Phantagram「Shining Lore」は韓中日米の4カ国同時展開!
「Shining Lore」プロデューサーJay Kim氏インタビュー

6月28日収録

会場:Yeoksam Star Tower

 現在、70万人のプレーヤーが日夜βテストに参加しているPhantagram InteractiveのファンタジーMMORPG「Shining Lore」。韓国ではいまオープンβテストの真っ最中で、正式サービス開始を前に開発の最終段階を迎えている。一方、日本と米国でもようやく7月から日本語版、英語版を使ったクローズドβテストが開始される予定となっている。

 今回、我々はソウル江南地区にあるPhantagram Interactive本社を取材。プロデューサーJay Kim氏に「Shining Lore」のこれからの展開について話をお伺いすることができた。ワールドカップ3位決定戦で大いに盛り上がった韓国だが、インタビュー終了後に開発室で最新版を見せてもらったところ、ゲーム内も期間限定のワールドカップ特別仕様になっていた。日本では考えられないぐらい、ユーザーの意見が強い影響力を持つ韓国。同作を通じてみた韓国のオンラインゲーム事情をご紹介しよう。


■ いつ正式スタートするか、どのようにして支持を集めるか ~複雑な韓国ゲーム市場

明るさとコミカルさが綺麗に同居したMMORPG「Shining Lore」
装備品を変えるたびにキャラクタのグラフィックが変わるのが最大の特徴
編集部 中村:それではまず最初に「Shining Lore」の最新状況を教えてください

Phantagram Jay Kim氏:現在、全体90%の開発が終了しました。ただ「Shining Lore」はオンラインゲームで、いつでもアップデートできるところが特徴です。ですので、製品版をひとまずの完成として、その後に第2次の大規模なアップデートを予定しています。

 現在、韓国のみでβテストを行なっていますが、中国と米国、そして日本でもβテストを開始する予定です

中村 中国での展開は初めて聞いた話ですが、中国語仕様なのですか?

Kim そうです。現在、中国の会社と契約を終えて、7月はクローズドな環境で状況を見て、8月から完全なオープンβテストを開始します。もうクライアントは中国、米国、日本とも完成しているのですが、さすがに3カ国同時は無理ではないかと思うので、少しずつ時期をずらして行なっていきます。実はこのインタビューのあとで、中国語版の開発を進めていくつもりです

中村 それでは日本は中国の状況を見て、という感じでしょうか

Kim そのつもりです。率直にいって日本のゲーム産業は世界一だととらえています。その反面、ビジネスとして成功させるには非常に難しい国だという印象もあります。だから、日本での展開は、他国よりもスローペースでじっくりとやっていきたいと考えています。ただ、このようなことは私ひとりで決められることではないのですが、会社の方針としては、夏休み前に始めたいと考えているようです

中村 なるほど。韓国での今後の展開はどうなるのでしょう?

Kim そうですね、現在いろいろ検討している段階です。現在、韓国のゲーム市場はいろいろ問題を抱えていて、その一番の問題は、無料でプレイできるオンラインゲームがいくらでもあるという事実です。ユーザーが無料でプレイすることに慣れてしまっています。長いタイトルになると去年スタートしたゲームが現在も無料でプレイできます

中村 オープンβテストで、ということですね?

Kim そうです。「βテスト」とは名付けていますが、本当はβテストではなくて、マーケティングという意味合いのほうが強いです。もちろん、ユーザーを限定して行なうクローズドβテストでは、テストの意味合いが強いですが、オープンβテストになると、すでにユーザーにはβテストだという意識はありません。β版を使った無料サービスという感じです。これは韓国ゲーム市場で深刻な問題になりつつあります

中村 日本ではβテストというものがあまり一般には浸透していなくて、最近「ファイナルファンタジーXI」のテストによって、一般ユーザーにも知られるようになってきました。その点、韓国はオンラインゲームの開発が盛んで、私個人の感覚としても、さまざまな最新ゲームのβテストを遊び続けるだけで済んでしまうのではないかと考えてしまいますね。しかし、それではビジネスにならない

Kim そのとおりです。現在流行っているオンラインゲームは10タイトル以上あります。その中でどうすればユーザーの支持を獲得できるのか、そのことにいま頭を悩ませています。また、ゲーム開発の仕方も昔(シングルプレイゲームの頃)とはまったく変わってきていて、たとえば昔は単純でした。企画した内容をゲームとして組み込み、それを市場に流せばそれで終わりになりました。

 ところが現在は、発売前にβテストが必ずあって、サービスがスタートすると当初考えていた企画などは吹っ飛んでしまいます。というのは「この機能がダメだから、このゲームはダメだ」というユーザーの意見に耳を傾ける一般ユーザーが多いためです。バグなら直して当然なのですが、当初予定しなかった機能を付け加えるのは困難が伴います

中村 それは大変ですね。とすると、ゲーム自体は事実上ほぼ完成していて、あとはタイミング次第ということになるのでしょうか

Kim タイミングと全体のバランスの微調整です。韓国のオンラインゲームで一番重要なのはなんといってもアイテムです。この設定に一番時間をかけています。アイテムに魅力のないオンラインゲームは韓国では成功しません

中村 それは「Diablo」におけるレアアイテムやユニークアイテムのことですか?

Kim そうです。韓国ではゲーム中のアイテムを実際の現金で取引する行為が日常的に行なわれています。パラメータが1、2違うだけでその価値がぜんぜん変わってくるので、アイテムひとつひとつに対して最新の注意を払っています

中村 開発側としてはこの現金によるアイテム取引はどうとらえているのですか?

Kim 微妙なところです。ゲーム開発側としては、その行為そのものがゲームの人気を体現しているという側面もあるので、どちらかといえば歓迎できます。韓国市場で現在もっとも人気の高いMMORPGは「Lineage」ですが、グラフィックは2Dで、ゲームエンジンも古いのですが、同作が大ヒットした理由はアイテムです。現金による取引も頻繁に行なわれていて、ゲームとしてはもう旧作の部類に入るのですが、ゲーム以外の面で支持され続けています。

Yeoksam駅のすぐそばにあるStar Tower。昨年できたばかりの大型ビルで、Phantagramは1フロアの半分を占めている

社内の様子。開発チームごとに部屋がわかれ、「Shining Lore」開発チームが最大の面積を占めている。こっそり「Warcraft III」をプレイしてるスタッフもいたが、プロデューサーの姿を見るやいなや素早く「Shining Lore」デバッグモードに切り替えていた(笑)


■ 韓国のIDCは世界一。 5,000人で利益が生み出せる特殊なオンラインゲーム事情

中村 現在、「Shining Lore」のβテスターはどれぐらいいるのですか?

Kim 韓国内だけで70万人です

中村 実際、これでユーザーがいればすぐ課金に踏み切っても問題ないような気がしますが、どのようなビジネスモデルを考えているのですか?

Kim そうですね。有料課金者数が1万人を越えれば黒字になる計算です。韓国はIDC(データセンター)が安くレンタルできるので、この数字ですが、米国や日本ではもっと多い数でなければ黒字にはならないはずです。韓国のIDCは安さに関しては世界一ではないかと思います。これにより場合によっては5,000名程度でもなんとかなります

中村 それは凄いですね。ちなみに韓国での正式リリース時期はいつになるのでしょうか

Kim 一応、第3四半期とアナウンスしていますが、夏頃を予定しています。8月頃ですね

中村 月額利用料金はどれぐらいを予定していますか?

Kim それも難しい問題です。韓国は月額料金は世界水準で見ても非常に高い設定にあります。先ほどの「Lineage」は韓国では月額3,9000ウォン(約3,900円)です。「EverQuest」や「Ultima Online」といったアメリカのMMORPGの約4倍になっています

中村 高いですね

Kim もっと低価格にすべきなのか、それともこの水準のままいくべきなのか、我々はもちろん、ライバルの「Ragnarok Online」を開発しているGravityもいろいろ検討を重ねている段階だと思います。正式発表までもうしばらくお待ちください

中村 何人ぐらいで開発されているんですか?

Kim 40人ぐらいです。これは韓国の水準としては多い方です

中村 ゲームの開発期間は何年ぐらいかかっているのですか?

Kim もともとドリームキャスト用として、シングルプレイRPGとして開発に着手したのですが、途中でオンラインゲームが本格的になってきたため、MMORPGに軌道修正しました。現在でもいくつかDC版のおもかげが残っていますがほとんどは捨てて一から開発し直しています。全体の開発期間としては2年半ぐらいになるでしょうか

中村 現在、PS2とXboxという2つのコンソール機でネットワーク対応への準備が進められていますが、コンソールへの移植についてはどのようにお考えですか

Kim それも経営者の判断になりますが、いずれにしても韓国でのPS2の苦戦ぶり、そして日本でのXboxの苦戦ぶりは我々には予想外でした。開発そのものについては、PCからXbox向けへの移植は比較的簡単ですが、PCからPS2は難しいです。Xboxはいまのところいろいろ計画を立てていますが、PS2に関してはいまのところ予定はありません。我々の感覚でも「ファイナルファンタジーXI」をやるためのコストは、少々高すぎるという印象があります

中村 韓国でも「ファイナルファンタジーXI」をやりたいと思っている人が多いという声も聞きますが

Kim そうですね、実際にすでにプレイ中のユーザーもいるようです。しかし、現状で韓国のPS2のユーザーがオンラインゲームに手を出す可能性は低いと考えています。SCEKが韓国に進出したときに、目標販売台数は30万台と設定したのですが、まだ10万台程度しか販売できていません

中村 それは純粋にハードウェアの値段の高さから? それとも対応ソフト不足が原因ですか?

Kim いえ、本質的な問題はマーケティング不足にあると考えています。ですので、移植する場合はXboxになる可能性が高いといえるでしょう

街はいつも人混みで大混雑。最初に冒険する大陸では全部で5つの街があるということだ


■ 発売後のアップデートで第2の大陸を追加

クレーンでアイテムを釣るミニゲームの前で待ち行列をつくるプレーヤーたち
“チェス”と呼ばれているミニゲーム。駒はすべて敵キャラだらけだ
中村 先月のE3では、さきほど出てきた「Ragnarok Online」や「Lineage II」など、韓国内だけでも強力なMMORPGが多数出展されました。それらにはない「Shining Lore」独自の魅力はどの辺にあるとお考えですか?

Kim こんなに明るい雰囲気のMMORPGは「Shining Lore」だけだという絶対的な自信があります。また、街でプレイできるミニゲームもアピールできる要素です

中村 以前日本でお話を伺ったときに、PKシステムは導入しないけれど、ミニゲームを介することでユーザー間と対戦できるといった話を耳にしました

Kim PKシステムは「Shining Lore」の世界観を壊さないために導入しない方針です。ミニゲームは必ずしもその代わりというわけではないのですが、さまざまな楽しいゲームを用意しています。たとえば、タイピングゲームは、相手と同時にタイピングして、近づいてくるアバターを相手にどんどん送り込んでいくといったゲームです。ミニゲームでできる対戦はそういった得点で競い合うタイプのゲームが多いです

中村 ミニゲームは何種類ぐらい用意されるおつもりですか

Kim βテストで3種類。現在開発中のものが1つあります。正式サービスが開始されてからもどんどん増やしていく予定です

中村 以前、日本で実際にβテストに参加してみたとき、明るくて楽しいゲームだということはよく実感できたのですが、個人的にMMORPGはRPGの一種だからロールプレイしたいといった願望があります。「Shining Lore」は、その根幹を担うストーリーの部分が薄いように感じられたのですが、この点についてはいかがお考えですか?

Kim いい質問ですね。客観的に見ても「Shining Lore」はストーリー性の薄いゲームです。でも、他のMMORPGと比べても、決して薄いとはいえないと思います。MMORPGというのは、開発者側がイベントをつくるのも、プレーヤーが世界を換えるのも大変です。たとえば、プレーヤーが英雄を殺したとします。すると、後から参加したプレーヤーはその英雄を見ることができない。我々としては今後も引き続き、大小のイベントを催していくつもりですが、シングルプレイRPGのような濃厚なストーリーを収録する予定はありません

中村 なるほど、「Ultima Online」を作ったリチャード・ギャリオットも同じようなことで悩んでいるといってました。彼は次回作でその問題に対する対応策のひとつを提示すると聞いています。また、日本は昔からストーリー性の高いRPGには定評がありますが、「ファイナルファンタジー XI」は、プレーヤー全員に対して同じストーリーを展開させるという強引な手法で、MMORPGのストーリー性の薄さを解消しています。つまり、ひとつのワールドの中で、1日に数千回の同じイベントが行なわれているわけです

Kim 「ファンタシースターオンライン」も同じようなシステムですね

中村 そのあたりは日本は世界的に見ても平等というか合理的な印象があります

Kim 我々もそうした努力は行なっていくつもりですが、「FF XI」にしても「PSO」にしても、あのシステムはちょっと無理があるように感じています。やるとすれば別の方法になるでしょう

中村 現在、70万人のユーザーがプレイしているということですが、ユーザーたちは現状どういった遊び方をしているのでしょうか?

Kim そうですね。レベルアップでしょうか

中村 レベルの上限はいくつなのでしょうか?

Kim 現状では特にレベルに上限は設けていません。製品版では150に設定するつもりです。これはあまり高いほうではないです。高いものになると350とかあります

中村 βテスターの中でもっともレベルの高いプレーヤーはいくつぐらいですか?

Kim 109だったと思います。軽く200時間以上はプレイしていますね

中村 レベルが上がるとどういうメリットがあるんですか?

Kim 能力があがり敵を倒しやすくなるのと、アイテムの装備制限やクエストの参加制限などが解けることです。韓国のMMORPGはレベルアップとアイテム収集の楽しさ、作品の魅力はこの2つに集約されるといっても過言ではありません

中村 「Shining Lore」もそうしたゲームであるということですね

Kim そうです。韓国のゲーム開発の難しさは、プレーヤーが望むこと以外のことを我々が行なうとユーザーからリアクションがすぐに帰ってくるということです。「Shining Lore」もそうですが、すべてのMMORPGには掲示板があり、そこにすぐ書き込まれます。だから、間違ったことはできません(笑)

中村 なるほど(笑) 先ほど8月に正式リリースを行なうという話が出ましたが、その後の展開を教えていただけますか?

Kim 現在のβテストでは1つの大陸でしかプレイできませんが、発売後のアップデートで新しい大陸を追加します。現在の大陸は砂漠が多く、太陽が照りつけていますが、2つ目の大陸は暗い感じで、サイバーパンクな世界観に仕上がっています

中村 大陸への移動手段はどのようにして行なうのですか?

Kim ワープを利用することになりますが、レベル制限を設けています

中村 話は変わりますが、韓国ではワールドカップが盛り上がってますね

Kim はい。キャラクタの多くは韓国のユニフォーム姿でプレイしていますよ。これは小さなイベントで盛り込んだ機能で、いまは白ですが、来週にも赤になりますよ。もともと「16強ウサギ」を倒すと入手できるようにしていたのですが、韓国が1勝するごとにユニフォームの性能を高くしていったので、今は最強装備のひとつになっています(笑)

中村 凄いですね(笑) それはユーザーは嬉しいでしょうね。しかし、そういう家庭的というか、ローカルさが韓国のMMORPGの魅力ですよね。バレンタインデーとかクリスマスの定例イベントとは質の違う、たとえば今回、仮に日本がワールドカップで優勝しても、「ファイナルファンタジー XI」でユニフォームが配られることはありえないと思うんですよ

Kim 確かにそうですね(笑) それはある意味で、韓国のユーザーの声が強すぎるということもあるんです。開発者としては、嬉しい反面、困る面も多いのです。コミュニケーションが直接なので、ものすごい悪口が届いて閉口することもあります。ユーザーは一番大事ですが、扱いには慎重を要します。正直いって「Shining Lore」はユーザーの意見に振り回されて意見を吸い取りすぎた印象もありますが、これから発売に向けて頑張っていきますので、ぜひともよろしくお願いします

中村 ありがとうございました。

フィールドにおける戦闘にも最大限のコミカルさが感じられるのも特徴のひとつ

日本人秋津たいらさんの手によるイメージイラスト。サウンドも同じく日本人の岩崎琢さんが手がけており、日本人にもプレイしやすい雰囲気だ

(c)1999-2002 Phantagram Ltd. All Rights Reserved.

□Phantagram Interactiveのホームページ
http://www.phantagram.com/
□「Shining Lore」のホームページ
http://www.shininglore.com/
□関連情報
【2002年5月1日】「ラグナロック オンライン」とどっちを取る?
フル3Dの可愛いくて遊びやすいMMORPG 「Shining Lore」ベータテストレポート
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020501/yuki24.htm

(2002年6月30日)

[Reported by 中村聖司]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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