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★PS2ゲームレビュー★

閉ざされた世界、少年は少女と共に空を目指す
「ブレス オブ ファイアV
ドラゴンクォーター」
  • ジャンル:RPG
  • 発売元:株式会社カプコン
  • 価格:6,800円
  • プラットフォーム:PS2
  • 発売日:発売中(11月14日)


 カプコンの人気RPGシリーズ「ブレス オブ ファイア」。シリーズ5作目に当たる本作「ブレス オブ ファイア V ドラゴンクォーター(以下、「ドラゴンクォーター」)」ではシステムや世界観を一新、アクション性を併せ持つ3DRPGとなった。

 閉塞感の強い地下世界といった世界観から、ゲームを繰り返しプレイすることで新しい発見がある「SOL(Scenario OverLay)」といったシステムまで、さまざまなところに“新しいものを作ろう”という意欲が感じられる作品となっている。



■ 閉ざされた世界からの脱出行

 物語は地下1,000メートルの地下世界から幕を開ける。この世界に住むのは、はるか昔大きな災厄を逃れ、地下に生活の場を求め、何世代も経た人々。すでに「そら」というものは伝説の存在となっている。

 人は生まれついての潜在能力を表すD値(D-ratio)を測定され、その値は厳格な身分制度を産んでいる。D値の低い者はより下層の階層に押し込まれる運命にある。地下での生活による大気汚染は深刻な問題になっており、特に下層では限界が近づいている。

 人々の心配事はそれだけではない。彼らは遺伝子操作による人工生命体・ディクを作業や・食料など、あらゆる面で使用しているのだが、ディクの何体かが逃亡、野生化そして世代交代を繰り返すうちに凶暴化、地下のあらゆるところに潜み人々を襲い始めたのだ。
  人の生活はさらに限定され、D値による差別や社会の圧迫感から犯罪を起こす者も多くなっていった。犯罪者たちは「トリニティ」という組織を結成、政府機関「レンジャー」と激しい抗争を繰り広げていく。
主人公・リュウ。優しさの中に、強い意志を秘めた少年。恐ろしい力と、世界の秘密を前に、運命に立ち向かう。

 こんな、非常に閉塞感のある世界がこのゲームの舞台となる。主人公は3RDレンジャーであるリュウ=1/8192。彼が、謎の少女ニーナと出会い、彼女を救い世界を開くため空を目指す。

 ゲームはすべて暗い地下世界で展開し、たどり着く“街”も普通のRPGのような脳天気な明るさはなく、どこか暗いトーンで統一されている。非常に特殊な雰囲気を持った作品だ。
 とても斬新な本作だが、どこかにノスタルジーを感じさせるものがある。それは「ウィザードリィ」といった、「迷宮探検ゲーム」の匂いだ。暗い迷宮を、モンスターに怯えながら少しずつ前に進め、自分の「範囲」を広げていく感覚。後述するが、ちょっときつめなゲームバランスも昔のRPGにあった、“ぎりぎりの感じ”を思い出させる作品なのである。

【スクリーンショット】
ボッシュ。高いD値と、それによる自尊心を持つ。D値の低いリュウに負けたことが、彼を狂気へと駆り立てていく。 ニーナ。翼を持つ謎の少女。口をきくことができない。リュウを慕い、彼と共に空を目指す。 リン。トリニティの任務によってニーナを保護するが、リュウとニーナの行動を見守り、自身の想いを問うことに。
地下1,000メートルの街。慣習により天井を水色に塗っている。そらは伝説にすぎない。 最下層の街。D値の低い人間は下に追いやられ、劣悪な生活を強いられている。 巨大なディクが穴を掘っている。必要不可欠なディクは人の生活を脅かしてもいる。
ゲームは3D空間の地下通路を中心に進行する。「迷宮探検」の趣が強いゲームだ。 商人3姉妹。キャラクタの名前など、シリーズのファンがニヤリとする仕掛けも。 もうひとりの主人公とも言えるボッシュ



ユニークなゲームシステム

 このゲームはシステムも特殊だ。まずはSOL (シナリオ・オーバーレイ)、と呼ばれるもの。
 このシステムは「プレイをするたびに新しいイベントが追加される」というもので、例えばリュウとボッシュがレンジャーとして、隊長から仕事を受理する場面で、一度目はボッシュと隊長が内密でする話の内容は聞けないのだが、二度目のプレイではボッシュの激しい上昇志向による傲慢な姿が描かれる。このようにエピソードを補完するシーンが入るほか、さらに謎が増えるシーンが挿入される場合もある。その謎の答えを求めて、さらにプレイをすることとなるだろう。

 同じゲームを何度もプレイする、というのは、人によってはちょっと抵抗がある場合もあるかもしれない。しかし、このSOLはストーリーの追加というだけではなく、「プレイデータの引継」ということもできる。パーティー経験値によるプレーヤーの意志によるキャラの強化や、さらにスキルや所持金を引き継ぐこともできる。

 このゲームは、はじめてプレイするとき、そのゲームバランスのきつさにちょっとびっくりするはずだ。もちろん洋ゲーや、昔のゲームのような理不尽すぎるきつさではないのだが、ストーリー主導型ともいえる最近のRPGとはちょっと違うバランスで、ファーストプレイでは、あっという間に回復アイテムは底をつき、街などの拠点へ撤退を余儀なくされる。このゲームでは1度倒した敵は再出現はしないため、撤退は容易だから、慎重に進んでいけば問題がないのだが、こういう「感触」は久し振りで、ちょっと驚かされた。

 SOLは、このポイントでも効果的だ。パーティー経験値で強化され、強い装備を持ったキャラクタは、前回の難関を易々と突破していく。手こずったダンジョンをさくさく走破していく快感が味わえる。また、アリを雇って、妖精の街「共同体」を作ることで冒険を有利に進めることができるのだが、コレも引き継ぐことができる。うまくSOLを使うことでどんどんゲームを快適に進めることができるのだ。

 アクション性がちょっと強めなのもこのゲームの面白いところ。それがPETS(Positive Encounter and Tactics System)というシステム。「ドラゴンクォーター」では敵はフィールドに見える形で存在しており、爆弾やねむりキノコといったアイテムを使うことで、戦闘を有利に進めることができる。このシステムはアクションRPG風のものになっていて、うまくいったときの爽快感がある。また、敵と接触することでターン制のゲームになるが、ここでもタイミング良くボタンを組み合わせることで技がつながり大ダメージを与えることができるAPS(Active Point System)を採用していて、ここでは効率の良いダメージの与え方をプレーヤーが模索できるようになっている。このふたつのシステムにより、戦闘は緊張感のある戦いが楽しめる。

 個人的な意見としては、PETSが少し使いにくいように感じた。アイテムの効果範囲、時間などに確信が持てず、もっぱらターン制の戦いを挑むようにプレイをしてしまった。しかし逆に、何度もプレイをするこのゲームのこと、凝ったプレイのひとつとして、とことんPETSにこだわるというプレイも楽しいかもしれない。

 APSによる戦いは非常に楽しめた。キャラクタのもつアクティブポイントを使い切るまでに、いかに効率よく技をたたき込むか、というのは、それこそ戦闘で何度も試せる要素なので、自分なりの最強コンボを作り出す爽快感は通常のコマンド式RPGでは楽しめない要素かもしれない。

【スクリーンショット】
SOLによるシーン。ボッシュのこの傲慢な態度は、2度目のプレイから追加される。 パーティー経験値を割り振ることでレベルアップ。冒険が非常に楽になる。 アリを配置して設備を充実させていく共同体。SOLで引き継ぐことで、より大きくできる。
アイテムのうまにくを使ってディクを誘導、かたまった敵に範囲攻撃を仕掛ける。 ダイナマイトを投げつけて敵を攻撃。体力を減らしておけば、戦闘が楽になる。 コンボすることによって増えていくダメージ。後半の戦いでは必須となる。
あえてコンボせず、広範囲攻撃を2回。というように、APは効率的に使おう。 横一文字の後に縦一文字を選択すると技が変化する。組み合わせによっては特殊技に。 変身。強大な力をふるうことができる代わりに、リュウはドラゴンに浸食されていく。
強力なD-ブレス。右上のカウンターが急上昇していく。100でゲームオーバーに。 一度目はドラゴンに頼るしかなかった難局を、生身で突破。SOLならではの楽しさだ。



■ ハードなストーリー展開

 「閉鎖された世界からの脱出」これがテーマとなるこの作品は、展開するストーリーもハードだ。野生化したディクに脅かされる世界、D値による厳格な身分制度、進行する大気汚染、最新鋭の工場でさえ生活ブロック以外は廃墟化していて、破綻を来している社会であることが分かる。この世界の圧迫感はあらゆるところでプレーヤーにのしかかってくる。

 加えて、リュウのD値は“1/8192”……将来の出世がまず望めない、未来への希望が断たれた少年なのだ。相棒のボッシュは言う。「俺はお前とは違う、だから俺に手柄を譲り、俺を助けろ。そうすれば、俺は上に行くことができる」リュウは、沈黙することしかできない。

 そんなリュウに、運命の激変がやってくる。背中に“翼のようなもの”を持った少女ニーナと、反政府組織のエージェントであるリン、このふたりと出会うことでリュウは今までと違う道を歩むことになる。この「実験体」を処分場に運ぶことが、リュウとボッシュたちの任務だった。しかし、ニーナの姿を見てしまったリュウに、そんなことはできるはずはない。ボッシュはニーナを処分しようとする自分を阻む。「リュウ、俺の道を、阻むな……」。

 それが、リュウの聞く最期の言葉……と、なるはずだった。しかし、頭の中で声が響く、「お前を選んでやる」。それは、廃棄された巨大な実験体 (?) の前で耳にした声、すでに命の活動を止めた、ドラゴンの死体の前で耳にした声だった。驚くボッシュの前でリュウの瞳が深紅に変わり、そして異形のモノへと「変身」する。その力は人の範疇に収まるものではなく、ボッシュは瞬く間に倒され、敗退する。

 リュウは政府から追われる身となる。その過程で追っ手から毒ガス攻撃にあい、ニーナの秘められた力を使って彼を救う。しかし、その力を使った代償に、ニーナは毒に犯され、汚れた大気では生きられない体になってしまう。ニーナを救うには「そら」……誰も見たことのない「地上」へ行くしかない。
 リュウはニーナを連れて、リンと共に空を目指す。

 ボッシュは、暗い情念に捕らわれ、リュウを追うこととなる。エリートとしてほんの通過点にすぎないはずであった仕事を、リュウというD値の低い、彼にとっては問題ではない人間に阻まれたその悔しさは、やがて彼自身の運命も大きく狂わせていく。

 やがて、リュウの行動と、ふたりの戦いは、世界に重大な影響をもたらすこととなるのだ……。

 最近のイベント中心のゲームと比べると、展開するストーリーはシンプルだが、逆にだからこそ、散漫ではない濃いストーリー展開が楽しめ、イメージもハードな色に統一されている。

 そして、リュウの前に立ちふさがるレンジャーの隊長の言葉が、リュウと共にプレーヤーの心も強く揺さぶることとなる。「お前が空を目指すのは、お前とリンクしたドラゴンの意志にすぎない」。
 単純にニーナを助けるために選択した、空への道が、何者かに強制された道だとしたら?
この問いに葛藤しながら進めていく冒険は、なかなか臨場感も伴って進んでいく。シリアスなストーリーが好きな人には特にお勧めだ。

 キャラクタの描写も魅力的だ。強い意志を秘めながらも、どこか控えめなリュウや、プロポーションを強調し、ネコミミにしっぽというコケティッシュな格好なのにハードな言動と性格をしたリン、そして「はかなげ」な少女・ニーナ。
 特に、ニーナの描写にこの作品は情熱を傾けているように思える。ニーナは口をきくことができず、単純な叫びや吐息で声を発する、そして手足は非常に華奢で、かわいい。「この女の子を守ってあげたい!」と、思わせる描写は、とても見事だと思えるのである。

 そして、細やかそうで、内に狂気を秘めているボッシュの表現もまた見事だと言える。さらにSOLによるストーリーの挿入が、プレーヤーにボッシュへも感情移入させられる。彼は間違いなく、この物語のもうひとりの主人公なのだ。

ドラゴンの死体。リュウの中に声が響く。「お前を選んでやる」。運命の幕開けだ。 自らの野望を漏らすボッシュ。友の激しい上昇志向の前で、リュウは沈黙する。 ディクにさらわれそうになる少女の姿を前にして、リュウは謎の力を発揮する。
ニーナを奪取しにきたリンは、彼女の強い意志を前にして、共闘を申し込む 任務を失敗するわけにはいかないボッシュは、ニーナを追う。「説明してくれ!」ボッシュの前に立ちふさがったリュウ
リュウの腕が上がり、ボッシュの剣を引き抜く。そしてリュウは異形の姿に。その人ではない力の前に、ボッシュは敗退する。
リュウに追っ手がかかる。レンジャーは毒ガスを使って街ごとリュウを攻撃、倒れたリュウを救ったのはニーナの「力」だった。しかし、その代償としてニーナは地下では生きていけない体に。リュウはニーナを助けるため、空を目指す。
レンジャーの隊長がリュウの前に立ちふさがる。「お前が空を目指すのは、死んだドラゴンの意志に操られているのだ」。隊長の言葉に、激しく動揺しながらも、レンジャーたちを退けるリュウ。
 ボッシュはリュウの力を目の前にして逃亡する。復讐の想いと屈辱に胸を焦がしながら。



■ 「そら」への憧れ

「ドラゴンクォーター」で印象的なテーマ曲「Castle・imitation」も収録されている鬼束ちひろさんのニューアルバム「Sugar High」が東芝EMIから12月11日に発売される。アルバムには“album Version”が収録されているが、初回生産限定版はCD-EXTRA仕様になっているほか、ボーナス8cmCDにテーマ曲「Castle・imitation」とinst.バージョンも収録されている
 きついゲームバランスも相まって、ファーストプレイで「そら」へとたどり着くのは、ちょっと難しいようだ。だからこそ複数回のプレイによって、「いかに前まで進めるか」という挑戦する気持ちをかき立て、たどり着いたときの爽快感を保証する。

 リュウが使うことができるドラゴンの力は、ある意味ゲームバランスを崩すようなシステムだが、これを使うことでリュウの体は急激にドラゴンに浸食されてしまう。その値はD-カウンターという値で表現されており、100%になった時、ゲームオーバーとなる。この圧迫感も相当なモノだ。プレーヤーは、補給ポイントへの距離、アイテムの持ち運びと回復アイテムの残りの数、敵の厳しさ、そしてD-カウンターというものを気にしながらゲームを進めていくこととなる。これは、かなりの「綱渡り感」を感じさせるゲームシステムである。

 やはり「すすんで前に戻る」という行為は、斬新なゲームシステムであるだけに、最初は勇気が必要だろう。しかし、このきついゲームバランスは、ソレをうち破ったときの爽快感に変わる。撤退を選択すれば敵に出会う心配もないし、補給ポイントへたどり着いたときの安堵感もこのゲームならではで、楽しい。
 唯一不満に感じたのが、セーブにアイテムが必要なことだろうか? ゲームの途中の道しるべとなる、プレーヤーの気分的な足がかりとなるセーブをアイテムで制限してしまったために、必要以上の圧搾感を与えてしまっている気がする。

 この困難な冒険は、強い達成感をもたらしてくれる。2度目以降のプレイではこういった圧迫感を感じた気持ちこそが、爽快感へと変わる。この感覚を体験してほしい。イベント中心のRPGとはちょっと違った感覚が楽しめる作品だ。


(C) CAPCOM CO.,LTD. 2002 ALL RIGHTS RESERVED.

□カプコンのホームページ
http://www.capcom.co.jp/
□「ブレス オブ ファイア V ドラゴンクォーター」のページ
http://www.dragonquarter.com/
□関連情報
【8月12日】カプコンの名作RPGが新たに生まれ変わる
PS2「ブレス オブ ファイアV ドラゴン クォーター」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020812/drq.htm
【10月11日】新たなプレーヤーキャラはトリニティのエージェント?
PS2「ブレス オブ ファイアV ドラゴンクォーター」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20021011/dra.htm
【11月12日】カプコン、PS2「ブレス オブ ファイア V ドラゴンクォーター」
シルバーリングなどオリジナルグッズを発売
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20021112/bof.htm

(2002年11月29日)

[Reported by 勝田哲也]


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