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PSPは2004年のE3で公開。出荷は2004年暮れを予定 |
■PSXは、PlayStation BB Unitの大きなインストールベースに
久夛良木健代表取締役兼CEOは、PSXそしてPSPという現在開発中であるふたつのプラットホームについてプレゼンテーションを行なった。まずPSXについては、先日の発表のタイミング(ソニーの2003年度経営方針説明会で公開)、そしてその名称によっていろいろな憶測や誤解を生んでいる可能性もあるとして、あらためて同氏の口から会場に集まったクリエイターや流通関係者、そしてメディアに対して説明が行なわれた。
PSXの狙いは「現在進行しているAV機器のデジタル化を、ゲーム機の側から加速すること」だという。発表当初から注目されたのは、PSXは“ゲーム機”なのか“家電”なのかという点だが、久夛良木氏は「この場で言い切ってしまいますが、これは単なる家電です」と強調した。普及の進むDVD・HDDレコーダーというジャンルに、プレイステーション 2のエンジン部分とソニーらしいデザインのこだわりを投入することで、世界中で何億台もあろうかというVHSをディスクへと置き換えてしまおう、というのがキーコンセプトになる。PS2で使われている高速なリアルタイムOSをメニューのブラウジングやGUIに採用することで、“ゲームを楽しむように快適に操作ができる”ところがPSXの家電としてのアドバンテージになるという。
しかし、ここからがこの会場に訪れている人々にとって重要な点となるのだが、このエンジン部分としてGS(グラフィックシンセサイザー)+EE(エモーションエンジン)も搭載しているのでPS2としても遊べてしまう。また、これまで明言されてはいなかった点だが、PSXに搭載されているHDDとEthernetポートは、PlayStation BBで利用できるという。つまりPSXが普及することは、そのままPSBB Unitのインストールベースが増加することになり、オンラインゲームの普及につながるというわけだ。
同氏は大量生産によるコストダウン効果で、ただえさえ現在最もホットな市場のひとつといえるDVD+HDDレコーダーというジャンルに、ショックを及ぼすほどの劇的な低価格でPSXを投入することも示唆している。PS2の発売がコンシューマ向けメディアとしてのDVDの普及に加速度をつけたのと同様、今度は逆に家電としてのPSXがPSBB普及への材料となることも期待されているようだ。ちなみにPSXは、ソニー・コンピュータエンタテインメントからではなく、ソニーから発売される。
E3で初公開されたPSPについては「ちょっと技術的な方向には寄りますが、ここで皆様に詳細なスペックをお知らせしたい」と前置きしたうえ、かなりの時間を割いてハードウェアの仕様を明らかにした。その時の久夛良木氏の様子はまさに話したくてたまらないという感じで、「プレイステーションファミリーのなかで、もっとも元気のいい子供になると確信している」とコメントしている。基本仕様は既報のとおりだが、より細かい部分が明らかにされたうえ、E3終了後にクリエイターからの強い要望によって追加されたという無線LANやアナログジョイスティックについても公開された。
PSPに搭載されるCPUはMIPSベースのR4000。32bitコアで同じものが2基搭載されるが、それぞれ目的が異なる。クロック周波数は最大333MHz。初代プレイステーション(以下PS1)にも基本的には同種のCPUが搭載されているが、クロック周波数は10倍になっており、性能的にはPS2に近いという。バスのバンド幅は2.6GB/s。ゲームに利用するメイン側のCPUのメモリは、混載DRAMが8MB搭載されている。後述するが、もうひとつはI/Oプロセッサ、メディアプロセッサとして音楽再生や動画処理などに利用するエンジン側の演算を受け持ち、搭載メモリは2MBとなるがその他の仕様は同じだ。メイン側には浮動小数点演算ユニットや、PS2に搭載しているものとコンセプトが同じというベクトルエンジンなどが付随し、2.6GFlopsの処理能力を実現するとしている。
グラフィック面での特徴は、携帯ゲーム機としてはじめて3D対応となることがすでに発表されていたが、3Dエンジンはポリゴンだけでなく、曲面を使って新しい3D表現ができるようなハードウェアによる曲面生成エンジンもあわせて搭載されることになる。例えば、これまでソフトウェア展開していた部分をハードウェアで処理することによって、VRAMの消費が少なくてすむのに加え、携帯機として重要な消費電力の低下にもつながるという。表示画面は16:9の比率になる横長のワイド画面で、TFTバックライト付きの液晶が表示装置となる。
音声処理にはMDウォークマンに搭載しているVMEを採用。動画再生は当初MPEG-4とアナウンスされていたが、今回さらに詳しくH.264をベースとするAVCデコーダーと紹介された。PSPに搭載される1.8GB容量のUMD(ユニバーサルメディアディスク)に、DVDレベルの画質なら約2時間程度、CSデジタル放送レベルなら4時間分を収録できるコーデックとなる。
同氏いわく、現在のPCに搭載されているものを超える半導体技術でコンパクト化することを前提として、グラフィックスをはじめ動画処理、サウンドなどDSPに依存できる部分をハードウェア処理して消費電力とCPUの負荷を抑えている。ブロック図を見ればCPUを中心に数多くのエンジン部分を搭載していることになるが、全体としては1.2V程度の電圧で駆動させることが可能と言うことだ。
インターフェイスには、既報のとおりUSB2.0を採用。メモリースティックは、メモリに加えてGPSでの利用なども検討されているようだ。ほかに外部拡張端子を備えるが、これは将来の機能拡張のためにシステム側で用意しているもので、ユーザーサイドで利用できるものではない。同じ目的の外部拡張端子はPS1でも用意されていた。
ネットワークに関しては、IEEE 802.11ベースの無線LANを標準搭載するというのが、この日最大のトピックだろう。当初はアダプタなどとして用意することも検討されていたようだが、E3での発表以来、多くのクリエイターからの強い要望があったことと、ホットスポットの普及や今後の展望などから標準搭載されることになったという。ちなみに、IEEE 802.11ベースと紹介されてはいるが、a/b/gいずれの規格になるのかは明らかにされなかった。
無線LANの搭載と同様、機器間のコミュニケーションに利用されるのがIrDAとなる。無線LANよりさらに近い距離での機器同士の接続や、携帯電話とのデータのやりとりなどが想定されているようだ。またUSB2.0は複数のPSPのワイヤード接続をはじめ、PS2もしくはPCとの接続を行なうことが想定されている。
デザインそのものは、この日明らかにされることはなかったが、ユーザーインターフェイスについての新しいトピックスがあった。久夛良木氏がPSファミリーの証というように、ボタンは△○×□ボタンを完備。十字キーに加えてスタート、セレクトボタンがある。L1とR1を持ち、さらにアナログスティックがひとつ付く。このアナログスティックの搭載も、無線LANと同様にPSP公開後にクリエイターサイドからの要望があった点だということだ。
PSP向けのタイトル開発に関して、久夛良木氏が強調していたのは開発者に負担をかけないプラットホームを目指すということ。基本的には、PS1の時の開発環境に戻すことがコンセプトだという。前述したようにグラフィック、動画再生、音声をはじめハードウェアで処理する多数のエンジンを搭載しているのは、プログラマに負担をかけないようにするためで、そのためのライブラリ、およびミドルウェア、さらにサンプルコードは供給するとしている。代わりに、本来の意味ではプログラム可能なDSPである部分も、プログラマ側からはハードウェアとしてしか認識できないようになっている。
開発者には、今秋をめどにPCベースのソフトウェア・エミュレータが提供され、パフォーマンスは実機の約10分の1程度と言うことだが、具体的な企画や開発作業がスタートできることになる。以後、ライブラリやミドルウェアの追加を経て、ハードウェアレベルの開発ツールは2004年春に提供される予定だ。
ユーザーレベルのローンチスケジュールは、2004年5月に米国で開催予定のE3でいよいよプロトタイプを公開。2004年秋に行なわれる東京ゲームショウで対応タイトルをプレイアブル出展し、2004年暮れの商戦への投入を予定しているという。PSPの発売は全世界同時となることも、この日明らかにされた。
久夛良木氏は、E3の時と同様に「PSPは21世紀のウォークマンを目指す」と改めてコメントした。そのためにも、ここまでやるか……と言われるほど、最先端の技術を入れ込んでいきたいとしている。実際にIEEE 802.11の無線LAN搭載についても「決定した以上、あとには引けない」としている。コスト面をはじめ、90nmプロセスルールの半導体など現状ではある意味でチャレンジともいうべき要素は数多いが「それらを確実にインプリメントして市場に送りだけだすだけの技術力とパワーが我々にはある」と、PS1そしてPS2での経験を元に、自信を見せた。
最後に「ゲームが中心となることは間違いないが、デジタルコンテンツはゲームだけではない。(PSPと)UMDというメディアを利用することで、さまざまなデジタルエンターテインメントにおける非常に大きなチャンスにたっている」とコメントして、プレゼンテーションを締めくくった。
(2003年7月29日)
[Reported by 矢作晃 Photo by 船津稔]
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