★ PS2ゲームレビュー ★
自分で描いた絵がそのまま立体化し、ゲーム内のキャラクタとなって動き回る……これ以上ない自己表現が可能なゲームがこの「ラクガキ王国」だ。これにストーリー性とRPG的な戦闘の要素をミックスして、誰もが気軽に楽しめる作品に仕上がっている。
■ どこか懐かしく、温かみに溢れた世界観 物語はとある島の空き地で主人公が目を覚ましたところから始まる。「ヒバナ」という女の子と、その弟分の「タロー」たちと関わりながら、ペンの妖精“ペンジェル”を通して描いた「ラクガキ」を使って、帝国の「ラクガキ大会」に勝利していくのが大まかなゲームの流れになる。
制作チームのガラクタスタジオでは、本作のアートディレクターに「となりのトトロ」の作画監督を初め、多くのジブリ作品に携わってきた佐藤好春氏を起用。その作風とガラクタスタッフの尽力は見事に功を奏し、舞台となる島はジブリ作品を彷彿とさせる、どこか郷愁を誘うような開放的で不思議な魅力を放っている。
■ 愛着もひとしお。描いたラクガキがそのまま3Dキャラクタに! 自分でデザインした「ラクガキ」をそのままキャラクタとして使用できることが「ラクガキ王国」最大の特徴だ。これほどプレーヤーの個性が生かされるキャラクタ作成システムは他に類を見ないだろう。それがあまりにダイレクトであるぶん、「絵が達者でないと楽しめないのでは?」いう類の理由で敬遠しがちな方もいるかもしれないが、過度の心配は無用。「ラクガキの強さ」という点では絵の上手さはほとんど関係なく、また「描く」という行為に面倒を感じないならば、童心に帰ってノート一杯に「ラクガキ」しているだけでも十分に楽しめるからだ。「ラクガキ」はノートを開いて、「ペンジェル」を通して描くことができる。このとき必要になるのが「カラー石」というアイテムで、クレヨンや絵の具のようなものと考えてもらいたい。「カラー石」の種類が多ければたくさんの色を使えるし、量が多ければ大きなパーツを描いたり、たくさんのパーツに使用することができる。なお、本作はプレーヤー視点でゲームが進行するが、「ペンジェル」はマップ上を進む際のシンボルキャラクタにもなっている。 こうしてひとまず完成した「ラクガキ」は、そのままキャラクタとなりパラメータとタイプが決定する。タイプというのはそのラクガキが得意なワザのことで、「こうげきタイプ」、「まほうタイプ」、「バリアタイプ」の3種類に分類される。これらの要素は使った色の比率などで変化するようだが、強さの大元になるのは使用した「カラー石」の量である。つまり、強い「ラクガキ」を描こうと思うなら、最大ライン数を余すことなく目一杯使用することが重要になってくる。
ノートを閉じると、目の前には今描いたばかりの「ラクガキ」がテクテクと歩いている。「ラクガキ」を何体か描いていくと、ノートを閉じたこの瞬間、そしてギャラリーでの緒戦が一番の楽しみになってくる。モーションのチェックはノート上でもできるが、闊歩する姿を見て改めてその存在感を実感できると言おうか。プレイして初めてこの光景を見るときには、ちょっとした感動が味わえるだろう。
序盤のうちは「ペンジェル」が引けるライン数が短く、「カラー石」の所持量も少ないため、描ける「ラクガキ」のバリエーションはまだまだ乏しい。そこで、ほかの「クロッカー」と戦って「カラー石」を集めていくことになる。 ストーリーに沿って帝国ラクガキ大会の予選を勝ち進めば、「ペンジェル」が少しずつ成長する。はじめは「からだ」と「かたい(角などになる堅いパーツ)」しか描けなかったものが、「うで」や「あし」など、一戦ごとにどんどんパーツが増えていくのだ。それとともに総ライン数も増加するので、より複雑で大きな(強い)ラクガキが描けるようになるわけだ。 また、戦闘をすることでその「ラクガキ」に経験値が加算されて強くなる。ただし、戦闘経験値で強化される比率は僅かなので、基本的には「ペンジェル」の能力が「ラクガキ」の強さを左右すると考えていい。「ラクガキ」は「カラー石」が続く限り何体でも作成可能だが、一度に連れて歩けるのは6体まで。それを超えたぶんは「ガレージ」に保存しておくことができる。戦闘は最大で3対3で行なわれるので、最低でも「ラクガキ」を3体は作っておこう。 島内には「海ギャラリー」などの「デュエル(フリー対戦)」を行なえる「ギャラリー(施設)」もあり、ここで戦えば勝敗に関係なく「カラー石」をもらえる。対戦で勝利すればより多くの「カラー石」が手に入るだけでなく経験値も入手できる。もし敗北してしまってもデメリットは何もないので、積極的に挑戦しよう。
ギャラリーに直接行けばすぐに対戦できるほか、島の人々に話し掛ければその相手に直接デュエルを申し込める。「クロッカー」によってカラーやタイプの傾向があるので、特定の「カラー石」をたくさん入手したい時などは、同じ相手と集中して戦うといい。
■ 単純に見えて読み合いが熱い戦闘システム
戦闘は、島の「クロッカー」同士が互いに「ラクガキ」に指示を出すという形式で行なわれる。「ラクガキ」が行なえるのは「こうげき」、「まほう」、「バリア」の3つのワザと、「チャージ」の4種類。
まず、「チャージ」も含めて「同じワザを2回続けて出せない」という基本ルールがある。あいこ以外の場合、勝者には次手で最低でもあいこを取れるワザが残るので、有利な戦局が継続する。しかし、次の勝負であいこになれば使えるワザはまったく同じになる。そこで裏を掻いた選択肢のぶつかり合いという可能性も出てくる。
そして第4の手として「チャージ」の存在がある。「チャージ」はほかの3種類すべてのワザに負けてしまうものの、HPが回復し、次手のダメージがアップするという効果を持つ。
また、「ラクガキ」には各ワザに対応した3種類のタイプがある。例えば、「こうげきタイプ」なら「こうげき」のダメージが突出している。
戦闘は運要素も若干関係するが、お互いの「ラクガキ」が同じくらいの戦力ならば最初の一手目が勝負になる。一手目で勝てば、読み合いを拒否する選択肢……つまり、相手がグー、パーを出せる時にパーを、パー、チョキを出せる時にチョキを出せば「悪くて相討ち」になり、かなりの確立で勝つことができるだろう。
しかし、大会予選の相手は「ペンジェル」の能力よりも少し高めになっているので、普通に戦っていてはなかなか勝てない場合がある。そんな場合は、相手によって好んで使ってくるワザがあるので、何度か戦ってどのワザを多く使ってくるか調べてみると勝ちやすくなる。
■ カラー石を両替してペンやラクガキを購入しよう 「カラー石」は「ラクガキ」を描く以外にも使い道がある。ガラクタ市場の坂を登った先にある城の入り口脇にある「ミソラばあの店」に持っていけば、「カラー石」をゴールドに両替できる。ゴールドは島の住人から「ラクガキ」や「ペン」を買うために使用する。
購入できる「ラクガキ」は、これまでに対戦相手がバトルで使用したものに限られる。動きやデザインが気に入ったものがあれば購入してみよう。購入した「ラクガキ」は、自分で描く際の参考にするもよし、「パーツ」を描き足してアレンジするもまたよし。
戦闘のテンポやロード時間の長さが少々気になったが、本作は「シナリオをガリガリ進めて強力なクロッカーたちを倒す!」といった意気込んだ遊び方よりも、「ほのぼのした島の空気に身を委ねて、のんびりとお絵描きを楽しむ」という方向性が正道に思える。 ゲーム本編のシナリオ自体も短めで、エンディングは意外に早く訪れる。もちろん、そのあとにもプレーヤーがやれることはたくさん用意されているが、すべてのパーツが描けるようになり、「ペンジェル」の描けるライン数が最大になったらそこでひと区切り。人によって捉え方は異なるだろうが、そこがゲームとしてはほぼ終着点であると同時に、お絵描きツールとしてはスタート地点になっている。“そこ”に至るまでのプレイ時間は、筆者の場合は15時間弱であった。 普通のRPGと考えて身構えると物足りなさを感じてしまうのは確かだが、絵を描いたり、物を作ることが好きな方なら、末永く楽しめる愛すべき1本になるだろう。全国のプレーヤーから自慢の「ラクガキ」を募集するなど、創造力を発表できる場があれば、さらなる盛り上がりが期待できそうである。 ……などと言いつつも、絵心の乏しい筆者などはパーツやライン数が増えるにつれてキャラクタもいびつ極まる奇怪な物体に変じていくばかり。その動きも「蠢いている」といった表現が適切で、プレイしながら何度も苦笑が漏れてしまった。そんな、まさしく“ラクガキ”レベルの「ラクガキ」でも、自分で創造したものであるせいか不思議と愛着が湧いてくるものだ。
「奇怪な物体」になってしまった原因はほぼ明らかで、パーツが増えるたびにもとの「ラクガキ」に無理矢理描き足していったのがまずかったと思われる。強さはともかく、見た目が美しい「ラクガキを目指すのであれば、パーツやライン数が増えるたびに一度きれいさっぱり消して、一から描きなおすのがベストであろう。
(C)TAITO CORP.2001 PRESENTED BY GARAKUTA STUDIO
□タイトーのホームページ (2002年4月2日) [Reported by 氏家雅紀] |
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