ゲームのオリンピックWorld Cyber Games
「UnrealTournament」日本予選特別レポート

11月10日開催



 賞金総額300,000ドルを目指して世界37カ国のトップゲーマーが一同に集うゲームのオリンピック「World Cyber Games」が、いよいよ12月にお隣韓国で開催される。11月10日に行なわれた日本予選の模様については一昨日にお伝えしたとおりだが、本稿では予選大会で実況中継を担当した自身相当のゲーマーである戸塚氏による、World Cyber Games「Unreal Tournament」日本予選決勝レポートをお届けする。


■ 「みんなの目の色が違う……」

戦いを前にひとときの歓談を楽しむ出場者たち
 11月10日午前10時、秋葉原Necca。大会の準備と打ち合わせをしていた私が、開場直後につぶやいた一言がこれだった。周囲に漂う空気というか気迫がまったく違っていた。いつもネット上やオフ会、ただの飲み会などで、顔を合わせては間の抜けた冗談を言い合っているメンバーのはずなのにだ。どことなく交わす会話も、「今日の調子はどうよ?」といった腹の探り合いのような言葉が飛び交っている。そんな、いつもと違った雰囲気の中、日本一のUnrealTournament(以下UT)プレーヤーを決める「Wold Cyber Games Unreal Tournament日本予選」は始まった。

 大会の方式は、まず参加者26名を4ブロックに分けてDeathMatch(バトルロイヤル)形式のゲームを行い、各ゲームのフラグポイント上位4人が決勝トーナメントに進む。決勝トーナメントは、ダブルイルミネーション方式で行なわれたのは既報のとおりだ。

 この、ダブルイルミネーションという方式は、オリンピックでも採用されているトーナメント形式で、トーナメントが勝者リーグと敗者リーグの2方向に分かれるのが特徴。通常のトーナメント形式の試合では、よく「Aブロックには強豪が集まって潰しあいになったな」という状況があるが、これでは選手の優劣をつけるのに技の優劣だけでなく、運の要素も絡んできてしまう。真に強者を決めるのなら、潰し合いになっても復活できるようにすべき。ということで取られた方式。1度負けた選手は敗者リーグに移り、試合を続行できるのだ。最終的には、無敗で勝者リーグを勝ち進んだ選手と、1敗のまま敗者リーグを勝ち進んできた選手が対戦して優勝者を決めることになる。


■ 波乱含みのトーナメント、そして……

予選の組み合わせ表。D組に決勝を争ったCrize[KOS]とBAZY-Rがいるのが見える
 参加者26名の内、8割程度は日ごろインターネットでよく見る顔ぶれ。結局予選のDeatchMatchが終わってみると、トーナメントに残っているのはほとんどが、クラン(チーム)に属して技術を磨いている人々という結果になった。やはりクランに参加することで、相互に技術を高めあうことができた結果ということが言える。

 予選の順位を元にした(予選A組1位は予選D組4位と対戦する。強い人がトーナメント上位に来れるように、という配慮だ。)決勝トーナメントが発表される。実力ある選手がほぼ均等に散らばった感じだが、やはり片方のブロックに有力プレーヤーが固まってしまった。周囲から「やたー、おれ楽ジャン!」とか「えぇぇ、ココの連戦キツイ……」などの声があがる中、トーナメントの各試合が続々とスタートし、勝者と敗者が非情に決まっていく。結局勝者リーグを制したのはBAZY-R、そして敗者リーグを制したのはCrize[KOS]だった。ここで両選手の傾向とプロフィールを上げておこう。

BAZY-R
アウトソーシング系の会社にSEとして所属し、派遣SEをこなす24歳。UTの前作「Unreal」の時代からの古参選手であり、現在一線級と呼ばれるプレーヤーたちにUTの戦技を叩き込んだのも彼だ。そのプレイスタイルは中距離から遠距離を得意としたもので、相手の行動予測をフルに使った「先読み」射撃を得意とする。FPS以外にもレーシングゲームをこよなく愛する男だ。

Crize[KOS]
アミューズメントセンターを経営する(株)高野で、スーパーバイザーとして活躍する24歳。2年前、UTが出た直後からプレイしている。特にココ1年でメキメキ実力を伸ばし、脂が乗りまくっている。そのプレイスタイルは近距離~中距離での戦いをメインとし、minigunなどの即着弾系の武器を駆使して相手を追い込む超イケイケスタイル。一度見かけたら地獄の底まで追っかけられます。UTクラン[Kill On the Sight]代表。

 常日頃から1on1を繰り返して、互いの癖も動きの読み方もわかっているもの同士。BAZY-R曰く「一番あたりたくない相手」、Crizeいわく「油断すると一気にたたみこまれる」と言い合うほど実力は拮抗している。どっちが勝つかなんてわかりはしない対戦だ。日ごろの対戦で両者の実力が嫌というほどわかっている他のUTプレーヤーたちが声を上げる中、決勝戦は始まった。


■ あっという間に決まった試合の流れ

「DM-Deck16][」を移動するCrize[KOS]。このマップは開けた場所あり、狭い場所ありとバランスのよいマップで、日本でもっともプレイされている
 まずはマップ決め。BAZY-Rが得意マップであるDM-Liandriを希望、Crize[KOS]も得意マップ「DM-Deck16][」を希望した。今大会は選手の希望を尊重するため、互いの希望マップが重なった場合はそのまま。違った場合はクジでマップを決めることになっている。クジを引く私の手がつかんだのは「DM-Deck16][」だった……。

 互いに席につき、いざゲーム開始! だが、連続してCrize[KOS]がサーバーから落ちてしまうというトラブルが発生。2度の再起動とサーバーマシンの変更を経てやっと決勝は始まった。

 通常、こういった1on1形式の試合では、ある程度パワーアップアイテムを集め、用意が整った時点でマップを巡回し、相手を探し始めることが多いのだが、今回は違った。スタート直後にいきなり両者が遭遇してしまったのだ。準備が整っていない状態で敵と遭遇した場合、逃げるのが通常の対応だ。しかし、両者の持っている武器に差があったことがこの試合の行方を決めた。

 中距離から近距離をカバーした高性能武器“ShockeRifle”を開始直後に手に入れていたCrizeは、ここを攻め際と判断。定石どおり、逃げに転じたBAZYを一気に倒した。さらにBAZYにとっての不運は続き、フル装備状態のCrizeのほぼ目の前にRespawn(復活)してしまった。当然CrizeはBAZY-Rを瞬殺、そのまま勢いに乗ったのだ。その後、得意マップというだけあって、BAZY-Rに流れを渡すことなく、終始Crize有利で試合は進行。蓋を開けてみると16-4という大差をつけてのタイムアップとなった。

 試合後BAZY-Rは

「2回の再起動で集中力が途切れてしまった。普段だったらあんな不用意な動きはしなかった。流れが取り戻せなかった・・・・・・」

とコメント。対するCrizeは

「ほとんどの場面で自分がアドバンテージを取れた点が勝因です。読み勝った回数が多かったのも大きいですね。」

とコメントした。いかに「DM-Deck16][」の試合がCrizeのペースに終始したかがよくわかるコメントだ。FPSにおける1on1マッチの場合相手に勝利するためのポイントはいくつかある。

・「パワーアップアイテムを相手に取らせない」
・「常に相手の予想の裏をかいて動く」
・「決定的チャンスを逃さない」

というポイントを、Crizeは見事に実践したからこそ、この試合に勝ったといえる。

DM-Deck16][のエレベータ付近。狭いポイントの代表的なところだ。Crizeはこの場所でminigunを使い、ガシガシとフラグを稼いでいた Armor。ダメージを軽減してくれる鎧だ。これをいかに確保するかが鍵となった。ちなみにこの試合では7割以上、CrizeがArmorをキープしていた AntiGravBoots。これを使うことで大きくジャンプをできる。1on1では相手の弾をかわすという点で重要視されるアイテム。Crizeのキープ時間はこのアイテムでも多かった


■ 最後の最後まで決まらなかった順位決定戦

「DM-Liandri」。中央のセンターホールを囲むように狭い通路と小部屋が配置され、それらがワープゾーンで結ばれている。高い位置をキープすることが勝利の鍵になるマップだ
 互いに1敗同士となったBAZY-RとCrize[KOS]、これで同じ位置に立ったわけだ。これからもう1戦、1on1マッチを行なって真の日本一を決めることとなる。先ほどはCrizeの希望マップである「DM-Deck16][」で試合が行なわれたので、今度はBAZY-Rの希望である「DM-Liandri」で戦うことになる。2人が席につき、試合がスタートした。

 先ほどの「DM-Deck16][」戦とはうって変わって、両者ともに慎重にマップを移動する。広いマップなので、お互いの姿が点に見える距離からパラパラと弾をばら撒いてけん制したり、明後日の方向にロケットランチャーを撃って音を立てて自分の位置を偽装したり、巡回ルートを突如変えて予想外の位置から相手を襲撃したりと、日ごろ培った技術をフルに使って相手の裏をかこうとする。しかし、お互いに相手のことを知り尽くしているせいか、詰めきれずに逃げられてしまう。せいぜいマップ内に一箇所しかないArmor(ダメージを軽減してくれる)を取るときに、遭遇するくらい。

 Crizeが得意のminigunを使ってマップ上部から下にいるBAZY-Rに襲い掛かり、1フラグを先取した。すると、BAZY-Rは得意の先読み射撃を駆使して、ワープポイントから出た直後のCrizeにロケットランチャーを当ててフラグを取り返す。そんなシーソーゲームが15分のゲーム時間のほとんどだった。たとえようの無い緊張感が会場を包み、息をするのもはばかられる時間が永遠のように続いた。そして、互いに5-5というフラグポイントで、ラスト30秒を迎えたとき、試合は動いた。両者がマップ上部の小部屋で遭遇、Crizeがお得意のminigunを使ってBAZY-Rを追い詰める! BAZY-Rはminigunの雨から逃れようと、センターホール上部から下へジャンプ! しかし、逃げ切れず、Crizeが1フラグをゲットし、そのままタイムアップ。その瞬間、Crize[KOS]の優勝が決定した。


■ 熾烈なトーナメントが終わったら……

最後2人が遭遇した小部屋。minigunが置いてあるため、この部屋での遭遇率は高かった。お互いに上手く巡回して、minigunを取得していた
 熾烈なトーナメントは終わった。緊張感に包まれ、腹の探りあいだったUTプレーヤーたちに笑みが戻る。互いにヤジを飛ばし、肩を叩きあい、ガッチリと握手をして互いの健闘をたたえあう。

試合終了後Crize[KOS]は、BAZY-Rのことをこう評した。

「やはり経験を積まれてるプレーヤーなので、直感的な部分は凄く優れていると思います。攻め際、引き際の判断とか、こちらの攻撃を上手く凌いで、徹底的に弱みにつけ込む点とかはスゴイです」

BAZY-Rは試合を振り返って

「1戦目のDM-Deck16][でぼろ負けしてしまったので、用心しすぎました。普段だったら突っ込んでるところで体力回復アイテムをとりに行ったりと弱気なプレイになってしまいました。やっぱりメキメキとここ1年で実力をつけてきたCrizeには、感心しますね」

とコメントをくれた。世の中では、暴力的ゲームとして蔑まれる傾向にあるFPSゲームであるが、プレーヤーたちは決して暴力面のみを楽しんでいるわけではないのだ。互いに切磋琢磨し、技術を高め、そして勝利へと向かって進む。そんなスポーツとしての一面が大きいことが改めて実感できた両者のコメントだった。

 大会後、韓国へ向かう代表選手3人に意気込みを聞いてみた。

Crize[KOS]
「今回で2度目の訪韓となりますが、日本代表として行く以上、全力を出しきって良い結果を残したいと思います。世界的に見て、USA、韓国、シンガポールは非常にレベルが高く、その他の国も含めて世界の壁は厚いです。残された時間を有効に使って、これから先の日本のプレーヤーが期待されるようなプレイをできるようがんばりたいと思います」

BAZY-R
「日本予選では互いに争った3名ですが、WCG本戦へ行ったら味方同士。互いに力を合わせて日本の力を見せたいと思います」

Metal-G[KOS]
「日本のUTプレーヤーのレベルが世界でどのくらい通用するのか、いつも海外のサーバーで出会っていた強い外国のPlayerが、同じ条件でどういう風に戦うのかしっかり目に焼き付けたいと思います。そして、日本のUTプレーヤー代表として精一杯頑張ってきます!」

と、力強いコメントをいただいた。なお、11月18日には渋谷Neccaで代表選手たちの壮行会が行なわれる。興味のある方は選手たちの気勢を上げるために顔を出してみるのもいいのではないだろうか。

Unreal (TM) Tournament (C) 1999 Epic Games, Inc. All Rights Reserved. Created by Epic Games, Inc.

□WCG日本予選実行委員会のホームページ
http://jp.worldcybergames.org/
□The 1st World Cyber Gamesの公式ページ
http://www.worldcybergames.org/
□関連情報
【11月12日】WCG日本予選実行委員会、World Cyber Games日本予選を開催 「Unreal Tournament」「Quake III Arena」日本代表が決定
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011112/wcg.htm
【11月2日】WCG日本予選実行委員会、World Cyber Games日本予選を11月10日より開催 本戦の賞金総額は300,000ドル
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20011002/wcg.htm

(2001年11月14日)

[Reported by Tyokuta@トツカ]

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ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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