|
★ PCゲームレビュー ★
各ゲーム機には、そのプラットフォームをグンと成長させる「キラータイトル」というものがある。最近ではプレイステーション2における「グランツーリスモ 3」(SCEI)や「ファイナルファンタジー X」(スクウェア)などがこれに当てはまるだろう。キラータイトルは、人々に「これをプレイしたい」と思わせ、「そのプラットフォームを買わせる」という逆転的な現象を生む。
「MAX PAYNE」は、PCゲーム界のキラータイトルになる可能性がある。つまり、このソフトをプレイしたいがためにギガヘルツ級のCPUやハードウェアT&L搭載型ビデオカードが売れるという現象を生みそうなのだ。 ■ MAX PAYNEってナニ? REMEDYってナニモノ?
MAX PAYNEを開発したREMEDY ENTERTAINMENTはフィンランドにあるゲーム制作会社だ。もともとDOS時代から「メガデモ」といわれる最新グラフィック技術/ソフトウェア技術を誇示するデモプログラムなどを作っていたFuture Crewというグループが中心になって興された会社だ。なお、Future Crewが制作した有名なメガデモとしては「2nd Reality」などがある。 余談だが、現在でもフィンランドではこうしたメガデモ系ソフトウェアのコンテストイベントなどが開かれている。今年も8月2日から5日まで、「Assembly2001」という一大イベントが開かれて、大変盛り上がったようだ。優秀作品はこちらで見られるので興味がある人は見てみるといい。
と、まぁ、話はちょっと横道にそれたが、フィンランドをはじめとする北欧諸国の3Dゲーム制作の技術力はアメリカや西ヨーロッパ、日本に引けを取らないことだけはおわかりいただけたと思う。
「FinalRealityを速く動かすためにNVIDIA RIVA128搭載ビデオカードに買い替えた」というPCユーザーも少なくないのではないだろうか。なお、前出の2nd Realityとほぼ同一のシーンがFinalRealityにも現れているので、もし可能ならば両方を見比べてみると面白いだろう。
MAX PAYNEの開発にあたりREMEDYの開発スタッフが、これまでのメガデモ制作で培ってきたテクノロジーの全てを投入して開発したのが3Dエンジン「MAX-FX」だ。
さて、FinalRealtyや3DMarkシリーズがここ数年間のPCにおける最新3Dグラフィックスのお手本となってきた事に対して異論を唱えるものはいないはずだ。しかし、これらは実際のところ、MAX PAYNEを制作するに当たってのMAX-FXエンジンのテストプログラムに過ぎなかったのだ。テストプログラムでさえあのクオリティの映像やエフェクト、サウンドで我々を楽しませてくれたREMEDY。ここが制作した長編アクションゲーム、これを期待するなという方が無理な話だろう。 ■ ゲーム開始直後から引き込まれるストーリー展開
一日の勤務を終えていつものように帰宅した主人公MAX PAYNEは、家の中の様子が「いつもと違う」ことに気がつく。家の中は荒らされ、壁には大きく「Valkyr」の文字が。階上から突然聞こえる銃声と悲鳴。襲いかかるギャング達。MAXの正義の銃弾は彼らを地獄へ叩き落とすが、駆けつけた彼を待っていたのは冷たく横たわる最愛の妻と幼い娘の変わり果てた姿だった。 ニューヨークの街は新興ドラッグ「Valkyr」が蔓延した影響で、犯罪が多発、文字通りの暗黒街と化してしまっていた。この事件のあと、DEA(麻薬取締局)のエージェントとなったMAXは、家族の復讐の意味を込めて、「Valkyr」の謎へ迫るべく命をかけた捜査に乗り出すことになる。 ゲームは、ショットガンを抱えたままビルの最上階に呆然と立ち尽くすMAX PAYNEをパンした映像から始まる。え? MAXは追いつめられているの? それとも全てが終わった後なの? と最初からプレーヤーはグッと世界観に引きずり込まれることとなる。
そして、自らが、どうしてこのようなことになったのかを語り出す。ゲームが始まるなりいきなりの回想シーンなのだ。それも全ての「事の始まり」であるあの「悲劇の日」の回想から。プレーヤーは現実世界ではなくMAXの回想世界を最初のステージとしてプレイさせられることになるのである。この時間軸を飛び越えた突飛な物語の始まりは、最近のハリウッド・アクション映画のノリをPC上に体現したという感じだ。「普段ゲームはしないがアクション映画は好き」という人もきっと楽しめることだろう。
■ MAX PAYNEは「アクション」ゲームである
トゥームレイダーでは敵への照準合わせが自動で行なわれていたが、MAX PAYNEでは画面上の照準マークに敵を合わせて撃つ必要がある。このルールはQUAKEシリーズに代表される一人称シューティング(FPS)そのままと考えていい。「FPSルールならば三人称システムである必要はあるの?」という疑問が出てくるかもしれない。実はMAX PAYNEにおいてはそれが大ありなのである。 というのは、MAX PAYNEは3Dシューティングゲームだが、同時に「アクション」ゲームであるためだ。ただし「アクション」ゲームとはいってもMAX PAYNEにおける「アクション」とはアクション映画における「アクション」の意味の方だ。キョトンとしてしまった人も多いかもしれない。ちょっと補足しよう。MAX PAYNEというゲームは、プレーヤーが操る主人公MAX PAYNEのかっこいい「アクション」を楽しむゲームであるため、主人公の姿が見えている三人称視点でないと都合が悪い……というわけだ。
プレーヤーは圧倒的物量で攻めてくる敵達と遭遇することになるのだが、その攻撃を、MAXを上手に操作することによってヒラリヒラリとかわしながら敵をやっつけていくことができる。このときのMAXの側転、後転、後ろ飛び退き、横っ飛び、滑り込みといったアクションを行ないながらの銃撃アクションが、痺れるくらいにカッコいいのである。次第にプレーヤーは自分があたかも「ダイハード」におけるマクレーン刑事とか「リーサルウェポン」におけるリッグス刑事になったような気分になることだろう。FPSではプレーヤーキャラクタが見えていないので「このかっこよさ」をゲームシステム上表現できない。……というわけで3人称視点なのである。
■ 一対大勢の戦いを劇的に表現する「バレットタイム・コンボ」
バレットタイムFX(Bullet Time Effects)というのをご存じだろうか。 GAPのCMや映画「マトリックス」で一躍有名になった特撮効果のことだ。無数のカメラを一定の軌道上に設置して、役者の演技中にこれを全てのカメラで同時撮影し、そこで撮影された映像をパラパラアニメのようにして再生すると、時間が静止しているのにカメラだけが移動しているような、独特な視覚効果を上げることができる、アレだ。
MAX PAYNEでは、このバレットタイムFXを「バレットタイム・コンボ」(Bullet Time Combo)としてゲーム性に取り込んでいるのである。プレーヤーはゲーム中、任意のタイミングでバレットタイムコンボを発動でき、このモードに突入すると、ゲーム内時間が異様にゆっくり過ぎるようになる。それこそ、銃弾の移動速度が自転車くらいの速度に見えるくらいまで時間の進行が遅くなる。銃弾が空気の壁を引き裂きながらトロトロと進んでいく、ちょうどMATRIXの劇中のお馴染みのシーンがMAX PAYNEのゲーム中で起こるのだ。 このバレットタイムコンボモードはプレイヤーが任意のタイミングで発動でき、一定時間が過ぎるか、プレイヤーが中断したときに解除される。モード解除されると一気に時間の流れが通常に戻り、それまでノロノロ中空を動いていた銃弾達はフッと姿を消す。敵の銃弾はことごとく外れ、MAXが放った銃弾だけが全てドンピシャに敵の急所を打ち抜くことになる。 このバレットタイムコンボモードはバレットタイムゲージが空にならない限り、いつでも発動が可能となっている。コンボの発動により消費したゲージは、敵を倒すごとで徐々に回復していく仕組みだ。
また、特定の敵を特定の場所で倒すと、演出の一環として「敵のやられシーン」でバレットタイムモードが強制発動することがある。これも最近のアクション映画に対するオマージュだろう。このときは視点がプレイヤーからは外れるし、ゲージも消費しないので、じっくりと敵の吹っ飛ぶ様を観察して楽しもう。
■ ゲーム展開に深みを与えるアドベンチャーゲーム的要素
スイッチのON/OFFを使ったパズル、時間制限トラップ、地形トラップなど、それこそトゥームレイダーを彷彿させるアドベンチャーゲーム的なパズル要素も適度にちりばめられていてゲーム進行に緩急と起伏があり、退屈させられることはない。 例えばこんなシーンがある。 敵を撃ち倒しながら進んでいき、あるビルに入ると故障寸前の配電盤室があり、近くには引火性のガスボンベなどが転がっている。爆発の危険性が大だ。そのまま無視して奥に進んでいくと背後で大爆発。ビルの壁が崩れて火事に。ボンベのガスに引火したのだ。MAX PAYNEは爆風避けてビルの奥に進むが、進んだ先のドアには鍵がかかっており、事実上の行き止まり。ふと周りを見回すと近くの棚には先ほど爆発したガスボンベと同じものが置いてある……。ここに踏みとどまっていれば背後に迫る火で焼かれるか、酸欠になるか……だ。とりあえずこのドアを開けるしか道はない……。という感じ。もう、答えはわかっただろうか。このガスボンベに向かって……と、あとは自分でプレイして確かめてほしい。 トゥームレイダーのような「知らなきゃ即死」という感じの凶悪トラップや難解パズルこそ少ないが、ダラダラと敵が出てくるだけのゲームにはならないよう、時々このようなプレイヤーの知力に挑戦してくるシーンがあるのだ。これが反射神経を休めることにも繋がり心地がいい。
しかし、それでもやはりMAX PAYNEはシューティングがメインということは確か。各地に設置されたこうしたパズル的要素は次なるシューティング・ステージへの小休止、あるいはプレーヤーをゲーム世界にさらに引き込むための仕組まれた演出に過ぎないような気がする。個人的な見解だが、全体のバランスとしてはアドベンチャー要素が2、シューティング要素が8といった感じだろうか。
■ 驚愕のグラフィッククオリティ
背景のビルディング、自動車、各種オブジェクトはデフォルメ無しのエピックスケールでデザインされており、そこに登場する人物達との大きさ関係が非常に正確に表現されている。また、道や壁に至るまでのテクスチャのクオリティが非常に高いのにも気づくことだろう。なんでも建物の壁のテクスチャも、本物の煉瓦の写真からデータを起こしているという。そのためか、どの建物も、妙にこぎれいなCG臭さが無く、人間くささというか、生活感の漂った出で立ちをしている。
そして、ゲーム世界は「もはや無意味なのでは」といいたくなるような細部にまで「リアル」を再現している。暗い部屋でテレビを付けるとパッと明るくなり、ちゃんとテレビでは放送をやっている。テレビを銃で撃てばブラウン管が破裂して破壊され、部屋は再び暗くなる。部屋にあるビンなども撃てば吹っ飛ぶし、壁の照明も撃てば割れて消える。
こうした小道具の破壊はゲームの本筋には何の関係もないように思える。しかし、現実の室内の銃撃戦では、流れ弾が周囲の小道具に当たることもあるし、当たればそれらが壊れて、細かいことだが環境に変化が生じるのは間違いない。人間というのはそういうところでもリアリティとか臨場感を感じる。MAX PAYNEにおける「ゲームのリアリティ」というのはここまで追求しているということだ。
よく3Dゲームなどで倒した敵が倒れた後に消えてしまうというのを見たことがあるだろう。MAX PAYNEでは、倒した敵の死体はいつ間でもその場所にあり続けるのだ。しかも、敵の出血は壁や床に付着し、これもずっとそのままあり続けるのだ。また、流れ弾によって開けられた壁の穴もそのまま存在し続ける。Jarvilehto氏は「壁に弾痕で落書きもできるよ」といっていたが、まったくREMEDYという連中はどこまでやれば気が済むのだろうか。
と、そんな「職人集団」REMEDYが送る「MAX PAYNE」だが、細かく見ていくと手抜きがないわけでもない。まず、筆者が気が付いたのは、3D-CGのリアリティ演出の基本中の基本である「影」表現が手抜きであること。表示キャラクタの真下に薄い既成の丸い影を表示しているだけなのだ。だからスポットライトの前に立っても人型の影が落ちない。GeForce3などではハードウェア・シャドウマッピングができるので、ぜひともこれを活用して欲しかったところだ。
■ MAX PAYNEの動作条件は厳しい?
最後に、みんなが気になるMAX PAYNEの動作条件について記しておこう。なお、これ以下の内容は筆者がいくつかの性能の異なるテストマシンでプレイした経験を元にして記述している。 まず、CPUについて。メーカー側の設定した最低動作条件としては「450MHz」となっているが、現実的にはこれではちょっとツラいと感じた。最低でPentium III/Athlon 600MHz、できれば800MHzは欲しいところ。MAX PAYNEはAthlonのEnhanced 3DNow!、Pentium III以降のSSEの両方にフル対応しているので、最新CPUの特徴はちゃんと活用される。これを機会にCPUを載せ替えてしまうというのはいかがだろうか。
最後にメモリだ。これはなるべく多めに搭載しておくこと。死体や薬莢が残ったり……という凝った演出は聞くからにメモリを食いそうだが、まったくその通りなのだ。メーカー側の設定した最低条件は「96MB」となっているが、256MBは搭載しておきたい。
なお、いまのところ日本語版の登場予定はないが、ゲーム中にキャラクタが話す台詞は日本語化されてP&AのMAX PAYNE公式サイトにアップロードされる予定だという。期待して待っていよう。
□P&Aのホームページ http://www.panda.co.jp/ □「MAX PAYNE」の公式ページ http://www.panda.co.jp/maxpayne/ □関連情報 【5月29日】「MAXPAYNE」デモムービー http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010529/demo0529.htm 【5月18日】失うものなど何もない。死ぬのはおまえらだ ~超弩級PCアクションゲーム「MAX PAYNE」近日リリース予定 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010519/e3_max.htm (2001年8月9日)
[Reported by トライゼット西川善司] |
I |
|
GAME Watchホームページ |