「D.I.C.E.Summit」レポートパネルディスカッションに任天堂の宮本、岩田両氏が登場 |
会場:Hard Rock Hotel
D.I.C.E. Summitのプログラムのなかで、唯一日本からのクリエイターが登場するプログラムがこの日行なわれた。「Games for the Rest of the World」と題されたパネルディスカッション形式のセッションに、任天堂の宮本茂氏と岩田聡氏が参加。InfogramsのBruno Bonnell氏、THQのBrian Farrell氏、Electoronic ArtsのLarry Probst氏という大手三社のCEOとともに、世界市場を睨んだゲーム制作についてディスカッションを展開した。コーディネーターはACADEMY OF INTERACTIVE ARTS&SCIENCESの代表である、Paul Provenzano氏自らが担当した。
■ ローカライズに伴う言葉や文化の壁をどう超えていくのか
任天堂の取締役情報開発本部長、宮本茂氏 |
最初に存在するのは言語や文化の壁だ。Electoronic ArtsのProbst氏は、プレイステーション 2の韓国販売開始によるローカライズの作業ラインの調整などに言及。InfogramsのBonnell氏は、続編ものの欧州系言語へのローカライズでは、前作の普及度によってプライオリティを変化させる必要性など、いずれも経営者の目からの考えを披露。
そこで取締役ながらクリエイターの立場である宮本氏は「まずフランス語から一番先に(笑)」と応じて会場の笑いを取る(冒頭にProvenzano氏が各国言語の例を挙げたときにうっかりフランス語を忘れ、パネラーから突っ込みが入った。それ以降、セッションのなかでは冗談混じりにフランス語がもっとも重要な言語と位置付けられ、パネラーがコメントをするたび、必ずフランス語に関するジョークが混じっていた)。
宮本氏によれば「まずフランス語(もちろんジョーク、実際は英語)に対応。そして5カ国語にローカライズするのが基本。まず日本語環境からゲームを作り始めるというのは(世界的に見れば)変わった作り方だと認識している。自分はゲームのなかに沢山のギャグやジョークを入れるので、文法や言語の違いにより、伝わりにくいものが存在する。ほんとうに英語で僕たちの意図が伝わっているか、何度もやりとりを繰り返す。例えばゼルダなら、今日通訳をしてくれているスタッフが、英語へのローカライズに重要な役割を果たしているが、彼がゼルダ(日本語版のこと)をクリアするまでその作業は進めない。他のヨーロッパ系の言語についてはドイツでまとめてやっているが、これもゲームをまず理解しているのが前提だ。もちろん実作業としてはオートマチックにできないという問題はあるが、ローカライズに参加するスタッフが、全員ゲームそのものを理解していないといけない。これが一番のポイント」とクリエイターとしての認識を見せた。
任天堂の取締役経営企画室室長、岩田聡氏 |
さらにポケモンを例に挙げて「ポケモンはもともと世界を目指してデザインしたわけではない。日本でのヒットを受け、世界に持ってきたら米国でもヨーロッパでも、こうした可愛いデザインは受け入れられないと言われた。今となっては想像もできないが、米国サイドからはもっと怖かったり、筋肉もりもりのピカチュウのサンプルが(こういうのに変えてくれと)送られてきたこともある。ピンクのカービーが胃薬に似ていると言って、白に変えられたこともある。ただ、結果的にこれらは受け入れられることになった。それはそれぞれのキャラクタに合ったゲームが付いていたからきちんとローカライズできたと考えている。キャラクタのデザイン、カワイイという要素だけで決まるわけではないという証明でもある」としている。
■ 米国のクリエイターが日本市場で成功をおさめるためには
右から、InfogramsのBruno Bonnell氏、THQのBrian Farrell氏、Electoronic ArtsのLarry Probst氏という大手3社のCEO |
「スーパーファミコンまでは、PAL(ヨーロッパで使われているテレビ映像表示方法)でのゲーム(の処理速度)は20%ほど遅かった。最近は高性能マシンに変わって、そうした点は気にしなくても済むようになっているが、その当時でもNTSCとPALの間の速度低下を気にせずローカライズしていた会社があったのを知っている。これはひとつの例に過ぎないが、こうした点を我々は非常にこだわってローカライズを行なっている」と、宮本氏は日本からヨーロッパ市場への初期の参入を例に挙げて応じた。
さらに「Legend of ZELDA」がインターナショナルなタイトルとして成功したポイントを尋ねられ、「僕自身が(環境ではなく)人間の生理的な部分に近いところでゲーム作りをすることかも知れません。周辺にはさまざまな飾りを付けない。それが効を奏しているのではないでしょうか。また、親子の関係は国ごとに違う部分がままある。しかし男女の関係や人と動物の関係はさほどかわらない。僕はそのあたりをよく使うんですよ」と続けた。
さらに岩田氏が「ときどき海外のゲームを遊んでいて、遊び手の気持ちを考えていないと感じることはたまにあります。日本のマーケットが難しいと感じておられるようですが、日本のお客さんはプレイ・コントロールに寛容ではありません。非常に厳しい目で見ています。遊んでいて少しでもストレスを感じるようだと…もう続けてもらえなかったり、次は買ってくれなくなったりする。これは、宮本さんが日本のユーザーをそういう風に教育してしまったのかも知れませんね(笑)」と、なかなか伝わりにくい部分をズバリと突いた。
ゲーム中のキャラクタ名称のローカライズについてコメントを求められると岩田氏は「ポケモンでは、日本で使っている名前を海外で使っているのはごく一部。もともと、日本語だからこそわかる名前が多かった。これはローカライズが必要な部分。そのため、現地スタッフと相談してローカライズをした。ただしピカチュウだけは、全世界で統一して、声優さんの声も同じものを使おうと決めた。世界中の子供達が「ピカチュウ」と言う言葉を知っていて、それでコミュニケーションができたら素晴らしいでしょう」と応え会場内の拍手を受けた。
宮本氏も「長い間仕事をしていて、スーパーマリオ(Suoer MARIO)という名前が世界中で使えたということは非常に大きかった。はじめて米国にドンキーコングを持っていったとき「Donky Kong」は笑われた名前ですが、ゲームが面白ければ受け入れてもらえることも同時にわかった。でもスーパーマリオのなかで、いくつかのキャラクタの名前を米国で変えている。しかしそれは、次を作るときにとても不自由になった点。そのため、いま僕は、世界中で共通して使える名前を見つけるまで、名前を決めないんです。ちょっと可笑しいぐらいなら我慢してもらって無理矢理どの国でも使ってもらっている(笑)」とこだわりを見せた。
Q&Aセッションでは会場内のクリエイターから、携帯電話でのゲームについての質問が飛んだ。米国での報道で、日本のiモードなどでゲームが配信されてるのを受けて現状を確認したものである。これには岩田氏が「報道によっては、iモードのユーザーすべてがゲームをしているように受け取られることもあるが、実際のユーザーは決して多くはない。またゲームの配信で得られるクリエイター側の収入のいくらかは、キャリア側に還元されるが、ゲームの配信で増加する通信量はゲームのクリエイター側に還元されることがない。クリエイター側の目から見れば、まだそこにビジネスモデルはなく、通信キャリア側のビジネスモデルが存在しているのみではないか」と厳しい認識を示している。
聴講者も皆プロのクリエーターということで、ディスカッションの内容は濃いうえに歯に衣着せぬ率直なコメントが多く、参加者には充実した一時間半余りとなった。
□The Academy of Interactive Arts & Sciencesのホームページ
http://www.interactive.org/
□「D.I.C.E Summit」のホームページ
http://www.sicesummit.com/
□関連情報
【3月1日】「5th Annual Intractive Achievement Awards」授賞式
Game of the Yearは「HALO」が受賞、クリエイターが支持する「ICO」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020301/awards.htm
【3月1日】「D.I.C.E Summit」開催。米国を代表するクリエイターがラスベガスに集結
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020301/dice.htm
(2002年3月2日)
[Reported by 矢作晃]
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