|
★PCゲームレビュー★
ファルコムファンが待ち望んだ「イース」の最新作がついに発売される。赤毛の青年アドルの冒険が再び始まろうとしている。 ■ファンの求める「イース」再び
そして翌年に出た「イースII」によって、人気は確固たるものになる。魔法、アイテム、当時はやり始めたアニメシーン。さまざまなフィールドと、盛り込まれたアイデアによって「名作」となった。ファルコムを代表する作品であり、さまざまな機種に移植されただけではなく、幾度となくリメイクもされた。 本作「イースVI ナピシュテムの匣」(以下、「イースVI」) はファンが期待を込めて待ち望んでいたシリーズ最新作である。日本のコンシューマー系RPGは「イース」を通過点として、さまざまなアプローチを行ない独自の進化を遂げていった。3Dグラフィックや、さまざまなアイテム、ゲームシステム……。今回紹介する「イースVI」は、そういった流れから少し違った方向に進化したゲームであるという感想を持った。 3Dグラフィック、美しいアニメーション、魅力的なキャラクタ……最新技術や、現在のユーザーのニーズを満たしながらも、「イースI・II」を思わせる快適さや、プレイの楽しさ。「古い」とは、少し違う、“別系統の進化”というものを感じさせる、ユニークな作品となっている。プレイをしていてきちんと、「イースらしさ」を感じさせる。これは一見簡単そうでかなり難しい要求だ。ファンのこだわりに答えた、スタッフの力量を確かに感じさせられるゲーム、まさに「進化したイース」なのである。 その「覚悟」は、既にオープニングから感じさせられる。なんと今作でも冒頭でアドルはIやII同様に“行き倒れる”のである。気絶し、ベッドの上から物語ははじまる、そして登場する美少女(今回は二人)。この「パターン」ともとれるオープニングは、わざとなのだ。あえて今までのイースの手法を踏襲することで、「またかよ」と、ツッコミを入れられることも了解済みなのである。ファンに警戒心を起こさせてしまいかねないオープニングを採用することで、いざプレイが始まったとき、そして最初のボスと相対したときに、強く気付かされる。これは確かに「イース」なのだと。この感触は非常に独特で、かつ面白い。 この作品そのものは、非常にバランスの取れた、快適な、万人にお勧めのアクションRPGである。それとともに、オールドファンにはその「感触」が再現されていることに、驚かされるはずだ。現代のゲームとしても面白く、それなのにノスタルジーを喚起させられるゲームはそう多くない。それを可能にしたスタッフの職人芸は、非常に優れたものであるといえるだろう。
■世界から隔絶された島の秘密に迫る冒険 「イース」は、赤毛の青年冒険家アドルの波乱に満ちたその冒険を語る物語だ。 海賊船の船長ラドックに誘われて、彼は親友ドギとともに「カナンの大渦」に向かう。カナンの大渦……それは、世界の西方にある大海に生まれた巨大な渦であり、巨大な秘密。船を引きずり込み、死をもたらす恐ろしい罠であるが、その渦の底にはとてつもない宝が眠っているという。 その大渦へ向かったアドル達に、トラブルが降りかかる。その中でアドルは船から投げ出され、大渦に飲み込まれてしまう。 夜の浜辺に、アドルは打ち上げられる。彼を発見し、開放したのはオルハとイーシャという美しい姉妹。彼女たちはカナンの大渦により他の世界から隔絶された世界に住む“レダ族”の娘であり、オルハはレダ族の巫女であった。 長い耳としっぽを持つ、不思議な雰囲気を持つレダ族。介抱されたアドルは、族長をはじめとした島の住人達から、どこか警戒心を持って扱われる。また、イーシャはなぜかアドルを非常に恐れ、さけているのだ。 オルハの説明によると、この世界にはアドルのような「耳が短く、しっぽのない」人々が何年かに一度流れ着いてきて、隣の島で街を作って生活をしているのだが、最近レダ族とうまくいってないという。しかもレダ族の宝である「ゼーメの神鏡」が奪われ、時同じくして隣の島とつながっていた橋が壊された。族長は隣の町に犯人がいるのではと、疑っているという。 体力を回復させたアドルは、島の隅々を回る。島のはずれにある神殿から、悲鳴が聞こえ、そこに向かったアドルは、巨大な竜がイーシャを襲おうとする場面に出くわす。巨大な竜に恐れることなく立ち向かうアドル。騒ぎを聞きつけて集まったレダの人々が見たのは、アドルの剣に倒れる竜の姿だった。 この事件がきっかけとなって、アドルはレダの人々に受けいられる。そして、族長から鏡の探索を託され、レダ族の宝の武器“エメラスの剣”を手渡される。アドルは橋以外に唯一隣の島をつなぐ古代遺跡に足を踏み入れることとなる。 イーシャはアドルを避けていたことを謝る。巫女の妹である彼女には、オルハ以上に鋭敏な未来を見通す力があり、アドルの中に島に降りかかる大きな不幸の前触れを見たというのだ。 遺跡の中で、アドルは謎の青年・ガッシュと出会う。彼はアドルを知る“外”から来た人間の様だが、ほとんど己のことを話すことなくアドルの前から姿を消す。街に渡ったアドルは、事故や偶然で大渦に巻き込まれこの島に流れ着いた人々と出会う。その中にはかってダームの塔で知り合った学者・ラーパの姿もあった。 さらに探索を続けるアドル。やがて遺跡の奥深くにゼーメの神鏡のかけらを発見する。手に取ろうとしたアドルの前に現れるのは奇妙な妖精。その妖精はアドルを倒すべく、巨大な魔物を召喚する。何か大きな力が妖精を操り、島で陰謀をはりめぐらしているのだ。アドルはそれを確信する。アドルの冒険はやがて島の秘密に迫っていくこととなる。 美しいグラフィックで描き起こされた人物、特にオルハとイーシャは魅力的なキャラクタとして描写されている。昨今のRPGに比べ、ストーリーそのものは淡泊だが、軽快なゲームシステムにそのストーリーはマッチしている。ただ、イーシャがアドルのことを「お兄ちゃん」と呼ぶところは、一瞬ちょっとやりすぎかな、と思ってしまった。……これはまあ、筆者が最近のゲームに毒されすぎてるに過ぎないのではあるが。硬軟あわせて、わかりやすく、かつ感情移入できるストーリーがきちんと展開するところは、非常に気持ちがいい。 ■世界から隔絶された島の秘密に迫る冒険 このゲームで驚かされるのは、その快適なゲームシステムである。本作はひたすらモンスターとの戦闘、という由緒正しいアクションRPGの伝統を前面に押し出している。進化の過程でこのジャンルのゲームも、パズル要素を強くしたり、敵に対して属性を考えなければいけなかったりと、本当にプレーヤーのことを考えているかどうかそれさえも疑問を持ってしまうような、複雑怪奇なものになってしまう作品もあったが、「イースVI」は違う。快適さをテーマに絞り込んだ、スタッフの配慮をきちんと考えさせてくれる作品なのである。 ちょうど「イースI・II」における。あのフィールドを高速で動き回り、つぎつぎとモンスターを倒していく、そのサクサク感を本作はうまく継承している。本作では「I・II」に比べ、剣を振ったり、ジャンプが可能になっているなどアクションが増えているのだが、プレイスタイルは複雑になっておらず、ガンガン戦っていける。マウスや、キーボードでの操作も快適なのだが、やはりジョイパッドでのプレイが気持ちいいだろう。ゲーム全般にコンシューマーの雰囲気が漂うが、ここまで快適な戦闘が楽しめるアクションRPGは、コンシューマーにも少ない。 このプレイの快適さは、「やはりイースなんだ」と、プレイをした人は思うことになるだろ。ジャンプとの組み合わせ、さらにダッシュを組み合わせることで多彩な攻撃が繰り出せるのだが、ちょっとしたコツをつかめばすぐに習得できる。アクションが苦手な人は、レベルをじっくり上げて挑めばいい。 ジャンプが入っていると、高低差を利用した攻撃が可能になるなど楽しい部分も多いのだが、「ジャンプトラップ」ともいえる、少ない足場を飛び越えることを強要されることもすくなくない。昔のゲームはコレが非常にシビアなモノが多く、ゲームの楽しさそのものをスポイルさせてしまうのも少なくなかった。その点本作は、その難易度を下げており、好感が持てる。練習が必要な部分もあるのだが、誰でも楽しめる難易度だろう。アクションゲームの“悪癖”である、「浮遊する謎の板」もこの作品にはない。「意地悪」という言葉は、このゲームにはないのだ。 本作のウリである3つの魔法剣もまた、ゲームの「束縛」ではない。TPOに合わせて使っても、一本の剣で力押しをしても、どちらでも良いのだ。モンスターから出るアイテム・エメルで剣をレベルアップさせることができるので、3本をまんべんなく育てるのも、一本に集中させることも可能。「この剣でなくては倒せない」敵は、ほとんどいない。しかしラストには3本を最強形態まで育てなくてはならないのだが、そのときにはエメルもあまり気味になるので、問題はないだろう。 戦闘システムの快適さは、「経験値稼ぎ」も容易にさせる。本作ではセーブは自由な場所でできず、精霊碑で行なうのだが、ここでアドルは完全回復できるので、精霊碑を拠点に戦うのが主なスタイルとなる。また、回復アイテムも多く出るので、戦いはそれほどきつくはない。もし難しく感じるならば、ダンジョンの入り口でレベルアップに励めばいいのだ。 繊細なバランス調整を感じさせる本作だが、ボス戦はちょっと大味な印象を受ける。それはまあ、筆者がアクションの腕においてヘッポコなため、レベルアップによる力押しをしてしまっただけなのかもしれない。敵に対するダメージをいかに効率よく与えるか、いかに低いレベルで挑めるか、そういうアプローチの仕方も可能だろう。 基本的に、じっくりキャラクタを育てていけば非常に快適なプレイが楽しめる作品である。この感覚から、いわゆる「大作」のRPGに比べて、ボリュームやゲームの複雑さに関して、少し不満を持つユーザーもいるかもしれない。しかし、気持ちよくゲームを進めていくために、余計なアイテアや、ゲームを複雑にするためだけのアイデアを削り、シンプルなゲーム展開に気を配ったスタッフの「判断」は評価できる。また、その非常に美しいグラフィックスや、モンスターのモーションなど、駆け足でクリアを目指したプレーヤーは、ちょっと足を止めて観光気分で楽しむことも可能だ。また、取りにくいアイテムや、小さなサブイベントもちりばめられていて「やりこみプレイ」も可能なのである。 誤解を恐れずに言えば、その「変わらなかったこと」に驚かされた。シンプルなストーリー、レベルアップを中心としたゲームの区切り、快適なゲーム展開。アクションRPGの「楽しさ」が、きちんと思い出させるのだ。これは、ただのノスタルジーではない。練られたゲームバランス、たのしいプレイ時間は、間違いなくこのゲームが現代の価値観で作られていることを物語っている。 また「やさしさ」というのも、このゲームのポイントのひとつ。登場するキャラクタ一人一人に小さなエピソードが織り込まれているのだが、そういったキャラクタ描写の中に、スタッフの優しさが垣間見える。こういったところも、このゲームの「気持ちよさ」を強めてくれる。 PS2などでさまざまな日本のメーカーが模索しているRPG。本作はそういった系統とは少し違う、「別の進化」を感じさせる作品である。
(2003年9月25日) [Reported by 勝田哲也]
また、弊誌に掲載された写真、文章の無許諾での転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved. |
|