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「過去の過ちから教訓を得て今後に活かしたい」 |
会場:品川インターシティホール
■本社サイドの日本市場に対する姿勢が大きく転換
マイクロソフト株式会社は7月24日、品川インターシティホールにおいて、Xboxカンファレンスイベント「Xbox Conference 2003 Summer」を開催し、日本におけるXboxの現状を総括するとともに、今後の展望および戦略についての発表を行なった。
過去日本で開催されたXbox関連のカンファレンスイベントは、基本的に日本側のXbox担当者によるプレゼンテーションがほとんどであった。それに対し今回は、冒頭に米Microsoftのホームエンターテイメントディビジョン日本担当ジェネラルマネージャーであるパーミンダー・シン氏が登場して挨拶を行なったのに続き、同じく米Microsoftのホームエンターテイメントディビジョンコーポレートバイスプレジデントであるピーター・ムーア氏によって、プレゼンテーションの大部分が割かれた。
まずカンファレンスの前半では、ワールドワイド市場における明るい話題が続いた。2003年6月末時点でのワールドワイドにおけるXbox出荷台数は約940万台であり、2004年6月末までに1,450~1,600万台の出荷を目標としていること、ソフトウェアアタッチレート(ハード1台あたりのソフト販売本数)が北米市場で5.4、ワールドワイドで5.0と、過去に類を見ない高い値を記録していること、Xbox Live登録ユーザーがサービス開始8カ月ほどで約50万人を突破したことなどが紹介された。それに対し日本の現状についてピーター・ムーア氏は、「非常に厳しい」と表現した。
2003年6月末時点でのXbox出荷台数940万台のうち、アジア・太平洋地区における出荷台数は約100万台、そしてそのうち日本市場での出荷台数はわずか45万台強に留まっている。この数字を見ても明らかなように、日本市場においてXboxはほとんど成功を収めていない。この点についてピーター・ムーア氏は、「過ちがあったかもしれません。それを否定するつもりもありません。しかし、その過去の過ちから教訓を得て、今後に活かし実行していきたいと思います。日本のXboxユーザーやパブリッシャー、リテーラーなどのニーズを十分に考慮・理解し、その声に耳を傾けていきたいと思います」と語った。
この言葉から、これまでの米Microsoft本社側の姿勢が浮かび上がってくる。おそらくこれまでは、欧米市場での好調なセールスと日本市場の特殊性を背景に、とにかく欧米市場でのシェア獲得を主目標に掲げ、日本市場に関してほぼ日本側に一任していたのだろう。確かに、本社側も以前から日本市場に対する重要性を事あるごとに強調していたものの、実際の日本市場に対する姿勢には首をかしげるものが多かったのも事実だ。
しかし、日本市場が一向に好転しない現状を受け、本社主導で日本市場に対して取り組むように方向転換したと思われる。今年春の日本側スタッフの大量リストラもその一環ではないだろうか。今回のカンファレンスイベントが本社側のスタッフによって進められたことも、その流れを受けてのことだろう。もちろん欧米市場での販売が十分軌道に乗ったことも方向転換の大きな理由だと思われるが、ゲーム産業の中心である日本市場における惨状に対し本社側の我慢が限界に達した、というのが実情ではないだろうか。
では、この日本の現状を打破するための手段として、いったいどのような手段を考えているのか。その答えが、ソフトの充実と「Xbox Live」の強化だ。
ソフトの充実という点に関しては、マイクロソフトゲームスタジオから16タイトル、セカンドパーティ、サードパーティを含めたパブリッシャーから81タイトルの新作ソフトが今後1年以内に投入されるそうだ。また、「Xbox ワールドコレクション」と銘打って、海外ソフトを最小限のローカライズにとどめて、欧米市場と大きなタイムラグなく日本市場に投入したり、「Xbox プラチナコレクション」という、海外市場でヒットしたタイトルを手頃な価格で提供する海外ゲームシリーズが新たに追加される。日本のXbox Liveユーザーのうち約75%が、海外ゲームを遊んでみたいと考えているというデータをもとに、このような新シリーズの投入を決定させたのだろう。
「Xbox Live」の強化という点に関しては、まずXbox Liveコミュニティの強化という点が挙げられる。Xbox Liveのオフ会を本年6回を予定しているのに加え、オンラインベースおよび店頭イベントとして「Xbox Championship」を今年も開催する予定になっている。また、Xbox Liveの双方向エンドユーザーコミュニケーションという利点を活用することによって、リアルタイムにエンドユーザーのニーズを把握したり、ユーザー志向のプロモーションを実施することで、ユーザー側からも直接マイクロソフトやパブリッシャーに働きかけることもできる。これにより、Xbox Liveに関するサービスをユーザー側に近い視点で迅速に実施できるようになるとしている。
そして、最も重要な点である「新規ユーザーの獲得」という部分に関して、とにかくXbox Liveに注力して新規ユーザーに働きかけていくことになるようだ。マイクロソフト側は、Xbox Liveこそが、Xboxの他のハードに対する優位点であると考えている。Xbox Liveによってコミュニティを形成することによって、マーケティングのプライオリティが消費者側に移っていく。つまり、Xbox Liveのコミュニティによってユーザーのニーズをリアルタイムに吸い上げ、そのニーズに応じた戦略が迅速に取れることこそ、非常に大きな優位点と考えているようで、今回のカンファレンスでもこの部分が特に強調されていた。
Xbox Liveに注力するという具体的な方策であるが、新規ユーザー向けとして2カ月間のXbox Live無料キャンペーンも行われる。キャンペーン対応のXbox Live対応ソフトに2カ月無料カードを同梱し、新規にXbox Liveアカウントを作成して2カ月間無料で楽しめることになるそうだ。また、特定ソフトのバンドルモデルの拡充も計画されているようだ。
Xbox Live既存ユーザー向けに対してだが、Xbox Liveの更新料が1ヶ月680円、12ヶ月4,980円と発表された。12カ月分の更新料を見る限り、北米市場における更新料$49.99(約6,000円)と比較して破格の安さとなっている。これは日本のXbox Liveユーザーにとって朗報といえるだろう。加えて、12カ月分のサブスクリプションキットを小売店で販売し、登録したクレジットカードに課金されることなく更新可能となる方法も考えられているようだ。
課金に関して少々付け加えるが、クレジットカード以外での課金方法の導入について、今回のカンファレンスでは具体的な発表はなかった。しかし、この点に関して日本はもとより全世界から要望が出されているそうで、すでにクレジットカード以外での課金を実現すべく作業が進められているそうだ。おそらく、そう遠くない将来、Xbox Liveにクレジットカード以外での課金方法が追加されることになるのは間違いないだろう。この点に関しては、一刻も早く実現してもらいたいと思う。
ソフトの充実とXbox Liveの強化によって日本でのユーザー獲得を目指す | Xbox Liveユーザーの3/4が、海外ゲームをプレイしたいと考えており、このデータによって「Xbox ワールドコレクション」や「Xbox プラチナコレクション」シリーズの投入が決まった | Xbox Liveの更新料金は12カ月分が4,980円と、世界中で最も安い金額が設定された。また、2カ月無料キャンペーンも実施される |
サービスに関して話を戻すが、Xbox Liveの新機能として、「Live Now」が新たに導入される。これは、5月のE3で北米向けのサービスとして発表されたものとほぼ同等と考えていいだろう。
Live Nowは、ゲーム開始前、ゲーム終了後にユーザー間のコミュニケーションが取れる、ゲームに依存しない共通のロビールームのようなものだ。Xboxを起動すると、まずLive Nowに接続され、そこで友人やログインしている人たちと音声チャット(最大同時16人)を行ないながら遊ぶゲームを決め、その後そのゲームを起動してプレイに入る、プレイ後にまたLive Nowで話をする、といったことが可能となる。もちろん、友人をチャットやゲームに招待したり、友人のチャットルームに割り込む(鍵がかけられている場合にはチャットルームに入れないが)、といったこともできる。これにより、これまでよりもユーザー間のコミュニケーションがより密に取れるようになり、コミュニティが拡がることになるだろう。
このLive Nowの導入に伴い、ダッシュボードが新しいものに置き換えられることになる。また、ゲームのプレイデータを保存してXbox Liveサーバにアップロードし、友人がそのデータをダウンロードしてゴーストデータとして利用しながらゲームを楽しむ「ゲームクリップ」という機能も実施される。
ところで、北米市場では、Xbox Live上の友人からのゲームへの誘いや、ランキングの変動などを携帯電話やPDAなどに知らせる「Live Alerts」というサービスが予定されているが、これも日本市場で実施されることになるようだ。北米市場では、マイクロソフトが今年秋に発売を予定している情報携帯端末「SPOT」やPocketPC、Smart Phoneなどがサービス対象となっているようだが、日本ではまだ具体的なデバイスが提示されていない。ただ、Live AlertsのシステムはMSNのバックエンドをベースとしているそうで、MSNがサポートするデバイスであれば、基本的に対応可能だそうだ。つまり、MSN Messenger(Windows Messenger)に対してアラートを送ったり、日本の携帯電話に対してアラートを送ることも問題なくできるそうだ。詳しい内容に関しての発表はなかったが、携帯電話にXbox Liveの友人からゲームの誘いが届く、といったこともおそらく実現されることになるだろう。
また、広告戦略として、ワールドワイド共通のキャンペーンも行われる。「it's good to play together」という共通キーワードを採用し、日本はもとより全世界で広告キャンペーンが行なわれることになる。もちろん、このキーワードからもわかる通り、ここでもXbox Liveを前面に押し出した戦略が取られることになる。
以上のような方策によって、日本市場でXboxのシェアが伸びるかどうか、現時点ではまだ何とも言えない。なぜなら、鍵を握っているのは、やはりソフトだからだ。魅力的なソフトが多数登場すれば、自ずとXboxのシェアも伸びていく。この点に関してはマイクロソフト側も重々承知しており、今回のカンファレンスでは、今後発売されるソフトの中から、特に注目のタイトルについて、それぞれの開発メーカーの重要人物を招いて詳しく紹介された。それら注目タイトルに関しては別記事で紹介することにしよう。
北米では、情報携帯端末「SPOT」やPDAなどにXbox Live上でのゲームの招待などの情報が転送されるサービス「Live Alerts」の実施が予定されているが、日本でも同様のサービスが行なわれることになるようだ | Q&Aセッションで、日本側の代表としてマイクロソフト株式会社執行役員である泉水敬氏が登場し、シン氏やムーア氏と握手。ここまで日本側の影が薄いカンファレンスはある意味印象的であった |
(2003年7月24日)
[Reported by 平澤寿康 / Photo by 矢作晃]
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