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★PS2ゲームレビュー★

ヒップホップ・カルチャーに根ざした格闘アクション
「Def Jam Fight for NY」



最大4人まで同時プレイ可能。パーティーゲームとしても楽しい
  PS2用「Def Jam Fight for NY」は、米国の音楽レーベル「Def Jam Records」に所属するアーティストを中心に、総勢40名以上のヒップホップアーティストが実名で登場する格闘アクション。前作「Def Jam Vendetta」は北米で100万本のセールスを記録し、日本でも現在ベスト版が発売されている。

 北米を中心に高い評価を得ている「Def Jam」シリーズだが、正直日本での認知度は、あまりかんばしくない。これは“ヒップホップ”に対する捉えかたが、両者で大きく異なるからではないかと考えられる。日本では“輸入されてきたファッション”だが、発祥の地である米国では“黒人文化”として若者を中心にメインストリームが形成され、ライフスタイルとして日常化している。人それぞれ程度の違いはあるだろうが、一般論としていえば、若者の日常生活に浸透した米国と日本のそれでは、質実ともに大きな隔たりがある。

 ひらたくいえば、“ヒップホップ”というキーワードが、日本では“なんでラッパーが格闘ゲームのキャラになるの? そもそもヒップホップと格闘ゲームの組み合わせってなによ?”とプレイする以前に“障壁”となりかねない。これが北米なら“等身大のアーティストがストリートファイトをするCOOLなゲーム”としてユーザーの心にスッと入っていけるのだろうが、残念ながら筆者を含む日本人の大半には、そうした心理的土壌が形成されていない。

 だが、こうした心の垣根をとっぱらってゲームをプレイすれば、本作には「Def Jamシリーズならではの魅力」がギッシリと詰め込まれていることがわかる。ヒップホップファンには“格闘ゲーム”が、格闘ゲームファンには“ヒップホップ”がそれぞれ負のイメージとして映るかもしれないが、実はそれぞれ別個にとりあげてもいいほどシッカリと作りこまれている。食わず嫌いをする前に、まずは本レビューに目を通していただきたい。そのうえでゲーム本編をプレイすれば、表面的なキーワードだけでフィルタリングしてしまうにはもったいない良作であることが理解していただけるはずだ。


■ シンプルな操作で熱い戦いが楽しめる格闘アクション

使用するボタンは多いが操作自体はシンプル
 ひとくちに格闘アクションといっても、本作は複雑な必殺技コマンドなどを必要としないシンプルな操作系が採用されてる。左アナログスティックでキャラクタを動かし、△ボタン(パンチ)、□ボタン(キック)、×ボタンのキャッチ(投げ)で相手を攻撃。L1ボタンを押しながら攻撃ボタンを押せば、それぞれの攻撃がストロング・アクション(強攻撃)に変化。相手の打撃を防御するときはR1ボタンのブロックを使う。

 ×ボタンで相手をキャッチしたら、△または□ボタンと左アナログスティックの組み合わせで攻撃パターンが変化。このとき、キャッチしたまま○または×ボタンを押せば相手を障害物やロープに振ることが可能。振る方向は左アナログスティックで指定できる。

 右スティックは、平常時なら挑発アクション、ヘルス・ゲージ(体力)下の“ブレイジング・ゲージ”がMAXになったときは“ブレイジング・モード”が発動する。ブレイジングは、いわゆる“必殺技”にあたるもので、モード中に相手をキャッチしたら右スティックを上下左右に入力すればアクション成功。派手なアクションを決めつつ敵に大ダメージが与えられる。なお、エディットキャラクタには上下左右で(最大)4種類、デフォルトキャラクタには上下と左右で2種類ずつ、それぞれ攻撃バリエーションが存在する。

 打撃はR1ブロックで防げるが、キャッチは当然ながらブロック不可能。ただし、キャッチは打撃とかちあったときに潰されてしまう。格闘ゲームでは普遍的な“さんすくみ”システムだが、本作の場合はこれだけで終わらない。一般的な格闘ゲームでは、相手の体力ゲージ(本作の場合はヘルス・ゲージ)をゼロにすれば勝ちとなるが、「Def Jam Fight for NY」ではヘルス・ゲージをゼロにしても、ノックアウトに必要なプラフアルファの一撃を加えない限り、無限のタフネスでフラフラと起き上がってくるのだ。

 ヘルス・ゲージは“タンク”と呼ばれる単位でおおまかに区切られており、一定時間ダメージを受けないとゲージが単位上限まで少しずつ回復していく。相手をノックアウトするためには、ダメージを与えてヘルス・ゲージを“DANGER!!(赤色)”にし、その間に“KOできる攻撃”をヒットさせる必要がある。ノックアウトできる攻撃は、前述のブレイジングのほか、壁、障害物、観客などを利用した環境攻撃、各キャラクタのファイティングスタイルごとに用意された特定の技など、一部に限られているのがポイント。よって、ジャブを軽く当てただけで相手が膝から崩れ落ちるといった格闘ゲームにありがちなショボいFinishシーンは、本作にはありえない。

【打撃】【キャッチ】【関節技】
ボタン連打、またはパンチとキックの組み合わせでコンビネーション打撃になる 相手を掴む。押すボタンによって投げまたはホールドしたまま打撃に移行できる 前作で猛威を振るった関節技。かなり弱体化しているが1点集中ならまだいける
【ブレイジング】
ゲージがMAXになったら右アナログスティックを入力。相手をキャッチしたら同じ操作でブレイジング成功。強烈なダメージが与えられるうえに、キャッチした時点で相手のヘルス・ゲージが赤ければノックアウト確定



■ 環境を利用した攻撃、具体的に明示されない重要テク“カウンター”

羽交い絞めにされるプレーヤーキャラ。ダメージが大きくノックアウトも狙える環境攻撃はぜひとも使いこなしたい
 本作の攻防で、ある意味キャラクタ以上に重要なのが“環境を利用した攻撃”だ。前作は常にリング上で戦うプロレス的なスタイルだったが、本作はリングやオクタゴン(金網リング)はもちろん、街頭、ビルの屋上、公園、駐車場、地下鉄のホーム、クラブ、ディスコ、工事現場など、まさに“ストリートファイト”といった多彩なフィールドが用意されている。

 壁、障害物、観客は“飾り”ではなく、キャッチボタンで投げつければきちんと反応する。ただ壁ひとつとっても、単に叩き付けるだけでなく、押し付けてグリグリしたり、グッタリと腰を落とした相手に蝶野ばりのケンカキックなど、多彩な派生アクションが楽しめる。観客にいたっては、ブン投げられてきたキャラクタを押し戻すばかりか、羽交い絞めにしたり、酒瓶やモップで一撃くれたり、さらにはツープラトンの片棒を担ぐなど、実に積極的かつ大胆にケンカにからんでくる。敵にやられると厄介だが、自分でうまく利用できるようになれば、これほど心強いものはない。

 “うまく利用する”という点では、こうした目に見える要素とはまた別に“見えにくい”重要なテクニックが存在する。それは、ストーリーモード中にメールで教えられる“カウンター”のこと。メールでは「カウンターを上手く使え」といわれるだけで、実体は何のことやらサッパリといった感じ。プレイ中にCPUを含めキャラクタの動きをよく観察しないと、永遠にわからないままストーリーモードを終えてしまう人も少なくないのではないだろうか。

 プレーヤーが打撃で押しまくっていると、CPUキャラクタに突然“いなされる”ことがある。これが“カウンター”と呼ばれる防御テクニック。ひとくちにカウンターといっても、体勢を崩す、すばやく打撃で反撃するなど、その反応はファイティングスタイルによってまちまち。やり方はいたって簡単で、ブロックと同時に左アナログスティック(どの方向でも可)を入力するだけ。入力に成功すると、ブロックとは異なるモーションが確認できるはずだ。

 本作の攻防は、打撃によるコンビネーションからキャッチに移行したり、あるいは打撃とみせかけてキャッチにいくなど、対人戦は特に奥深いものとなっている。ブロック同様、キャッチに対しては無力なカウンターだが、コンビネーションの切れ目や振りの大きい強打撃には、とても効果の大きい反撃テクニック。「知らなくても十分クリアできる」からなのかもしれないが、ゲーム中、マニュアルともに具体的な説明がないのは謎としかいいようがない。気付かないままプレイされるのも損だろうし、このあたりはきちんと明示しても良かったのではないだろうか。

【カウンター】
主に対人戦で威力を発揮するカウンター。CPUキャラの大振り攻撃に対して狙っていくのもいい



■ やりこみがいのあるストーリーモード ~エディットキャラでヒップホップアバター気分~

プリセットキャラもいいが、最初は感情移入しやすいエディットキャラがオススメ
 ストーリーモードは、前作の対決でプレーヤーに負けた「D-Mob」が逮捕されるところからスタート。プレーヤーは、そのD-Mobを助けた好漢として颯爽と登場する。キャラクタはプリセットされた人物のほか、身長、体重、体型、皮膚の色、輪郭、目、髪型や色などを組み合わせたエディットキャラが選択可能。面倒な人はプリセットキャラでもいいだろうが、エディット内容がストーリー中のシーンにもきちんと反映されるため、個人的にはエディットキャラクタでのプレイを強くオススメしたい。

 エディット内容は、スタート直後こそ簡素に感じられるだろうが、マップの「SHOP DISTRICT」内にある各ショップを利用することでバリエーションが一気に拡大する。髪型や刺青はもちろん、帽子、眼鏡、ネックレス、イヤリング、指輪、ジャケット、シャツ、Tシャツ、パンツ、ジーンズ、シューズ、宝石、時計など、服飾関係にいたっては、あまりにも膨大な数に思わず呆然としてしまうほど。

 オンラインサービスの定番「アバター」でも、これほど多彩なパーツを用意しているものは、恐らく数えるほどしかないだろう。しかも、登場する服飾関係のすべてが12社の実在ブランドなのだから、そのこだわりと質はいわずもがな。エディットキャラクタと自分の体型をマッチングさせれば、ファッションシミュレーターとしても十分成り立つクオリティ。ただひとつ残念なのは、エディットするたびにディスクアクセスが頻発すること。PS2のハードスペックを考えれば致し方ないのだが、常時ドライブがカコカコ鳴り続けるのは、さすがにいかがなモノかと……。このあたり、海外でのみリリースされている他機種版がうらやましくて仕方が無い。

服飾関係のパーツは、すべてが実在する会社の製品。点数もさることながら、カラー、着こなしのバリエーションを含めたら天文学的な数字になる。こうしたファッションはキャラクタのカリスマ値に影響し、ビシッと決めるほどブレイジング・ゲージが上昇しやすくなるなど具体的なメリットもある


 エディットキャラクタといえば、もうひとつ欠かせないのがファイティング・スタイル。ゲーム開始直後はキックボクシング、ストリートファイティング、マーシャルアーツ、レスリング、サブミッションの5つからひとつを選択するが、これは「SHOP DISTRICT」にあるジムでさらに2つまで追加できる。本作は、格闘ゲームのエディットでよくある「使える技をボタンごとに設定していくタイプ」ではなく、格闘スタイルによる組み合わせで自動決定されるシステムが採用されているのだ。

 こう書くと「えー、ファイティング・スタイルで使える技が決まってるなら、エディットする意味ないじゃん」と思われるかもしれないが、さにあらず。ファイティングスタイルを後付していくことで、各ボタンに設定された技に“優先順位”が設定されていくからだ。組み合わせによって、コンビネーションや数発で止めた状態からのバリエーションなどが大きく変化。キャッチなどは各技の良い部分が相殺されるケースもあるが、「キャッチから△または□ボタン連打で打撃→体力を減らしてから×でノックアウト技に移行」など、個別エディットにはない“組み合わせの妙”が楽しめる。

 各ファイティングスタイルごとに技を調べ尽くして究極の組み合わせを考えるのもいいが、個人的にはフィーリング重視の組み合わせで「おぉ、こんなふうになるか!!」といった意外性を楽しんだほうが、本作を末永く遊べるのではないだろうか。ちなみに、アクションゲームが苦手な人には「ストリート・ファイター」をオススメしたい。強攻撃のパンチが、キャッチ含めすべてノックアウト属性を持っているため、ここ一番に強い。威力もハンパじゃないため、手強いCPUに苦戦している人は検討してみてはいかがだろうか。

ファイティングスタイルを追加することで攻撃のバリエーションが広がる。CPU戦で苦戦している人はストリート・ファイターから始めるか、もしくは途中で追加しておくといい



■ アタマデッカチにならず、感じるままにプレイをエンジョイ!

ロード時間の遅さが玉にキズ。ここから約30秒弱……
 黒人社会のストリートシーンをイメージしたギャング映画さながらのストーリーモード、69人を数える登場人物、しかも半数以上が実在するヒップホップアーティストで、その声や楽曲がふんだんに盛り込まれているとなれば、ヒップホップファンにはたまらない内容のはず。シンプルながら多彩なバリエーションが用意された格闘アクションパートは、格闘ゲームファンに十分訴えかけるだけのクオリティを備えている。決定ボタンを押してからアクションパートが始まるまで約30秒近く待たされるのは少々困りものだが、これは前作に欠けていた「やりこみ要素」の追加にともなうキャラクタデータの飛躍的な増加とトレードオフの関係にあるため、なんとも微妙としかいいようがない(次回作があるなら絶対的な改善事項のひとつ)。

 さて……「格闘アクション」と「ヒップホップ」といった2大要素が高いクオリティで内包されているのは、すでに述べたとおり。ここで問題になるのは、日本では「ふたつの要素がバラバラに捉えられる」ことだ。日本人でもヒップホップカルチャーをナチュラルに体現したり、生活に取り入れている人はいるだろうが、これはあくまでも筆者の私見だが、多くの日本人にとってヒップホップはカルチャーではなく“ファッション”であると捉えても差し支えはないだろう。そこにはアメリカの黒人社会や“ストリートの現実”はなく、生きるに困るでなく、享楽、飽和、退廃の果て、繁華街の地面にベッタリ座るような人物像ばかり連想される。

 だからといって、本レビューを「チェケラ!」や「YO!」などといった軽いノリで飾る気は毛頭ない。「COOLだゼ、メーン!」や「遊んでみなYO!」で本作の魅力が伝わるなら、筆者だってそうする。だが「Def Jam Fight for NY」は、マニュアルやゲーム中の字幕など、基本的なローカライズ以外はパッケージデザインを含め「北米版そのまま」で発売される。前作のように、一部アーティストを削って日本人アーティストが追加されているといったこともない。北米ならではのレンタルで速攻返却されないためのバランス調整まで“そのまま”なのは、さすがにどうかと思うのだが……妥協の無い作風から、それはあえて不問としたい。

 ベタではあるが“本物”だから、プレイする側もしっかりとした認識で受け止めたいと思う。本作は、ヒップホップというファッションを題材にした“キャラクタゲーム”ではなく、あくまでもヒップホップカルチャーに根ざし、そこから生まれたゲームのひとつだと筆者は感じている。さりとて、アタマデッカチに考えても意味が無いことは自明の理。普段ヒップホップをほとんど聴かない筆者でも、その程度なら理解できる(個人的に、音楽レーベルとしての「Def Jam」は、リック・ルービンが去ると同時に興味が薄れたこともありまして……)。

 繰り返しになってしまうが……ゲームが好きなヒップホップファンなら大ビンゴだが、格闘ゲームファンは“ヒップホップ”というキーワードでフィルタリングすることなく、まずは本作に触れてみて欲しい。ヒップホップファンじゃなくても理解できるゲームとして作られているし、なによりゲームを通してヒップホップに触れることで、新しい世界が開けるかもしれないのだから。


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□エレクトロニック・アーツのホームページ
http://www.japan.ea.com/
□製品情報
http://www.japan.ea.com/eagames/teaser.phtml?ProductCode=ESPD-7084
□関連情報
【2005年1月12日】EA、PS2「Def Jam Fight for NY」
ユニークなゲームモードや格闘スタイルを紹介
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20050112/defjam.htm
【2004年12月13日】Def Jam所属アーティストによる格闘アクションの続編
EA、PS2「Def Jam Fight for NY」を発売
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20041213/defjam.htm

(2005年2月24日)

[Reported by 豊臣和孝]


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