Electronic Entertainment Expo 2002現地レポート番外編

3Dゲームファンのための最新グラフィックエンジン講座
「Deus Ex 2」、「Turbine G2」エンジン、ほかにも魅惑の新エンジン続々!!



 2000年にDirectX 8が発表され、Direct 3Dにプログラマブルシェーダという新しい概念が導入されたが、この新テクノロジーを活用したゲームは極めて少なく、せっかく高価なDirectX 8対応ビデオカードを購入してもこれを活かす機会が少なかった。ところが、今年のE3では、これに対応したゲーム(エンジン)が多数公開され、DirectX8発表2年目にしてやっと「本当のDirectX8時代の幕開け」を実感した。以下ではE3で見かけた、DirectX8.x対応ゲーム(エンジン)の主なものについて見ていくことにする。


■ 「Deus Ex 2: Invisible War」~DX2エンジンはUnreal2エンジンの異母兄弟?

ION STORM代表Warren Spector氏
 ハードコアSFアクションゲームとして非常に評価の高い「Deus Ex」に、続編「Deus Ex2:Invisible War」(以下DX2)が登場する、前作は「Unrealエンジン」のIonStorm社の独自カスタマイズ版で制作されたが、DX2では、このエンジンをさらに進化させたものを用いて制作しているという。

 ということは「今回もUnrealエンジンの改良型か?」という疑問が浮上するわけだが、これに対してはYESともNOともいうことができる。ベースは「Unrealエンジンをベースにして制作されたDeus Exエンジン」だが、DX2制作に当たっては、コア部分のレンダリングエンジンを作り替え、さらに物理エンジン部は、Havokのものをインポートする形で実装しているとのこと。よって全体としては、ほとんどオリジナル・エンジンといっても良いレベルに進化したそうだ。

 Hvaokよりインポートした物理エンジンは、当たり判定、スケルタル処理(ボーン・スキニング)など。Havokといえばロープ、布のシミュレーション・エンジンが有名だが、これらはインポートされていないとのこと。E3時点ではゲーム部分の作り込みはあまりできておらず、E3のEIDOSブースにおけるDX2の展示はほとんどエンジン部分のテクノロジーデモ的なものになっていたが、その映像クオリティは非常に高く、グラフィックエンジンの完成度と志の高さを垣間見ることが出来た。

 「DOOM III」エンジン同様に、セルフシャドウ、プロジェクションシャドウに対応。驚かされたのは、その影が光源からの距離が遠ざかるにつれて、色が淡くなり、輪郭が薄くなっていた点。これは、いわゆる相互反射(ラジオシティ)表現(あるいは半影処理)で、今までの3Dゲームグラフィックスではほとんど無視され続けてきた要素である。

 ラジオシティとは何か。たとえばある部屋内の光は、光源から発せられた一次光だけでなく、その一次光を受けた壁や小道具、大道具などの物体からの二次以上の反射光も充満している。つまり、光源は電球の光だけでなく、壁やコップ、机、椅子からの反射光も考慮しないと、厳密には正しい陰影は表現できないのだ。

 これをマジメにやるのが「レイトレーシング」だが、3Dゲームのリアルタイムグラフィクスでこれをやるのは、現行のGPUではいささか重荷といえる。そこで、「結果がそれっぽく見えるように細工してやろう」というのがDX2エンジンに実装されている「疑似ラジオシティ」というアプローチだ。おそらくプログラマブルシェーダーを活用した新手のハック(疑似処理)だとは思うが、非常に見応えがあった。

 また、DX2では、ほぼ全てのテクスチャに、法線マップを用意。プログラマブルシェーダで環境バンプマッピングを適用するという。主要キャラクタのスキンはもちろん、壁や床のテクスチャにまでこの処理を適用すると力説していた。DX2の全てのビジュアル要素を楽しむためにはGeForce3以上のDirectX8対応GPUが必要になるのはもちろん、ビデオメモリも128MB級が必要になることだろう。

 DX2エンジンの他社へのライセンスについて、聞いてみたところ、「DX2エンジンは権利問題が複雑だ。ベースがUnrealエンジンで、これに我々のレンダリング処理系を搭載し、Havokの物理エンジンも統合している。ライセンスしたとしても、我々がいくらもらって、他社にはいくら払わなければいけないのかというのが、現段階では全く見えてこない(笑)」とION STORM社Warren Spector氏。

 DX2エンジンは、いわばUnreal2エンジンの異母兄弟とも言えるわけだが、完成度は本家に優るとも劣っていない。こちらもゲーム自体の発売は2003年を予定。これからの作り込み次第ではDOOMIIIエンジンを超えるポテンシャル持つ可能性も否定できない。要注目だ。

床、壁、すべてに環境バンプマッピング 右方向に伸びる柱の影に注目。これが疑似ラジオシティによる半影処理 手すりの影が床に落ちる。DirectX8熟成時代に突入した今となってはプロジェクションシャドーはもはや当たり前か


■ 「Asheron's Call2」~「Turbine G2」エンジンの動作には最低でもGeForce3が必要

マルチパスレンダリングとプログラマブルシェーダを併用した水面の表現
 最も美しいビジュアルを持つMMORPGとして期待されているのが「Asheron's Call2」だ。グラフィックスエンジンは「Turbine G2」という名称がつけられている。

 実際のゲームにおいて全てのグラフィックオプションを最高位に設定すると数十ボーンで構成される数千ポリゴンのキャラクタ達が縦横無尽に動き回り、1シーンあたりの総ポリゴン数は数十万に達するという。現行のGPUの新フィーチャーには積極的に対応することを表明しており、具体的にはATI RADEON8500の自動曲面生成機能「TRUFORM」に対応することも明らかになっている。

 水面等のサブサーフェイス表現、屈折表現を始め、肌の質感、地形の凹凸にパー・ピクセル・バンプマッピングをプログラマブルシェーダを活用して実装させているとのことで、全てのビジュアル表現を堪能するためには最低でもDirectX8完全対応GPUが必要になる見込み。

 今回公開された映像では、セルフシャドウ表現が適用されているシーンも随所に見られ、 IGFで公開されたバージョンよりも、さらに作り込みが進んだと思われる。

右の像の凹凸がパーピクセルバンプマッピングの一例 この映像ではわからないが、今回公開されたデモの中で、この種族の頭部の角の影が、自身の後頭部に投射されているシーンが確認された TurbineG2エンジンは遙か遠方までを描ききる動的LODシステムを実装し、エピックスケールな屋外ビジュアル表現を可能にする


■ 「EverQuestII」~摂動付き環境マッピングはどう使われる?

 3D-MMORPG「Ever Quest」シリーズの最新作が「Ever QuestII」(以下EQII)だ。3DエンジンはEverQuestIIチームによる完全オリジナルエンジンだそうで、プログラマブルピクセルシェーダとプログラマブル頂点シェーダの双方を要求するため、実質的にDirectX8.0に完全対応したGPUが必要になる。具体的には、最低でもGeForce 3クラスは必要になるということだ。

 プログラマブルシェイダーはパーピクセルライティング、摂動付き環境マッピングや、3Dキャラクタを生物的に動かすボーン・スキニング処理にて活用されるという。パーピクセルライティングとは簡単に言えばピクセル単位のライティング処理のこと。PCグラフィックスにおいてはDirectX7時代、初代GeForce256がNSR(NVIDIA Shading Rasterlizer)というテクノロジーで対応したのが始まりだ。

 EQIIエンジンでは、そのポリゴンの表面材質別のディフューズ(拡散反射)を個別に用意したシェーダープログラムによりシミュレーションするようだ。当然この処理にはプログラマブルシェーダを活用する。かなり地味な技術なのだが、フォトリアリスティック表現には欠かせないとされ、これも研究が進んでいる分野だ。(人肌の拡散反射をシミュレートしたスキンシェーダについてはGDCレポートを参照)。

 摂動付き環境マッピングとは、ピクセルシェーダプログラムで物理計算等を行なって凹凸情報を生成し、これを法線マップ化、リアルタイムにバンプマッピングを行なうもの。具体的には、流れしたたる血の表現や水面の揺れ、液体が跳ねる様などをリアルに表現できる。公開された映像を見ると、シャドウに関しても完璧で、シャドウマップ技法を使い、シーンに存在する全ての3Dオブジェクトに対しリアルタイム生成を行なっているようだ。当然セルフシャドウやプロジェクションシャドウもサポートされている。

3Dモデルを構成する素材の質感の違いすら感じ取れる陰影処理 ミイラ男の手の影が自分自身に映っている点に注目。セルフシャドウは次世代3Dゲームでは当たり前なのか 壊れた家具の一個一個に正確な影が出ている。床や壁にはバンプマッピングがみてとれる。床の血が摂動付きバンプマッピングによるものかは不明


■ 「Earth and Beyond」~MATROX Parhelia-512対応エンジン第一号

 E3における「Earth And Beyond」(以下E&B)のデモはゲームシステムの説明に終始し、グラフィックスエンジンに関する詳しい解説は行なわれなかった。

 現時点で分かっている情報を整理しておくと、E&BエンジンはWestwood社の「Command & Conquer: Renegade」に利用されているエンジンと同系とのことだが、宇宙空間と地表ではそれぞれ別個のエンジンが描画を担当するシステムになっているという。

 注目したいのは地表エンジンの方で、他社に先駆けて未発表のDirectX9の新機能「ディスプレースメントマッピング(D-MAP)」に対応するといわれている。というのも、5月13日、MATROXのDirectX9対応新世代GPU「Parhelia-512」の製品発表会の際、テクノロジーデモとしてE&Bのグラフィックスが公開されたためだ。

 ちなみにD-MAPとは「ポリゴンにジオメトリ情報を貼り付ける」というイメージの新技術で、E&Bでは、平面的な地表に対し、凹凸情報を貼り付け、起伏ある自然な地形表現を行なう際に利用する。なお、くわしいD-MAPに関する技術解説はPC Watchの記事をを参照して欲しい。

 2002年5月現在、D-MAP機能をサポートするGPUとして明らかになっているのは、前述のMATROX Parhelia-512のみ。DirectX9対応一番乗りを名乗るグラフィックエンジンだけに、今後も注目していきたい存在だ。

ゲーム自体は2002年8月発売予定。もうすぐだ DirectX9注目の新機能「D-MAP」は地表表現で活用される


■ 「No one Lives Forever 2」~Lithtech Jupiterエンジンがパワーアップ

映り込みはいわゆる一般的な環境マッピングではなく、マルチパスレンダリングによるまじめな映り込み。水面の揺れによる映り込み映像のブレ表現にはプログラマブルシェーダを活用
 Monolithの子会社で、3Dエンジンの制作専門会社であるLithtech社は、同社の最新3Dエンジン「Lithtech Jupiter」システムの新バージョンを発表した。

 昨年発売された女スパイもの一人称アクションシューティングのヒット作「No One Lives Forever」(以下NOLF)で使われていたLithtech Jupiterエンジンを、DirectX8.1のDirect3Dの新フィーチャーに対応させた形でバージョンアップさせたのが今回の新システム。このエンジン採用の第一号ゲームは、やはり、NOLFの続編「No One Lives Forever 2: A Spy in H.A.R.M.'s Way」となる。

 新Jupiterシステムでは、隙間から光が漏れるような表現までを可能にする「投射ライティング」、物理エンジンとシンクロした形での「動的テクスチャ表現」、プログラマブルシェーダーのサポート、プロジェクションシャドウに対応する。

 ところで、今回のE3でディズニーより発表された3Dアクションアドベンチャー「Tron 2.0」では、「Lithtech Tritonエンジン」という新エンジンを使用している。TritonシステムはJupiterシステムから派生したもので、Jupiterと基本機能は同じだか、三人称視点制御や乗り物などの物理エンジンが追加されたものだとのこと。

吹っ飛ぶアラブ兵の影に注目 「デカールシステム」(DECAL SYSTEM)と呼ばれるものを搭載。たとえば銃弾が各3Dオブジェクトにヒットすると、その当たった位置に銃痕が描かれる。シールと考えるとイメージしやすい 無数に舞い降りる雪はパーティクルシステムによるもの

「TRON2.0」では新JUPITERから派生したLITHTECH TRITONエンジンを使用する


■ 「Unreal Tournament 2003」、「Unreal 2」~進化し続けるUnrealエンジン

 GeForce3、GeForce4Tiベースで開発されてきたというのが、このUnreal2エンジン。正確には「Unrealエンジンの最新バージョン」と呼ぶべきなのだが、一般にUnreal2エンジンと呼ばれている。

 プログラマブルシェーダに積極的に活用し、ボーン・スキニング機能、パーティクルシステム、布シミュレーション、ファー・シェーディング等の新フィーチャーを実装するに至っている。

 物理エンジン部の改良も徹底して行なわれ、背景物とキャラクタの衝突判定は部位単位で、しかもそれぞれの重量や重心等も考慮した演算が行なわれる。GDCレポートでも触れたが、ゲームエンジンとしては世界初のリップアニメーション機能を持つのも本エンジンの特徴だ。

「Unreal2」より。キャラクタのポリゴン数は前作の100~200倍になっているという 「Unreal2」より。ド派手なエフェクトは新エンジンならではのもの 「Unreal Tournament 2003」より。草木の表現が非常にリアルになった。今回のE3で公開されたデモではシャドウ処理関係はイマイチだった


■ 「StarWars Galaxies:An Empire Divided」~GeForce3ベースで開発

 スターウォーズの世界観をベースにしたMMORPG「StarWars Galaxies:An Empire Divided」(以下SWG)。この作品のエンジンもオリジナルで、GeForce3ベースで開発を進められてきているという。

 ゲーム世界の太陽の位置に応じて影の向きや形状がリアルタイムに変化するなど、非常に芸の細かいエンジンだ。ただ、今回公開された映像では、セルフシャドウ処理に関しては、形状等が大ざっぱな感じがあり(シャドウマップ生成が大ざっぱなため?)、まだ進化の余地はあるという手応え。

 GeForce4発表と同時に著名となったCodecult社の「Codecreature」エンジン同様に,地形表現はフラクタル理論による算術生成のものだそうで、草木などの自然物等もパラメータ生成されたものだとのこと。SWGは現在も開発中で、このエンジンには特別な名前がまだ付けられていない。

背景,キャラクタ,全てのシャドウがリアルタイム生成 見ての通り,水面などのサブサーフェイス表現はプログラマブルシェーダを活用して行なわれている 地形や草木はマップ上に明確に配置されるのではなく,パラメータ生成されたもの。この仕組みにより,性能の低いマシンでは,そうしたオブジェクトの処理を簡略化すれば,ゲームスピードの低下を抑えられるという

□id Softwareのホームページ
http://www.idsoftware.com/

(2002年5月29日)

[Reported by トライゼット 西川善司]

I
【Watch記事検索】
最新ニュース
【11月30日】
【11月29日】
【11月28日】
【11月27日】
【11月26日】


ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2002 impress corporation All rights reserved.