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★PCゲームレビュー★
■小説、映画とも異なる独自の切り口でファンタジー世界を表現
児童向けの小説にしてはちょっとボリュームがある内容も、「謎解き」を絡めた本筋の楽しさがぐいぐいと読者を引き込んでいく。教室にたどり着くのにも苦労させられる謎の仕掛けに満ちた校内や、箒の乗り方や妖しげな薬を調合する魔法の授業、といった独特のリアリティーをもつ魔法使いの世界。意地悪な級友をやっつけたり、テストに悩んだりという等身大の学生生活。 また、耳くそ味まである「百味ビーンズ」や、もぞもぞ動く「カエルチョコレート」といった、登場する食べ物がまったく美味しそうに感じられないところなど、英国風のユーモアも兼ね備えている。こういった世界観の深さも、この作品の大きな魅力だ。 今作、「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」では、脱出不可能と言われる魔法使い達の監獄「アズカバン」を脱走した囚人シリウスが、ある目的を胸に秘めハリーをつけねらう。3年生となったハリーは、不安を抱えながらも学園生活を送り、この事件をきっかけに、また一段大人へと成長していくことになる。 PC版「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」は、同名の映画をモチーフにしたアクションアドベンチャーゲーム。同作はPS2/GC版もリリースされており、それぞれ個性的な味付けが魅力となっているが、PC版も大胆なアレンジが行なわれている。ハリーだけではなく、ロンやハーマイオニーと協力して、ゲームを進めるというコンセプトはそのままに、「魔法の試験」を中心に置き、ハリーの世界を題材にしたかなり純度の高いアクションゲームとなっているのである。 キーボードのカーソルキーでも操作可能だが、マウスとW、A、S、Dのキーを使用するいわゆる“FPS方式”での操作が一番しっくりくる。魔法は掛ける対象によって種類が自動的に変化し、簡単操作で多くの魔法を自在に使いこなす感触は非常に楽しいものがある。PC版独自のキーボードでの操作を覚えなくてはならないという敷居の高さがあるが、是非、低年齢のユーザーにも遊んでもらいたい内容である。 ■ホグワーツ魔法魔術学校3年生として、新しい呪文を習得 ハリー、ロン、ハーマイオニーは、ホグワーツの3年生として、それぞれ新しい呪文の習得に挑戦する。本作では3人はそれぞれ、別の呪文の習得に挑戦するのである。 最初はロンが“光の縄”を使いこなす呪文、「カーペ・レトラクタム」を学ぶ。この「学習方法」がものすごい。学校内の隠し扉を超えると専用の「迷宮」が拡がっている。目もくらむような高さにある足場。ロンは虚空に浮かぶ光の球に呪文で光の縄を出し、引っかけて底も見えない深い裂け目に飛び出していく。 非常にケレンに満ちた、おどろおどろしいフィールド。そこをアクションで突破していくのが今作の「授業」なのだ。高所恐怖症の人は近づくことができないような恐ろしい高さにある、細い足場。爆発するキャンディーを投げつけてきたり、氷の球を投げかけてくる小妖精。間違いなく命がけの“冒険”なのだが、「こういうテストで卒業できるなら挑戦してみたいかも……」という気持ちもわいてくる。冒険好きの少年にとって、非常に理想的な「勉強」だといえるだろう。 3人それぞれが挑戦するフィールドはまったく別なものになっており、ハーマイオニーは石像を操ってトラップを突破していく「ドラコニフォース」、「ラピフォース」を使って、庭園のようなフィールドを突破していく。ハリーはものを凍らせる呪文「グレイシアス」。この呪文を使って、炎を吐き出すサラマンダーと戦うほか、ボブスレーのような氷のコースを、ハイスピードで駆け抜けていく。コースの外は奈落の底である。例え落ちてしまっても、少し前の場所に戻されるだけで、残酷な描写はない。こういった部分も「魔法の授業」という感覚を補強してくれる。 本作はアクションゲームとしてはそれほど難易度は高くない。ジャンプなどの判定もかなり甘いものになっていて、ドキドキ感を体験させながら、苛立ちは感じないバランスになっている。画面だけ見ると、コアなアクションゲーマー向けに見られるかもしれないが、そのようなことはない。この難易度のさじ加減は、好感が持てる。 魔法を含め、操作は直感的である。マウスで辺りを見回し、キーを押してキャラクタを操作。敵の弾はAとDで平行移動でかわす。ゲームでは新しく習得する呪文の他、開鍵の呪文「アロホモラ」、特定の床をトランポリンに変える「スポンジファイ」などさまざまな呪文を使う必要があるが、魔法ボタンである左クリックを押しながら対象を選ぶだけ。移動用のキーと、マウスの2つボタンだけで、さまざまな操作が可能になっているのだ。 フィールドは、ただ突破するだけではなく、非常に多くの探索要素を持っていて、騎士の鎧や垂れ幕などに調査の呪文「デルパソ」をかけると、百味ビーンズや、カボチャケーキなどが入手できる。これら隠しポイントはフィールド上にたくさん配置してあり、くまなく歩き回って、ところかまわず魔法を試みる感触が楽しい。反応のある場所はきちんとカーソルが変化して知らせてくれるので、調査にストレスはたまらない。また、やたら反応する場所が多いのも、探索熱を煽ってくれる。 各フィールドにはたくさんの隠し部屋が仕掛けられていて、意欲を持って探してみれば、それに応えるだけの隠し要素を持っている。見つけだしたときには爽快感がこみ上げてくる。しかも、それで「テストに合格」できるのだから、楽しさは倍増する。魔法魔術学校にあこがれを抱くような、低年齢のユーザーは、特に引き込まれる魅力だろう。 PCゲームということで、ちょっと敷居は高いが、子供のために、親が購入することを考慮してもいいゲームバランスであると思う。リアルなグラフィックと、マウスの独特な操作性は、コンシューマゲーム機に慣れた子供には新鮮な感触をもたらすに違いない。子供にも勧められる、本物のグラフィックと優しいゲームバランスを持つ本作は、希有なPCゲームといえるだろう。
■やり込み要素たっぷりな魔法魔術学校での生活 魔法の習得に挑戦するステージは、ボリュームがあってやりごたえがある。それでいて、セーブポイントが細かく設置してあるために、好きなところで切り上げられるという手軽さを併せ持っている。 ゲームは魔法の習得だけではない。もちろん、原作そのままのシーンを追体験できる仕掛けもある。特に恐ろしい吸魂鬼ディメンターを退ける呪文「エクスペクト・パトローナム」をゲームの中で実際に使えるシーンなどは、ハリーになりきることができる。しかし、「この作品をプレイすれば、映画は見なくても大丈夫」というほどに、映画のシーンは使用されているわけではなく、本作のストーリーの説明はかなりあっさりしている。映画を見たり、本を読んで、原作のストーリーをつかんでからの方が、本作はより魅力的になるのである。 筆者がこのゲームをプレイするのに、映画の鑑賞をおすすめするのは、本作が「映画そのままの魔法魔術学校内を探検できる」からである。人を乗せたまま移動する階段、「太った貴婦人」の肖像画の向こうにある寮、学校の外にはハグリットの小屋もある。映画では自由に歩けない学校を思うままに歩くことができる楽しさは、原作ファンならば一層楽しめるだろう。 歩いているキャラクタに話しかけても原作に忠実なレスポンスが返ってくる。大概のキャラクタは友好的だが、ハリー達「グリフィンドール寮」に激しいライバル心を燃やす「スリザリン寮」の子供達は、挑戦的な台詞を投げかけてくる。 校内は、野外フィールドと同様に、さまざまな隠し要素があり、百味ビーンズやカボチャケーキがさまざまなところに隠してある。それらを集めて、フレッドとジョージの店に行けばアイテムやカード、さらには肖像画の合い言葉と交換してもらえる。 原作では百味ビーンズのオマケだった魔法使いのカードだが、本作では大事なクリア要素。学校内の生徒もカード収集には協力してくれる。内容は、世界観をふくらます、雰囲気たっぷりなものだ。「怪物的な怪物の本」が、図書館内で襲ってきたり、ヒッポグリフで峡谷を抜けるといったミニゲームもちりばめられている。場所によっては、3人で協力して魔法をかけなくてはいけなかったりと、仲良し3人組でのドキドキするような「学校探検」の要素は、映画や原作のハリー達に近づいたような気持ちをもたらしてくれるだろう。 映画そのままの学校内を歩き、原作以上に学校の“秘密”を探ることができる本作。繰り返すが、親子でも楽しんでもらいたい作品だ。映画や原作を補強してくれる、大変魅力的なアイテムである。 (C)2004 Electronic Arts Inc. Electronic Arts, EA, EA GAMES and the EA GAMES logo are trademarks or registered trademarks of Electronic Arts Inc. in the U.S. and/or other countries. All rights reserved. All other trademarks are the property of their respective owners. EA GAMES TM is an Electronic Arts TM brand. HARRY POTTER and all related characters and elements are trademarks of and (C)Warner Bros. Entertainment Inc. Harry Potter Publishing Rights (C)JKR WBIE LOGO, WB SHIELD: TM & (C)Warner Bros. Entertainment Inc. (s04)
□エレクトロニック・アーツのホームページ (2004年7月1日) [Reported by 勝田哲也]
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