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オンラインゲーム専門部会第2回研究会レポート
中国オンラインゲーム市場の特異な実態が明らかに

7月24日開催

会場:フォーラムミカサ

 ブロードバンド推進協議会の一組織であるオンラインゲーム専門部会(SIG-OG)は、7月24日、都内において第2回目の研究会を開催した。会場には、中華圏への進出を狙うメーカー関係者やアナリスト、ゲーム開発者などが出席。第1回会合に比べ、研究内容が明確化され、より実践的となったこともあって、ぎっしり埋まった客席では真剣にメモを取る姿が見られた。

特別講演を行なうガマニアViceCOOの浅井清氏。主にアジア産のオンラインゲームを日本展開する際のノウハウについて語った
歯に衣着せぬ態度で中華圏市場の実態を伝えたTaipei Computer Associationの東京事務所代表吉村章氏。現在もっとも台湾ゲーム市場に精通する日本人といえる
盛大ネットワーク日本事務所代表の黄哲氏。中国オンラインゲーム市場の特異な実態を切々と語った
 6月19日の特別講演会に続いて、早くも2回目の会合となる研究会では、「企業間の国際的なコラボレーションで実現するオンラインゲーム事業戦略 中国・台湾・日本における事例研究」と題して、中華圏市場の最新動向と日本のメーカーが中華圏に進出する際の様々な障害などについて様々な情報が提示された。

 今回のパネリストは、台湾最大手のゲームメーカーであるガマニア・デジタル・エンターテインメントのVice COOを務める浅井清氏、Taipei Computer Associationの東京事務所代表吉村章氏、そして中国大手パブリッシャーの盛大ネットワーク日本事務所代表の黄哲氏の3名。いずれも中華圏のゲーム市場に精通したその道のエキスパートばかりである。

 研究者ばかりを揃えた前回に比べると、今回は実際の現場で活躍している責任者ばかりが集められ、一気にライブ感の高いビジネス寄りの研究会にシフトした印象がある。前回の時点では、座学なのかビジネス講座なのか、はたまた単なる情報共有の場なのか、オンラインゲーム専門部会としての方向性が不明確だったが、第2回で早くも明確化された形だ。

 また、今回は議題そのものがクリティカルだったこともあり、出席者も錚々たるメンバーが集まっていた。ごく一部だけ紹介すると、前回のパネリストのひとりであるコーエー執行役員の松原健二氏、「ミュー ~奇蹟の大地~」、「眠らない大陸クロノス」など複数のMMORPGを日本展開するゲームオンの代表取締役社長キム・ジョンシン氏、「Counter-Strike-Neo」を国内展開するナムコLEDZONEプロジェクトマネージャーの土屋哲夫氏など。まだ一般に開かれた形での研究会は2回目とはいえ、「オンラインゲームのマーケットボリュームの研究および、国際的な情報交流」という専門部会の目的は順調に果たしつつあるという印象だ。

 さて、ひとつ目の特別講演「台湾オンラインゲーム市場動向と今後」では、吉村章氏と浅井清氏が台湾オンラインゲーム事情について語った。吉村氏は台湾オンラインゲームの最近の動向として「トップ2タイトルがシェアの80%を占め、伸びも鈍化傾向にあり、全体として飽和状態に陥っている」と指摘。浅井氏も同様に「ビッグタイトルが減ってきて、マーケット的に頭打ち状態にある」とした。

 その上で、昨年に入って2タイトルのシェアが81%が73%に低下したことを受け、マーケットとして成熟傾向にあるとした。台湾をベースに活躍しながら、中華圏上陸を狙うメーカー関係者に過剰な夢を抱かせないコメントは好感が持てるが、その一方で、吉村氏、浅井氏とも提示した各国のユーザー数のデータにあまりにも差がありすぎて信憑性に欠ける。

 これは数万、10数万という、パッケージ市場に比べ格段に小さな単位でビジネスを展開していくオンラインゲーム市場を見る上での指標としては、データ取りがあまりにずさん過ぎる印象がある。市場の鈍化、頭打ちという認識にしても、そもそもの起点である400万という日本の倍に相当するユーザー人口の妥当性から見直す必要があるのではないだろうか。

 台湾のトレンドとしては、最近ゲームメーカーの上場が相次いでおり、そこで得た資本を元に自社開発に取り組み、今後は海外展開を目指していくという展望が明らかにされた。イメージとしてはオンラインゲーム市場が熟成した韓国、台湾から、発展途上である日本や中国に流れていくというものだが、これについても市場の熟成、成長という言葉が都合のいい解釈の元に勝手に一人歩きしてしまっている。

 そもそも日本が未成熟で発展途上という認識がおかしい。各国の出発点だけ見ても、韓国の「Lineage」が'98年、台湾で2000年なのに対し、日本では'97年の時点で「Ultima Online」の輸入版が大ヒットしている。'98年には日本サーバーによる運営もスタートし、現在に繋がる大きな一大ムーブメントを巻き起こしたことはよく知られている話だ。

 国産においても、'97年にセガの「Dragon's Dream」を皮切りに、'98年に日本システムサプライの「Lifestorm」、'99年にネクステックの「ダークアイズ」といったタイトルが生まれている。こうしたデベロッパーレベル、ユーザーレベルでの長い経験の積み上げを経て、日本のオンラインゲーム市場が存在する訳であり、それらを全部無視して、単に市場規模が小さいから日本が未成熟で発展途上であるという論にはまったく賛同できない。 そろそろ日本がオンラインゲーム後進国であるという間違った認識は改めるべきではないか。

 休憩を挟んで行なわれた2つ目の特別講演では、黄哲氏が「中国オンラインゲーム市場の現状と進出への指標」の講演を行なった。中国のオンラインゲーム市場は、スクウェア・エニックスなどごく一部を除いて、橋頭堡を築けていないのが実状だけに、参入を希望するメーカーにとっては有益な情報が多かったのではないだろうか。

 黄氏は、まず中国オンラインゲーム市場の特異さを示すデータとして、MMORPGの主要開発国である日米欧のメーカーの占める割合がわずか7%であることを紹介。これは日米欧のゲームがユーザーに受け入れられないというわけでなく、純粋に海外メーカーに対して、政府の規制が厳しいことを示している。

 中国ではゲームメーカーを設立するにあたり、複数のライセンスの取得が義務づけられており、中国中央政府の3つの部局に対して申請を出し、認可を得なければならないという。海外資本は50%以下、猥褻、暴力、中国文化/歴史の否定は不許可、売上金の海外送金の制限など、あらゆる要素に規制事項が設定されており、それ以外にも開発者の不足や、プロジェクトマネジメントのノウハウなどが不足していることを挙げ、自らの経験をもとに中国展開の難しさを紹介した。

 その上で、ブロードバンド人口の急増、インターネットの普及により流通の問題がクリアされたこと、ユーザーのエンターテインメントに対する欲求の増大など、10つのビジネス的な要因を挙げ、オンラインゲーム市場としてはもっとも有望であることを訴えた。 日本に比べ極端にハイリスク、ハイリターンという印象だ。

パネルディスカッションのモデレータを担当したSIG-OG副部会長中村彰憲氏。アジア諸国のオンラインゲーム市場を研究されている
4名の豪華パネリスト。右端がボーステック代表取締役社長八巻龍一氏。「銀河英雄伝説 Online」がまだ中華圏でβテスト前ということもあって、実体験に基づく具体的な話は出なかった
苦笑しながらパネルディスカッションに飛び入り参加したコーエー執行役員の松原健二氏
 最後のパネルディスカッションは、SIG-OG副部会長である立命館大学助教授中村彰憲氏をモデレーターに、今回特別講演を行なった浅井氏、吉村氏、黄氏の3名に、「銀河英雄伝説 Online」で中国進出を狙うボーステック代表取締役社長八巻龍一氏を加えて計5名で行なわれた。

 もっとも熱心な議論が展開されたのは、やはり中国進出に関して必須要件となる免許の問題について。その問題についてもっとも深く知る立場にいる黄氏は、「中国のメーカーなら申請は取りやすいが、海外のメーカーだと取れるかどうかはわからない」といきなり悲観的な見解を披露。

 ここで中村氏は、客席に座っていたコーエー執行役員松原氏に対して、これら許認可は本当に必要なのか実はそうではないのか、日本から実際に中国進出を果たしたメーカーとしてのコメントを求めた。これは誰しもが聞きたかった質問であり、このような質問は本当に素晴らしい。

 松原氏は、「結論から言うと、取っておかなければならない」と断言。続けて「ICPの免許(編注:中国でゲームを販売する上でもっとも基礎となる免許)は、現地100%資本のメーカーが取る必要がある」とし、「外資でも取れないことはないらしいのですが、実際には取れた例は聞いたことがない」と、厳しい現実を明らかにした。

 松原氏は、そうした中国市場の中で外資メーカーの取るべき基本スタンスとして、「最悪倒れる(経営廃止に追い込まれる)ということを考えておかなければならない」という見解を披露。その理由として「様々な規制があるにもかかわらず、細かい部分が明文化されていない」ことを紹介。

 具体的な例としてフォントの問題を取り上げた。中国では使用フォントにも規制があり、簡体字だけを取っても、公認フォントと非公認フォントがあり、ゲーム内ではすべて公認フォントでなければならないのかというと、政府の役人も含め、誰も明確に回答できないという。

 続けて中村氏は、官僚、行政との付き合い方について質問。松原氏は、「日本で行政と話し合いをする場合は、お互いの妥協点を見つけることは容易だが、中国では下手に交渉すると、ピシャッと蓋を閉められ、それっきりになることもある。ビジネスとして展開させる場合は、絶対に大丈夫というところまで持って行かないと安心できない」とコメント。中国市場でゲームビジネスを展開することの難しさを訴えた。

 中国市場のエキスパートである黄氏はこの問題について、「これは我々でも難しい問題です」と断った上で、「明文化された部分はそのとおりにすればいいが、問題は明文化されていない部分。これは特定の役人の気分次第という部分も多く、その役人と仲良くするしかない」とコメント。

 続いて中村氏から話を振られた台湾市場のエキスパート吉村氏は、まず「先ほどコーエーの松原氏からコメントがありましたが、石橋を叩いて渡るような、まったく日本的な発想」と一蹴。「批判するわけではない」としながら、「日本企業は石橋を叩いて叩いて橋を壊してしまう企業が多いのに対し、台湾企業は石橋を叩かずに側面を泳いでいく。フレキシブルに対応し、スピーディーに展開していくのが台湾企業の強み」と海千山千の台湾市場を長年見つめてきた吉村氏らしい独特の見解を披露した。

 具体的には、「どの担当当局のどの担当者がキーマンであるのかを探り当て、法律をいい意味で運用していく。これは単に言葉が通じるというだけの問題ではなく、根回しというかネゴというか日頃から当局と円滑なコミュニケーションが行なえる環境を作っておき、うまく法律をすり抜けている台湾企業は多い」とコメント。

 すかさず中村氏が、「根回しといっても、そこで行なわれる根回しは、我々の想像を超える内容だと理解していいのでしょうか」と質問すると、吉村氏は沈黙を持って肯定。中国オンラインゲーム市場の凄まじい実態が浮き彫りにされ、さすがに客席はしんと静まりかえった。

 '90年代の東南アジア地域における先進国間の壮絶なマネーゲームを彷彿とさせる非常に興味深い話だが、ここまで身も蓋もない話を日本に浸透させることがSIG-OGの目的ではないような気がする。SIG-OGでは、すでに次の専門部会の開催も決定しており、第3回のテーマは「オンラインゲーム中毒(仮題)」。第2回にも増して建設的な議論が交わされることを期待したい。

□ブロードバンド推進協議会のホームページ
http://www.bbassociation.org/
□関連記事
【6月21日】SIG-OG、オンラインゲーム専門部会特別講演会を開催
コーエー松原氏「開発費回収のために海外展開は必然」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040621/sigog.htm

(2004年7月26日)

[Reported by 中村聖司]


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