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★PS2ゲームレビュー★
■ 「スペースチャンネル5」のスタッフがおくる、アニメ版「鉄腕アトム」のゲーム
アトムは、「来るべき世界」の象徴であり、人がどれだけの文明を生み出すか、未来には何が待っているかを、読者に見せてくれた存在である。アトムはともすれば、暗くなりがちなその未来ビジョンの中で、それでも希望を捨てない、「光」の申し子であった。 彼の設定での誕生日、その年を記念してアニメ「ASTRO BOY 鉄腕アトム」が制作された。天馬博士の解釈や、アトムの生い立ち、ロボットと人間のテーマ、世界戦略を意識しての人物設定など、さまざまな部分で独自のアプローチが行われた、新しい「アトム」である。 ソニックチームが制作したPS2版「ASTRO BOY 鉄腕アトム」はこのアニメ版アトムを題材に制作されたゲーム。プロデューサーは元ユナイテッド・ゲーム・アーティスツ所属で、「スペースチャンネル5」シリーズや「Rez」といった作品に携わった岡村峰子さん。今作でも今までの作品のテイストを活かした、独特のアレンジでゲーム化を実現させている。 詳しくは後述するが、本作の特徴はその“アトム感”の再現にある。未来都市、メトロシティを足のジェット噴射で自由自在に飛び回り、力は十万馬力。巨大な敵にも、人間の悪い心にも、恐れることなく立ち向かっていく勇気。そしてどんな小さな事でも困っている人を放っておかない優しさ。アトムになりきり、街を飛び回り、人と出会う。そんな“感触”を体験できる作品なのだ。
■ 追求された「アトム感」 本作はジャンルとしては「3Dアクション」に分類されるが、アドベンチャー要素も強い。フィールドの探索が楽しいゲームである。しかし、それよりなにより、ゲームをはじめたばかりのプレーヤーはアトムを“動かす”ことに、楽しさを見いだすだろう。 ジャンプボタンを2回押すか、右のアナログスティックを上に一回倒すだけで、アトムの足はジェットに変わり、地上から浮き上がる。その後はヘリコプターのような自由度で飛び回ることができ、空を飛ぶことに何の制限もない。好きなだけ、空中を飛び回ることができる。 空中で□ボタンを押せば、拳を前につきだして飛ぶ、おなじみの“アトムのポーズ”で高速飛行。メトロシティの高空をジェットの煙をひいて飛ぶその姿は実にアトムらしい姿であるとともに、ソニックチームの「ナイツ」を彷彿とさせる。実際、メトロシティにはリングが設置してあって、制限時間内に輪をくぐっていくナイツのようなミニゲームがある。アトムを手足のように操れるようになったら挑戦したい仕掛けである。 地上を歩く足音は、アニメ独特のもの。さらにアトムの「十万馬力」が体験できるようになっている。自動販売機や、さらには街灯まで、近くでアクションボタンを押すだけで、いとも簡単に持ち上げることができるのである。空を飛ぶシーンと共に、アトムを象徴する、「小さな子供が巨大なものを軽々と持ち上げる」というシーンがゲーム上で実現できる。持ち上げられたものは、そっと置くことも、ブン投げることも可能である。 投げられた物体は遠くまで吹っ飛んでいく。時には通行人に当たってしまう場合もある。もちろん、本作は日本の、さらに「アトム」のゲームであるのだから、事故は起きないが、当たった人は、カンカンになってアトムに怒るリアクションをする。 ここで感じるのは、「大きな力をもてあましてしまう感覚」である。自動販売機や車を持ち上げて、それでどうするか? 何故普通の人ができないこんな事ができるのか? 街灯を一端引っこ抜いてしまったら、元に戻せず道路に転がしてしまう事しかできないやるせなさ。 これは手塚氏が作品の中で繰り返し描いている、「ロボットがよくやる失敗」をうまく表現している。ロボットがその怪力をもてあましてしまう無邪気な行動が、人間に恐怖心を植え付けるかもしれないというシーンが、ゲームの中できちんと実現できるのである。 ゲーム内では直接こういったことには触れられていないが、プレーヤーの行動で、それは如実に現れてくる。あるプレーヤーは、ところかまわずものを投げつけ、住民を怒らせる「悪いロボット」を演じてしまうだろうし、またある人はぶつかったら動いてしまうテーブルさえも避けて、慎重に歩くようになるだろう。ゲーム内でできること、動かすことができるものはそれほど多くはないが、この感触はうまく表現されていると思う。 力を持つと言うことは、余計な心配が必要になることである。このゲームをプレイすることで、普通に生活しているアトムが、どれだけ大変な苦労をしているか、ほんのちょっとながら共感できるのである。 アトムが生活する幻想的な未来都市メトロシティを歩き回り、飛び回れることも本作の大きな魅力だ。チューブで奇妙な形のビルがつながれ、エアカーが空を飛ぶ、大阪万博という、筆者も生まれていない時代に鮮烈に描かれ、今もまだその影響を残している「未来都市」を見事に再現している。3Dで描かれたグラフィックは非常にうまく「漫画の中の未来都市」を、独特の実在感で表現してくれている。 アニメ独特の奇抜な未来デザインのメトロシティ、お茶の水邸、現実にあるようなベイエリア、夜景が美しいコンビナートといった場所を動き回ることができる。メトロシティは遠景の楽しさがあり、他のステージは、細かい部分までかっちり作ってあって好感が持てる。リアルに作られた未来世界の箱庭を飛び回れるのである。
欲を言えばメトロシティはもうちょっとごみごみして欲しかったし、お茶の水邸のまわりはもうちょっと広く移動したかった。しかし、最初に感じる「この世界を歩けるんだ!」という驚きを感じられるほど、この世界のモデリングは、スタッフの情熱を感じさせてくれる。
■ 原作をダイジェストで体験 敵ロボットとの戦い 本作のストーリーはシンプルに、テンポよくまとめ上げられている。原作のダイジェスト、といった形になっており、アトムの進化を促すため、天馬博士がつぎつぎとロボットを狂わせアトムに戦いを挑ませる、といった形になっている。 アトムは天馬博士の差し向ける、さまざまな力を持ったロボットと戦うこととなる。この戦いにも“アトム感”は追求されており、巨大なジオワームに対して、小さなアトムが立ち向かっていくシーンや、高速で動き回るバイクメカに街灯を振り回して戦うなど、アトムならではの戦いを追体験できる。
筆者のお気に入りは、金星探査ロボットとの戦い。続々と列をなして上陸してくるロボット軍と対抗するのだが、近づいてパンチをしているだけでは効率が悪い。しかも、接近戦では冷凍ガスを浴びせられ、ダメージを受けてしまう事もしばしば。そこでどうするか? この戦いに限らず、このゲームに独特のリアリティーを与えてくれるのが、本作に導入された「ハヴォック2」というプログラム。これは米HAVOKの開発した物理シミュレーションシステムで、ゲームの中で、とてもリアルに物理現象を再現してくれる。 3Dグラフィックで描き起こされた「プルートゥ」と対決ができる、というのはアニメのファンのみならず、漫画原作ファンも喜ばせるシチュエーションだろう。特に両手を広げ、竜巻を巻き起こしながら移動するプルートゥの表現は見事である。 ゲーム後半では「宇宙空間」で戦うことができる! 青い地球を背に、ジェットからロケット推進に切り替えて敵と戦うアトム。さらに、詳しくは書けないが、ラストバトルはまさに圧巻の一言である。 本作のアクションの難易度は決して高くない。もしやられてしまっても再挑戦はいくらでも可能で、コツさえ覚えればそれほど年齢が高くないユーザーでも、クリアすることが可能だろう。お父さんがプレイしていれば、絶対に子供が「やらせて」とねだるゲームだけに、この判断は正しい。
ひとつだけ残念なのが、セーブデータが1箇所だけのため、各戦いの前でセーブして、とっておけないところだ。アトムをもっとうまく操って、原作を思わせるようなスマートな戦いをしてみたい、納得のいくまで敵と戦ってみたいプレーヤー多いと思うのだが……。クリアしてからもう一度戦いを体験したければ、ゲームの最初からプレイしなくてはならない。
■ フィールド探索が楽しいオリジナル要素と、独特のセンス 本作の「ゲーム要素」として、さまざまな場所に隠されたカードの探索がある。これは、ゲームに登場する多彩なキャラクタのモデリングと、アニメの名場面を楽しむことができるもので、入手にはフィールドの探索や、ミニゲームのクリアなど、さまざまな条件が必要となる。 ここに、ゲームスタッフのセンスが爆発している。手塚治虫的世界観と、旧ユナイテッド・ゲーム・アーティスツ、そしてソニックチームの持つ個性が融合した、ユーモラスな、そして間違いなく楽しい世界観が実現されているのだ。 ちょっと難易度が高いミニゲームもニヤリとさせる要素のひとつ。風向きを記録するエプシロンは、記録装置が故障したため、代わりにアトムに記録して欲しいと頼む。南、北、東と、最初は普通なのだが、次第に南、北、東、ぎゅんぎゅん、西、東、ざわざわ……と、とんでもない量と、訳のわからないデータになる。しかもひとつでも間違えると、「アトム、今間違えたわね。最初からやり直しましょう」と、くる。「ちゃんとそっちで記録してるじゃんかよ!」というツッコミが、誰の心にでもわき上がる、メモが必須となるミニゲームだ。 筆者は「数える男」というイベントが好きだ。突然数を数えることを協力して欲しいとアトムに頼む男。引き受けると、100まで数えて欲しいと言われて、ボタンを100回連打するハメになる。それが終わると、「ありがとう、じゃあ今度は350までやろう!」と言われてしまうのである。あなたはこれに「まかせて!」と、答えられるだろうか? 他にも、困っている人を助けるはずなのに、何故かこっちが困ってしまうようなイベントが目白押し。それでありながら、アトムの世界観を壊すようなものは少ない。アイデアは、この世界にちゃんとあうように、うまくアレンジされているのである。
本作がどうしても受けてしまう批判として、「本編のボリューム不足」という点があるだろう。アニメを原作としていて、しかも番組放映中に発売するというスケジュールは、昨今の数年のスパンで制作されるゲームの開発体制とは相容れない、非常に短いものである。それでありながら高いクオリティーを持たせ、なおかつ「アトム」というファンの大きな期待に応えるゲームを制作するという苦心は、想像してあまりある。スケジュール、題材共に、制作がとても大変だったであろうゲームである。 そういったスタッフの苦労を思い計れば、本作がその世界観を守りきった、「アトムゲーム」として完成したことは、賞賛されるべき仕事であると思う。しかし、アトムが持つストーリーの面白さ、人とロボットとのつながりといったエピソードや、テーマの掘り下げができたか? アトムの原作漫画を読んだときのような気持ちがプレーヤーの心にもたらされるか? というポイントでは、どうしても少し物足りなさを感じてしまう。
筆者は、本作はアトムのゲーム化として、GBA版とともに「希望」をファンの心に灯したゲームであると思う。ぜひ、エピソードを満載した、原作の面白さを満喫できるような、ボリュームたっぷりのゲームの続編を制作して欲しい。アニメは終了してしまったが、「鉄腕アトム」というタイトルは、これからもずっと、色あせないテーマとして残り続けるのだから。
□セガのホームページ
(2004年5月10日) [Reported by 勝田哲也]
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