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【特別インタビュー】

ナムコ「リッジレーサーズ」
開発スタッフに聞く(前編)


 



    左:小林賢也氏
     株式会社ナムコ「リッジレーサーズ」ディレクター

    右:寺本秀雄氏
     株式会社ナムコ「リッジレーサーズ」アソシエイトプロデューサー

    【「リッジレーサーズ」】

    12月12日 発売
    価格:5,040円



 株式会社ナムコがプレイステーション・ポータブルに向けて本体と同時発売で開発中の3Dレースゲーム「リッジレーサーズ」。開発スタッフに改めて復活する「リッジ」の開発エピソードをお伺いすることができた。長時間にわたるインタビューとなったので、今回は前編としてお届けしよう。(文中敬称略)


■ それぞれのファンの“ツボ”をちりばめた「リッジレーサーズ」

ナムコのPSPタイトル第1弾として、同時発売される「リッジレーサーズ」。過去にもPS用「リッジレーサー」、PS2用「リッジレーサーV」と同時発売を続けてきた記録がある

――まず、PSPのタイトルとして、なぜ「リッジレーサー」シリーズを選択したのかから教えていただけませんか?

寺本 初代プレイステーションでも、プレイステーション 2でも同時発売してきましたから、SCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)さんから新しいハードが出るよ、と話をきいた瞬間、「また運命の時が来たか……」と(笑)。それからすんなり「(仕様は)どうしよう……」となりましたね。

小林 最初は驚きもあったんですが、個人的にも「リッジ」のファンですし。「僕らが作らないと誰が作るんだろう?」、「どうせなら作ってみたい」という気持ちもあったので、すんなり「作ろう」ということになりましたね。

 ドリフトの爽快感と、ハードのベンチマークになるような美しいグラフィックというものは、今までの「リッジ」でも守られてきたものじゃないですか、それは当然実現しようという話になっていました。それと、前作となる「リッジレーサーV」から4年以上経過しているので、それぞれのシリーズのファンがいて、それぞれのファンにとっての“ツボ”があると思うんです。誰か向けに作ってしまうと、そうでない人たちにはどうしても気に入ってもらえない。初代から10年以上経過しているので、それをグッとまとめて、今までのファンが楽しんでもらえるようなものを目指そう、ゲーム内にその“ツボ”をいっぱいちりばめよう、ということが企画のスタートでした。

――今回は初の携帯機ということで、制作上で据え置きハード向けとは違うところはありましたか?

小林 PSPというハードのスペックは、本当にレベルが高いんですよ。レースゲームを作るうえで、携帯機の利便性を活かした仕組みは考えていたんですが、スペックが低いからこのあたりまで、ということは意識せずに、PS2のタイトルを作るときと同じぐらいの感覚で作っていましたね。画面的には横長なので、できるだけ注視点には何も置かないようにして、メーター類を画面端に配置する、といったことは行なっていますが。

記者がメニューやムービーシーンに感じたのは「MotoGP」シリーズや「R:Racing Evolution」などのテイスト

――メニューやムービーなどのデザインを見てみると、「R:Racing Evolution」や「MotoGP」シリーズのテイストも感じられますね?

小林 「リッジ」シリーズって、そのときに関わっているスタッフが「かっこいい」と思っているものを詰め込んでいる印象があって、今回も同じ感覚で作っているんです。今の僕らが「かっこいい」と思えるものがあれです。

寺本 今回は液晶なので、ドットの1つ1つが奇麗に見える。それを活かすにはどんなデザインがいいんだろう? ということで考えていった結果、わりとエッジが立ったデザインになっていますね。色使いや動きでは、あまり無機的すぎても冷たいイメージになってしまうので、アイコンのデザインなどに遊び心を入れるようにしています。

小林 液晶、奇麗ですよね(笑)。

寺本 この奇麗さを最大限活かそうよ、という考え方です。ですから、PSPに合うデザインという意味で「ソニーチック」にもなってるかもしれませんね。据え置き機だと映し出されるモニタのデザインは1人1人違うわけですが、今回はプレーヤーさんは全員同じサイズで、同じデザインのものを見ます。ですから、本体と合わせて全体で1つのデザインとして起こしました。

――従来なら複数で行なう画面の色味の調整や、サウンドの環境に関しても統一できるということですよね。画面が液晶ということで、ブラウン管を対象とした従来のものではない、独自の工夫はされているんでしょうか?

寺本 液晶が奇麗なので、逆にいつものように色をつけてしまうとどぎつくなってしまったり、コントラストが奇麗に出るといった特性を考えてデザインで工夫はしていますね。

小林 画面を横に長く使うということで、カーセレクトなどでは、中央に車をどーんと配置して、横にさらにカーソルを配置してみたり。16:9だからできる配置をこころがけました。


■ イチから作り直したコースとマシン

リッジレーサー初級(サニービーチ)コースでは、ヘアピンコーナー後のコース脇にあったお店も今や巨大なショッピングモールとなっている

――多数のコースが登場しますが、歴代シリーズから収録されたコースの選択基準などはどんなものですか?

小林 まず、過去のシリーズ全タイトルから収録しようと。それと、4年ぶり、もしくは初代しか遊んだことのない人からすれば10年ぶりにプレイしてもらうことになるので、それほど難しくないコースを選択したほうがいいかな、と。

 その前提で、あとは僕が走ってみて、より“ツボ”が強そうなコースをピックアップしています。でも結局「リッジ」って、都会を抜けて海があって、山があって……というパターンが多いので(笑)、バリエーションをつけるのは大変だったんですが、そこは時間帯や、天候などでできるだけ差別化しています。

――コースレイアウトは同じで、テクスチャをリニューアルされたりしていますが……。

小林 やはり“ツボ”は大切なので、ランドマーク的なものを残す形で作り直していますね。それ以外のものはほぼ全てテクスチャからモデルまで、作り直しています。コースレイアウトって古くなるものじゃないですし、1つのレイアウトって、その何10倍ものプランの中から生まれてきたものなんです。だから、つまらないはずがない。でもその周りの風景はハードスペックによって変わってきますから。

寺本 例えば天文台がもとのコースに入っているとしたら、「その天文台は今どうなっているんだろう? 何年か経っているからこうなっているかも」といったことを考えたりといったこだわりというか遊びを入れてありますね。昔のデータを流用しているというよりは、ほとんど完全に作り直しています。

小林 手間はほとんど新規に作り直しているものと一緒ですね。普通に考えると、コンバートすれば簡単だと思われがちなんですが、余計に手間がかかっていますね。

RAGGIO(SOLDAT)
EO(HIMMEL)
FATALITA(ASSOLUTO)

――マシンについては?

小林 過去のシリーズの主役マシン、「R4」だったらビゾンテ、「レイジ」だったらファタリタといったマシンはもれなくピックアップしていこうと。そのマシンが実在していて、ちゃんとモデルチェンジを続けていると、こんなマシンになっているであろうというものにしています。今回は車のデザインを、実在のメーカーでカーデザインを担当していた方にお願いして作ってもらいました。

寺本 彼の仕事を見ていて感じたのは、描かれるカタチの中に常にカーデザインとしての文脈があるというか、自動車のデザインには今までこういう流れがあって、その結果今はこういうデザインになるよ、といったリアルなデザイン上の言葉を体系的に持っているんだな、ということでしたね。それが説得力になって形に表れているんじゃないかと思います。

小林 自分たちで作ると、本物の車のどこか一部を切り取ってきたようなというか、すでに完成形、というようなデザインになるんですけど、その方のデザインを見ていると、最初はものすごくラフで、線からはまったく完成型が想像できないんですよ。だんだんブラッシュアップしていく段階で、本当に車になっていくというか。本来はクレイモデルを作っていく形に移行するんでしょうが、そこをCGに置き換えていくという形ですね。うちのスタッフもすごく刺激を受けていたようです。

――PS2と比較すると、コントローラでいえばDUAL SHOCKと本体にあるボタンやスティックと、操作面の違いもあったかと思うんですが?

小林 過去シリーズはいわゆる“「リッジ」挙動”としてひとまとまりにされやすいんですが、タイトルごとにドリフトの挙動が違うんですよ。流れとしては、そのときにベストだと思う挙動を作って、それにあわせてコースをデザインしているんですよね。今回は、いろんなタイトルからコースをピックアップしているので、どのコースでも気持ちよく走れなければいけないわけです。初代の初級コースは走れるけれども、「レイブレーサー」の「Mountain」は走れない、というわけにはいかない。そのチューニングは挙動担当のプログラマと、企画スタッフが本当に苦労していました。そのおかげで目標は達成できたと思っています。

「リッジレーサー」独特のスライド感覚は「リッジレーサーズ」でも間違いなく健在

――今回の「リッジレーサーズ」のマシンの挙動は、歴代シリーズのどのバージョンに一番近いんでしょうね?

小林 どれだろう……初代の業務用に一番近いかもしれませんね。ドリフトのきっかけを作るとスーッと滑っていってプレーヤーがドリフトをやめたいときにやめられるという。初代を目指したわけではないんですが、結果的には初代に近いものになったかなと。

――「リッジ」といえば、スライド中のレールの上に載っているような感覚が特徴だと思うんですが……。その気持ちよさの根源ってどの辺りにあるんでしょうか?

小林 企画内では、"俺・天才感"というか。あまり操作に慣れていない人が、コーナーを回ったときに奇麗にドリフトで抜けられて、「俺、うまいじゃん」と思える挙動がキモだよねと話していました。実際ならスライドしたらそのまま道沿いになんて走ってくれない(笑)。でも夢に描いているドリフトは、まさにアレなんです。それが具現化されているというか……。「リッジ」初代をデザインしたスタッフはすごいな、と改めて思います。

――もともとあった「リッジ」のドリフトを今、味付けするのは大変だったのではないかと思うんですが……。

小林 そうですね。頑張ってくれた、挙動担当のプログラマと、企画スタッフに感謝です。


■ PSPを極限ドライブ! ゲーム性ともどもアクセルを踏みっぱなし

――SCEの久夛良木氏が、PSPのバッテリーに関して、「メモリやプロセッサの利用状況で大きく消費電力は異なる。パズル系なら長持ちするが、リッジレーサーはそれよりも短くなるだろう」と発言されたことが、僚誌であるPC Watchの本田さんのコラムでも書かれていますが、このゲームをプレイして、バッテリーはどれぐらい持つものなんですか? 例えば、サウンドはUMDを回したまま流されているのでしょうか?

小林 定期的にロードしています。ずっとUMDを回しっぱなしにするとパワーマネジメント的にも不利なので。バッテリーの持ちもドライブの使い方に大きく依存しています。60フレームを維持しながら……本当に無線通信はするわ……。

寺本 描画の仕方をかなり極めた結果、テクスチャの置き方などによってもかなりCPUパワーを使うので……“「リッジ」がバッテリーを食う”と言われてしまっている1つの理由は、そういったところにもあると思います。ディスクは回しっぱなしではないですが、他のタイトルよりもという意味では、それだけPSPの性能を使い切っている、という。ゲーム性ともどもアクセルを踏みっぱなしという感じです。

――プログラム的にも相当……。

寺本 プログラマーたちも「“これ以上できない”というところまでやっている」と言っています。極限というのは単なる宣伝文句ではなく、ほんとにそこまで行っているってことなんですよね。

――制作期間は据え置き機ほどは長くないと思いますが……。

小林 今年の2月ごろに制作が決まって、1カ月ほどで企画内容が決まりました。その後、開発機材が到着するまで、PS2と同じ開発機材で制作しながら、PSPの予想スペックを想定して作っていきましたね。実際に開発機材が到着してからは、「こうしてテクスチャの持ち方をすると速い、こういったデータ構造にすると速い」といった検証をしては作り、検証しては作り、といった感じで内容を高めてきました。今、12月に発売するという期間の中で、僕らのできる最大のところまで来ている。そういった意味で極限まで、ということですね。

――聞いていると、気が遠くなるような話ですね。トップバッターということで、苦労の度合いが違うというか、ある意味貧乏クジを引いている気分になったりしませんか?

小林 先頭を突っ走っている喜びはありますよ。不確定要素があるといったローンチのつらさもありますけれども。でも、あの液晶で最初にコースやマシンを表示したとき、みんな「おーっ」と喜んだり驚いたりしましたし。そういういいところもあるかなと。

寺本 世界で初めて見た、ということもありますから(笑)。それは先頭を切って開発している醍醐味ですね。

――今の形になった、というか「これでいける!」と確信が持てたのはいつぐらいですか?

小林 10月の中ごろぐらいだと思います。走った後にちゃんとリプレイが表示されたりしたのはそれぐらいですよ。

寺本 やっぱり処理落ちもあった時期もありましたし。それに対してどう手を打つかということもプログラマと考えたりしました。データの持ち方を換えてみたり……そうやって全てをひと通り遊べるようになったのは、それほど昔ではないですよ。それにしても、本体同時発売でトップを取ることができるというのは、めちゃくちゃ気持ちいいんですよ。僕も「リッジV」に関わっていましたから……。

――そうすると、PSビジネスブリーフィングだとかTGS 2004の時期っていうのは、「まだまだ先がある」という状態だったんですね。

小林 そうですね。TGSの反応が良かったのは、スタッフにとっても追い風になったと思います。

――ユーザーさんの反応はやはり気になりますか?

小林 そうですね。特に今回、ファンの“ツボ”を突いたものを作る、という狙いもあって。「本当にこれが“ツボ”なのかな」という……。

――その“ツボ”のセレクトはどういった方法で行なってきたんですか?

小林 企画全員でミーティングを行なって、自分が“ツボ”だと思うものをピックアップしていって、それに優先度をつけて……といった“ツボ”の確認作業をしました。「レイブレーサー」を担当した企画スタッフにも出席してもらいました。

寺本 WEBを調べたり、アンケートハガキとかもできる限り読んでみたりしましたし。調べるだけ調べて、最終的には小林がまとめました。

小林 ミニゲームと永瀬麗子のムービーは、両方とも“ツボ”として挙げられていたんですが、「リッジレーサーレボリューション」まではミニゲームが入っていた。それが「レイジレーサー」以降はムービーになったわけですが、両方とも“Aクラスのツボ”なんで、「両方入れちゃおう」という感じで入れてます(笑)。

20面の「ニューラリーX」がまるまる入っている

――もともとはロード時間の合間に入れていたミニゲームだと思うんですが、今回はUMDでロードも速いわけですよね? そうなると本末転倒みたいな感じですよね(笑)。

寺本 ロードは長くないですよ(笑)。

――そのあたりのチョイスって面白いですよね。簡潔にしようと思えば入れなくてもいいと思うんですが。

小林 僕がユーザーだったときのナムコのイメージは、「過剰な遊び心」だったんですよ。それも僕の中ではやっぱり“ツボ”だったんですよ。

寺本 必要かどうか、といえばそうではないんですが、「おもしろい」、「笑える」、「すごい」という要素は大事だと思うんですよね。「ニューラリーX」はロードが終わったらすぐセレクトボタンを押してもらえればゲームに入れますが、続けようと思えば20面まで全ステージ収録してあると(笑)。

小林 4~5日で作ったみたいですよ。ちょっとした休みの間に作っちゃったみたいです。休みの前に「“ツボ”なんで入れてみたい」という話をしたら、「プログラマでもんでみるわ」という話で終わったんですけれど、休みが明けてみたらもうできてて(笑)。

――なんで「ニューラリーX」だったんですか?

小林 プログラマが作りたかったんじゃないでしょうか(笑)。僕がお願いしたわけじゃないんですが、結局それによってゲーム中のタイム差表示などにも広がっていったんで、今は「『ニューラリーX』で良かった」と思います。

寺本 『ニューラリーX』の後、オープニングのハイクオリティムービーを見るのがまたいいんですよ。ローファイな画面からハイレゾな映像へと、すごいコントラストで(笑)。店頭でも「ニューラリーX」とオープニングムービーの両方を楽しんでいただけると思います。

――なるほど(笑)。


 というわけで、今回はここまで。新要素やオープニングなど、まだまだお伝えしたいことが残っているので、後編をお楽しみに。

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※画面は開発中のものです。

□ナムコのホームページ
http://www.namco.co.jp/
□ナムコチャンネルのページ
http://www.namco-ch.net/
□製品情報
http://namco-ch.net/ridgeracers_psp/index.php
□関連情報
【11月10日】ナムコ、PSP用「リッジレーサーズ」3タイプの動画を公開!
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20041110/rrs.htm
【11月8日】ナムコ、PSP用「リッジレーサーズ」
PSP本体と同じく12月12日発売決定!!
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20041108/rrs.htm
【9月25日】TGS2004ブースレポート~ナムコ~
プレイアブルタイトルてんこ盛り!
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040925/namco1.htm
【9月21日】SCEJ、「PSビジネスブリーフィング」開催。PSPの実機を公開!! ただし発売日は公開せず
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040921/scej1.htm

(2004年11月15日)

[Reported by 佐伯憲司]


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