★PCゲームレビュー★
シナリオセレクター機能で幅広い拡張性を実現
初代に近いゲームバランスのダンジョンが追加
ウィザードリィ・外伝 ~戦闘の監獄~
追加シナリオ『慈悲の不在』 |
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世界最古の歴史を誇るコンピュータRPG「Wizardry」は、日本においては特に人気が高く、関連タイトルが未だに作られ続けている。それらの中でも他タイトルとは一線を画しているのが、PCプラットフォームの「戦闘の監獄」シリーズである。特にインターネットを用いたシナリオ配信が画期的な試みで、相当コアなWizフリークをも満足させ続けているのだ。
そして今回紹介するのは、かつてコンソール版「ウィザードリィ」を制作し、国内におけるWiz人気を定着させたゲームスタジオによる追加シナリオである。それでは“原点回帰”という意味ではシリーズ中随一となるであろう追加シナリオ、「慈悲の不在」のレビュー記事をお届けしよう。
■ 過去にコンソール版を多数手がけたゲームスタジオによって、Wizが今再び蘇る
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戦闘の監獄は、日本独自の展開を見せるWisシリーズの最新作。総てのダンジョンRPGファンに自信を持ってお薦めできる内容だ
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「慈悲の不在」はシリーズを通して5番目のダンジョン。今回は初心に返り、あらゆる面がシナリオ1を意識した作りになっている
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新機能の“シナリオセレクター”には今後も要注目。「戦闘の監獄」仕様にとらわれない、幅広いゲームシステムが実現可能となったのだ
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「ウィザードリィ・外伝 ~戦闘の監獄~」(英題:Prisoners of the Battles)は、日本国内のスタッフによって独自の展開を見せる、伝統あるRPGシリーズの最新作である。基本仕様はシリーズの支柱と言える第1~3作をベースに、それでいてWizの面白さを損なわない様々な調整がなされているのだ。
単刀直入に言うならば「戦闘の監獄」は、現時点におけるWizの国内展開の集大成である。筆者は初プレイ後半年が経過した今でもこの気持ちに変わりはない。とりあえず「戦闘の監獄」本編については、これ以上とやかく言うよりも、以下のレビュー記事に目を通してもらう方が話は早いだろう。
■PCゲームレビュー:ウィザードリィ・外伝 ~戦闘の監獄~
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050324/wiz.htm
■PCゲームレビュー:ウィザードリィ・外伝 ~戦闘の監獄~ 追加シナリオ『テッドの迷宮』
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050526/wizadd.htm
さて、「戦闘の監獄」が他のシリーズと大きく異なる点として、データの提供方法がインターネットを通じたダウンロード配信であることが挙げられる。それらの中でも目下注目を集めているのが、追加シナリオで新たなダンジョンに挑戦できるようになること。今回主に紹介するのは、追加シナリオの第2弾となる「慈悲の不在」(英題:the Absence of Misericordia)というわけだ。
まずは「慈悲の不在」の基本仕様に触れてゆくと、シナリオとマップデザインを担当したのは株式会社ゲームスタジオ。そう、かつてコンソール版の「ウィザードリィ」シリーズを制作し、国内でのWiz人気を不動のものとした、遠藤雅伸氏が率いるあのメーカーである。それらの中でも特にファミコン版のシナリオ1は、単なる移植作の領分を完全に超越した出来映えで、末弥純氏を抜擢したグラフィック等は当時極めてセンセーショナルだったのを覚えている読者も多いだろう。
今にして思えば、仮にファミコン版のシナリオ1が当時ヒットしていなければ、現在まで続く国内のWizブームも無かったかもしれない。それほどまでの実績を築き上げたゲームスタジオなだけに、「慈悲の不在」での再タッグは大いに期待できる。そしてグラフィックに関しては、山宗氏の書き下ろしによる新モンスターが追加。山宗氏は過去の「戦闘の監獄」シリーズでもグラフィックを担当しており、今回の新モンスターも違和感が無く、雰囲気たっぷりに仕上がっている。
「慈悲の不在」の入手方法に関しては前回の「テッドの迷宮」と異なり、「Livedoorダウンロード」や「PaO」からの有料ダウンロード形式(1,575円:税込)となっている点に注意してほしい。決済方法はクレジットカードやWebmoney等複数が用意されているが、詳細については公式サイトを直接確認するのが良いだろう。
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本シナリオを制作したのは、国内Wiz展開の大御所といえるゲームスタジオ。Wizのフリークにとっては創造主にも等しい存在である |
今回のフロアは16×16マスという構成。少しづつダンジョンを探索し、キャラクタを強めてゆく課程はシリーズ共通の醍醐味 |
追加モンスターも用意されているが、それらのグラフィックには違和感はまったく感じない。従来の雰囲気を忠実に引き継いだという印象だ |
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“三種の神器”を初めとしたWizを代表するアイテムの数々は健在。今回はエンチャント要素が無い分、より従来シリーズに近い性能 |
マジックアイテムの収集や転職など、キャラクタ育成の奥深さは保証付き。20年を経たシリーズなれどゲームの本質面は損なわれていない |
本稿では基本システムの説明をばっさりと省いている。興味を覚えたユーザーは是非一度以前のレビュー記事を参照してみていただきたい |
■ 初代シナリオ1に極めて近いゲームシステムを採用した「慈悲の不在」
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今回のゲームシステムは初代シナリオ1に極めて近い。それによって原点回帰色の濃い内容となっているのだ
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基本的にWizのストーリーはあってないようなもの。プレイヤーが想像力を働かせやすいよう、世界観の押しつけは行なわれていない
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今回は「戦闘の監獄」ベースの独自仕様が撤廃されているのが最大の特徴である。例えばマジックアイテムのエンチャントや二刀流、他にもユニークアイテムやミニマップといった機能は無い。つまり前回の「テッドの迷宮」とは異なり、ダンジョンの追加のみならず、ゲームの基本システム面から手を加えられているのだ。その結果「慈悲の不在」の基本システムは、初代Wizのシナリオ1に限りなく近いものとなっている。
次にゲームのストーリーを簡単に紹介しておこう。集落“ウィンターネディア”では丸二年もの間猛烈な寒波が続き、旅人が峠を超えられなくなっていた。冒険者は峠を利用する商人からの依頼を受け、長引く冬を終わらせるために“慈悲の聖母”を奉った礼拝所へ赴くという内容である。従来の世界観とは関連性がなく、キャラクタデータの移行も行なえない。よってレベル1からの再スタートとなるが、これはゲームバランスの観点から見ても妥当といえるだろう。
ダンジョンの規模に関しては、1フロアが16×16マスの全9階構成で、想定するキャラクタレベルは1~25前後。前回の「テッドの迷宮」よりも大分コンパクトに押さえられているのがよくわかるが、これは恐らくシナリオ1を意識しているため。実際にプレイしてみるとまったく別のシナリオではあるのだが、年季の入ったフリークならば奇妙な懐かしさを随所で感じられる。
それらの中でも個人的に大受けしたのが、地下1階に降りたすぐ目の前に設置された井戸である。この井戸はシュートとなっており、踏み込むと一気に地下6階まで落ちてしまうのだ。そして、駆け出しの冒険者は右も左もわからないままに、井戸の底で待ちかまえる化物“クラーケン”からの強烈な洗礼を受けるのである……。はたして本誌の読者の中に、初の国産RPG「ザ・ブラックオニキス」の経験者がどれだけ居るのかはわからないが、こういったオマージュが全編に散りばめられている。
ゲーム全体の流れとしては、下層へ行くには鍵となるアイテムが必要で、その課程で様々な仕掛けをクリアしなければならない。時にはモンスターから低確率でドロップするアイテムも必要とするが、基本的にはオーソドックスな作りとなっている。よって極端な驚きは少ないものの、程よい緊張感を楽しみながらプレイできるだろう。とはいえまかり間違ってもWizであるため、気を抜けば即座に灰となるシビアさは言うまでもない。
大まかな感触としては「慈悲の不在」の地下1~8階が、シナリオ1全体分に相当するボリューム。そして9階はボーナスマップ的な位置づけとなっている。詳しくはネタバレになるので控えるが、地下9階はとてもユニークな仕掛けなので是非とも挑戦してみてほしい。
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ダンジョンへ足を踏み入れるといきなり井戸が登場。縄梯子があるから安心しがちだが、実は地下6階行きという強烈なトラップである |
写真のクラーケンはレベル1のグループが遭遇すると確実に壊滅する。一見無茶苦茶だが、思えば昔のゲームは確かにこんなのばかりであった |
気を取り直して、地下1階から地道に探索を再開する。少しづつ探索範囲を広げてゆく楽しさは、従来のWizシリーズとなんら変わらない |
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Wiz名物“マーフィーズゴースト”の名残だが、この名称は我々フリークのことを差しているのだろうか。ちなみにここでは例の裏技も可能だ |
各階では行く手を阻む場所が設けられている。これを乗り越えるために、鍵の役割を果たすアイテムを探し求めてゆくのだ |
ゲームの中盤では比較的楽に攻撃回数アップの武器を入手できる。この辺りでグループ全体の戦力が一気に底上げされる |
■ 正真正銘の原点回帰作である本シナリオを否定するのはWizフリークに非ず
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本シナリオにクリア時におけるレベルは15~25といったところ。原点回帰を目指したシナリオであれば、これ位のバランスが妥当といえる
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仮に慈悲の不在に対して物足りなさを感じるのであれば、自分がいったいWizに何を求めているのかを、一度考え直してみる必要があるだろう
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「戦闘の監獄」の操作システムは正に“シンプルイズベスト”というべきもので、長期間プレイするとまるで手足のように使いこなせるようになる。今回の「慈悲の不在」はシリーズ中5つめのダンジョンということもあり、筆者はまったくストレスを感じることなく大いに楽しめた。だが、仮に集中的にプレイした場合は2~3日でクリアする人もいると思われる。特に前回の「テッドの迷宮」の規模が圧倒的だった件もあり、「慈悲の不在」は初の有料シナリオにしては、若干の物足りなさを感じてしまう人はいるかもしれない。
だがしかし、そうではないのだ。恐らく制作側は、これをシナリオ1に極力近づけることを目標としていたはず。その事情を踏まえるに、今回の“シナリオ1+α”程度のボリュームは必然的といえよう。これが仮に「テッドの迷宮」のような巨大ダンジョンだった場合、一部の口うるさいフリークは「こんなのWizじゃない。シナリオ1の方が良かった」などと我が侭を言い出すに決まっているのだ。20年以上の歴史を持つ、世界最古のコンピュータRPGにはそういった側面もある。
「慈悲の不在」はシナリオ1から極端に変わってはいない。変わったのはWizではなく、誇大化したゲームに慣れきった我々ゲーマーの方なのだ。その証拠にかつてシナリオ1を最初にプレイした頃は、あれほどまで新鮮な気持ちで何ヶ月も夢中になり続けたではないか。すなわち「慈悲の不在」を否定するのは、いわば今まで愛してきたWizを否定するのとまったく同義だと筆者は思う。
もうひとつ焦点となりうるのは、マジックアイテムのエンチャントや二刀流等といった、「戦闘の監獄」独自仕様の有無だろうか。しかしこれについても、両方あって良いではないかというのが今の気持ちだ。なにせシナリオセレクターでいつでも好きな方を選べ、そしてどちらも完成度が高いのだから、それに越したことはないだろう。個人的にはむしろ、この新機能によって追加シナリオの拡張性が大幅に広がったことが嬉しくてたまらない。もしかすると今後は、例えばシナリオ4のような極端なシステムも実現可能なのだろうか?
よって「慈悲の不在」の総合評価としては、ノスタルジックに浸りたいWizフリークに対しては、他のどのシナリオよりも自信を持ってお薦めできる。1,575円という値段をどう見るかは人それぞれだが、前回の「テッドの迷宮」が無料という方が本来ありえない待遇なだけに、少なくともトータルで考えれば十分すぎるほど元は取れているはずだ。
ただし唯一気になったのは、最終盤に登場するマジックアイテムのバランスである。いったい何故かはわからないが、その多くが戦士用に特化されすぎているのだ。逆に盗賊用の武器などは相変わらず冷遇されており、これから始める読者は気をつけてほしい。他にはまったく文句の付けようがない出来映えなものの、最後だけは詰めが甘かったという印象である。
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先のクラーケンを倒せるようになると、地下6階まで一気にショートカットが可能となる。しかし井戸には他にも重大な秘密が隠されている |
写真のジュエルリングは、ウィザードアイの呪文が使えるという優れもの。破壊率は体感で10%前後と低く、非常用として常備しておきたい |
中にはユニークなアイテムも登場する。盗賊の防御力はかなり低いが、これを装備すれば人型のモンスター相手にはうまく立ち回れそうだ |
それにしても「戦闘の監獄」が追加シナリオも含めて、これほどまでの完成度を維持し続けているのは、まったくもって脱帽せざるを得ない。しかも本編は英語翻訳のテキストも収録しているので、仮にこのままでも海外輸出を行なえる仕様なのである。つまり、PCプラットフォームである本作を通じて、これまで10年以上のノウハウが培われた国内独自のWiz展開は、ようやく世界レベルで評価される環境が整いつつあるのだ。
現在の正伝シリーズであるシナリオ6以降のWizは、決して駄作とは言わないが、ゲームシステムが根底面から変えられている。そういった状況の中、真の意味でWizの魂を受け継いでいるのは、むしろ我が日本で展開されるアレンジ版ではないだろうか。そのアレンジ版の集大成ともいえる本作が、世界に向けて「これが本当のWizなんだよ!」と突きつけたという事実が、同じ日本人として極めて痛快である。「戦闘の監獄」には是非ともこの調子で、これまでWiz国内展開に携わった人達を総て引きずり出し、そして我々フリークを満足させ続けてくれることを大いに期待したい。
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敵味方の数値面がややバブリーだった従来シリーズと比べて、よりシナリオ1に近い作り。すなわち正真正銘の原点回帰作だ |
個人的にはシナリオセレクターの登場が一番の収穫であった。いったい今後、本シリーズがどのような展開を見せてゆくのか楽しみでならない |
本シリーズのレビューでは毎回褒めちぎっているが、実際に面白いのだから仕方がない |
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【ウィザードリィ・外伝 ~戦闘の監獄~】
- CPU:Pentium III 1GHz以上
- メインメモリ:不明
- HDD:200MB以上
- ビデオメモリ:8MB以上
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□「ウィザードリィ・外伝 ~戦闘の監獄~」のページ
http://wiz-pb.jp/
□関連情報
【5月26日】PCゲームレビュー:戦闘の監獄・追加シナリオ『テッドの迷宮』
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050526/wizadd.htm
【3月24日】全ダンジョンRPGファンがプレイすべき原点回帰を目指したシリーズ最高傑作!!
PCゲームレビュー:ウィザードリィ・外伝 ~戦闘の監獄~
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050324/wiz.htm
【1月17日】IRIコマース&テクノロジー、完全新作の「Wizardry」
WIN「ウィザードリィ・外伝 ~戦闘の監獄~ Prisoners of the Battles」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050117/wiz.htm
(2005年9月6日)
[Reported by 川崎 政一郎:kawasaki@ln3.jp]
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