラの存在なのか、あるいは既知の部分に謎が隠されているのか、まだまだ予断を許さない。ともあれ、来年の発表が楽しみだ。


■ さまざまなキーワードをテーマに次世代の話で盛り上がったラウンドテーブル

クリエイター3人がひとりずつコメントを述べていくスタイルで進められたラウンドテーブル
 宮本氏の講演のあと、ロビン・ウォーカー氏の「Half-life 2」の開発に関する講演、そして「メタルギアソリッド 4」の実機映像が公開された。いずれもGDCやゲームショウを通じてよく知られている情報なので詳しくは触れないが、ウォーカー氏は、MODコミュニティーを有効活用した、膨大な数のテストプレイを通してゲームの完成度を高めていくという開発アプローチを紹介。

 小島監督は、「メタルギアソリッド 4」のデモ映像について、今回はあくまでまず目に見える部分を実験的に作ってみようという作品で、ここから先が大変だという。最初FPSかと勘違いさせる展開を入れてみたり、オタコンが操る小さなロボットが、「スナッチャー」に登場するサポートロボットそっくりだったりと、遊び心も満載の映像。しかし、小島氏に解説されて初めて気が付いたが、これだけ戦闘的な映像にもかかわらず主人公は一発の銃弾も撃っていない。一見、比較的オーソドックスなテクノロジーデモのような印象を受けたが、そこには小島氏の深いメッセージが込められている。ゲーム本編も同様、ということだろう。

 これからの作品として小島監督は、綺麗な映像だけを作っても仕方がない。綺麗なだけではなくてオブジェクトの素材も感じられる様にし、リアルではなくナチュラルな世界を求めていくつもりだという。ここで重要となるのが、世界の「ディフォルメ」であり、すべてを作り込むわけにはいかないので、ゲームデザイナーが何が重要かを吟味していく必要があると語った。

 その後、2部の締めとして、前述の4人によるラウンドテーブルが行なわれた。テーマはズバリ次世代機と次世代のゲームデザイン。3人の意見はそれぞれの立場の違い、フィールドの違いが如実に表れていて大変興味深い内容だった。現場の臨場感を伝えるため、あえてインタビュー形式で紹介したい。ラウンドテーブルは、ちょうど「メタルギアソリッド 4」の実機映像の公開直後から始まっている。

左から順に浜村弘一氏(エンターブレイン)、小島秀夫氏(コナミ、小島プロダクション)、ロビン・ウォーカー氏(Valve)、通訳を担当した中村彰憲氏(立命館大学助教授)、宮本茂氏(任天堂)。やはりというかなんというか宮本氏の存在感は圧倒的で、比類なき実績に裏打ちされたコメントは常に確信と自信に満ちていた

・次世代ゲーム機は従来機とどう変わるのか?

浜村弘一氏: 「メタルギアソリッド4」のデモ映像の感想をお聞かせ下さい。

ロビン・ウォーカー氏: いいですね、とても興奮しました。早くプレイしたいです。

小島秀夫氏: 早くプレイしたいという言葉はだいぶこたえますけどね(笑)

宮本茂氏: え、僕が答えるんですか?(笑)。 うちも「ゼルダ」をがんばって作ってますよ。お客さんは常に綺麗な映像を求めているが、インタラクティブであり、意味のあるものにしていくのが我々の課題だと思う。

浜村氏: お褒めの言葉をもらいましたね。

小島氏: (宮本氏は)私の師匠ですからね。宮本さんとファミコンがなかったら私はここにいませんから。

浜村氏: ハードの進化によって従来のゲームと比べて、何が変わるでしょうか?

ウォーカー氏: これからのハードで、よりパワフルで、多彩な表現が可能になるだろう。プレーヤーとともに何が可能になるかを探していきたい。

浜村氏: 小島監督は「Half-life 2」に大きな衝撃を受けたそうですね?

小島監督: 息子もびっくりしてました。「Half-life 2」はゲームの世界に物理エンジンを持ち込んだだけでなく、初期からテストプレイを繰り返してテストプレーヤー達の意見を聞いて作り込んだMAPの構成や的の配置が素晴らしい。やられてしまったなと思いました。

宮本氏: ハードの進化は見た目の表現力だけに限りません。DSではWiFiによるオンラインを楽しんでくれている人も多いです。他にもマイクの音声認識技術なども発達しました。なによりもライブラリが発達することで開発が容易になり、今まで以上にどんなゲームを作るかを考えることに時間が使えるようになりました。早く作って、早くお客さんに届けられるというメリットをもっと活かすべきだと思います。

・次世代ゲーム機のエンターテインメントについて

宮本氏は、新世代のグラフィックスやテクノロジーよりむしろ、インターフェイスやクリエイターの意識改革に関するコメントが目立った。宮本氏の話を聞いていると、身の回りにアイデアという名の宝石がゴロゴロ転がっているように感じるから不思議だ
浜村氏: ハードの進化によってゲームの質的な変化が起こるのではないでしょうか?

ウォーカー氏: 特にマルチプレーヤーゲームに関して大きな変化がもたらされると思う。今まで以上にプレーヤーのインプットに対して答えられるようになり、銃で撃ち合うだけではない、プレーヤー同士で何かを作り上げていける事ができるのではないでしょうか。

小島氏: 今までのゲームが高校生だとすると、これからのゲームは大学生だと思います。大学には色々な単位があるがすべて取ることはできません。ゲームの表現力は上がるが、すべてを表現しようとしては企画の段階で間違ってしまいます。ここでデフォルメが必要になります。大学であれば、法学に特化する、というように、専門的な方向性を持たせる必要があるでしょう。

宮本氏: ゲームボーイはモノクロからスタートしました。カラーのほうがいいのはわかっていましたが、電池で20時間駆動させるという課題をクリアするためにはカラーは無理でした。実用性を考えるとモノクロしかありませんでした。

 「Nintendogs」は待ち受けモードにしておくと、通信機能で他の人たちと偶然の出会いも楽しめます。こういったアイデアは昔からあったが、コストの面で今までは実現できなかった。DSというハードを得て、初めてそれに集中したゲームデザインが可能になった。グラフィック技術だけよりも、家族みんなで楽しめるビデオゲームを考えているという方向性を考えています。

 ただ、技術的なアプローチも大事で、例えばゲーム内でトカゲを歩かせてみますよね。鱗の質感やしっぽの影、口からたれるよだれが床に落ちるところまで再現します。そうすると、他のオブジェクトは実はそんなに凝ってなくても、トカゲ並みのクオリティがあるとプレーヤーは錯覚するんですよ。そういうトリックもゲームデザイナーの腕だと思いますよ。

浜村氏: 小島監督と共通する部分もありますね。

小島氏: 私の師匠ですから(笑)。ただ、師匠と同じだけでもいかんなあと思って違うことも考えるようにしてます。

浜村氏: レボリューションのコントローラは非常に興味がひかれますね。小島監督も絶賛してましたよね。

小島氏: 発表の前で喋りたくてしょうがなかったんですけど、我慢していたら、手が勝手に動くんですよ。手を押さえ込むのが大変でした(笑)。リモコンをコントローラにするというのは、やられたと思いましたね。

宮本氏: 社内でも作ってて、発見が多いですよね。まだこんな事で人って喜ぶのか、と思うことが多いです。それから、ゲームをプレイしている人の姿って、今までのゲームでは見たくないという部分があったと思うんですよ。ヘッドマウントディスプレイをつけて手を動かしていたり、画面を見つめる子供の顔にテレビの画面が写っていたりと、親が子供にこんな事をさせたくないというイメージがあって、これを払拭したかった。レボリューションのゲームリモコンは、プレイしている人の姿をほほえましくできないかな、と思って作ったコントローラです。

浜村氏: ロビンさんはこのコントローラでどんなゲームを作りたいですか?

ウォーカー氏: とてもエキサイティングなコントローラで、可能性はたくさんあると思う。ただ、まずはレボリューションのコントローラをプレーヤー達がどう使うのか見ていってから決めていきたいですね。

浜村氏: 小島監督は何を……?

宮本氏: あれでしょ、「女の子にもてるゲーム」。いつも言ってるんですよ、「こんなゲーム作ったら、女の子にもてますかね?」って。

小島氏: 小説家も映画監督もみんなそうですから。基本です。

宮本氏: 冗談で終わらんと、ちゃんと言ってください(笑)。どんなゲームを作りたいですか?

小島氏: あのリモコン型のコントローラはアナログな動きもできますよね。それを活かした……、これ以上は師匠の前では(笑)

宮本氏: ほんとわからないですよね、色々な機能がありますから。

浜村氏: どういった機能があるんですか?

宮本氏: (笑)。大したものじゃないですよ。

浜村氏: レボリューションのコントローラを初公開するときも「大したものじゃない」と言っておいてすごく大したものを出してきましたからねえ……。

・オンラインによる変化

小島氏はオンラインゲームに関して、極めて示唆に富む、本質をえぐる鋭い見解を披露。いま日本のオンラインゲーム市場に求められているのは、まさにこうした見解だろうという気がする
浜村氏: 次は、ゲームの質的変換として、「オンライン」があると思います。今度の「メタルギアソリッド3 サブシスタンス」には、オンライン対戦に対応した「MGO(メタルギアソリッド オンライン)」という要素が入っていますね。

小島氏: あくまで個人的な話しなんですけど、ユーザーの皆さんにゲームを楽しんでもらうために、ゲームを作っているんですけど、僕らが敷いたレールよりも、2人で対戦したり、オンラインで何百人と楽しめる方がどうしたっておもろいんですよ。それを実感したくなかったんですが、(開発している間に)わかってしまいました。

 今後は1人でじっくりプレイできるAIならではのものと、オンライン要素を持ったものを両方作っていきます。今までの作品は僕らが用意しているもの、ここで泣いてもらおうとか、ここはスピードを上げようとか、サービスの職人である僕らが仕込んでいるものに対して、ユーザーはふたを開けているだけでした。最初から用意されているものはユーザーはいつかそのことに気がつきます。オンラインはリアルな人が相手なので、地域や性別によっても展開が変わってくる、ライブなところがあります。

ウォーカー氏: オンラインという可能性は、ゲーム内に限りません。MODコミュニティーの人々は、他のプレーヤーのために様々なコンテンツを与え、交換し、協力し合っています。中には「スター・ウォーズ:エピソード1」のオリジナルバージョンまで作った人々もいるという。こういった様々な熱意を持ち、自らコンテンツを作っていくユーザーに対して、“どう制御していくか”もこれからのテーマの1つとなるでしょう。

浜村氏: ネットワークといえば、DSのWiFiのネットワークはものすごく簡単につながりますね。

宮本氏: 僕らは、4つのゲームボーイを繋ごうとか、GCと繋ごうとか草の根レベルで地道に広げていきました。今、任天堂はネットワークのキーワードとして「簡単、安心、無料」という3つを掲げています。これは現在のインターネットのネットワークが抱えている問題で、どこかでお金がかかるかもしれないとか、誰と出会うかわからないという状態では広がらない。

 任天堂はユーザーがこういったネットに繋げるのを怖がってしまう要素をまず取り除いて、新しいコミュニケーションとして任天堂の遊びのネットワークを考えようとしています。必ずしもネットワークに縛られない、ネットワークをうまく利用した遊びをどう考えるかですね。チャットをしているだけではネットワークゲームのデザインとは言えないと思います。僕らはもっと別なデザインをしていかなあかんな、と思います。

小島氏: 僕はオンラインに関して恐れていることがひとつあります。今まで僕らが提供してきたゲームは、ユーザー個人に向けて、かゆいところに手が届くように心がけてきた。それに慣れ親しんだユーザーが生身の人間を相手にしたとき、時にはいやなこともあり、我慢をしなくてはいけない。そういう空間は面白くないと感じる人もいると思います。

 僕が恐れているのは、AIがオンラインのコミュニケーションが成立する前に劇的に進化してしまい、プレーヤーの便利な相棒になってしまう。プレーヤーは自分に都合が良いAIとのみ遊ぶようになってしまうかもしれない。そうなると、悲しい。僕らはゲームで人の役に立ちたいと考えているので、そういう未来はあってはいけないと思います。

・次世代ゲーム機の社会への影響について

浜村氏: DSのWiFiネットワークなどを見ても、今までのコアユーザー以外のプレーヤーが増えていることによって、社会の影響力も変わっているのではないかと思うのですが、宮本さんはどう思われますか。

宮本氏: 「スーパーマリオ」は、「インベーダー」以降のビデオゲームの楽しさを1本に凝縮したものでしたが、世間には「スーパーマリオ」が全部初めてやったんだと勘違いしている人もたくさんいます。こういった色々な要素を取り込んで、名声を独占するようなゲームがここ数年出てきていません。これまでの技術を自分がやっているかのような顔のできるゲームやハードがそろそろ出てきても良いなあと思っていました。

 たぶんDSは任天堂だと知らなくてプレイしている人もいるし、今までおもちゃ屋に行かなかったような人たちが買いに行っている。DSはタッチパネル、オンライン、音声認識など、今までの技術を利用したハードですけど、知らなかった人はものすごく驚くと思います。こういう機会をどれだけ広げるかが僕らの仕事や、と思いますけどね。

浜村氏: ユーザー層が広がっているというところから、ノラン・ブッシュネルさんにもお話をお聞きしたいのですが、こういった広がりは、ブッシュネルさんの思い描いた世界に近いのではないですか?

ノラン・ブッシュネル氏: 技術が進歩することで、より多くの人がゲームを注目するようになるし、さらに市場は大きくなっていくと思う。現在見逃されている要素であるが、ゲームをプレイしている人はIQが高いという分析もあります。勉強ができるという点とは少し違うが、ゲームをプレイすることで抽象的な思考に長けるというデータもある。これもまたゲームの新しい魅力なのではないでしょうか。

ウォーカー氏: WiFiのネットワークにも様々な将来性があると思う。私はインターネットを通じて、韓国のユーザーとチャットをしたり、ゲームで協力したり、対戦したりすることもある。ネットで世界中のプレーヤーとつながるのはとてもエキサイティングな体験だ。他文化と交流でき、何かを作り、一緒に戦う。ゲームをプレイしていくと言うことに期待していきたいし、継続していけばあらゆる事にインパクトをもたらしていく可能性があるでしょう。

小島氏: これからはゲームは医療や教育などにも活用されるようになっていくでしょう。自分が体験できない世界や、職業、行けない国も見ることができます。ゲームはエンターテイメントとして誕生したが、今後は色々な分野に活用されていくのかなと思います。岩谷さんもおっしゃっていましたが、ゲームを作ること、プレイすることは、人間を知ることだと僕も思います。そのような広がりは見せていくのだと思います。

宮本氏: 個人的にはCADの様なエディタは“最高のおもちゃや”とも思いますが、モノを作りたい人と与えて欲しい人がいるからね。これからどんどん使いたくなるような妙なものというのを作っていきたいですね。

 “脳を鍛えよう”という問いかけに反応しない人はいません。技術はすでにあったのに、今までそういったゲームを誰も作りませんでした。まだまだこれからもこういったものは埋もれていると思います。人が何に興味を持つのかを掘り下げていけば、テレビを間借りしていたところから、ビデオゲームの技術は先端だけではなく、これから何に使われていくか分からないところがあると思います。

・まとめと次世代の次

浜村氏: 最後に最先端のゲームクリエイターの方々に、今一番注目しているキーワードを聞かせてもらいたいと思います。

ウォーカー氏: アクセス性と反応性です。ゲームは本や映画とも違う、新しいものを表現できると思っています。

小島氏: センスですね。様々なものが表現できるようになると思うが、作り手がセンスを発揮しなくてはいけない。受け手が感受性豊かになったと感じるようなものを作っていかなくてはいけない。技術に呑まれてはいけないと思っています。

宮本氏: 家族、みんな、ですね。やっぱり人に驚いて欲しくてモノを作ってきたので、せっかくなら家庭でみんなが驚くものをつくっていきたい。家族で明るい話題となるものがどれだけ作れるか、というのが永遠のテーマです。目の前のテーマは言えませんから(笑)。

□立命館大学のホームページ
http://www.ritsumei.ac.jp/
□「Digital Interactive Entertainment Conference 2005」のページ
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/DIEC2005/
□関連情報
【12月2日】国際シンポジウム「インタラクティブ・エンタテインメントの歴史と展望」が立命館大学にて開催
武邑教授「いかに現実を強度に編集し、知覚のドラマをデザインするかが重要」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20051202/diec_01.htm
【10月12日】立命館大学、国際シンポジウム「インタラクティブ・エンタテインメントの歴史と展望」を12月2日に開催 任天堂宮本氏、コナミ小島氏、ナムコ岩谷氏などが出席
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20051012/ritsumei.htm
【9月16日】任天堂、岩田聡氏が基調講演でRevolutionのコントローラを初公開!
片手で遊べる、さわる感覚の斬新なコントローラー
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050916/iwata.htm

(2005年12月3日)

[Reported by 中村聖司]


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