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ガンホー、「エミル・クロニクル・オンライン」特別レポート
“新しいコミュニティシステム”の中身とは!?

6月13日収録

会場:ガンホー本社

 3社合同による「エミル・クロニクル・オンライン(ECO)」の正式発表から1カ月あまりが経過した。各分野のリーディングカンパニーが総力を結集して贈る純国産MMORPGとして、オンラインゲームファンのみならず、メディアや投資家などからも熱い注目を集めているタイトルである。

デモは引っ越したばかりの有楽町のガンホー本社にて行なわれた
 日本発の文化である「萌え」の要素、オンラインゲーム運営、そしてオンラインゲーム開発のノウハウをふんだんに取り入れた純国産MMORPGの新定番。コンセプトとしてはこれ以上ないというぐらいに明確であり、非常にわかりやすいタイトルである。

 しかし、我々メディアの眼から見ると、とにかく謎まみれのMMORPGという印象が強い。制作発表会では、各社の役回りや作品に対する抱負が紹介されただけで、肝心のゲームの紹介については「今後の発表にご期待ください」というレベルに留まった。トゥーンシェーディング、着せ替え要素、マリオネットシステムといった明瞭なキーワードの先に何があるのか。何かがあるのは確実だが、それが何なのか実はよくわかっていないのである。

 この“萌え”の要素はとにかくインパクトが強いため誤解されがちだが、仮に同作が上記どまりのMMORPGだったら成功はおぼつかないだろう。“萌え”の要素は、プレイの動機、きっかけにはなりえても、それそのものが目的にはならない。萌え路線のMMORPGの代表格であるガンホーの「ラグナロクオンライン」にしても、ジョブ、スキル、精錬、カードなどなど、キャラクタ育成に関して圧倒的な量のバリエーションと奥行きを盛り込んでいた。

 ECOに関しては、そうしたディテールがまるでわからない。運営を担当する表看板のガンホーにしても、初の自社タイトルということもあって、メディアへの情報露出にはこれまでになく慎重になっている。しかし、数度の交渉の結果、今回ようやく取材する機会を得たので、本稿では同作の新要素をわかった範囲内で紹介していきたい。その過程で判明したゲームのディテールについても別稿にまとめているので、そちらも合わせて参考にして頂きたい。

 今回、取材に応じて頂いたのは、コンテンツ開発部マネージャーの岩田容賢氏と、マーケティング部第2企画グループマネージャーの小島幸博氏の両名。取材では、岩田氏自らが操作してデモをして頂いた。デモにはテスト用のキャラが使用され、移動はもっぱらシステムコマンドを利用するなど、特殊な環境で行なわれた。年内サービスインとまだスケジュールに余裕があるためか、ゲームとしてはまだまだ発展途上といった印象だが、“ハコ”としてはかなり出来上がりつつある。「もうそろそろβテストをやってもいいのでは?」といった印象である。


■ 一見3D見下ろし型のオーソドックスなレベル制MMORPGだが?

ECO制作担当の岩田容賢氏。元GM Rockといったほうが通りがいいかもしれない。質問のほとんどに答えて頂いた。
ECOのマーケティングを担当する第2企画グループマネージャー小島幸博氏。情報の露出のさせ方に頭を悩ませているという
 まず、基本的なシステム仕様をまとめておきたい。グラフィックスは、すでに発表されているようにフル3Dを採用している。グラフィックスエンジンはネットコードまわりも含め、すべてヘッドロックの方で開発されている。解像度は640×480ドットから1,024×768ドット程度まで対応し、視点は常に3人称見下ろし型となる。ズームイン・ズームアウトや視点変更も自由に行なえるが、1人称視点にしたり、空を見上げるような視点にしたりといったことはできないようだ。

 グラフィックス的な部分では、すべてのフィールドには光源が設定されており、キャラクタの向きによって明暗の変化を表現する。影については「無し」、「丸影」、「投射テクスチャマッピング」の3段階を用意し、オプションで描画範囲も細かく設定できるなど、ユーザーのマシンスペックに柔軟に対応する。

 インターフェイスについては、基本的にマウスのみですべての操作を可能にする。ショートカットキーはファンクションキーとAtl、Ctrlを使って36個を用意。これはマクロとしても利用でき、スラッシュコマンドを数ライン埋め込めるようにもなっている。インターフェイスについては韓国産と欧米産のいいとこ取りいった印象である。

 メニューウィンドウについては、未確定とのことなので詳述は避けるが、基本はウィンドウごとに可変になっていて、位置やサイズを自由に変えられる。また、右上には3つの四角アイコンがあり、クライアントの最小化、フルスクリーン化(ウィンドウ化)、オプションといった機能が付与されている。その隣には複数のランプが並んでおり、ランプの状態によってサーバーステータスがリアルタイムに判別できるという。また、ユーザーサポートの際に、そのパターンによって、クライアントがどういう状況であるかもわかるという。いかにもガンホーらしいアイデアである。

 キャラクタのステータスについては、HPやMPといった基本的なパラメータ以外に、CAPAとPAYLという2つのパラメータが用意されているのが目を引いた。前者はキャパシティの略で、キャラクタが一度に持てる容量を示し、後者はペイロードの略で、こちらは重量を示している。いずれも新機軸というわけではないが、2次元的に管理するのはおもしろい考え方である。

 個人的に一番興味を覚えたのは、ウィンドウ表示にも対応していることだ。岩田氏によれば、「ファンサイトや攻略情報をチェックしながらゲームをしたいというニーズに対応した」という。しかし、ウィンドウ表示のサポートは、エンドユーザーにとってはマルチタスクでPCをより有効活用できるという点で絶大なメリットがあるものの、運営側にとってはリスクそのものであって、通常対応することは考えられない。

 わかりやすい例だと、ウィンドウ表示をサポートすることにより、BOTを初めとしたさまざまなチートツール、キーボードマクロなど、外部ツールの侵入が避けられなくなる。そのリスクについては、「そのリスクについては承知していますし、外部ツールの使用は認めませんが、基本コンセプトとして“それをやっても意味がないよね”と思わせるようにします」という。

 この岩田氏の回答は、制作発表会の際にヘッドロックの岡田社長が紹介した「キャラクタ間の能力格差の是正」にも通じるところがあり、ここが言わばECOのキモといえる。続いては、このキモについて見ていく。

初公開されたECOのゲーム画面。何気ないことだが、キャラクタに陰影が付けられているだけで、立体的に見える。デモを見た限りでは、パタパタ動く天使の羽がいい感じだった


■ ECOの究極の目標は“ビジネス的に無視できないコミュニティに起因するゆがみ”の解消

ECOのバトルシステムは、「ラグナロクオンライン」にも似たオーソドックスなリアルタイムアクションになっている
本文では特に触れなかった、周囲4カ国の扱いも謎だ。コミュニティシステムに絡んできそうな要素ではある
 今回のデモプレイでは、狩りのシーンも見ることができた。マウスで敵キャラクタをクリックし、通常攻撃やスキルを交えつつ、敵を倒していく。倒された敵は四散して、アイテムを残して消え、プレーヤーはベースレベルとジョブレベルの経験値、そしてドロップアイテムを獲得する。狩りのアプローチとしては、「ラグナロクオンライン」を初めとした韓国産MMORPGとまったく同じである。

 「これではやはり寝マクロやBOTツールの使用者が出てくるのでは?」と聞いてみると、さきほどとまったく同じ回答を繰り返し、さらに「レベルが上がらなくても楽しめる、レベルが上がり強い敵を倒せるようになっても、それだけでは楽しめないこともあります」と禅問答のような答えが返ってきた。つまり、レベル制のMMORPGでありながら、ECOにおけるキャラクタのレベルは、ゲームプレイの可能性を広げるマスターキーではないというのだ。

 レベル制MMORPGは、キャラクタのレベルを上げることで強くなり、また新しいフィールドが開放されたり、特定のコンテンツへのアクセス権を得たりなど、レベル上げ大前提のものがほとんどだ。生産系のコンテンツは、表向きレベル上げは必須ではないが、素材を得るために高レベルである必要があり、結局レベル上げの呪縛から逃れられない。

 このレベル上げと各種コンテンツとのウェイトはゲームによって千差万別だが、オンラインゲームとはいえ、基本はオフラインゲームと同様、コンテンツ消費型のプロダクトであるため、簡単にコンテンツを消費し尽くされてしまわないように、レベル上げにかかるウェイトを意図的に重くし、一種のリミッターをかけている。

 しかし、単に重くしただけでは誰も遊んでくれないから、ほとんどのゲームが、レベル上げの過程そのものを充実させたり、レベル上げ終了後のご褒美をリッチにする方向でデザインされている。これらは言い換えればメーカー優先型のゲームデザインであり、その過程で必要な膨大なプレイ時間と、時間に比例したユーザー間の能力格差は、「やむを得ないもの」として切り捨てられる傾向にある。

 こうしたオンラインゲームの負の側面については、オンラインゲームが他のユーザーとのリレーションシップで成立するエンターテインメントであることが、問題をよりいっそう複雑化させている。エンドユーザーとしては、自分の尺度でプレイした結果、仲間と能力格差が生まれるのは困るわけである。この能力格差を解消する積極的な手段が、不正行為であり、RMTであり、消極的な手段がログイン忌避、そして退会である。いわゆる岡田社長の言うところの「ビジネス的に無視できないコミュニティに起因するゆがみ」である。


■ 能力格差を解消するための“新しいコミュニティシステム”とはいったい何なのか?

岩田氏は開発出身ではないが、豊富なGM経験を生かして、コミュニティの利益を最大限にするプランを模索しているようだ。きわめてユーザー寄りのプロデューサーといえる
 ECOでは、こうした能力格差の問題を解消するための“新しいコミュニティシステム”を採用するという。この具体的なからくりについては「もうしばらく時間をください」ということだったが、内容を示唆するヒントはいくつももらえた。ミスリードの恐れがあるので断定は避けたいが、多面的に解決策を模索しているのは間違いないようで、非常に興味深い。コアなMMOファンならピンと来るかもしれない。

 まず、レベル上げについては、通常の狩りだけでなく、クエストを初めとした他の手段も用意するという。つまり、レベル上げのアプローチを多角化する模様だ。しかし、その一方で、オーソドックスなRPG的な狩りや冒険の楽しさも大事にするため、狩りによるレベル上げは、これはこれで残すという。

 次に、レベル上げの際の基本セットであるパーティーについてもユニークな趣向を考えているという。いわゆる狩りは、ソロ、パーティーと、プラスαの3種類で可能になっていて、プラスαは人数の単位ではなく、別の概念だという。いずれにしても「レベルの近いフルパーティーだと一番効率が良い」というようなガチガチのスタイルにはしないという。

 同作は、不思議なことにキャラクタの職業や職業ギルド、同好の士の集まりであるいわゆるギルド、そしてプレーヤーが所属できるという国家など、コミュニティに関してのディテールが一切伏せられている。“新しいコミュニティシステム”とは、実はこのあたりのことを指すのではないかと思われるのだが、岩田氏は最後に「自分だけじゃなくてみんなが楽しめないと、自分もおもしろくないという(笑)」という謎かけをくれた。


 以上から推測できるECOの方向性とは、自分の利益が他人の利益にもなり、他人の利益が自分の利益にもなり、また熟練者と初心者の間で、対等のリレーションシップが結べるというゲームデザインである。

 この考え方に近いMMORPGとしてはTurbine Entertainmentの「Asheron's Call」シリーズがある。ACシリーズでは、コミュニティの核にAllegiance(忠誠)システムと呼ばれる、主従システムを採用し、プレーヤーのプレイスタイルやプレイ時間に応じた、“役回り”を用意し、能力格差によるコミュニティのゆがみをシステム的に解消していた。

 ECOではどういうシステムが導入されるのかはわからないが、いずれにしてもゲーム内で発生した課題を、ゲーム内のシステムによって解消するというのは、正しいアプローチだと思う。ゲームの中身共々、この新システムの開発に注目していきたいところだ。

(C) 2005 BROCCOLI/GungHo Online Entertainment,Inc./HEADLOCK Inc.

□ガンホーのホームページ
http://www.gungho.jp/
□ブロッコリーのホームページ
http://www.broccoli.co.jp/
□ヘッドロックのホームページ
http://www.headlock.co.jp/
□「エミル・クロニクル・オンライン」のページ
http://www.econline.jp/
□関連情報
【6月8日】トリオ・ECO、「エミル・クロニクル・オンライン」
アイディアを募集する「みんなで作ろうキャンペーン」を開始
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050608/eco.htm
【6月8日】「エミル・クロニクル・オンライン」詳細レポート
ゲームシステム、世界観、スクリーンショットを紹介
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050421/eco2.htm
【4月21日】トリオ・ECO、「エミルクロニクルオンライン」を正式発表
“萌え”を強く意識した新基軸満載のファンタジーMMORPG
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050421/econline.htm

(2005年6月15日)

[Reported by 中村聖司]


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