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「文化庁メディア芸術祭」受賞者シンポジウムを開催
任天堂、阿部悟郎氏とROBOT倉澤幹隆氏による制作秘話など

2月25日~3月6日 開催

会場:東京都写真美術館

 文化庁メディア芸術祭実行委員会は、8回目となる平成16年度の「文化庁メディア芸術祭」受賞作品を2月24日に発表したが、25日から3月6日までは東京都写真美術館において受賞作の展示を行なうとともに、受賞者を招いてシンポジウムなど各種イベントを実施した。

 3月5日には、ゲームなどを対象としたエンターテインメント部門の受賞者を招いてのシンポジウムが開催された。当日はこのほかにも受賞作品の上映会や、アニメーション部門のシンポジウムなどが行なわれ、期間最終週末ということもあってか、会場はかなりのにぎわいとなった。

 エンターテインメント部門のシンポジウムに出席したのは、大賞を受賞した任天堂の「まわるメイドインワリオ」の制作チームを代表して登壇した阿部悟郎氏と、「鬼武者3」のオープニングシネマティクスを担当したROBOT倉澤幹隆氏の2名。進行は審査委員を務めた株式会社ポケモンの石原恒和氏が務めた。


【まわるメイドインワリオ】
(C)2004 Nintendo
 石原氏は「まわるメイドインワリオ」の受賞理由について、「『メイドインワリオ』シリーズの最新作となる『さわるメイドインワリオ』も出展されたのだが、大賞は“まわる”に決定した。『まわるメイドインワリオ』は傾きセンサーを搭載しており、傾けると反応する。しかしそれだけではなく、カチカチと音を立てて振動も伝わってくる。この架空のインターフェイスが大変面白く、チャレンジングだと評価された」と説明。傾きセンサーを搭載したことが受賞理由かと思ったが、それだけではなく、演出部分も含めてこれまでにはないインターフェイスとして評価されたところが興味深い。

 阿部氏は「まわるメイドインワリオ」の制作経緯を説明しながら、「続編の制作が進められていたのと同時に、私も参加していた別のアプローチで進行中の作品と、メインプログラマの大沢さんのプロジェクトがそれぞれ別々に進んでいたのだが、それが一緒になって『まわるメイドインワリオ』となった。でも、一緒になる直前からこれは商品としていけるという手応えはあった」という。

 ポイントは前述の“振動”。傾けるだけでは回している感じが少なく、“振動”させることの意義は大きかったようだ。また、最初は傾きセンサーも横だけでなく、手前と奥の傾きも感知できるセンサーがあったのだが、それではゲームが複雑になる可能性があることから、横だけのセンサーを搭載することになったという。

 石原氏はこれを「映像と音と指先 (振動などの手にすることで得られる感覚) でわかる、さわったことのないインターフェイス」と絶賛。阿部氏によれば、メインメニューで回したときに出る“カチカチ”という音のチューニングにもこだわったのだという。「立ち上がりが速くて“ぷいっ”という感覚を出すのが難しい」とか。単純にハードだけでなく、こういったプログラム面でも試行錯誤を繰り返したようだ。

 また、石原氏の「インタラクティブなインターフェイスを採用したアート作品もあるが、そういった作品との違いは?」との問いには、「インタラクティブ・アートは刺激になりいます。でも、ゲームは楽しめなければダメで、『まわるメイドインワリオ』にはレコードが収録されているけど、面白いアイディアであってもメインにはならない。そこには万人が楽しめる物でなくてはならない」と答え、「そういったアイディアは (商品化したりメインに持ってくることを) 我慢しながら、パッと見てわかることを最優先するところがアート作品との違い」と解説した。そういった線引きが、バランス感覚であり、エンターテインメント作品を作る上で、ある意味重要な側面だと言えるだろう。


【鬼武者3】
Character Samanosuke by (C)Fu Long Production, (C)CAPCOM CO., LTD. 2004 ALL RIGHTS RESERVED.
 一方、倉澤氏は6分ほどの「鬼武者3」のオープニングシネマティクスを制作するにあたり、実際に要した期間だけで1年半もかけたのだという。倉澤氏は「その前に半年ほど右往左往していたので実質2年関わっていた」ということで、かなりの時間を使って制作されたことがわかる。これには石原氏も絶句していた。

 倉澤氏は、「鬼武者3」のオープニングシネマティクスの制作にあたっては「室内のミニチュア (実写背景) とCGの合成映像を見たときに、監督の山崎氏とともにビックリした」といい、この瞬間に「普段CGをやっている我々がこれだけ引き込まれるのだから……」という理由から、クオリティの目処が付いたのだという。

 この制作には“白組”が担当しているが、倉澤氏と山崎氏に映像を見せる前にかなり試行錯誤が繰り返され、クオリティの向上を目指していたのだという。その甲斐あってか、倉澤氏は「釘付けになった」といい、「ずっとこの映像を見ていたい衝動があり、3カット程度だったが、『こういったトーンはなかったよね』と話しながらずっとループしてみていた」と、その衝撃を語っていた。

 石原氏は「引きで見た壮大な風景を見てスゴイと思ったけど、我々一般大衆と違って、作り手は違うところを見ているんですね」と感心していると、倉澤氏は「壮大な風景のCG映像は、これまでから我々がやってきたこと。でも実写背景とCGの合成は『鬼武者』シリーズで初めてのこと。そういった意味ではチャレンジングだった」と答えた。


 最後に、阿部氏は今後の豊富として「みんなの向いてない方向を向いて、ちょっとしたアイディアで勝負した商品を作りたい」と語る一方で、「物づくりが好きで、人を驚かせる意外性が好き。そういった意味では今の仕事を楽しめている。しかし、ユーザーの顔は意識している。新しいだけではわかりにくい。伝わらなければもったいない」とゲーム作りに対する姿勢を示した。

 また、倉澤氏は「作品を見ていると、僕なんかよりクオリティが優れたものはたくさんある。でも、それが実力かどうかは別。日本ではツール信仰が強い。道具のクオリティが高ければある程度のものは作ることができるので、そこを勘違いしないで欲しい。例えばCGであればデッサンを身につけなければならないので、人体の解剖学を勉強するなど、自分の手で何が作れるのか? が重要だと思う。そして、なにを考えて作っているのか、何を伝えたいのかが重要」と、来場者に向けてアドバイスを残してシンポジウムは幕を閉じた。

今年度のエンターテインメント部門大賞を受賞した「まわるメイドインワリオ」を制作した任天堂の制作チームからは阿部悟郎氏 (写真左) が出席。同部門で優秀賞を受賞した「鬼武者3」のオープニングシネマティクスを担当したROBOT倉澤幹隆氏 (写真右) とともに興味深い意見を披露した シンポジウムの進行は、審査委員を務めた株式会社ポケモンの石原恒和氏が担当。後半は氏の質問でシンポジウムは展開していった


□「文化庁メディア芸術祭」のホームページ
http://plaza.bunka.go.jp/festival.html
□関連情報
【2月24日】「文化庁メディア芸術祭」開催
エンターテインメント部門大賞は「まわるメイドインワリオ」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050224/jmaf.htm

(2005年3月7日)

[Reported by 船津稔]


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