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CEDEC 2004 セッション講師インタビュー
クローバースタジオ、稲葉敦志氏

    稲葉敦志氏
      クローバースタジオ株式会社 代表取締役社長

      ゲームメーカー数社を経て'98年にカプコン入社。「バイオハザード コード:ベロニカ 完全版」などの作品に関わる。2004年7月にカプコン開発子会社であるクローバースタジオ株式会社、代表取締役社長に就任。代表作は「鉄騎」、「Viewtiful Joe」、「逆転裁判」シリーズなど。


 9月6日から8日の3日間にわたって開催される「CEDEC 2004 (CESA デベロッパーズカンファレンス)」。このカンファレンスでは、ネットワーク環境の充実、グローバル化などによって大きな変化の時を迎えているゲーム業界において、技術的なトレンドやビジネス化に向けての情報発信などを目的として企画、開催される。

 今年6回目となる「CEDEC」では、レギュラーセッションだけでも40セッション以上が予定されているほか、マイクロソフトのDirectX関連セッションを集めた「Meltdown」、NVIDIAの「開発の鉄人」、その他「スポンサーシップセッション」、「ワークショップ」、「ラウンドテーブル」などの開催が予定されている。

 興味深いセッションが目白押しだが、今回はこのなかからいくつかのセッションを行なう講師の方たちにインタビューを行ない、セッションでどのようなことが話されるのか、その一端を探ってみた。なお、セッションの申込みは8月27日まで。


Q:今回、CEDECで講演を行なうことになった経緯を教えていただけますか?

稲葉氏: 米国で行なわれた「Game Developers Choice Awards」の“Game Innovation Spotlights”賞を「ビューティフル ジョー(Viewtiful Joe)」が受賞したんですよ。その表彰式の会場でIGDA東京の方から「CEDECで講演をしていただけませんか?」と言われたんです。

 「なんでもいいんですか?」と聞いたら、「なんでもいいので、『ビューティフル ジョー』を題材に、新しいプロデューサーという立場で、是非とも話をしてほしい」という話だったので、「あ、いいですよ」って半分本気半分冗談ぐらいで受けたんです。そうしたら正式に依頼メールなども来ましたので、本腰を入れないとという感じです。きっかけはそんな感じです。

Q:今回、「『オリジナリティ』をプロデュースするということ」をテーマに選ばれた意味合いは?

稲葉氏: 僕自身がプロデューサーなので、プロデュースにまつわることを話したいと思ったんです。プロデューサーといっても千差万別だと思うので、僕自身がやってきた事を振り返り、セールス的にメガヒットというのはなかったとしても、オリジナリティあふれる新しい作品を作ってきたという自覚はあるので、その過程などを話すことによって、僕らのやってることに対するフォロアーみたいな人がでてきたら、うれしいなって気持ちはありますね。

Q:“オリジナリティ”というのは当然、千差万別で人によって違うわけですよね。オリジナリティというのは、言葉ではなかなか言い表わしにくい部分ですし、それが作品に反映されると思うのですが、稲葉さんにとっての“オリジナリティ”とはなんですか?

稲葉氏: 今回の講演タイトルで、「『オリジナルタイトル』をプロデュースすること」ではなく、「『オリジナリティ』をプロデュースするということ」にしたのですが、“オリジナルタイトル”という言葉は凄く便利に使われているんですよ。要はナンバーが付いてない (続編ではない) 初めてのタイトルというのは、全てオリジナルタイトルとしてリリースされるんですけが、そうじゃないでしょ……という思いがやっぱりありますね。

 “オリジナリティ”と言うぐらいですから、“新しさ”がなければならないですよね。では、一発勝負のアイデアがあればいいかと言えば、そうではない。オリジナリティ溢れる遊びをプロデュースしなきゃいけないし、作っていかなければならない。だから、僕にとってのオリジナリティってのは、「新しいこと」であり、「遊びとして完成してる」ことです。このふたつが揃って初めて“オリジナリティ”があると言えると思ってます

 よくゲームをプレイしていると、「惜しいっ」って思うことがあるんですよ。「アイディアはいいのになぁー」とか「アイディアは魅力的なのに……」と思うんです。アイディアだけでなくて、ちゃんと作れればいいのにと感じるタイトルですね。キチンと作れるとか作れないというのは、マンパワーとかお金の問題とかもありますけど、スタッフの考え方や技術に負うところが大きいので、そこを分ける大きな壁、そういったものって体感した人間じゃないとわからないことっていっぱいありますので、そういった部分についても話してみたいと思いますね。

Q:新しいだけでは、当然ゲームとしては成立しませんし、それこそゲームとして完成してないってことですね

稲葉氏: そうです。“新しさ”というのが遊びと関わり合いを持っていなければ、僕自身は嫌なんですよ。

Q:もう少し突っ込んで、稲葉さんにとって“遊び”という部分についてどのように考えておいでですか?

稲葉氏: ゲームというメディアで、“遊び”を表現する仕事を選んでる以上、ちゃんと触れて、結果に対して介入できる気持ちになれるということです。

 実際には完全にユーザーの自由になれる世界ではないのですが、ちゃんと自由にできるような気にさせる。自分で触ってその世界をコントロールできる“気分”になれる。それが僕にとってのゲームとしての遊びです。このことはものすごく大切で、ゲームってみんな触れるようで、肝心なところには触らせないゲームというのがたくさんありますから。「ボタンを押してることは、はたして触れているということなのか?」と考えたとき、僕はそうではないと思っています。

Q:ユーザーに本当に自由にさせるわけではなく、あくまでもゲームの“世界観”の中で自由を感じさせることができるということですね。

稲葉氏: そうです。触らせるって気持ちになる……遊びに入るまでの動機ですね。そこはもうプロデュースの領域なんですけど、触って楽しいってのはいっぱいあると思うんですよ。売れないゲームの中にもいっぱいあると思うんです。名作とか、「あれ欲しいな」みたいな。そこでゲームに触らせるというのはプロデュースの領域なんです。詐欺ではなく、魅力的に見せる……コントローラを握る気分にさせる。そこまでどうもっていくのか? 単純に面白いCMを作るとか、面白い何かを作るとかではなく、いかにゲームというメディアでの“遊び”を理解した上で、それにマッチしたプロモーションを組み立てるのか。ここまで含めてゲームだと思うんですよ。

Q:今冬に「ビューティフル ジョー2」がリリースされます。シリーズナンバーが付くとユーザーの先入観などがあり、オリジナルタイトルと思われにくいなど難しい面もあるかと思うのですが、その点についてはいかがですか?

稲葉氏: 健全なシリーズものであれば、そこは考える必要はないと思っています。健全なシリーズと言うのはひとつしかなくて、クリエーターが作りたいと思ったシリーズ……これが一番健全だと思うんですね。「作らされている」とか、あるいは凄いファンがいて惜しまれつつ終わったとして、続編を望む声が高いという理由だけで作るとか、これらは幸せな結果になるとは限らないと思うんです。映画には多いですよね、続編になってつまらない作品になってしまうというのが。

 やはり、続編ですからなかなかオリジナリティってでないんですよ。当たり前の話しなんですけど。全く違う、ガラッと変えたらそれはタイトルが同じだけで、違うゲームなので。じゃ、元の作品が持ってるオリジナリティというのは大切にしなければならない。その中で「どのように遊びとして広げられるか」というのがシリーズタイトルの楽しみであり、醍醐味なので。そこにはクリエーターの遣り残したことであったり、リリースした後に気がついた点とか、そういうのが生まれる時ってあるんですよ。

 「ビューティフルジョー」の場合は、チーム全体にそういう空気があったので、作りたいと思ったんです。それで走った。そういうケースでシリーズものを作るというのは、僕はハッピーなケースだと思います。実際、「逆転裁判」もスタッフはシリーズ通じて同じですし、「ビューティフルジョー」もスタッフは同じです。そういった意味合いで作るのでなければ、シリーズものはあまりやりたくないですね。

Q:ゲーム業界はここ1年~2年、「焦燥感というか息詰まる感じがあるよね」とクリエーターの方からも話しがでてます。稲葉さんとしてはどのように感じておいでですか?

稲葉氏: 焦燥感というより飽和感ですかね、焦燥感じゃなくて。これはゲームだけじゃないと思います。音楽業界も飽和感ってでてると思いますし、映画界とかもそうですし。遊びが凄く多彩ですよね。いろいろな娯楽が並べられていて、「はい、どうぞ」と言われても、なんか見ただけで疲れちゃうみたいな。本当は楽しむために遊ぶのに、遊びがいっぱいありすぎてゲップがでちゃう。今そういう時代だと思うんですね。

 “ゲーム”に対する焦燥感ってのは僕はあんまりなくて、ゲームを“遊び”の表現手段のひとつとしてとらえているので、“触れる”ということがそんなに変わらなければ、今の状況にはこだわることはないですし。遊びが飽和していく中で、ゲームの“売り”が少なくなるのは、ある程度は仕方ないですね。凄く大きなブレイクが今後あるかどうかというのは運任せみたいな部分もあるので。

 飽和したら飽和した中で、僕はこれだけは嫌だなっていうのがあって、コンテンツの質が飽和してしまうことは嫌なんですよね。売れるものが決まってくると、漫画のキャラクタや、ゲームでも昔からのキャラクタを使ったものが強いとか、そういうゲームばかりが氾濫してしまうと、遊びの質が下がっていく。表面的には遊ぶ気にはなるけれど、そんなものは喜びの質が低いものだと思うんです。

 これが増えると自分の手で寿命を縮めることになるので、業界としてはよくないと思いますね。のんびりでいいので遊びの質の高いもの……ただし、遊んで楽しい楽しくないは主観ですが……僕らは僕らの満足いく質の高いタイトルを提示し続けていければいいなと思います。これで業界を支えようとか、うぬぼれた気持ちがあるわけではないんです。

Q:「新しいゲーム」と簡単に言いますが、会社という組織の中で作っていく上で、なかなかアピールしにくかったり、「ほんとうに売れるのか?」と営業の方から言われたりとかなかなか難しいと思うんですけど、そういった点についても、プロデューサーの観点からおはなしされるつもりですか?

稲葉氏: オリジナリティをプロデュースするという取っ掛かりのところに、その問題があるわけですよね。周りを納得させること。本当にオリジナリティがあるものっていうのは、周りは絶対納得しないんですよ。つまんないものは周りは反論できるんですね。例えば、真似したものであるとか、あまりにもくだらないアイディアとか、これを切り捨てることは誰にでもできるんです。

 だけど新しいもの、オリジナリティがあるものに対しては、一様に“わからない、理解できない”という反応が返ってくる。わからないという反応が返ってくれば、返ってくるほど、僕のほうは自信が深まりますね。今までの枠を超えてる方が大きいんだという材料になるし、後は自分を信じて周りを説き伏せていくしかない。自分自身の信念を持って説き伏せるしかないんですけど、その中でどういう風に説得していくとか、プロデューサーとしては重要な要素ですね。

Q:そうやって、どんどん良い作品を作り続けていけば、周りも納得していくみたいな感じなのでしょうか?

稲葉氏: たぶん、そうだと思いますよ。その実績がないと新しいものを作るクローバースタジオという会社をカプコンから分離してやっていくのも、それは当然会社としても認めるわけがないと思いますし。僕だけではなく一緒にやってきたスタッフもいるから、認めてもらっていますし。実績を残せばやり易くなるのはどの仕事でも同じなんですけど、失敗したら実績もへったくれもなくなちゃうので、現実には不可能だけど勝ち続けなくてはいけないってプレッシャーはありますよ。

Q:そのリスクをいかに負うべきかというところに繋がっていくんですね。

稲葉氏: そうですね。そのリスクをどうとらえるのか。「オリジナリティのあるタイトルを作るのはなんのためなのかっ」ていうのをちゃんと考えないと、長いスパンで見て、企業の活力がなくなっていったりとか、市場に活気がなくなっていくとか、大きな意味もありますし。自分達にとって先鋭的なものを作ることで実績に繋がる。逆に実績に繋がって、あとあとさらに先鋭的なものを作れると、それが実績になりさらに先鋭的なものを作れると、いいサイクルに入るためでもありますし。モチベーションにも繋がりますから。そのためにはやっぱり、最初にはリスクはある。

Q:でも、リスクで足踏みしてしまう部分もあると思うんですが。

稲葉氏: 僕なんかは、イタズラみたいな感覚はありますよ。“遊び”を作ってるわけですから、“遊び心”。遊び半分じゃなくて“遊び心”みたいなものはありますよ。

 「こうしたら驚くんじゃないかな?」とか、そういう心って誰でもあるじゃないですか。「こうやればアイツをびっくりさせることができる」とか「こうやってアイツを喜ばせてやろう」とか、そういう心が僕の原動力だと思います。それで人を予想外なところで楽しませるってのいうのが第一で。サラリーマンの仕事を第一とすると何もできなくなると思います。そこのスタンスは僕はイタズラ心の方が大きいですね。

 人を楽しませて自分もニヤっと楽しむ感覚がないといけないかな。それが一番だから、リスクとかはあまり考えない。「楽しんでやってるんだからいいんじゃない?」と言うのがあるんですが、そこは踏める人と踏めない人というのがあって、心の持ちようの問題はあると思いますね。でも、僕らはユーザーに対するサービス業ですから。サービス精神をいかに旺盛にできるかなっていうのが義務かなと。

Q:自分の好きなことをやりながらユーザーとの距離を考えながら作っていかなければならない。でも、本当にオリジナリティって伝えるのって難しいですね。

稲葉氏: そうですね。だから実際の制作過程とかを題材にしていかないと話もしづらいですし、すごく観念的な話しかできないと思いますので、そういうわかったようなわからないような講義にしたくないですよね。例えば、「逆転裁判」はシリーズ3作品を通じて1本と考えて綿密にトータルプロデュースしたとか、Xboxの「鉄騎」の話など具体例を挙げていきたいです。

 プロデューサーと言っても本当に人それぞれですから。カプコンの中にも色々なタイプのプロデューサーがいますし。僕は子供っぽい面が残っているので、さっき言ったイタズラ心は結構旺盛な方だと思いますし。その辺を実際の業務の話などを交えながら伝えることができればといった感じですね。

ありがとうございました。

□CEDECのホームページ
http://cedec.cesa.or.jp/
□受講申込みページ
http://cedec.cesa.or.jp/regist/
□クローバースタジオのホームページ
http://www.cloverstudio.co.jp/

(2004年8月10日)

[Reported by 船津稔]


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