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会場:Los Angeles Convention Center
坂口博信氏(以下、坂口) 最初、ハードは特になにも決めていなくて。スクウェアを退社してから2年半ほど休んでいたんですけども、去年のアタマくらいですか。やっぱり物作りを続けたいな、という個人的な想いからスタートして。そのなかで、せっかくの再スタートだから「作り方をちょっと変えたいな」という考えがありました。大組織のトップとしてやっていた、自分の開発チームを上手くまわしていくというところでの物作りではなく。どうしてもそういう考え方から発想してたんですけども、最小単位になりましたから、まず……本当に自分が納得いくものができるまで、いわゆるシナリオ、コンセプトアート、テーマ音楽みたいなもの、いわゆるプリプロダクション(プリプロ)ですよね。そういうのをずーっと反芻して、本当にこれに大量の人、お金、物を投入してもいいんじゃないかっていうところまでジワジワやってたかったんです。 それでミストウォーカーで活動をはじめたんですけども、ちょうど井上さん、鳥山さん、植松さんとか……まぁ昔からの知り合いで飲み会をしながらですね、そんななかで「一緒にやろうよ」という話が湧き上がって、プリプロふたつの終盤が見えてきた。まぁ、ふたつ見えてきたっていうのは、どちらかというと鳥山さんと井上さんがいたっていうのが大きいんですけど。それぞれ世界観やキャラクタが違うし。そこから自分が発想するゲームっていうのは、全然違うものでしたから。 そして、ふたつのプリプロが済んだところで、たまたま丸山さんと川井さんに会った。丸山さんはスクウェア時代に「RPGはアメリカで絶対に売れない」っていう、FF6、スーパーファミコンの時代。そのあと「FF7でも無理だろう」と言われていたんですけども、それをなんとかしたいということで一緒にやった人間なんです。「ファイナルファンタジー」という名前を知ってほしいと、本当にアメリカ中を一緒に駆けずり回った、そういう信頼感もありましたし。川井のほうは、FF7からプログラマをやっていて。FF9ではメインプログラマで、ちょっとディレクションみたいなことも手がけて。それは、開発者として物凄く信頼感があるという話。ボク、ゲーム作りは最終的にプログラマがしっかりしてないとダメ。物作りが崩壊しますから、と思っているところがあって。そのふたりがいたから、ですよね。マイクロソフトとかXbox 360だから選んだっていうよりは、信頼感のあるマーケティング、開発のトップと組めたっていうのがキッカケですね。ちょうど、そのプリプロが進んでましたから。本製作にいくにあたって、大量の人や資金が必要ですから。そこも、もちろんマイクロソフトの考えている「強いRPGが作りたい」という考えと合致したということですね。 ――それでは、はじめから次世代ハード前提ではなかった? 坂口 そうです。現世代でも、ボクはいいかなと思ってやってました。ですから、そういった意味では……変な話ですけど、たとえばスクウェア・エニックスと組んで、PS2で「ブルー・ドラゴン」ということも有り得たし。そういう気持ちでプリプロは進めてましたから。 ――坂口さんといえば、グラフィック、デザインに凝るというイメージがあるんですが、実際にはシステムについても相当考え抜かれていますよね。今回は、そういったシステムに対して重きを置いているように見えるのですが? 坂口 そうですね。ビジュアルは次世代なんでハイビジョン解像度だし、かなり力も入っているんですけど、作りたいのは……なんていうんだろう。感覚としては、昔のファミコンカセットの時代って、ひとマスひとマス壁を押して総当りしたり、結果的にやり終えたときに「もう、このカセットで知らないことはない」という“征服感”ていうか。そういう感覚があったじゃないですか。それに近い感覚が欲しくて。とにかく“反応”させたい。キレイな映像っていうだけじゃなくて、その映像のいたるところ、あちこちに反応がある。要は、その裏にデータが潜んでいる。仕掛けがしてある。それを物凄いテンコ盛りにすることで、みんなが「とにかく触るのが楽しい」と。どこか新しいところにいったときに、なにが仕掛けられているんだっていう、ゲームならではの要素ですよね。そこはやっぱり利用したいし。鳥山さんのほうは、影がドラゴンになったりするんですけど、それはビジュアル的な考えで出来てると見られがちなんですけど、実はかなりシステム寄りの話。あそこがFFやドラクエでいう転職やジョブチェンジですね。そういう切り替えがあって、手に入れたものを組み合わせていく。いわゆるスキルを組み合わせる。そこは物凄く重要視しています。かなりのやりこみ系なんですよ。 ――「ロスト・オデッセイ」のほうは、逆に“感動させる”とか、訴え掛ける部分が違ってくるのでしょうか? 坂口 最初の発想は、どちらかというと「重松さんと組みたい」というのが井上さんより前にあって。重松さんの小説のファンなんですけど、短編で結構ホロっとくる話が多いじゃないですか。母と子の話だったり、母親を失くした親父さんと子供の交流だったり、あれは今までゲームで味わったことがない。ただ、それではゲームは作れないので、本編は政治劇なんですよ。もちろん戦いのドラマ。だけど、そのなかに「なんかアレを埋め込みたいな」っていうのが最初の発想。それで“千年生きていた男”っていう設定なんですけど、彼は千年分の家族との思い出を持ってますから。それは重松さんに語ってもらって、なんかこう、ちょっとホロっと。こういう涙はゲームで流したことないよな、と。新鮮な要素を入れたかったんですよね。 ――鳥山さんと井上さん、このふたりが参加されたことが単純に驚きなんですが、どういう形で参加に至ったのでしょう? 坂口 井上さんは、結構……6回か7回くらい「仕事やりましょうよ」みたいな形で飲みましたね。井上さんは「ボクは正直ゲームやらないし、あんまりデジタルなこともやらないんで」って。それは13日の発表会でも言ってましたけど「いや~、ゲームとか興味ないから」っていう(笑)。そういうなかで、やっぱり一番大きかったのは、重松さんとの話が先だったこと。インタビューで重松さんと対談みたいなのを1回やったことがあって。そのときに実は同い年で「あしたのジョー」の話とかで盛り上がってですね「おー、同世代じゃん!」みたいなところで(意気投合して)。さらに、井上さんが重松さんのファンなんですよ。「なんで重松さんなの? ゲームっぽくないじゃん」っていうところから、今の「違う話を入れたいんですよ」と。そこにフックがあったみたいで。あぁ、なんか違うことをやろうとしてるのね、っていうので興味をもってもらって。そのうちに「じゃぁやろう」と。元々「バカボンド」とかもそうじゃないですか。“人間を描きたいんだ”っていう人なんで。「ボクもそうなんです」っていってたけど、最初信じてもらえなかったんです(笑)。重松さんの話とか、そういうことをするうちに、じゃぁ一緒にやろうっていう。それはボクが目指しているところと一緒だからっていうんで。 鳥山さんは「クロノトリガー」とかで結構やってましたし、そういう意味では集英社の方、ジャンプの方も含め、ちょっと雑談めいたものもやりながら。最初は意外とすんなり始まったんです。「まぁ、やろうか」みたいな。ただ、「ドラゴンクエスト」も作ってるし、そういうなかで「なんでもう一本ゲームやらなきゃいけないの?」っていうことは、鳥山さん自身が思ってたし。なにしろ、最初ボクが作ったストーリーを一緒にやるなかで、なんか上手くいかなかったんですね。無くなりそうな話だった。そこで、1回名古屋で話をしたときに、鳥山さんがポソッと2個くらいアイデアを出したんですよ。で、「あっ、それはいいな」と思って。 ――それはゲームのアイデアですか? 坂口 ストーリーのどんでん返し系のアイデア。あと、なんていうんだろう。中盤から後半にかけての「こういうのって今までになかったよね」みたいな。そういう話。それをいただいて、プロットをゼロから書き直し。そうしたら、もちろん鳥山さんのアイデアが入ってますから、凄く賛同してくれて。そこで一気に「これはやろうよ!」みたいな。そこはやっぱりノリですよね。「やりましょう!」といってから手を組むんじゃなくて、とりあえず走り出してみて実際に歯車があうかどうかみたいなところがあって、最終的に「どうしましょう」っていう。作りつつ……って感じですね。いただいたアイデアは核になってますし。 ――以前から、こういった“人と話をして作品をつくっていく”スタイルだったんでしょうか? 坂口 スクウェア時代は全然違います。組織のために。やっぱりスケジュールありきですから。それで自分が鳥山さんと「いや、まだ煮え切らないんだよ」とやってるわけにはいかないんで。スタッフが100人いたら、それが遊んでしまうわけじゃないですか。そこは、ボクはクリエイターであると同時に組織の長だったんで、そうはいかなかった。だけど、今は独り身だからそういうことは一切ない。本当に、自分が納得できるまで周りの人たちと話をしながら、まずは形にならなくてもいいんで、ちょっと揉んでみると。そこは、今回の良かったところですね。思ったとおりにやれていることのひとつ。他にも結構話はしてます。表には出せないですけど、別のかたと「こんなの面白いよね」なんていうのをしゃべったりしながら、ちょっと文章にしてみたり、絵にしてみたりっていうのはいくつかやってて。いつ形になるかわからないですけど、もしかしたらバッといいものができてくるかもしれないです。 ――そのあたりは、マイクロソフトとしても全面協力? 坂口 そうですね。マイクロソフトとしても、日本でRPGが欲しい。そこはお互い何も隠し事をせずに話しましたから。せっかく鳥山さんとか井上さんが賛同してくれて、だいぶ形になってきたものなんで、やっぱりなるべくいい形で作品にしたい。そのためには、もちろん人、資金、技術が必要なんで。そこはお互いに利益があったって感じですね。 ――今“揉んでいく”という過程が非常にマイペースなものに思えたのですが、そこでマイクロソフトから「早く作ってくれ!」といったプレッシャーを受けることはないのでしょうか? 坂口 それはやっぱりプロジェクトですから、色々なプレッシャーはあるんですけど。一応……なんていうんでしょう。クリエイティヴに関することは任せてくださいよ、っていうのは最初にお願いしたし、それは逆にマイクロソフトが口を出すつもりもないので。「とにかく坂口さんが考えている一番面白いものを作ってくれ」というところは全面的に信頼していただいているので。基本的にはボクがやらせてもらってますけど。ただ、もちろんスケジュールのところはなるべく早くっていわれますよ。ボク自身もハードがある程度売れて、その人たちがソフトウェアを買うわけで。そういう意味では、今Xboxが日本であんまり良くないですから。Xbox 360が日本である程度成功していくためには、自分が作るものも、ハードの発売日になるべく近いほうがいいとは思いますから。そこは同じ想いで。ボクも現場にプレッシャーを与えますから。もう少し早くなんないの? みたいな(笑) ――マイクロソフトから受けつつ、現場にも?
坂口 そうですね。まぁボクらはスルーみたいなところで(一同笑)
坂口氏がスクウェアを退社されたとき、筆者などは「ずいぶんと思い切ったことをするなぁ」と感じたものだが、今回お話をお伺いしたことで、だいぶ疑問が氷解したような気がする。いずれにしても、坂口氏の作品を心待ちにしていた人には朗報以外のなにものでもなく、あとは形として目の前に現れる日を楽しみに待つばかりだ。
□マイクロソフトのホームページ (2005年5月20日) [Reported by 豊臣和孝]
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