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Game Developers Conference 2005現地レポート

クローバースタジオの稲葉敦志氏が講演
オリジナルゲームのプロデュース手法とは?

3月7日~11日(現地時間) 開催

会場:Moscone West Convention Center

 米サンフランシスコで開催中の「Game Developers Conference(GDC)2005」にて、3月9日(現地時間)、クローバースタジオ株式会社代表取締役社長の稲葉敦志氏による講演が行なわれた。

 稲葉氏の講演内容は、同氏がこれまでにプロデュースしてきた「ビューティフル ジョー」や「鉄騎(Steel Battalion)」といったオリジナルゲームの制作手法を、開発の様子と照らし合わせながら解説するというもの。プログラムやグラフィックスといったゲーム制作技術ではなく、プロデューサーとしてプロジェクトにどう関わっていくべきかという理論や概念を述べた。



■ プロジェクトの可否を決める「変革点」

 オリジナルゲームを作る際、まず誰かが思いついたアイデアでゲームの制作をスタートすることになる。そのアイデアがゲームとして面白いかどうかは、稲葉氏も「実際に作って触ってみないとわからない」という。そして、「アイデアの種を育てていく期間というのは、全然楽しいものではない」と続けた。

 この段階で、プロデューサーとしてできることはふたつしかないという。ひとつは、「面白いと感じたものを後押しすること」。“面白い”の基準をどこに持ってくるかが一番の問題となるが、これについて稲葉氏は、「自分の感性を信じるしかない。こう言えないならプロデューサーをすべきではない」と厳しく言い切った。そしてもうひとつは、「いけないと思ったらすぐに止めること」だという。

 このふたつの相反する行為を決める要素を、稲葉氏は「変革点」と呼ぶ。これはオリジナルゲームのために生まれたアイデアが、遊びとして面白くなる瞬間のことを指している。「変革点が見えないとプロジェクトを中断せざるを得ない。しかし変革点が見つかった瞬間は、プロデューサーとして『武器を持った、これで戦える』と確信できる」という。

 また失敗するプロジェクトのケースもいくつか挙げられた。この中で、トライアル(試作)期間にアイデアが収縮してしまう、というものがあった。この対処については、「傷が浅いうちに止めなければならない。自分がスタートしたプロジェクトを止めるのは難しいが、さらに続けて傷を深くしてはならない」と述べた。

 さらに稲葉氏は、「少しでも開発費を回収しようという発想はすべきではない」と注意を促した。「ここまで作ったんだから、といって発売すれば、開発者やメーカーのブランドを損ねる。次に出したコンテンツが面白くても信じてもらえなくなる。お金の損は後で取り返せるが、損ねたブランドを取り戻すのは難しい」という。つまりプロデューサーが面白いと判断しない限りは発売しないということで、一言でいえば「妥協による粗製濫造をしない」ということになる。

 根本的にプロデューサー個人の感覚に頼ってはいるが、稲葉氏は自分の感性を信じて進む姿勢が重要だと言いたいのだろう。これが数多くのオリジナルゲームを生み出してきた、稲葉氏流のやり方というわけだ。



■ プロジェクトの優先順位を設定する

「VFXパワー」という変革点により、ゲームの方針が決まった「ビューティフル ジョー」
 稲葉氏はプロジェクトを立ち上げる際、各プロジェクトで優先するものを設定するという。

 まず第1に、人を優先するプロジェクト。これは人を育てることを目的としたプロジェクトで、少人数、短期間で立ち上げ、スタッフに新しいゲームの制作を経験させることを目的とする。稲葉氏は、「1年で3本のソフトを制作するほうが、3年で1本のソフトを作るよりも経験になる」と考えているそうだ。さらに、「ゲームが発売できなくても構わない。極端に言えば、金を捨てても構わない」とまでつけ加えた。

 この例として挙げられたのは「ビューティフル ジョー」。最初は6人でスタートしたプロジェクトで、12カ月間の制作期間を与え、「自由にやっていい」といったところ、トライアルだけで時間を使い切ってしまったという。しかしこれについて稲葉氏は、「1年で面白い新作を作るのは、1年で石油を掘り当てる約束をするのと変わらない」と比喩し、いかにオリジナルゲームの開発期間が読めないかを強調した。

 しかしこの後、「VFXパワー」という要素が生まれ、それを見た稲葉氏は「これはいける」と確信したという。これが「ビューティフル ジョー」における「変革点」となった。あとは「これは面白い。このまま膨らませていってほしい」といっただけで、スムーズに制作が進んだそうだ。これについては稲葉氏も、「人優先プロジェクトなのに成功した珍しい例」としており、毎回こううまくはいかないことを示唆した。

新要素を多数盛り込んだため、先が読めなくなったという「鉄騎」
 対して「鉄騎」は、人ではなく、プロジェクトを優先した作品だという。家庭用ゲーム機としてはありえないほどの巨大なコントローラを採用しながら、過去にコントローラを制作した経験がないこと、初めて外部スタッフを入れて開発を行なったことなど、新要素を多く盛り込んだ作品である。

 こうなるとリスクが高く、先が読めない。稲葉氏も、「巨大なコントローラでロボットを動かすことがウリになるとは見ていたが、どこまで受け入れられるかは全く予想がつかなかった」という。それだけに、人を育てる余裕は全くなかったのだそうだ。

 「鉄騎」には、「こんな面白いことをやっても商売が成り立つんだ、もっと面白いものを作っていこう、という業界へのメッセージ」がこめられているという。価格は約2万円と高価で、1本あたりの儲けは一般のソフトより少ないそうだが、それでも黒字にはなっているそうだ。さらに「誰も不幸になっていない」と付け加え、聴講している開発者たちのチャレンジ精神をあおった。



■ 最新作「大神」は「ブランド重視」。トライアル版映像も初公開

 クローバースタジオの最新作として期待されているPS2用「大神」については、ブランド重視のタイトルと表現された。これは、人とプロジェクトのバランスをとったプロジェクトを意味しているそうだ。人も育てるがプロジェクトとしての挑戦・成功も狙うという、新生ゲームスタジオであるクローバースタジオのブランドをかけたプロジェクトといえる。

 開発の開始当初のコンセプトは「大自然」というもので、リアルタッチで描かれていたそうだ。会場では、開発開始から約1カ月後に作られたCGイメージムービーが公開された。「おそらく初公開」というこのムービーは、長さが5秒程度と短いもので、大自然の中を狼が走るという内容。自然の美しさと狼の野生を表現するといったイメージだ。

 その後もトライアルを続けたが、リアルタッチでは今ひとつだったという稲葉氏。その後、現在公開されているような墨絵風の映像になり、「これは凄いものになる」と第1の変革点を感じたという。

 この時点で、アクションやRPGのシステムを入れてゲーム化することは可能だったが、「ゲームとして面白いのか」という点で妥協できないと判断した稲葉氏はトライアルを続行。そしてつい最近になって、ようやく第2の変革点を見出せたという。これについて詳しい話はされなかったが、現在もなおトライアルを続けており、第3の変革点を模索しているところなのだそうだ。ここまでくると、もはや違うゲームになっているような気さえする。「ブランド重視」というコンセプトに違わぬゲームの誕生を期待できそうだ。

上段が制作開始1カ月後に作られたCGイメージムービー、下段が墨絵を取り入れた後のもの。CGツールで作られたムービーとゲーム画面という違いはあるが、映像表現が変わったことは一目瞭然だ



■ 開発者にオリジナルゲームへのチャレンジを呼びかけ

“Be innovative!”で締めくくられたスライド
 稲葉氏はプロジェクトの優先順位として、最後に「マーケット優先」という表現を使った。これは、今売れているゲームを模倣して作るというもの。これについて稲葉氏は、「売れたものを参考にすることは悪いことではない。しかし、人間は飽きっぽい。今あるものと同じものを作っていくことは、市場を小さくしていくだけの行為」と厳しい意見を述べた。

 また稲葉氏は、「快楽の表現が短絡化していて、暴力性が高かったり、セクシャルな表現を強調したものが受け入れられやすいようだが、そのような人間が持つ原始的な欲求を単純にゲーム化するのは、麻薬を打ち続けるようなもの。市場にとってよくない」とこれも否定した。

 最後に稲葉氏は、「僕たちがこんな無茶をやったことで、もっと無茶をしてくれるところが現れてほしいし、そういう芽を育てていかなければならないと思う。僕たちと一緒にチャレンジしていきましょう」という言葉を送り、講演を締めくくった。

 単純にゲームの販売本数を伸ばすために努力するのではなく、常に新しいものに挑戦する意識を持ち、業界を活性化させようという確固たる意思を持つことが重要だと説いた稲葉氏。それによって楽しいゲームをユーザーに提供し、ゲーム業界全体を活性化させ、みんなで幸せになろうという、稲葉氏の開発者魂が感じられる素晴らしい講演だった。

(C)CAPCOM CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.

□Game Developers Conference(英語)のホームページ
http://www.gdconf.com/
□Game Developers Conference(日本語)のホームページ
http://japan.gdconf.com/
□クローバースタジオのホームページ
http://www.cloverstudio.co.jp/
□関連情報
【2004年8月10日】CEDEC 2004 セッション講師インタビュー
クローバースタジオ、稲葉敦志氏
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040810/cedec1.htm

(2005年3月11日)

[Reported by 石田賀津男]


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ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp

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