中古ソフト訴訟、最高裁はメーカーの上告を棄却
~ARTS会見「無制限に流通をコントロールする権利を認める必要はない」~

4月25日 発表



 テレビゲームソフトウェア流通協会(ARTS)は、4月25日に最高裁判所第一小法廷で判決が下された「中古ゲームソフト裁判」について会見を行なった。

 「中古ゲームソフト裁判」は、中古ゲームソフトの販売が著作権法の侵害に当たるか否かについて、東京と大阪でそれぞれ訴訟が行なわれていたもの。最高裁は、メーカーおよび社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会 (ACCS) の上告をいずれも棄却。メーカー側の販売差し止め請求が退けられたことにより、販売店側の勝訴が確定した。

 判決内容は、大阪高裁の理由付けを支持したもの。ゲームは“映画の著作物に該当し頒布権を有するが、権利消尽の原則に基づき“小売店からユーザーに売り渡された時点で頒布権は消尽”し、それ以降の譲渡に効力を及ぼすことはないとしている。

 頒布権が消尽せず、(中古販売など)再譲渡のたびに著作者(メーカー)への許諾を必要とするならば、市場における商品の自由な流通が阻害され、かえって著作者の利益を害する恐れがあるばかりか、著作権法1条に記された“著作者等の権利の保護を図り、文化の発展に寄与する”という目的に反することになるとしている。


 会見の冒頭で、ARTS代表理事の新谷雄二氏は「本日、私たちのかねてよりの主張が認められました。本判決を高く評価し、裁判所に敬意を表します」とし、また「このうえは、関係するハードメーカー、ソフトメーカー、業界団体の皆様がこの判決を真摯に受け止め、私たちとの正常な関係構築に向け、誠意を示していただくことを期待します」とコメントした。

 藤田康幸弁護士は「大阪で差し止め請求訴訟が起こされたことで本件の訴訟が始まったが、その“訴訟定義”自体が極めて不当だと考えていた」という。
 また「なぜ、日本においてだけ(メーカー側に)無制限に流通をコントロールする権利を認める必要があるのか。そんな必要はないではないか。また、ゲームソフトにだけ隅々まで流通をコントロールする権利をメーカー側に与えるのは、適当ではないのではないか」と、これまでの主張を改めて強調した。

 判決については「最高裁判所は、この問題について一部メーカーの近視眼的な利益(追求)に迎合するのではなく、著作権法の究極の目的である“文化の発展”を考えた場合、どういう法解釈が妥当なのかという点について、良識ある判断を示されたと考えている」とコメントした。


 最高裁の判決が下されたことで「中古ゲーム裁判」は一応の決着を見た。が、両者の関係を修復する道は、決して平坦ではない。それは、記者との質疑応答の中で、ARTS理事の新谷氏の口から出たゲームソフト販売店の現状に関する以下のコメントからもうかがえる。

 「ゲームハードの掛け率は、現在90%以上。それはソニー、任天堂、マイクロソフトにしても95%であるとか、それを超えるような常識では考えられない価格になっている。ソフトにしても、裁判が始まる前より5%以上も掛け率が上がっており、80%近い値段で卸されている。音楽CDや本など、他の著作物と比べても異常。CDや本は多少の返品が認められているが、ゲーム販売店は全てのリスクを負いながら商品を仕入れざるをえない。また、今もパッケージや雑誌の広告に(中古撲滅キャンペーンの)「NO RESALE」のマークを掲載している会社もある。これらを早急に是正していただきたい」

 中古が合法的に認められたことで新品ソフトの価格も上がるのでは? という問いに対しては、「価格を決める自由はメーカーにある。高くても売れる自信があれば、高い値段をつけるのが普通。そんな値段で売れないと思えば安くする。価格はメーカーが最終的に決定する問題」であり「いまだに“川上(メーカー)が価格をコントロールする”という考えがある。だが、売れるものは高い値段になるし、いくら我々が5,800円で売ろうと思っても、価値のないものは3,000円でも売れない」という。

 また「メーカー側は“中古を認めたらソフトを高く売らざるを得ない”といってきたが、ファミコンからスーパーファミコンを経てプレイステーションになる段階で、ソフトの価格は一方的に落ちてきた。だが、その大部分が小売にしわ寄せという形で出てきているということを理解していただきたい。もうひとつは、売掛金を回収する、受発注の仲介といった加盟店の小売店に対する物流などの手数料を、かなりの大手メーカーが支払わない。この段階で、5%以上の掛け率が落ちている。CD-ROMで価格が落ちたとき、販売店側の流通マージンも10%以上カットされた。小売店の利益を削いでいくという形で、今のテレビゲームの流通は成り立っている。新品の利益率は最大で15%もない。これではディスカウントショップでも成り立たない」のが現状だという。

 ゆえに「中古売買によって価格が上がるという歪曲というのはおかしい。今まで小売側に一方的にリスクを押し付けていながら、中古が始まると今度は価格が上がるという。中古の価格自体、ユーザーの意思によって決まるもの。ユーザーから商品を引き取るときも、いい商品はできるだけ高く引き取るなど、完全な市場原理で動いている。つまり、それ以外の要素で価格が決まる要素はない」としており、さらには「中古、新品の両方があるということは、競争原理が働いて、むしろ安くなるのではないか」という見解を示した。

 質疑応答では、ネットワークに関する質問も投げかけられた。メーカーが自衛手段として、ユーザーをIDやパスワードで管理する方法を進めた場合はどうするのか、という問いに対しては「販売店はパッケージのビジネスをしている。ネットワークに勝るサービスを販売店がパッケージをもってして行なえば、両方とも成り立つ。パッケージはなくならないと思う」と回答した。


 今後に関しては「中古撲滅キャンペーンも訴訟も、メーカーが広い視野に立つことなくユーザーの正当な利益を無視しようとしたことから始まったといえる。最近になっても、権利者団体だけが集まって、ユーザーの正当な利益を尊重しない方向で立法化運動を進めていると聞いている。そういう動きは、最高裁判決に示された見識、良識を無視しており、何よりもグローバルスタンダードに反する動きだと思う。関係するメーカー、官公庁、各種団体は、本日の最高裁判決、世界の良識を正しく理解し尊重して、消費者の利益を守り健全かつバランスの取れた関係を構築していただきたい」とコメントしている。

 ARTSは「これまでのメーカーの主張は、まず頒布権を認めなさい、そうすれば話し合いのテーブルにつきましょうという意志が強かった。頒布権について明確な答えが出た段階で、私たちはメーカーと前向きな話ができると考える。ケンカをしていて市場がよくなるわけでもなく。積極的に働きかけて協力関係を構築していきたい」という。

 ただし「裁判が始まる5年前に2度話し合いを行ない、同年3月に“もう一度話し合いをしたい”と要望を出したが、いまだ返事がない。時間はたったが、まずはその答えをいただきたい」としている。

□ARTSのホームページ
http://www.arts.or.jp/
□ニュースリリース
http://www.arts.or.jp/info/
□関連情報
【2001年3月29日】【速報】大阪高裁も中古ゲーム販売を認める判決
ARTS、声明文を発表
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010329/arts.htm
【2001年3月29日】「裁判所は著作物の本質を理解していない」ACCS都内で会見
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010329/accs.htm
【2001年3月27日】「ゲームソフトは頒布権の対象外」ARTS側の勝訴会見
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010327/arts.htm
【2001年3月27日】中古ゲームソフト訴訟、判決下る。エニックス「法律の解釈を越えた判決。最高裁に上告する」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010327/accs.htm
【1999年5月27日】「ゲームは“映画の著作物”ではない」エニックスが敗訴(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/990527/accs.htm

(2002年4月25日)

[Reported by 北村孝和]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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