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NEXON日本事業部ディレクター姜 鎮求氏インタビュー
韓国のゲーム事情とNEXONの今後の展開を聞く

11月20日収録

会場:NEXON本社ビル

 KAMEX開催前日にあたる11月20日、我々取材班は、今回出展を見送った大手ゲームメーカーNEXONとNC Soft の本社取材を行なった。

 そのうちの1社であるNEXONは、'94年の設立以来、一貫してMMOタイトルにこだわり続け、豊富なタイトルラインナップと豊かな開発力で、ユーザーシェアではNC Softに次いで2番目の位置につけている韓国を代表するゲームメーカーである。日本法人の設立も韓国のメーカーとしてはもっとも早い'99年に行なっており、スマッシュヒットタイトルにはいまだ恵まれていないものの、日本での知名度は非常に高いといっていい。

 先の9月に幕張で行なわれた東京ゲームショウでは、「テイルズウィーバー」と「マビノギ」という次期主力タイトルをプレイアブル出展し、大いに注目を集めた。来年は同社の日本法人設立以来の大攻勢が展開されることが予想される。今回は、今後の展開をふまえつつ、全年齢層に対して幅広くタイトルを供給している同社に、現在の韓国ゲーム事情を聞いてみた。

 ちなみに今回インタビューに応じて頂いた姜 鎮求氏は、11月11日まで日本法人の代表取締役を務めていた方で、同時に本社の日本事業部のディレクターでもある。会社全体の規模が大きくなるにつれて、日本法人社長としての各種業務と、日本事業部のリーダーとして日韓を頻繁に往復する二足のわらじを履く状態を維持することが難しくなってきたことから、12日を期に社長の座を降り、日本事業部の業務に専念することになったという。


■ 日本市場を重要視するその理由とは?

日本事業部ディレクター姜 鎮求氏。1メートルほどもある大型の人形は「BnB」のメインキャラクタだ
NEXON全タイトルのゲームサーバーが集まるサーバールーム。スタッフの机の前には「あずまんが」のポスターが
編集部 NEXON本社の動向を見てますと、昨年あたりから、スクウェア・エニックスの「ディプスファンタジア」や、Lizard Interactiveの「CRONOUS」、そしてSoft Maxの「テイルズウィーバー」など、パブリッシング事業も本格化してきて、いよいよタイトルラインナップが豊富になってきた印象があります。

姜 鎮求氏 弊社は「風の王国」というタイトルで、世界に先駆けてMMORPGを公開して以来、ずっとMMORPGのみでやってきたメーカーです。その後も「闇の伝説」、「エランシア」とどんどんタイトルを増やしていくうちにMMORPG運営のノウハウ、サーバー管理のノウハウなどがたまってきて、サーバーの安定的な運営の実績もできてきた。その一方で、クライアントソフトの開発に特化したメーカーも多いので、じゃあ我々のサーバー運営のノウハウを提供して新しいMMORPGを生みだそうという考えです。「テイルズウィーバー」などはその典型的な例といえます。

 また、オンラインゲームは売っておしまいではない。パッチの継続的な提供があり、カスタマーサポートやGMサポートも必要になる。ソフトの開発力はあっても、こうした体制を整えることは難しい。じゃあウチが提供しましょうというビジネスです。

 Lizard Interactiveの「CRONOUS」はいかがですか? 日本でもゲームオンさんが「眠らない大陸クノス」というタイトルでサービスを行なっていますが?

 ご存じだと思いますが、私は日本法人の取締役としてつい数日前まで日本にいたので、実をいうと直近の韓国の情報はわかりません(笑)。ただ、そこそこ好調だという風には聞いてます。

 なるほど、それでは現在の作業のウェイトも日本が占める割合のほうが大きいのでしょうか。

 そうです。日本事業部の業務内容というのは、日本タイトルのライセンスや、日本メーカーとの提携、それから本社における日本向けビジネス全般です。

 聞いているだけで大変そうな仕事ですね(笑)。話は変わりますが、韓国最大手のNC Softは、海外展開において、日本を一足飛びに飛び越えて、まずアメリカで成功を収めるというダイナミックな世界戦略を打ち出していますが、NEXONに関しては、その法人設立のタイミングといい、いまのお話といい、日本市場を大変重視している印象があります。

 ゲームとひとことでいってもいろいろありますが、弊社のゲームはキャラクタ重視です。そのキャラクタの方向性も、欧米よりはどちらかというと日本に近い。格好いいというよりむしろかわいらしい系です。欧米よりも日本の方が受け入れられやすいだろうと。

 もうひとつは、ゲームの本場はなんといっても日本だということです。日本での成功がなければ世界での成功は見えてこない。そうした事情から日本法人設立から現在まで一貫して日本市場を攻めてきたということはあります。

 日本重視の方針は今後も変わりませんか?

 変わりません。といっても現在はアメリカにも法人はありますし、アジア地域でも現地の代理店を通じてパブリッシング事業は行なってはいます。日本法人は、現在も本社から派遣という形でスタッフが増員され続けていますし、日本市場に力を入れている事情は変わりません。

 「ディプスファンタジア」のように、日本タイトルを韓国で展開するというビジネスは今後拡大していきますか?

 現在韓国は完全に飽和状態ですから、今すぐ拡大していくということは考えていません。「じゃあどうするか」。これはNEXON本社最大の課題でもあります。成功を収めようと思ったら、他社と同じことをしていてはダメなわけです。いかに違うものを世に送り出せるかという無数の選択肢の中のひとつが、日本タイトルのライセンスです。

 日本のタイトルは、まずストーリーがしっかりしていて、アニメーションも多彩です。そして戦闘システムも韓国タイトルとはひと味違う。この違うというのは大きなネックになりうる要素ではありますが、その一方で「斬新だ」と捉えてくれるユーザーも多い。ですから、今後も日本タイトルのライセンスは継続していきますが、様子を見ながら慎重に行なっていくつもりです。

 ちなみに韓国では「ディプスファンタジア」はいかがでしたか。

 苦戦してます。私は大好きで、プライベートでもハマっているほどですが、やはり韓国ではパッケージ販売は難しいというところと、そして日本のターンベースのバトルシステムがいまひとつ馴染めなかったということがいえると思います。

 現状だとPC向けタイトルのみですが、今後プレイステーション 2やXboxにタイトルを供給する予定はあるのですか?

 NEXON=オンラインゲーム、オンラインゲーム=ゲームという韓国独自の方程式があります。日本でオンラインゲームというと、通常MMORPGをさしますが、韓国では「Maple Story」、「クイズクイズ」などのように、ライト系のゲームも含まれます。こうした全ジャンルのタイトルを扱ってきた韓国唯一のメーカーがNEXONであり、その唯一の共通点がPCゲームだったということです。

 もちろん、PCゲーム以外のコンソールや携帯、ハンドヘルドといった分野も市場が拡大しているのは認識していますから、現在準備を進めている段階です。ただし、いずれにしてもNEXONの強みはオンラインにありますから、オンラインゲームになることだけは間違いありません。

【NEXON社内の風景】
NEXON本社ビルは地上5階地下1階の6階建てで、'94年会社設立当初は2階の一部を借りていただけだというが、今は全フロアをNEXONが使用し、建て増しまで行なっている。のみならず、一部の開発チームは別のビルに移動しているという。各階ごとに趣向が異なるのは社長夫人の趣味だという。とにかくユニークな社屋だ


■ 年間700ものMMOがリリースされる韓国市場

 先ほどの話では、韓国ゲーム市場は「飽和状態」ということでしたが、もう少し具体的に韓国ゲーム事情を教えて頂けませんか?

 日本でゲームというと、コンソールゲームのことを指しますが、先ほども言ったように韓国でゲームというとオンラインゲームのことを指します。日本でオンラインゲームとは何ぞやということを言葉で説明するのはまだまだ難しいですが、韓国では小学生低学年からオンラインゲームとは何ぞやということを知っている。

 つまり、どこからクライアントをダウンロードして、DirectXをインストールして、ゲームをセットアップして、IDを取るという一連の作業が、子供にも浸透しているわけです。土壌からして日本と韓国には大きな違いがあります。

 なるほど。日本でもコンソールゲームが売れない。片や韓国でもオンライン市場のパイを食い尽くしてしまったという。いずれもゲームの中心という点では、状況は同じともいえます。この点についてどのような感想を持ってますか?

 日本も韓国も本質的な部分では同じだと考えています。日本は単純にタイトルが数多い。韓国も同じです。昨年、韓国でリリースされたオンラインゲーム。これは大作から小さなライトゲームまで全部ひっくるめてですが、その数はなんと700と聞いています。ただし、実際に収益を上げているのは上位3%程度と言われている。

 これでは商売にならないわけですが、さらに状況を悪化させているのが“β族”の存在です。毎年何百タイトルも出ている状況だと、それ以上の数のβテストが行なわれていることにもなります。β族とは、その無料βだけをやり続けるユーザーのことです。さまざまな手段を駆使してβ族を囲っても、正式サービスが始まったときに逃げられてしまうと収益が出ない。非常に厳しい状況だと思います。

 聞きしに勝る厳しい状況だと思いますが、こうした問題に対して、どのような手を考えているのですか?

 先ほどと繰り返しになりますが、他社と違うことをやる。これしかないです。違うというのはサーバーの安定性、キャラクタの個性、ユニークなゲームシステムなども含みます。たとえば「Maple Story」のアバターシステム、「テイルズウィーバー」のストーリー性、そして現在開発している「マビノギ」には、戦闘だけでなく、日常の生活というこれまでにない要素を盛り込みました。今までなかったことをやる。韓国で勝つにはこれしか方法がないんじゃないかと考えています。

 これは今年の話ですが、とあるメーカーのMMORPGが正式サービスを開始したらユーザー数が80%も増えました。つまり、いいゲームであればユーザーはついてくる。市場飽和しているとはいえ、どうしようもないというわけではないのです。

 来年度のNEXONとはどういうメーカーになりそうですか?

 NEXONは常に新しいことが好きなメーカーです。世界初のMMORPGで成功したメーカーですし、同時接続者数33万人を記録した「クレイジーアーケード」など、現在も多ジャンルのMMOを展開しています。

 日本事業に特化してコメントすると、今後はもっと韓国ではあまり知られていない日本のタイトルを持ってきたり、日本のメーカーと組んで、何かコラボレートできればと考えています。来年度中にそのうちの1つ2つはお見せできると思います。

【「マビノギ」開発フロア】
自社開発タイトルとしては現在もっとも力が入れられている3DMMORPG「マビノギ」の開発チームdevCATの開発室の様子。入り口には、大きな看板が設置され、トロを初めとしたかわいい系のキャラクタが挟み込まれていた。韓国では11月12日よりオープンβテストがスタートするため、その準備で大忙しといった感じだった。中央は、「マビノギ」の開発総指揮を執るキム・ドンゴン氏。オープンβでは、むやみにサーバーを増設したり、人を集めずに、まずはサーバーの安定化を確立したいとのことだ


■ 低年齢層に絶大な支持を集めるNEXON

 話は変わりますが、韓国ではプレーヤーが18歳未満の場合、親の承諾を経なければ料金は請求できないという判決がでました。これに対してどのような対応を行なったのですか?

 ゲームを遊ぶと料金が発生します。当たり前の話ですが、今回の場合は、ひと月に何十万もの請求が来たことが問題となっているので、その判決は正しいと捉えています。弊社としては、そうしたユーザーに対して、スムーズに親の承諾を経るためのプロセスの簡略化といったことは検討していますが、最終的な決断を下すのは我々ではなく親ですから、今後は子供だけでなく、親をも含めたマーケティングを考えています。

 ユニークな考え方だと思います。具体的には?

 現状だと「ゲームはあまり良くないものだからダメ」という親が多いのですが、実際にプレイしてもらえればおもしろいし、子供のためになることも理解して頂けると考えているので、教育会社とコラボレートして、この問題を解いたらNEXONのゲームが30分プレイできるというクーポンを発行するようなプロモーションも展開しています。

 韓国ゲーム市場のシェアというのは現在どのような状況になっているのですか?

 売り上げで見るとNC Softがダントツですが、登録ユーザー数で見ると弊社が1位になります。なぜこういうことになるかというと、弊社のユーザーは低年齢層も多いためです。認知度の点では、子供を対象にした統計では90%がNEXONを知っている。さらに、学生を対象にした調査では将来就職したい企業の2番目にNEXONが入っています(笑)。1番はもちろんサムスンです。

 それだけ弊社は低年齢層に強いのですが、お金を持っていないので、なかなか売り上げに結びつかない。その一方で、彼らが成長した暁には、弊社タイトルの顧客になってくれる可能性が高いという強みがある。

 NEXONは低年齢層をメインターゲットにしていると見ていいのでしょうか?

 確かにその側面はありますが、ユーザーの多い「風の王国」や「Maple Story」にたまたまその年齢層が集中しているというだけで、対象にしているのは全年齢層です。全年齢層をカバーするために、豊富なラインナップを揃えているわけです。

 今回、全フロアを見せて頂いて、未発表タイトルの開発室なども複数あって、現状ですでに全年齢層をカバーする多数のタイトルがあるにも関わらず、さらにまだまだ出す、しかも全部MMOだと、こんなにおもしろいメーカーはどこにもないですよね(笑)。

 ありがとうございます(笑) 他社がやらないことをやるというのが社是ですから、こうした取り組みは今後も続けていきます。ただ、一部の方には、「こうした幅広い取り組みこそが君らの弱点だ」という手厳しいご指摘もあります。せっかくの利益を、新作の開発で全部食いつぶしているのではないかという。

 確かに利益が出るかどうかわからないタイトルに資金を投入しているのは事実ですが、いきなり利益の出る大作を作れと言っても無理な話で、そういう環境では出るものも出なくなってしまう。言ってみれば、社内で切磋琢磨しあい、社内競争を勝ち残ってきたタイトルを皆さんにお披露目する。これがNEXONの取り組み方といえます。

 それでは前日本法人代表として、日本のオンラインゲームファンに対して、メッセージをお願いします。

 設立してからこれまではある意味仕込みの段階で、市場調査や内部的な体制作りに夢中になるあまり、ひょっとしたらNEXONのゲームタイトルにがっかりされた方がいるかもしれません。

 ですが、今年度末から来年度にかけて、着々と準備を進めてきたビッグタイトルがようやくリリースされますし、さらに現在本社ではまた違った新しいタイトルの開発も進めています。今年は体制も一新し、これからのNEXONは、これまでのNEXONとはひと味違ったものになりますので、どうぞご期待ください。

 ありがとうございました。

【「アスガルド」開発フロア】
こちらは日本でも正式サービスが開始された「アスガルド」の開発フロア。左は、「アスガルド」開発チームのリーダーであるソン・スン・クォン氏。次期アップデートでは、クリスマスをテーマにした雪の街を実装するという。中央が開発中のイメージ。大きなツリーの下にサンタの格好をしたキャラクタたちがいるのがわかる。この街では、雪だるまや雪合戦、花火大会など楽しい催しが盛りだくさんのようだ

□NEXONのホームページ
http://www.nexon.com/
□ネクソンジャパンのホームページ
http://www.nexon.co.jp/
□関連情報
【10月7日】「マビノギ」開発者インタビュー
これまでにない要素を多数盛り込んだフリースタイルMMORPG
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20031007/nexon_02.htm
【10月27日】東京ゲームショウ2003レポート
ポスト「ラグナロク」を狙ったフリースタイルMMORPG「マビノギ」を初公開
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030927/tgs_nex.htm

(2003年11月23日)

[Reported by 中村聖司]


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