★ PCゲームレビュー★
英国のカリスマゲームクリエイター、ピーター・モリニュー氏が3年以上の年月をかけて制作した作品、それが「ブラック&ホワイト」だ。彼が作り続けてきた「神の視点のゲーム」は「ゴッドシム」という新しいゲームジャンルを確立し、「ブラック&ホワイト」はその集大成ともいわれるほど高い評価を受けた。 今回、この作品に、拡張シナリオパックともいうべき「ブラック&ホワイト クリーチャー島 拡張キット」が発表された。「ブラック&ホワイト」本編ユーザーであれば気軽に楽しめる1,980円というリーズナブルな価格は魅力的だ。 ■ ゴッドシムの極致「ブラック&ホワイト」とは?
B&Wは、ピーター・モリニュー氏がLionhead設立後に開発した最初の作品だ。なんと、その開発にはPCゲームとしては異例とも言える3年以上の長い年月がかけられた。たっぷり時間を掛けただけあって、「ブラック&ホワイト」には、これまでのPCゲームには見られなかった新要素が数多く盛り込まれ、非常にユニークな作品に仕上がっている。 ●グラフィックエンジン まず、注目すべきなのは、ゲーム世界を完全なエピックスケールで描画することができるオリジナルのグラフィック・エンジンだ。 ズームを最大にすれば地面に落ちている木の実のクローズアップを見ることができ、この状態から視点を上げていけば衛星写真のようなゲーム世界全体を見渡せる状態にまでシームレスにビジュアルを切り換えていくことができる。これは、視点と描画するオブジェクトとの距離に応じて、描画オブジェクトの頂点/テクスチャ情報量を適宜削減していく動的なLOD(Level of Detail)システムを実装したことによりできる芸当だ。
なお、B&WはDirectX 7に完全対応しており、ビデオシステム側にハードウェアT&Lがあれば効果的に活用できるようになっている。
●手書き入力対応のコマンド入力システム
これにより、操作パネルがゲーム画面を占有せず、ゲームビジュアルを画面一杯に表示できるという利点と、階層メニュー等をまさぐることなく直観的に希望のコマンドが発動できるというメリットを両立している。 ●善悪を白黒つけるシステム B&Wの最大の魅力は、良い意味でも悪い意味でも「奇々怪々な」と表現したい、その独特なゲームシステムだと思う。プレーヤーが神となるのは、これまでピーター・モリニュー氏が制作してきた「ポピュラス」に端を発するゴッドシムと同じ。 ゲームの基本ルールはゲーム世界に住む民衆を全て自分を敬い祈るように改宗(改心)させること。これはポピュラスから脈々と受け継がれてきた基本ルールでこれも同じだといえる。 その改宗の手段はなんでもよし。民衆が驚いたり感動したりすることならば何でも良いのだ。木を引っこ抜いて木材にして与えるのもいいし、家や木、人に火を付けて燃やしてもいい。ただし、「プレーヤーがどういう行動を取って感動させたか」を、ゲームシステム側でリアルタイムに善悪を判断するようになっており、例えば先ほどの例でいえば前者は善行、後者は悪行と判定される。 ゲーム名の「ブラック&ホワイト」は「黒と白」の意だが、それぞれ悪と善の象徴的な色を意味する。プレーヤーの行動、全てにおいて善悪の判断がなされる……いわば白黒をつける、ということで「ブラック&ホワイト」というわけだ。なお、善悪のバランスをB&Wの世界では「アライメント」と呼んでいる。 神たるプレーヤーを敬ってくれる民衆は、ただ神を信じるのみで、敵である異教徒を殲滅するための攻撃活動には直接的に参加してくれない。ここがこれまでの氏のゴッドシムと、大きく異なっている点だといえるだろう。しかし、民衆の祈りは、神(プレーヤー)がミラクルを起こす際のエネルギー源となる。この点はこれまでの氏のゴッドシムと同じだ。 蓄積した礼拝パワーと引き替えにどんなミラクルを起こすかで、これまた善悪の判断が付けられる。例えば畑に雨を降らせて実りを促進させれば善、雷でこれを焼き払えば悪と判断される……といった具合だ。どちらの天変地異を起こしても民衆は驚くので、プレーヤー神への信仰度は増加することになる。 ここで注意したいのは必ずしも善行が良い結果をもたらすとは限らないという点。時には心を鬼にして、悪の行動を取らなければ問題を解決できない局面もある。また、悪行を重ね最終的に「悪の神」となってしまっても、それでゲームオーバーにはなることはない。ちゃんとゲームを悪の神としてクリアすることができる。B&Wの世界ではプレーヤーは絶対的な存在なので、やりたいことを自由にすればいいのだ。 ゲーム世界では様々な事件(イベント)が発生し、そして登場する様々なキャラクター達がプレーヤー神に対し様々なクエストを依頼してくる。それが謎解きだったり、パズルだったり、ミニゲーム仕立てのエクササイズものだったりするのだが、その解法も一通りではない。プレーヤーが「どう解決したか」でも善悪の判断がなされ、その如何によってゲーム世界に住む人々の態度が変化し、ひいてはゲーム世界そのものの様相も変わっていく。
これまで氏が制作してきたゴッドシム系ゲームでは、プレーヤーに与えられたゲームルールの範囲で「敵をうち倒す」というコンセプトが根底にあり、この最終目的のためにプレーヤーはそのプレイスタイルを戦術として組み上げていった。これに対しB&Wは(もちろんそうした要素も皆無ではないが)、戦略ゲーム的なゲーム性よりも、こうしたクエストやイベントの方に重きが置かれている印象がある。ポピュラス等のレガシー・ゴッドシムに慣れ親しんだゲーマーは、アドベンチャーやロールプレイング寄りのゲーム性が色濃く打ち出されているB&Wのゲーム性に戸惑うことがあるかも知れない(実際、2000年のE3における発表会ではゲームジャンルをアドベンチャー/ロールプレイングとしていたくらいだ)。
●クリーチャーの存在
そこで神の分身として活躍するためにB&Wの世界に登場してくるのが巨大動物神「クリーチャー」だ。世界各国には特定の動物を神の使いとして敬う原始宗教が数多く存在するが、B&Wはこれをモチーフとしてゲームに取り込んだという。動物神、クリーチャーは最初、完全に無知な存在だが、手綱(革ひも)を結わえた状態で自軍陣地内でプレーヤーがミラクルを見せてやるとそれを学習し、勢力圏外の敵地でこれを実践してくれるのだ。 クリーチャーに教える奇跡は何でもOK。畑に雨を降らせるのを繰り返し見せてやれば、敵地に行ったときでも雨を降らすことを学習する。この状態で敵地に赴けば、敵住民の前で雨降らしのミラクルを披露し、彼らを感謝の気持ちで満たすことができ、信仰を獲得できるようになる。 一方、家を燃やしたり、住民を食べることを教え込めば、敵地で怪獣映画さながらの大暴れをさせることができる。そうなれば敵地住民を恐怖で満たすことができ、やはりプレーヤー神に対する信仰を獲得できる。やはりここでも、クリーチャーの行動も善悪の判断がなされるので、その教育は注意深く行なわなければならない。いうまでもないことだとは思うが、上記の例は、前者が善行、後者は悪行ということになる。 クリーチャーは時折気まぐれで突飛な行動をしたりもする。例えば教えてもいないミラクルを発動したり、突然町を破壊したり、人を食べたり……。その行動がプレーヤーの思惑通りだった場合は誉めてあげ、違った場合はしかりつけてやる。すると、クリーチャーはこれを学習し、自発的に状況を判断して、プレーヤーの希望通りの行動を取ってくれるようになる。クリーチャーはいくつでも「状況に応じた行動」を覚え込むことができるので、丹念に教育すればかなり信頼した相棒として育て上げることができるのだ。
このあたりは、かなりタマゴッチ等に代表される「電子ペット」や「育成ゲーム」的な要素を積極的に取り入れた手応えがある。
■ クリーチャー島とは? だいぶ前置きが長くなった。本作はB&Wの拡張シナリオなので、B&W本編についてある程度の予備知識が必要になるためあえてこのようなスタイルをとった。ご容赦を頂きたい。ここからクリーチャー島について紹介していくことにする。 B&W本編の初期クエストで船を造って大海原へ乗り出していった宣教師達がいたのを覚えているだろうか。クリーチャー島は彼らが行き着いた新天地での出来事という位置づけになっている。 「神というのは信ずるものがいればそこに現れる」。新天地に下り立った宣教師達が、新天地に住む原住民にそう告げると、現れたのはプレーヤー神(=神の手カーソル)とB&W本編で可愛がっていたクリーチャー。 ここはどの神々の支配からも逃れた秘密の地で、プレーヤー神とのクリーチャーが独占できる状況にあるのだ。 B&W本編は、強大な力を持ち、あまたの神々を支配下に従える敵の神「ネメシス」をうち倒すまでの物語だったが、クリーチャー島はその戦いとは無関係という設定で、敵対勢力が一切出てこない。B&W本編中盤以降、目まぐるしく動く敵の神の手カーソルに恐怖を覚えたプレーヤーも多かったと思うが、クリーチャー島は敵がいないのでゆったりと自分のペースでプレイすることができるのだ。 そういう意味では、クリーチャー島はB&W本編よりも「初心者向きに出来ている」といえなくもない。B&Wをインストールし、そのあとクリーチャー島をインストールすれば、B&W本編を一切プレイしていなくてもクリーチャー島をプレイすることができる。 B&Wに興味を持った人で、敵勢力を意識することなく「1人遊びゲーム」感覚でプレイしたいというのであれば、クリーチャー島からプレイするというのも十分「あり」な話だと思う。ちなみに、一度もB&W本編を起動していないということは、B&W本編のクリーチャー選択イベントをクリアしていないということになるわけだが、大丈夫。クリーチャー島開始時にデフォルトでオランウータンが与えられるので問題ない。 クリーチャー島にはプレーヤー神以外の神はいないが、その島の名の通り、クリーチャーがたくさん住んでいる。神に捨てられたヤツ、厳しい神の元から逃げ出したヤツなど、ここには「ワケアリ」な連中が集まっている。クリーチャー島は飼い主の神を持たないクリーチャー達のたまり場なのだ。 そして、この島のクリーチャー達は「ブラザーズ」と呼ばれる運命共同体を組織しており、よそ者であるプレーヤー神のクリーチャーがこの島で安全に生活するためにはこの一員にならなければならない。ところがブラザーズの一員になるためには、この島のクリーチャー達全員の了解を得る必要があるという。 プレーヤー神は自分のクリーチャーをこのブラザーズに入団させるために、彼を鍛え、そして様々な試練にうち勝たせなければならないのだ。ある意味、本作は「マイ・クリーチャーのブラザーズ入団テスト」ということができる。そして、ひとつ心に留めておきたいのが、現在、ブラザーズ・メンバーのマドンナとなっている「イブ」が結婚相手を募集しているという事実。どうやったら結婚できるのかはゲームを進めていけばいずれわかる。
■ クリーチャー島の試練
試練が用意されている場所にはB&W本編同様に、金や銀の巻物アイコンが浮遊しているので、ルーファスに教えてもらわなくても、新たな巻物を発見したらクリックすることでその試練に挑戦できる。 クリーチャー島に用意されている試練は、B&W本編同様、パズル、ミニゲーム、クエスト、謎解きなど。自分のクリーチャーがどの程度成長しているかを確かめる意味で、戦闘の試練も2回ほど用意されているが、それ以外は、アクション性よりはパズル性の方が重視された作りになっている。与えられた問題をどう解決すればいいのか、よく考えてあれこれ試行錯誤しながら自分なりの解法を見つけていくといったやや知能ゲーム的な試練が大半を占めているのだ。 B&W本編は敵の神と、信者の争奪戦の様相を呈していた部分もあり、小クエストをのんびりやっていると、いつのまにか敵勢力が強大になっていたり…といったことがあったが、クリーチャー島では敵がいないのでその心配もない。ゆっくりと腰を落ち着けてプレイできる。 試練をクリアすると、プレーヤー神は、その試練を出題したクリーチャーを獲得したことになる。道場では、その時点で持っているクリーチャーと、これまでに獲得した任意のクリーチャーとの交換が可能だ。試練によっては、クリーチャーの種類に応じた有利、不利が若干あるようなので、行き詰まったら別のクリーチャーを使ってみるのも一考だ。 オープニングで宣教師の一言でプレーヤー神の進行を始めてしまった最初の原住民以外にも、クリーチャー島にはいくつかの種族が住んでいる。ゲーム開始時の彼らはプレーヤー神を信仰していないため、彼らの村に直接的にミラクルを起こすことは出来ない。B&W本編同様、クリーチャーを駆使したり、飛び道具を駆使したりして民衆の信仰心を煽ればプレーヤー神を信仰させることはできるが、今回ブラザーズ入団試験がメインとなっているので、全ての民衆を改宗させても特に別の世界ジャンプするボーテックス(ワームホール)などは出現しない。 クリーチャー島において、原住民の改宗は何の意味があるかというと、それは「新たなミラクルの獲得」。彼らの「村の中心」にまつられているミラクルのシンボルは、彼らを改宗させて自分を信仰させることで、自分で使えるようになるのだ。その多くのミラクルは、クリーチャーにかけると有効なものが殆ど。そう、与えられた試練をクリアするのに役に立つミラクルばかりなのだ。 なお、筆者がいろいろと試した限りでは、原住民の改宗を一切せず、初期状態に与えられたミラクルだけでも、なんとか全ての試練をクリアすることは出来た。腕に覚えのあるプレーヤーは挑戦してみて欲しい。
■ クリーチャー島の新要素~タイクの存在
以降、いかなるときでも、プレーヤーのクリーチャーの後を付け、その行動をマネする(というより努力をする?)。プレーヤーは自分のクリーチャーを教育するわけだが、クリーチャーはタイクを教育することになるわけだ。 育て親となるプレーヤーのクリーチャーが優秀であれば、タイクは神の力が及ばない土地でのミラクル起こしに非常に役に立つ存在となる。しかし、先ほどもいったように、原住民の改宗は本作ではそれほど重要でないため、今ひとつタイクの存在が活きてこないのだ。
また、一部の試練ではタイクは邪魔な存在となるため、タイクを一時預かり所に預けた方がよい場合もある。もしかしたらタイクを使った試練の簡単クリア法があるのかも知れないが、筆者はタイク無しで全試練をクリアすることが出来てしまった。もうちょっとタイクがゲーム本編に絡んできた方が、本作はもっと楽しくなったかも知れない。現状では「かわいらしいマスコット」止まりの存在になっているのがやや残念だ。
■ クリーチャー島は万人向けB&W
これに対し、クリーチャー島は「全ての試練(クエスト)をクリアする」という明確な目的が設定されている。しかも、全ての試練はB&W本編が持つ自由度の高さを活かした格好で、作り込まれているため、B&Wの魅力を存分に味わえつつ程良く一般ゲーマー向けにチューニングされた内容になっている。 本編と比べるとゲーム全体のボリューム感はやや小さめという印象もあるにはあるが、それも1980円という低価格設定を考えれば気にならない。結論としては非常にお買い得感の高いゲームになっていると思う(B&Wユーザーであればという前提条件付きだが)。
なお、3月7日にはB&Wクリーチャー島とB&W本編を1パックにした「ブラック&ホワイト スペシャルエディション」が5、980円にて発売される予定になっている。これはB&W本編とクリーチャー島を別々に購入する場合よりも3000円ほどお得になる。B&W本編を持っていないユーザーはこちらを待つのもいいだろう。
(c) Electronic Arts Inc. All rights reserved. (c) 2001 Lionhead Studios Ltd. All rights reserved. Black & White, Lionhead and the Lionhead logo are trademarks of Lionhead Studios Ltd. EA GAMES(TM) is an Electronic Arts(TM) brand.
□エレクトロニック・アーツ・スクウェアのホームページ (2002年2月7日)
[Reported by トライゼット 西川善司] |
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