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オンラインゲーム専門部会 第4回研究会レポート |
会場:東京ビッグサイト
「e-Sports」という用語を聞いてピンと来る人はまだ少ないだろう。これまでGameWatchでは「World Cyber Games」や「Cyber Professional league」といった、PCゲームを主軸とした国際大会を取り上げてきたが、こういった「ゲームをスポーツとしてとらえ、かつために真剣に競う」という現象を指す言葉である。
これまで「アジア圏オンラインゲーム産業最前線・変化の胎動を読む」や「企業間の国際的なコラボレーションで実現するオンラインゲーム事業戦略 中国・台湾・日本における事例研究」、「オンラインゲーム運営に於けるインフラストラクチャ問題 コンテンツメーカーと、ネットワークキャリアとの接点をつくる」と題して研究会を開いてきたオンラインゲーム専門部会だが、第4回のテーマは「日本における e-Sports ビジネスの可能性を探る」。日本におけるe-Sportsの現状の説明や、普及のためにはどういったことが必要なのか、またビジネスとしてe-Sportsにはどの程度の可能性があるのかと言った事に関して話し合われた。
■ 「e-Sportsはボトムアップで生まれてきた」、既存のゲームビジネスとはまったく異なる浸透過程
名実共に日本のe-Sports界の第一人者である、株式会社テクノブラッドのイベント事業部「AceGamer.net」の犬飼博士氏 |
海外のe-Sportsプレーヤー達が使うe-Sportsに特化したマウスやマウスパッド、ヘッドセットなど。海外ではこういった市場が既に成立している |
今回の講演の内容の多くは「e-Sports」という言葉を知らない初心者の為の講演内容であり、e-Sportsで使われる種目やWCGやCPLといった大会の説明、BYOCという文化に関する説明が中心であった。その中でも注目すべき内容だったのは、「e-Sportsという文化が発生したプロセスがこれまで存在していた製品としてのゲームが浸透するプロセスと大きく変わっている」という点だ。
犬飼氏は、「製品としてのゲームは、家庭用かアーケードか、PCかといったプラットフォームにかかわらず、投資家が金を出し、開発者がアイディアを出し、パブリッシャーが売り、ユーザーへと降りるというトップダウン式の浸透方式であった。しかし、e-Sportsはまったく逆でユーザーコミュニティからユーザーも、アマチュア開発者も、投資家も発生しボトムアップ的に浸透してきた。」とコメント。従来のスポーツと同じようにコミュニティがその基盤となっているところにe-Sports最大の特徴があるとしている。
その大きな例として、もともとアマチュア開発者の手によって「Half-Life」のMOD(Modification)としてリリースされ、今ではe-Sportsで使われるソフトとしてもっとも支持を受けている「Counter-Strike」を挙げている。確かに「Counter-Strike」はユーザー主導で開発がスタートし、ユーザーの声を真正面から受けとめてゲームバランスなどの調整がこまめに行なわれてきたことで、ユーザーから強い支持を受けてe-Sportsの大会などに使われている。また、HLTVのような「ゲームプレイを見る」ためのプログラムが「Counter-Strike」に実装されたのも、ユーザーからの声があったからこそだ。
さて、講演のまとめとして犬飼氏は日本におけるe-Sportsビジネスに関しては様々な分野に可能性があり、心当たりのある方はどんどん参入してきて欲しいとしている。それを具体例を含めて以下にまとめておこう。
・インターネット回線の質の向上
日本はADSLやFTTHといった回線の普及によって、世界でもトップレベルの高速回線普及率を誇っている。しかし、その高速回線という概念は「帯域が広い」という所に主眼がおかれており、パケットロス率の低下や応答速度といった「回線品質」に関わる部分はLANでPCを繋いだときのようにはいかない。そのため、回線品質が今まで以上に向上したインフラを提供することがビジネスチャンスに繋がる。犬飼氏は「e-Sportsは、ブロードバンド性能がもっとも活かせるコンテンツだと思う」とコメントしている。
・ゲームサーバーの提供ビジネス
現在、e-Sportsで使われるゲームをインターネット経由で遊ぶためのサーバーの多くは、ユーザーがボランティアで建てているのが現状だ。そのためサーバーによっては多人数で遊べなかったり、運営時間が限定されたりとe-Sportsで要求されるハイレベルなサーバー運営はできていないことが多い。また、できていたとしても満員で接続するのに順番待ちで待たなければならないのも日常茶飯事だ。ハイパワーなPCとこまめなサポート、24時間運営のゲームサーバーを会員制で提供することも可能だろう。
・e-Sports専用ソフトの開発
犬飼氏によれば「プレーヤーにとって表現力があって(プレーヤースキルの磨き甲斐がある)、観戦者から見ても魅力的なタイトル」とのこと。もちろんユーザーの声をこまめに反映してバランス調整を行なうサポート体勢も必要だろう。現在それにもっとも近いのは「Counter-Strike」ではあるが、まだまだ数々の不満点は解消されていないのでそこにビジネスチャンスがありそうだ。「日本がもっとも得意とする分野であり、市場は世界規模で広がっている」と犬飼氏はコメントしている。
このほかにもゲームセンターの延長上に存在するであろうと思われる「e-Sportsセンター」や、自分たちもWCGやCPLで行なっているような「イベント運営」、「ゲーマー自身のプロ化」などを例に挙げた。特にゲーマーのプロ化に関しては、来年2005年に行なわれるCPLが個人単位での大会となること、優勝すれば3,000万円の賞金が手にはいること等をあげ、「個人でもやる気があれば十分にビジネスとして成立する」とコメントし、プレーヤー自身がアスリート化することを期待していると締めくくった
■ 高リピート、高単価、長期間の客層を育成するサイバーカフェというビジネスモデル
LEDZONEは、現在、東京の蒲田や池袋、長野県の南松本の3カ所を拠点に試験運営が行なわれているナムコ直営のサイバーカフェ。この店で提供されているのは、「Counter-Strike」の開発元であるValve Softwareからナムコがライセンスを受けて新たに開発された「カウンターストライクネオ」ただひとつ。既存の「Counter-Strike」とは完全に独立しているため、お店に来ないと遊べないという独自展開を行なっている。
土屋氏はLEDZONE(「カウンターストライクネオ」)の特徴として、ゲームとして最初から高い障壁を設定しているタイトル(マウスとキーボードで操作する、チームベースで動くなど)にもかかわらず、口コミで効果でリピート率が高く、加えて客単価も高いとコメント。また、開店から1年以上が経過しているにもかかわらずコンテンツが陳腐化していない点も、これまでのゲームコンテンツと明確に違うとコメントした。
それをふまえた上で、先壇にたった犬飼氏が展開するe-SportsビジネスとLEDZONEが提供するビジネスの相関関係について話を展開させた。詳しい相関図はパワーポイントの図を見ていただくとして、土屋氏はこの相関図を通して「カウンターストライクネオはCounter-Strikeに比べて、お店に来れば遊べるという意味では始めることがたやすく、間口を広げるという要素を持っている」とコメント。 また、「日本において、スキルレベルが高いCounter-Strikeはオンラインでの対戦が中心で、一方カウンターストライクネオはお店に来なければできないためオフラインでの対戦が中心となっており、海外のe-Sportsがオフラインでハイレベルという状況に比べるとねじれ状態が発生している」と日本のe-Sports界の問題を指摘した。この問題に対する解決策として「今後Counter-Strikeは日本でもLAN環境におけるオフライン環境へ移行すべき」だとコメントした。
ちなみにこのグラフ、「Counter-Strike」を構成する三角形の面積が少なすぎるのは確かだ。グラフ内の「やったことのある人」を「複数回、意識的に遊んだことのある人」と解釈しても、少なくとも5倍の人数はいる。それに、FourDimensionのようなオフライン志向のクランも存在していることから、緑の三角形は世界レベルのピンクの丸を目指して斜めに伸びているのが現状だろう。とはいうものの、ハイスキルな「Counter-Strike」の人口はオンラインメインで、ミドルスキルのカウンターストライクネオの人口がオフラインメインというねじれ状態に日本の「Counter-Strike」界があるのは変わらない。
では、こういったねじれ状態を解決し、日本のカウンターストライク界をLANを使ったオフラインに移行させるためにはどのような必要があるのか。土屋氏は香港などで見られるサイバーカフェを提案した。これは、日本でよく見られるようなインターネットカフェとは違い「ネットワークゲームに特化した専門店舗」を指す。土屋氏はこのサイバーカフェは日本で十分に成功すると主張、持論を堂々と展開した。「ネットワークゲームに特化した業態でのサイバーカフェは日本でまだビジネスとして検証されておらず、漫画喫茶と同列でビジネスを語ること自体が間違い」と断言した。 パワーポイントのグラフを見て頂くとわかるが、最初のうちはいいものの競合店舗ができるとすぐにダンピング競争にはいり長期に渡って安定した利益を確保できない漫画喫茶とサイバーカフェは明確に違う。サイバーカフェは、初期の障壁はあるものの、イベントや店舗内リーグの運営などの店舗独自の運営ノウハウを獲得することによって長期に渡って定期的にお客さんを引きつけることができるというわけだ。
これから派生して、LEDZONEでの経営を通して培った「サイバーカフェ運営虎の巻」と題して、日本でサイバーカフェ運営を成功させるためのノウハウに対しても言及した。これを以下にまとめてみよう。
・成功するために必要なもの
快適に遊べるマシン(ゲームコンテンツ自体の魅力を維持するため)、強い対戦相手(ビギナープレーヤーの目標として)、プレーヤー同士の交流(ゲームコンテンツを研究させ、コミュニティを形成させる)、客を先導するスタッフ(お客へコンテンツを解説し、楽しさを理解させる)、試合をコーディネイトできるスタッフ(店内で積極的に対戦を奨励させる)
マシンメンテナンスができるスタッフ(コンテンツの質を維持するため)、公式戦やリーグ戦の実施(リーグを実施することで、練習や大会などの売り上げを能動的に作ることができる。そして待ちの運営をする必要がない)、フェアプレイカルチャーの実践(店舗の雰囲気を維持する)、ゲームが上手いと言うことに意味を持たせるカルチャーの醸成
・成功するために必要ではないもの
内装投資(マシンに投資するべき)、宣伝(口コミで十分)、マンガ(マンガ代がバカにならない)、立地(交通手段さえ確保されれば、2等立地で十分)、付帯サービス(飲食物は持ち込みで十分、シャワーもいらない)、複数のコンテンツ(ひとつのコンテンツを5年持たせる)、接客だけのスタッフ(コンテンツが理解できていないと意味がない)、24時間営業(深夜は貸し切りでOK、朝からゲームをする人は少ない)、レジ会計スタッフ(自販機などをおけばよい)、チートをしたり、初心者をボコボコにしてしまう人
加えて、土屋氏は運営者が心がけるべきノウハウとして「店で提供するコンテンツはユーザー自身が希望するものを選択すること。店側の都合でコンテンツをコロコロ変えてしまってはせっかくついたユーザーが離れてしまう」、「提供するコンテンツの対戦ルールは、オープンな場で議論して明確な理由を持って変更すること」というユーザーよりの姿勢を維持することの重要性を解いた。ユーザー重視の姿勢を取り、店とユーザーの距離を縮め、店舗を軸としたコミュニティを形成することで「高リピート率、高単価、長期間」の客層を維持することができるというわけだ。
最後のまとめとして土屋氏はe-Sportsの将来性に関して言及。日本におけるe-Sportsの市場を「日本ではまだ畑を耕して種を植えた段階」と表現。既に畑に作物が実っている韓国や欧米のような成功を早期に期待してはダメで、現状は関わる人間が協力して市場を育て、将来の収穫を期待したいとコメント。世界的に起こっているムーブメントではあるが、コンシューマー機を使って自宅で1人でゲームを遊ぶ人が多い日本市場は特殊であり、まだ時間がかかるとした。
またコンテンツを提供する側は、メーカーの論理に振り回されるのではなく、お店に遊びに来るプレーヤーの声を聞いてコンテンツ運営を行うべきであるという「ユーザー重視の姿勢」をことさら強調していた。キャンペーンを行なうタイトルがメーカーからのプッシュ(協賛金など)によってコロコロ変わることが多い為に店舗内のユーザーコミュニティが大きく育たない既存のインターネットカフェと比較すると、土屋氏が提唱する「サイバーカフェ」の概念は、ユーザーにとって非常に魅力的な物であり、e-Sportsという土壌を日本国内で育てていくためには最適な方法だと言えるだろう。
今年のゲームショウで発表されたナムコのアーケードシステム「system n2」の第一弾タイトルはカウンターストライクネオになることが決定している。そして来年以降、LEDZONEは国内1,000店舗を目指して本格的な展開を始めることを発表している。今後、土屋氏のノウハウに則った運営スタンスを持つLEDZONE(サイバーカフェ)が増えることが期待される。
□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bbassociation.org/
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(2003年11月1日)
[Reported by tyokuta@ukeru.net]
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